3-53 村用の城壁も完成です

 肉体派の野郎どもの食事は凄いの一言だった。作り置きを出しても出してもペロリと平らげていくのだ。


「腹が張り過ぎて、昼から動けないと困るから、この辺にするぞ! 夕飯はまた御馳走してやるので昼からも頑張ってくれよ!」


「こんな旨いもん食わせてもらったんだ! 皆、昼からも頑張るぞ!」

「「「おお!」」」


 気合は十分のようだ。


「昼からなんだが、村の安全性を上げるために、城壁を造ろうと思う。ここは国境付近の辺境の地と違い、フォレストと王都フォレルの中継地点にあたる開拓地だ。自領拡張の開拓地なので、それほど凶暴な魔獣はいない。戦地になることもないので、対人は想定せず4m程の高さのモノにしようと思う。ゴブリンやオーク共が城壁を登れないように少しソリを入れるので、昆虫系の魔獣以外は登れないようになるだろう。町を想定して、片面半分だけの城壁にしておく。残りは村が大きくなってからでいいだろう」


「半分だけなのですか? またどうしてです?」

「今ある村の教会の結界石では、町の規模のシールドエリアがないんだよ。なので、川辺のそれ以上開拓ができない場所を端にして城壁を伸ばしておく。仮に町に昇格できたとしても、そこが町の端になることに変わりはないからね」


「成程……それとリューク様? おらたちにはちょっと分かんないので聞きますが、堤防が出来たのなら、これまで開拓した農地をそのまま使っても大丈夫じゃないのですか?」


「大丈夫かもしれないし、そうでないかもしれない。堤防が出来たからといって、5年毎に氾濫してた場所にそのまま居残るリスクを負うことはないよ。川辺は水やりとかの利点も多いけど、その分リスクもある。川があるので奥に広げることもできないから、川辺に沿って開拓することになる。縦長になって将来的に使いにくい農地になるんだ」


「そうなのですか? やっぱちゃんと理由があるんですね……」

「勿論だ。気になるようだから先に教えておいてやる。お前たちに新しく用意する農地は、ここからだと村の反対側になる。森をどんどん奥に開拓していく形だ。今日の昼からは城壁を造り、明日の午前中は農地を作る。午後からは農地の続きと水路の拡張だ。水路は今作ってある分をそのまま利用するのでそれほど難しくない」


 ある程度説明してやると、農民の顔に一段と生気がみなぎってくるのが分かった。

 逆に不安そうなおっさん共もいる。何だ? と思っていたら、そのおっさんの代表が質問してきた。例の土木責任者の威勢のいいあの人だ。


「リューク様、凄い魔法で開拓が進むのは良いことですが、我らの仕事はもうなくなるのですか?」


 そういうことか……本来かなりの日数を掛けて行う治水工事を、根本から覆すやり方で半日で終えてしまったのだ。設計主任が捕まって不安なうえに、仕事がなくなると思い、不安が過ったのだろう。


「俺が手伝うのは、今日、明日だけだ。土木関係者や大工たちの仕事は山のようにある。なにせ町に発展させるつもりでいるのだ。当分仕事が尽きることはないぞ。むしろもっと忙しくなると思え」


「「「おお! 良かった!」」」


 この俺のやり取りをローレル家の者や、うちの班員のフィリアたちもじーっと見ていた。


 この村の開拓案は、川に沿って下流へ広げていく構想になっている。

 なので、上流側の片面をL時に城壁を作っておくのだ。


 今回は高さ4m・幅1.5m程のモノだ。さっきの堤防よりずっと楽にできる。


 水の浸食も、通常の城壁程度のモノで良いので、魔力もそれほど使わなくて済む。

 今ある木で作ってある柵の外側に、城壁をどんどん伸ばしていく。


 作業員は、必要のなくなった柵の解体と撤去作業だ。


 この柵に使ってた木はそれほど古くないので、今後の建築や内装に使用される。

 根元部分の、蟻などに喰われた箇所は切り落として、燃料などになるようだ。


 まだ村程度なので、城壁で半面囲っても1kmもなかった。


 俺のいた世界と違い、結界内に住む必要があるので、全てが中心にこじんまりと纏まっているのだ。

 大きな集合住宅地に感じは似ているな。村の中心部は綺麗に区画整理されて規則正しく住居が並ぶ。


 貴族が住む居住区はあらかじめ大きく土地が確保されている。一般エリアも纏まってはいるが、何カ所か大きな空白エリアがある。聞けばそこは将来大手商家や、貴族の子息が商売を始めるのを想定して確保してあるのだそうだ。


 空白地帯は早い者勝ちで、領主から借り受けるか買い上げるかするようになっているようだ。ちゃんとこういう所は考えて設計されているだけに、ノーチルの奴は惜しい奴だと思う。



 城壁の半分も完成したので、約束通り給金を払ってやる。

 手渡しで全員に1万ジェニー支払ってやった。後でこの分は父様からしっかり徴収しよう。


『ナビー、食料は足りるか?』

『……はい、全く問題ありません。足らなくなっても材料が山のようにあるので、工房で1度作ったものは数秒で量産可能です』



「この後、村の中央広場で夕食を振舞ってやるので、家族も誘ってくると良い」


「え!? リューク様、うちの子供や女房も連れてって良いのですか?」

「ああ、家族全員連れてきていいぞ」



 サリエが、俺の服の裾を引っ張ってくる。


「どうしたサリエ?」

「ん、時間停止の【インベントリ】バレても良いの?」


「アリアのせいで、どうせ使徒として注目は集めちゃったし、今更大人しくしていても一緒だろ? そのために建国するんだし、もう好きにやるさ。俺とサリエをどうこうできる奴なんてそういないだろうしね。何かあってもサリエが守ってくれるでしょ?」


「ん! 絶対守る! 問題ない!」


 ふふふ、可愛い奴だ。


 1時間もしないうちに、中央広場は人でごった返している。

 伯爵の方で、お昼のように長テーブルを用意してもらい、立食形式にしてもらっている。


 伯爵家のメイドや執事にも協力してもらい、空いた皿をさげたり、新たな料理を運んでもらっている。俺は別の場所に、調理済み料理をどんどん出している。


 ルルが俺の様子を見て、質問してきた。


「リューク様は、時間が経過しない亜空間倉庫をお持ちなのですね?」

「そうだよ。災害時用にと思って作り置きしていた料理を今出しているんだ」


「流石勇者様です! ちゃんと災害時に備えて、皆の為になるようなことをお考えになられているのですね!」


 ええ!? なんでそういう風に良いように取るの? 本当はナビーが趣味的に色々遊んじゃった産物なんですけど。


『……ちゃんと役に立っているし、マスターの料理の腕も一級料理人の腕になっているので良いではないですか』

『別にいけないと言ってないだろ? 食材を無駄にしないなら別に良いんだよ』


『……ふふふ、言質は取りました! 次はソース関係の方を充実させますね! やはり早急に海を制さねばいけません! オイスターソースを作りたいので、カキを手に入れましょう!』


 ナビーが勝手に盛り上がっている……ソースの充実は俺も賛成なので、もう全部ナビーに任せよう。





「リューク君、本当に色々感謝している。今日一日君を見ていたが、凄いとしか言いようがない。桁違いの魔力量に魔法技術……見た事もない魔法、あの荒くれどもを御す巧みな話術とそれに見合った報奨、懐と腹が膨れれば皆があれほど笑顔になるとは……今後の参考にさせてもらうよ。君は流石神に選ばれた使徒様だよ」


 褒められて悪い気はしないが、褒めすぎだ。


「褒められて悪い気はしないですが、買い被り過ぎですよ」

「決して買い被りではないと思うのだが……」


 そうだ、明日の農地開墾に向けて聞いておくことがあった。


「パイル伯爵、この村では何をメインに作っていたのですか? 農業の為の開墾地ですよね?」

「作物のことかな? 公爵様の依頼で、沿岸国に輸出するためのイモ類がメインだ」


「なるほど、芋類は日持ちしますからね。輸送で日数が掛かっても腐らないので輸出品には向いていますね。でも、芋は単価が安いですから……それほど利益は出ないのじゃないですか?」


「行く行くは小麦も植えて、大規模な農地にする予定だったんだが、軌道に乗る前に水害にあってしまったんだよ」


「では、特に村の特産品とかはないのですね?」

「ああ、何か良い案でもあるのかな?」


「ええ、父様の依頼の芋と麦は輸出用にそのまま作るとして、ここは王都にもフォレストにも近い良地です。移動距離が短くて済むので、単価の高い良質なフルーツを栽培して、ソシリアの村のようにこの村の特産を栽培するのです。美味しいと名が知れ渡れば当然単価も上がるので、ローレルの名を冠したブランドフルーツが出来上がります」


「成程、でも何を栽培すればいいのかな? 候補はあるのだろうか?」

「少し小高くなってる丘があるじゃないですか? あの辺一帯をブドウ畑にするのです。良質なモノはそのまま食用にし、少し実の痩せたモノや、粒の揃っていないモノは、ジュースや酒にするのです。美味しい葡萄酒など作れば名が知れ渡るのも早いですよ」


「酒か!? 酒は熟成して売れるまでに数年掛かるんだよな。ブドウも採れるようになるまでは何年かいるだろう?」


「ブドウは2・3年後には実を付けます。他のフルーツよりずっと早いですから、将来性を考えたほうが得だと思いますよ。俺も建国した際には、必ず自領にブドウ畑は作るつもりです。万が一実が豊作で売値が崩れそうな時でも、ブドウならば干しブドウや酒にしておけばいいのですから、値崩れしにくいし、一切の無駄が出ないです。逆に不作で資金に困ったときは蔵に寝かせてある酒を売ればいいので、保険にもなります。ブドウは弦木ですので、増やすのも簡単ですし、比較的病気などにも強いのでお勧めですね。それから、桃もお勧めです。あれも3年ほどで収穫できますし、なにより美味しいので、買い手は王都でもフォレストでもどっちでも買ってくれるはずです。栽培はブドウより難しいですけどね」


「ソシリアと同じものではやはりダメかな?」

「あの村も何年もかけて、あれほどの糖度と美味しさを作り上げたのですよ? 今から植えつけて、実が成るまでに3年、更に味を同等にするまでに何年も掛かるでしょう。フォレスト領で買い付けるとしたら、開発途中のローレル産ではなく、美味しいソシリア産の物を私なら買いますね。勝てる見込みのないモノは止めた方が良いです」


「確かにそうだな……公爵様にも相談して、芋以外も栽培する許可をもらうとしよう。良いアドバイスをもらった。ありがとう! ますます君に驚きだ、バカ次男坊の振りなど……すっかり騙されていたよ」



 伯爵と話していたら、村の子供たちが俺の方にやって来た。

 皆笑顔なのだが何の用だ? 俺はあまり子供は好きじゃない。少し警戒していたのだが……。


「「「リューク様! 美味しい晩御飯を食べさせてくれてありがとう!」」」


 うぉ! 全員が合わせて唱和した! お礼を言いに来たのか。

 子供は好きじゃないが、こういうのはおじさん嫌いじゃないよ! 可愛いではないか!


 日本の舐め腐った可愛げのないガキと大違いだ! 皆、素朴で素直な子ばかりのようだ。



「いいえ、どういたしまして! 腹一杯になったかい?」


「「「うん! 凄く美味しかった!」」」

「よし! じゃあ、デザートをあげよう! 美味しいぞ!」



 プリンを出したのだが、目ざとく見つけたサリエとマームが子供たちの列にちゃっかり並んでいる。

 まぁ良いんだけどね……なんか、子供たちに混ざってもサリエは全く違和感なさ過ぎて可愛く思えてしまった。

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