3-55 凄くチートな開墾魔法を創りました

 班分けさせてる間に、開墾用の魔法を創る事にした。


 【魔法創造】

 1、【農地開墾】

 2、・範囲指定魔法で、最大100m×100mとする

   ・風魔法で深さ1m程まで空気を取り入れるように切り刻む

   ・小指の爪以上の大きさの石や岩は粉砕する

   ・【塵処理工房】で発酵熟成させた堆肥を肥料として混ぜ込む

   ・時空魔法の応用で、切り刻んだ草や木の根などを堆肥と馴染ませ、土の熟成を促進する

   ・作る作物に合わせてペーハー濃度の調整も可能

   ・水魔法で適度の水分を与えておく

   ・植える作物に合わせた畝(うね)を【ストーンウォール】の応用でつくる

   ・畝を作るかどうかは選択可能

 3、イメージ

 4、【魔法創造】発動



『ナビー、どんな感じだ? 時空魔法だと消費MP結構いるだろう?』

『……【錬成魔法】や【付与魔法】と比べたら、微々たるものですね。このエリア全てを開墾しても、消費MPは1600ほどです』


『え? そんなものなの?』

『……使う魔法がせいぜい中級魔法ですからね、水を与えるだけとかなら生活魔法レベルですし、時空魔法も【リストア】のように時間を巻き戻すのではないですから少しの消費で済みます』


 よし、そうと分かれば早速使ってみるかな。

 作業が始まれば、皆、農地に入ってしまうので、班分け中の今のうちに行うとしよう。


 1度の範囲が100m×100mなので、この広さなら25回の計算だ。

 迷ったが、多重詠唱で2度で終わらせることにした。


 今更出し惜しみしても仕方がない、もう腹はくくった。やりたい放題やって自国を建国し、そこに逃げ込めば良いのだ!


 なぜ魔法を2回に分けたのか。ちゃんと理由がある。


 半分はジャガイモ畑、もう半分をサツマイモ用にするためだ。収穫時期が大体同じでも、植え付け時期や、作物に好ましい土質が違うのだ。


 ジャガイモはそれなりに養分を多めにしてやるが、サツマイモはちょっと乾燥した痩せたぐらいの土が良く育つ。ペーハーは同じくらいで5.5~6.0ぐらいなのだが、サツマイモは痩せた土でも良いので連作可能だが、ジャガイモは連作ができない。水捌けはどちらも重要で、悪いと芋が腐ってしまったり病気になるようだ。



 【農地開墾】を使ったのだが……。 


『ナビー! 煙が出てしまった! 失敗したのか!?』

『……マスター、落ち着いてください。失敗じゃないです。あれは堆肥と馴染んで土が熟成する時に発熱したために、与えた水が蒸発して水蒸気が立ち昇っているのです。成功した証拠です。ちょっと工房に土をください、調べてみます』


『どうだ?』

『……ええ、完璧です! これなら甘くて美味しいモノが出来るでしょう。ジャガイモ用もサツマイモ用も、文句無しの土です。本当はここの土は肥えすぎていて、サツマイモには不向きなんですよね……』


『痩せてる土の方が育つのもあるとか知らなかったよ』

『……吸収した余剰養分は適度に薄めて、液体化して工房に保存しておきますので、液体肥料としてお使いください』



 急に農地から煙が上がったので周りがざわつき始めた。


「リューク君! また君が何かやったのか!?」

「ええ、パイル伯爵も土を手に取ってみてください。なかなかいい感じに開墾出来ましたよ。芋の栽培をするのに最適な良い土に仕上げたので、頑張ってジャガイモの秋植えまでに畝(うね)等も仕上げてください。残念ながら春植えにはちょっと遅いですからね」


 水害に合わなければ、2月末から3月上旬に春植えしたジャガイモがもうすぐ収穫時期だったのだ。

 秋植えの時期は7月下旬から8月上旬だ。その時期に植えると収穫時期は11月下旬から12月上旬に収穫できる。

 ジャガイモは2・3カ月で収穫でき、年2回収穫できるのが魅力なのだ。


 俺が今回魔法である程度やってやった理由もここにある。なにせ、今日明日の食料の心配があるほどに、領内の住民は困窮しているのだ。最低限農民に農地を確保してあげ、秋まで凌げれば何とかなるという安心を与えてやる必要がある。目途が立てばやる気も戻り、更なる意欲が沸くだろう。



「それから、奥の半分を紅芋(サツマイモの事)用ににしています。今日中に仕上げますので、芋蔓を仕入れて直ぐに植え付けを始めてください。土が良いので10月の上旬には収穫できるでしょう」


「直ぐに植えられるのか!?」

「ええ、でも畝は魔法でざっくり作っちゃったので、手作業で鍬を使って仕上げてください。皆、その材木を運び終えたら、あぜ道と畝づくりの作業に入っていいからな! 少し水分がまだ多いから、植え付けは3日程後が良い! まぁ、お前たちの方が専門家だから、土を見れば分かるよな? ジャガイモ用の畑を種植まで遊ばせておくのが勿体ないなら夏収穫のトマトやキュウリ、豆類を植えておけば食糧不足も少しはマシになるだろう」


 これを聞いた農民たちが喜んだ。

 農地を水害でやられて畑仕事もできず、治水工事の手伝いで仮の仕事にありつけた者は良いが、あぶれて村を出た者も沢山いたのだ。


 明日から農作業ができる。只これだけでも農民の活力になる。

 開墾にきたのに治水工事が終えるまで農作業ができない、仕事がない、という不安はかなりのストレスだったのだろう。嬉しさ余ってか、涙を流す者もいた。


「リューク君……とんでもないな君は。全部オリジナル魔法なのか? 国中騒ぎになるぞ? 農業の根底が覆る事態だ」


「全部オリジナルですが、教えて真似できるモノでもないです。あてにして頼ってきても知ったこっちゃないですし、俺はこれから建国するので他領のことまで構っている暇もありません。ローレル領も手伝うのは今回限りです。双子の姉妹が不幸になるのが不憫で今回手を貸しましたが、今後は伯爵の裁量で村を発展させてください」


「そうだな。君に頼ってちゃ、もらった爵位に見合っていないからな。後は私次第だ……伯爵位に恥じないよう努めよう」




 さて、土地を与えてハイさようならでは俺が出張った意味がない。午後からやるのも水路の延長作業だ。折角連れてきた班員を遊ばせるのも勿体ない。


 流石に聖女や王女に農作業はさせられないよな……俺の国ならやらせるんだけど、ここでやらせたらパイル伯爵の責任問題になりかねない。


 聖女や王女に何てことさせるのだ! という風に言い出す輩がいないとも限らないのだ。




 俺も一緒にやる予定だったが、時間が足りず手が回らないので、サリエに任せることにしよう。


「サリエ、お前たちは今から村周辺の魔獣の間引きを行ってもらいたい。強い魔獣はいないのでサリエとルルがいれば問題ないだろう。頼めるかな?」


 サリエは俺を置いて別行動をするのが嫌なようだが、渋々引き受けてくれた。

 マームやキリクは戦闘経験があまりないので凄く不安そうにしてるが、サリエがいるのにこの辺の魔獣でどうこうできる訳がないのだ。


 問題はナナだ……今回は仕方がない。


「ナナ、退屈だろうけど、お前はローレル家の屋敷で待機だ。マーレル姉妹も悪いが付き合ってやってくれるかい」

「はい……分かりました。お待ちしていますので、皆さん頑張ってくださいね」


 身内だけならここで拗ねたり嫌だと喚くだろうが、皆の前で俺に恥をかかすようなことは決してしない。


「ナナ、近いうちにダンジョンに連れて行ってあげるから、それまでは我慢して足のリハビリを頑張るんだよ」

「ダンジョンですか? はい、行きたいです! リハビリ頑張りますね! 約束ですよ?」


 ナナはパエルとアーシャに連れられて、屋敷に先に帰って行った。


 戦闘経験の多いルルをリーダーにして、バランスの悪いパーティーを組ませた。魔法使いとヒーラーばかりなのだが、魔法科の生徒しかいないので仕方がないよね。


「ん、パワーレベリングで良いの?」

「ああ、よろしくね。ルルも頼んだよ。俺も行くつもりだったけど、こっちが終わりそうにないので、二人に任せるよ」


「はい、任されました。余程のことがないかぎり、私がいて死人が出るような事態にはならないのでご安心ください」


「流石聖女様、言う事がカッコいいね。じゃあ皆のレべリングお願いね。フィリアとキリクはルルに守ってもらってね。戦闘はサリエが居れば1人で十分だから」


「はい、リューク様も無理なさらないでね?」

「心配してくれてありがとう、フィリアも気を付けてね」


 班員に周囲の魔獣の間引きをさせて俺は残りの作業を行う。



「パイル伯爵は、この農地の配分を農民の代表者と話し合ってください。1区画25m×10mの長方形をしています。この農地全体は500m×500mの正方形ですので、計算上は1000区画取れるようになっていますが、用水路とあぜ道に若干使いますので、その辺はそっちで調整してください。水路側は水やりが便利という利点もありますので、揉め事の種になります。事前によく話し合う事です。あの中心を境に手前がジャガイモ畑、奥が紅芋畑用です。畝の高さや、土の養分が違うので必ず奥を紅芋用にしてくださいね。紅芋の方が手間が要らないので、奥にしたのですが問題ないですよね?」


 あの白髪のジーさんが、この問いに答えてきた。


「凄いのぅ、ちゃんと考えられていて、使い勝手も良さそうじゃ……土もホクホクでわしらが必死で鍬で耕したモノより遥かに良い土ですじゃ。手が掛かる方を村に近い手前にしてくれる配慮など、貴族様とは思えない気配りで有り難いことじゃ。リューク様、村の代表として心より感謝します」


「あんたが村長だったの!? やたらがたいの良いジーさんとは思っていたけど、まだ現役バリバリだね」

「ふぉふぉふぉ、まだまだ若いもんにゃ、負けられないですじゃ」


「リューク君、農地の配分は全部任せてもらっていいのか?」


「何言ってるんですか? この土地はローレル領、つまりあなたの領地です。今後全て伯爵の裁量に委ねられるのです。俺は一切関知しませんので、ご自由にやっちゃってください」


「今領地に残ってくれている者に、これまで彼らが開墾していた広さの倍の農地を与えたいのだが、参考までに君の意見が聞きたい」


「良いと思いますよ。ただ、せっかく耕した農地を水に流されて、仕方なく村を出た者たちにも同じかそれ以上を与えると声を掛け、呼び戻してあげても良いかもですね。なにせ、開墾しなくてももう植え付けできる状態なのですから、帰って来る者もいるのではないでしょうか?」


「そうだな、村に残留してくれた者にも協力してもらって、分かっている範囲で声を掛けてみるよ」


「多分土地が直ぐ足らなくなるでしょうから、どんどん開墾して広げていく必要がありますけどね。俺が今回作ったのは、秋の収穫に間に合わせるためのモノです。収入源が多少でもあれば、生活の先が見えるのでやり甲斐もあると踏んでのことです。後は彼らの頑張り次第でローレル領は発展するでしょう。何を植えていくか、特産品を作るのか、その辺も発展の大事な鍵です。どの村でも採れる芋類だけじゃ大した儲けはないですからね」


「そうだな、その辺も皆と話し合ってみるよ」




 俺も残りの作業を頑張るとしますかね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る