3-54 農地用に更地を造りました

 さぁ、今日中に農地と水の引き込み用水路を造らねば!


 1人早朝に起き出して、【飛翔】を使って上空から水路と農地エリアの目視確認をする。早朝にした理由は【飛翔】もそうだが、あまりスキルを見せたくないからだ。


 農地エリア候補地に人が居ないかMAPで確認をする。

 誰も居ないのを確認して、農地予定地に着地したのだが、サリエが俺に付けたマーキングを利用して転移魔法で追って来たようだ。


「ん、リューク様! どうして私を置いて行くの!?」

「まだ、朝早いだろ? 寝かしておいてやろうかと思って……」


「ん、護衛なのだから、ちゃんと起こして連れて行って!」

「悪かったよ、それより慌てて来たのか? 髪の毛、寝癖が付いてるぞ」



 サリエが髪を梳かしてる間にさっさと作業を進める。村人が起き出してくると邪魔になるからね。




 今、農地予定地の地面すれすれを、10個の上級風魔法【ウィンダガカッター】が飛び回っている。【ホーミング】機能を駆使して、木も草も岩も全てを刈り取って行く。


「ん、凄い!」


 気付けば髪を梳き終えたサリエが横で眺めていた。


 木は伐採した瞬間に俺のインベントリ内に転移させている、倉庫内ではアバターたちが枝打ちをして木材として使えそうなものは確保し、曲りが酷くて木材として使えないようなものはチップとして刻んでいる。


 木材は乾燥させて、いずれは建材になる。枝打ちと選別までしてあげているが、乾燥までは行わない。

 普通は、数年かけて乾燥させるものだからだ。


 チップはそのまま俺が頂くことにする。紙にして、プリンやアイスのカップ容器にしたいからだ。現在プリンの器は俺の土魔法で作ったものを使っているが、サーシャたちが店を開店するまでに何か考えないとね。



 30分ほどで水害にあった農地の2倍の広さを確保できた。

 魔獣や小動物も居たが、お構いなしに切り殺してインベントリに放り込んだ。


 さて、お楽しみの野焼きだ。


 縦横500mの正方形なので、計算上では10個あれば足りるのだが、念のため15個発動する事にした。


「サリエ、ちょっと下がるぞ。今からナビーに禁呪指定された【ナパームボム】を撃ってみる」

「ん! 【ナパームボム】見たい! 実は凄く気になってた!」


『ナビー、野焼きなら時間指定はどれくらいが良い?』

『……本当に撃つ気なんですね……困った人です。イメージをかなり弱くして、一分ほどが良いですかね……ある程度長くして余計な種を焼いておくと、後々雑草の草引きで手を煩わせる事が減るでしょう』


『一分で足りるのか? もっと長く焼いた方が良いんじゃないか?』

『……確かに熱に強い種もあるのでもう少し長く焼きたい気もしますが、高熱で焼きすぎると土が溶けてガラス状になってしまうと困るのです。それと土内のミミズやラバーワーム、分解を促す微生物などが全部死んでも肥えた良い土は育ちません。なので低温で焼いてくださいね』


『そういう意図があったのか。もう少しで、超高温で焼きつくすところだった。ガラス化した農地じゃ危なくて畑仕事なんかできないよな……よしやるか』


 多重詠唱で15個【ナパームボム】を均等に放つ。

 範囲500m内に火柱が15本、30mも立ち昇る!


「んわっち! リューク様! 大火事! ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ! アッチ!」


 【アクアシールド】を張って、熱から逃れる。


「ん! リューク様これ大丈夫!?」

「ああ、野焼きと言って、雑草や必要のない種や害虫を一度全て焼いちゃうんだよ。そうしておくと、後々余計な草引きをかなり減らせるようになるんだ」


 一分が経ち、炎が鎮まるとそこには何もない少し焦げた更地が出来上がっていた。


『ナビー、どんな感じだ?』

『……少しインベントリに土を取り込んでみてください……』


『どんなだ?』

『……大体良いのではないでしょうか。マスターがお考えになってる魔法を併用すれば凄く良い農地ができると思いますよ』


『そうか、じゃあ朝食後にまた来るかな……伐採した材木はここに置いておいて、村人に任せるとするか』


『……本当はナビーもその材木欲しいんですが?』

『お前先日何千本も俺に伐採させただろ! まだ、沢山あるだろうが!』


『……ありますけど、サーシャたちの店舗や、マスターの城、大工や工夫たち用の宿舎を造ることを考えたら全然足らなくなりそうです……』


『その時はまた、伐採してやるから、無くなるちょっと前に言えばいいだろ?』

『……きっとですよ? 忙しいとかで、後でとか言わないでくださいね? ナビーの作業の手が止まらないようにしてくださいね?』


『分かったってば……でも、城なんかまだ先の話だからな? 先にサーシャの店舗だぞ?』


 木材用の丸太を畑の隅に適当に置き、一旦伯爵宅に戻り朝食を頂くとする。



 伯爵邸に行くと、パイル伯爵が待ち構えていた。


「おはようリューク君! さっきの火柱はやはり君かい?」

「おはようございますパイル伯爵。ええ、農地を確保して野焼きしてきたのです。人がいると邪魔になって大規模魔法が使えないですからね。人が起き出てくる前に行いました」


「だが、今朝のあれは凄く驚いたぞ? 大規模魔法というより……この世の終わりかと思った」


 どうもここから見た限りでは、広範囲が一気に燃え上がり、気流が発生して火柱が生き物のように渦を巻いていたようだ。


 村からも問い合わせが何件もあったそうで、こういうことは事前に知らせて於いてほしいと怒られた。




「パイル伯爵、昨晩の夕食は無駄にしてしまいすみませんでした」


 おそらく、聖女と王女が居るので気張って準備させていたはずだ。なのに、俺は何の配慮もなく断りもしないで他家の村人を集めて、俺が振舞ってしまった。これは伯爵の顔を潰す行為だ。ちゃんと謝っておいた方が良い。


「いや、久しぶりに村人の笑顔が見られて感謝しているぐらいだ。ただ、野焼きの件もそうだが、先に報告はしてほしいな。料理の方は、昨夜テーブルに出して一緒に振舞ったので無駄にはなっていないので問題ないが、料理人たちが聖女様に食べて頂けるんだと張り切っていただけに、残念そうにしていた」



 用意されていた朝食を頂き、村の広場に行くと既に人が集まって来ていた。

 ん? 昨日より明らかに多いぞ?


 良く見れば白髪のジーさんや、13歳ぐらいの少年や、がたいの良いおばさんまで混じっている。おいおい、金欲しさに来たんだろうが、ちゃんと給金分働けるのかよ。


 俺がジロリとそいつらを睨んだら、威勢の良いおばさんが先に口を開いた。


「リューク様! 言いたいことは分かるよ!? でも心配いらないよ! はっきり言ってあんたたち貴族様よりあたしらの方が力はあるよ!」


 おばさんは、太い腕に力こぶを作ってニヤッと笑って見せた。


「サリエ、そのおばさんと腕相撲してみろ」

「ちょっと! 幾らなんでもこんな嬢ちゃんじゃ相手にもならないよ! 腕でも怪我させたらどうするんだい! あたしゃ嫌だよ!」


 威勢は良かったが、サリエに秒殺された。

 まぁ、サリエに勝てる奴はこの中でもそうはいないだろうけどね。


「な!? この嬢ちゃんは何なんだい!? この子が特別なんだよ! あたしゃそれほど弱くないよ!」


 おばさんは次に俺を指名してきた。確かに見た目女顔でとっても華奢だが、リューク君は脱いだら凄いんだぞ!


 結局俺にも秒殺されたのだが、興味を持った力自慢のヤローたちが、是非俺とやってみたいと言い出した。



「おい! 腕相撲大会をやって遊んでいる暇はないぞ! 夕飯時になら相手をしてやるから、今は仕事だ!」


 ジーさんたちと少年たちだが、意外に力はあった。ガテン系のおばさんは言うまでもない。


「よし、それだけ力があるならできることもあるだろう。皆雇ってやる。だが決して無理はするな。できないと思ったら、近くの男に手伝ってもらうように」


「「「ありがとうございます! 頑張ります!」」」


 新農地までの道がまだないので、村から馬車が通れるくらいの道幅に草木を俺の魔法で刈りながら進む。現場責任者とパイル伯爵が俺の横に付いて歩いている。


「今日はこの人数で通って踏み固めるだけだが、明日以降は伯爵の指示に従って、この仮道を馬車が通れるほどの広さに整備するように。村と農地を繋げる大事な農道になるので、最終的には石畳にしても良いかもね」


「了解です。伐採してくれてたら、後は楽ですので助かりますです」


 あまり敬語は上手じゃないようだが、ちゃんと喋ろうと努力するあたりは好感が持てる。俺は日本でいたころから、初対面でいきなり為口を使ってくるやつとか、あまり好きになれなかった。ましてこっちでは、公爵家の子息だ。常識のない奴は好きじゃない。下手でも、知識がなくてもいい。ちゃんと敬意を払ってるとか、努力してるのは伝わるものだ。



 今朝造った農地の場所に到着する。ちゃんと道が出来れば徒歩で10~15分の距離だ。


「なっ!? こんな広大な更地を何時の間に!?」

「朝の火柱かな?」

「あれだけでこんなのできないだろ?」


 皆が口々に驚きを隠せないで、噂話を始めた。




「今からやってもらうのは、まず班分けだ」


 1班:大工仕事と力仕事の班

  ・村のどこかに材木を保管できる場所を造って、そこにそれらを運ぶ


 2班:農耕班

  ・俺が魔法で耕した場所をざっと区画分けするので、そこにあぜ道を作る

  ・25m×10mを1区画とする(500m×500mなので、1000区画)



「どっちも力仕事だが、木材はまだ生木で皮も剥いでないので重い。若い男たちでやるように。きつい方に回されて、女や子供と給金が同じなのかとかせこいことは言うなよ! 男なら村の年寄り、女、子供は養ってやるぞというぐらいの気概を見せて見ろ!」


「「「おお! 任せてくれ!」」」


 労力の差に文句を言う奴が出るかもと、事前に釘を刺したつもりだったが、要らぬ心配だったようだ。


 2班に分かれて作業する事にした。


 その前に開墾用の魔法も創んないとな。今日も忙しくなりそうだ。

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