3-56 ローレル家の諸事情、全て解決です

 あぜ道と畑の中は農民たちに任せるとして、俺は用水路を造ってやることにした。ジャガイモ用は5区画ごとに1本、あまり水が必要ない紅芋(サツマイモ)は10区画ごとに1本だ。


 これが思ったより魔力消費が大きかった。

 穴を掘っただけでは、水は土に浸透して消えてなくなってしまう……どうするかというと、錬成で大理石のように密度を高めて水の浸透がなくなるようにしたのだ。ある程度の厚みと強度もいるので強化の付与も必要だったのだが、これがやたらと魔力を喰ったのだ。


 魔力回復剤で腹が一杯だ。


 用水路の深さは1m、幅も1mにした。ちょっと大きいかとも思ったが、川の水量が豊富なので問題ないだろう。現在村に引き込んでいる水路と繋げ、村の方に農地行きの用水路に流れてくるための水量調整をする水門を作った。


 農地の用水路を通った後の余剰水は、村の下水路に繋いで最終的に村より下の下流に流れるようになっている。


 上流にある村に引き込んでいた川の水源地なのだが、場所をもっと上流に変えて大きな水門に造り替えた。

 これで村の上下水の水量や農地用の水量を更に増やせる。


 最初にあった水門は木製で板を差し入れて調整するタイプの古めかしい物だった。

 俺が造り替えたのは、金属製でハンドルを回せば上下に金属板が開閉する現代仕様のものだ。


 金属部は錆びにくいように、スチール合金にした。ミスリルを混ぜると全く錆びないのだが、勿体ないのでそこまではしない。



 午後4時には俺の作業はほぼ終わりだ。後は農民たち自身で、時間をかけて綺麗に整えればいい。




 ローレル家の没落問題もこれで解決だ。





 そろそろ撤収かなと思い、サリエにコールする。


「サリエ、どう? 魔獣の間引きは済んだ?」

「ん、後、西の方だけ」


「そっちはもういいから、帰っておいで。残りは伯爵の方でやってもらう。この村にも冒険者はいるからね」

「ん、分かった。30分で帰る」


「慌てなくていいからね、安全第一でよろしく」

「ん、問題ない」


 俺は今、パイル伯爵と屋敷に戻ってお茶をいただいている。退屈していたナナも横にちゃっかりと座ってお茶を飲んでいる。


「リューク君、どうお礼をすれば良いのか分からないが、受けた恩は必ず返す。今回は本当に感謝する」


 深々と頭を下げて礼を言ってきた。いくら寄親の公爵家の息子でも、嫡男でもない俺に現当主がこうやって頭を下げることはあまりない。精一杯の感謝を伝えるための行為なのだ。ちゃんと受け止めよう。



「パイル伯爵、頭をお上げください。これからが一層大変だとは思いますが、頑張ってください。後、先ほど父様からコールがありまして、当座の資金は例の子爵家の売却資産からまわすとのことです。伯爵にもコールして直に伝えると言ってたので後日連絡がくるでしょう」


 寄親に頼ると周りに舐められるという事情で、これまでうちを頼らなかった伯爵だが、資金繰りが厳しいのだろう。罠に嵌められたという事情があるので、今回は素直に受け取るようだ。


「そう気に病むことでもないでしょう。本来は被る事のなかった被害を陰謀によって受けたのです。首謀者から弁償してもらったと思えば良いのです」


「その騙されたというのが問題なんだ……周りは、そういうところを攻めてくるんだよ。そんな子供だましな事に引っかかるような奴に領地を任せて大丈夫なのか? と、誹謗中傷を言い触らして後釜を狙う輩が多いのだ。気を付けてたつもりだったのだが、俺もまだまだだな……」



 貴族業も大変なんだな……。


『……他人事ではないのですよ? なにせマスターは国王に成るのですから、そういう輩を日々相手にするのです』


『そんなの聞いたら、国王なんかやりたくなくなる』


『……マスターは問題ないです! ナビーがそのような輩は全て排除しますので、手を煩わせたりいたしません!』


『なんか、俺がやる気をなくさないように、必死で取り繕ってきてるように見えるのだが……そこまでしてでもナビーは、国遊びがしたいのか?』



『……国遊びですか? 遊びではないのですが、ナビーは皆の笑顔がもっと一杯見たいのです』

『うん? 笑顔と国造りと何か関係あるのか?』


『……今日も農民たちは皆良い笑顔でした! ナビーはああいう笑顔がもっと見たいのです! 良い国を作れば皆が笑顔で暮らせます!』



 聞けば、ナビーがこう思うようになったのは、俺が家出をしていた時に助けた、あの商人一家の時に芽生えたようなのだ。確かにあの時のあの少女の笑顔はご馳走様だった。


 最近ナビーがやたらと人助けをしたがると思ったら、どうもあれが最初の原因だったようだ。 


 人の笑顔が見たい……変わった趣味だな。まぁ、俺も相手にもよるが、そういうのは嫌いではない。


『……当然です! ナビーはマスターの思考から生まれた存在なんですから、当然似たような思考・感情になるのは当たり前でしょ?』


『グッ……そうだった。あの創主のジーさんもなんかそんな風に言ってたな……まぁいい、建国後なにかあっても面倒になる前にナビーの方で手を打つんだぞ?』


『……お任せください。プリシラがいるので楽勝です。ルルもきっと役に立つでしょう。マスターは良い人材に恵まれています。ジュエルも本気で改心しているようですので、裏方ではなく表舞台で使ってやりましょう』


『暗部的にじゃなく、表で使うのか? お前、ジュエルの事嫌っていただろ?』


『……本気で忠誠を誓ってくれる人材は希少です。どんなに目をかけてやっても、結局普通は我が身が一番可愛いものです。ジュエルやサーシャのように一度本気で生を捨てた人間にしか至れない境地というものがあります。そういう者たちは本当に大事にしたいですね。マスターにとって、お金では買えない貴重な財産です』


『ああ、そうだな。ジュエルはそこまで想ってくれているのか?』

『……妹を助けてもらったことに本当に感謝しているみたいです。後、マスターを神聖視していますね……まぁ、犯罪履歴とか消しちゃったらそう思うのも当然なのかもしれないですが……』


 確かに、神のシステム管理を書き換えたんだ、神聖視してもおかしくない。


 俺がナビーと念話で話し込んでる間に、伯爵と夫人がなにやら内緒話をしていたようだが、伯爵夫人が満面の笑みなのに対して伯爵は眉間に皺を寄せている。


 何があったか知れないが、夫婦間の問題に係わると厄介だ、突っ込まないでおこう。



「ナナは今日はリハビリやったのかな?」

「はい兄様、大分歩けるようになりましたのよ」


 そう言ってマーレル姉妹の手を借りて車いすから立ち上がり、トコトコと歩き出した。


「へぇ~、この分だと直ぐに車椅子は卒業だね。よく頑張ったね!」

「本当ですか! 嬉しいです!」


「ある程度筋肉量がつけば、後は俺の魔法で一気に改善するんだよ。筋肉の増強は破壊と再生が大事なんだ。元が少ないと壊す分も少ないから、新たに構築される分量も少なくなる。ある程度の筋肉量を超えたら後はすぐだよ。ナナは今丁度その境目辺りにいる。ちょっと無理をしたら、俺がマッサージしないと痛くて歩けないほどになってきているだろ? 酷い筋肉痛が起きるということは、ちゃんと筋肉量が増えた証拠なんだよ」




 サリエたちが帰ってきたので、この村の冒険者ギルドに向かう。

 ギルドという規模ではないかな……出張所のような感じで職員も4人しかいないみたいだ。



「あ! リューク様たちだ!」


 受付嬢のお姉さん……いきなりそれはどうかと思うぞ?

 小さな村だ、俺たちが来たのは知っているのだろうが、仕事中に初対面でそれはいけない。営業畑のおっさんとしては、対応マニュアルがなってない! と思ってしまう。


 ついついジロッと睨んでしまった。


「あ! 失礼しマスた! 何か御用でしょうか!?」


 あ、ちょっと噛んだ!

 面白かったし、すぐに言葉使いも正してきたので、まぁ、注意するほどでもないな。


「今日狩った魔獣の買い取りと、狩った魔獣で受けられる依頼をピックアップしてほしい」

「分かりました。では、隣の買い取りカウンターに狩った魔獣を出してもらえますでしょうか?」


「ん、このスペースじゃ無理」


 ん? 結構狩ったのかな? 時間的には4時間ほどの狩りのはずだが。


「では、裏の解体小屋の方に移動していただけますか? 彼に付いて行ってください」



 本当は王都で売った方が良い値で買ってくれるのだが、村にお金を落としてあげるためにあえてこの村で売るのだ。


 俺たちの売った素材を、この村のギルドも売って利益を得るのだ。ギルドも売り物がないと商売にならない。




 サリエたちは何狩ったのかな?


 オークやスライム、一角ウサギに昆虫系もいるな……38匹か、4時間にしては多いな。



『……サリエが【周辺探索】を上手く使いましたからね。効率よく狩っていました』

『さすがだな。下級魔獣ばかりだが、オークと昆虫系はそこそこお金になるよな?』


『……ですね、あのカブトムシみたいなヤツは背中の羽の甲羅みたいな部分が硬く、防具のプロテクターによく使われるのでそこそこ良い値が付きます。蜘蛛も足は食材に、糸は高級服の素材として高値で取引されていますね』



 魔石や肉も全部売ると120万ちょっとになった。

 伯爵が出していた討伐依頼料も入ったため、良い金額になった。


 現金を受け取る際に、カウンター近くにいた冒険者たちから、羨ましそうな視線を感じた。このような強い魔獣が出ない小さな村にいる冒険者は初心者が多い。装備品を見たら大体分かるのだが、彼らも初級冒険者のようだ。



 応援の意味もかねて、夕飯に誘ってやる。


「これから、村の広場で伯爵が夕食を振る舞うので、あなたたちもどうですか?」

「俺たちも参加していいのですか? 噂では旨い料理が山のように振る舞われて、腹いっぱい食えるって聞いたのですが……」


「ええ、誰でも参加可能ですので、皆で来てください」

「「「リューク様、ありがとう!」」」


 一応西エリア以外は今日間引いたことも伝えておく。知らないで明日西エリア以外に入っても、魔獣を狩れる確率は極めて低くなるからね。


 魔獣の売却金は均等割りにする。これがうちのパーティーのルールだ。


 ルル・サリエ・フィリア・キリク・チェシル・マシェリ・マームの7人なので、今回1人、17万ジェニーになる。端数は共同資金として貯蓄する。


 やはりマームが一番喜んでいるようだ。


「リューク様、ありがとうございます!」

「今回俺は何もしてないぞ? お礼はルルとサリエにするんだね」


「ルル様、サリエ様、ありがとうございました! レベルも2つ上がっています! 嬉しいです!」


 俺が居なかったから、経験値の増量がない。倒した数からいえばこんなもんかな。俺がリーダーの時は5倍近く入るもんな。



 お金を皆に配ったのだが、ルルとサリエが村の教会に寄付したいと言ってきた。それを聞いたフィリアとキリクも寄付すると言い出したが、却下だ!


「ルルとサリエ以外は、今回寄付はさせない」


 フィリアは納得がいってないようだ。


「ルルもサリエもそれなりの資金と装備品を持っているが、皆の装備はどうだ? 夏休みには竜がいる危険な辺境に行くというのに、そんな装備で大丈夫か?」


「それは……そうですね。分かりました、貯蓄することにします」

「うん。さっきはああ言ったけど、武器と防具は俺が用意してあげるつもりなので、マーム、心配はいらないよ」


「えへへ、見透かされちゃいました」


 ローレル姉妹とマームは、このお金を当座の学園の生活資金にするそうだ。

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