3-91 満面の笑顔頂きました♪
少しむくれていたルルだったが、子供たちの欠損が治せると知ったら機嫌よく早く帰りましょうと促してくる。
ボス部屋から出たら、ランティスさんが心配そうに待っていた。
「ルル様! ご無事なようで何よりです!」
「はい……ええ、怪我など一切していませんよ」
戦闘していないからね……そのことは皆には言わないでおこうとルルに話している。
今回のことは例外だろうけど、ラスボスに知性があることは言わない方が良いだろうと判断したのだ。戦闘しないで泣きつく奴も出てくるかもと思ったのだ。負けそうになったら見逃してくれとか言いかねない。そうなったら、どうにも人間臭いあいつもやりにくいだろう。
ランティスさんはスープを薦めてくるが、子供たちが待っている。
悪いが行かせてもらう。
「そうですか……では、ルル様お気をつけて」
「はい。皆に神の祝福があらんことを――」
また、お祈りして有り難がられているよ……。
ログハウス前に地点登録しているから転移魔法で直ぐ帰れるんだけど……それでは階段に居る冒険者たちが心配して騒ぎかねない。
この転移魔法、ダンジョン外には出れないが、ダンジョン内の移動はできるようだ。メールやコール機能も同じで、ダンジョン外に発信できないが、内部での通話は問題なくできる。
『……マスター、普通の転移魔法はダンジョンでは使えません』
『えっ? そうなの?』
『……はい。転移魔法は基本転移魔法陣どうしを繋げるものです。勿論なくても使えますが、MPは転移魔法陣を使う場合の倍消費します。ダンジョンに転移魔法陣は存在しないので、ダンジョン内利用は現実的ではないですね』
『それもそうか。ソロならともかく、パーティーでの転移なんかできないし、行きはともかく、ドロップ品満載状態の帰りじゃ容量の関係で転移できないよね』
俺のは転移魔法はオリジナルだし、容量も関係ないうえに膨大なMPを保持しているから使えるようだ。
「ルルまた飛んで帰ろうか」
「はい。お願いします♪」
嬉しそうに俺の首に手を回してきた……やっぱ良い匂いがする。
飛んでる間、ルルは何か思案顔だ。
「どうした?」
「あのドラゴン……本当は誰とも戦いたくないのではないでしょうか? ラスボスとしての使命とか言っていました。仕方なく戦って、時には冒険者や探索者を殺さなければならない存在だとしたら不憫です」
「う~ん、どうなんだろ? そもそも実体がある存在じゃないよね? 部屋に入ってから光に包まれて構成されたって感じだったし……どういう存在なんだろうね?」
『……ナビーのような存在に近いですね。そこに有ってそこに無いもの……エネルギー生命体です。違う点はナビーはマスターに紐付られていますが、あのドラゴンはこのダンジョンの魔核に強く紐付けられています』
『じゃあやっぱりあの実体はあの部屋限定ってことか……』
『……そうなりますね。ルルが言っているように、あのドラゴンは殺生は嫌いなようです』
『何でそんなことが分かるんだ?』
『……このダンジョンの入り口で滞在予定を記入しましたよね? ボス戦を挑んだ者の生存率が他のダンジョンより遥かに高いのです。実力のある気に入ったパーティには意図的に負けてやったり、犯罪に手を染めているようなパーティーには全力で戦ったりしているようですね。自分の存在は人に与える神の試練だと思っているようです。王都周辺のダンジョン攻略で、フルーツダンジョンが一番難易度が低いとされている真実かもしれないですね』
多少実力不足でも、将来性のある良いパーティーにはわざと負けてやっているから、攻略者の多さで難易度が低いと思われてしまったのか。
「あのドラゴン……子供たちが魔獣に襲われて、手足が食べられている間も黙って見ていたのですよね? あれほど知能があるのに、何故助けてあげなかったのでしょう?」
「自分のことを試練の一環だと思っているようだね。運命? ダンジョン内では死ぬも生きるも神の試練の一環で、それに関して関与しないんじゃないかな。あの子たちを助けるのなら他の者も助けないといけなくなる。そうなったらダンジョンって何ってなってしまう。神は公平じゃないといけないしね」
「リューク様? 神は公平ではありませんよ?」
「へっ? 神は万物に対して公平でしょ?」
「いいえ、善行者には加護や祝福を、悪行者には天罰を与えてくださります。決して平等ではございません。なので、神殿では良き事、良き行いを常に心掛けなさいと説くのです」
そうだった! この世界の神は実が有るんだよ! だから皆喜んでお祈りもするし、寄付もする。ちゃんと見返りがあるのだったね。
「ダンジョンごとに何か神の定めたルールが有るんじゃない? 危険が有るのを分かって入ってきているのに、いちいち助けてたら試練にもならないよね? 安全マージンをしっかり取って、身の丈に合った階層でやっていればそう死ぬことなんかないはずだよ。でもダンジョンが神の恩恵っていうのは本当だったんだね?」
「そうですね。ダンジョンが無ければ、数万人の人口の食料が賄えません」
「うん。周囲に開拓村を造ってそこで食料生産はしているけど、フルーツや肉などの傷みの早いものはダンジョンが有るおかげでいつも食べられるもんね。夏場に3日も街道を移動してたら肉なんかあっという間に傷んじゃうからね」
結局ダンジョンについてはよく分からないというのが現状だ。
ないと困るけど、あっても管理しないと魔力飽和でスタンピートが起こってしまう厄介なモノ。
階段に居た者に顔を見せ無事を伝え、ログハウスに帰宅する。
窓から眺めて帰りを待っていたのか、前まで来たらルディが飛び出してきた。
「ご主人様お帰りなのです! ちゃんと帰ってきてくれたのです……」
まだ置いて行かれるとか思っていたのかな?
「ただ今、寝ないで待ってたのかい?」
「はいなのです……」
中に入るとカリーナもほっとした顔を見せる。
「ご主人様おかえりなさい!」
「ただいま。ルディもこっちにおいで」
早速二人に飲ませてあげよう。
「二人ともこの薬を飲んでごらん」
「ルディは、薬、きらいなのです……」
「私も苦いのは嫌いです……」
「あはは、俺も嫌いだけどね。とても貴重で大事な薬だから一滴も零さないように一気に飲むんだよ」
「はいなのです……」
「分かりました」
薬を飲んで間もなく、二人から悲鳴が上がる。どうやら、欠損カ所の修復時に痛みを伴うようだ。
二人の欠損部位が輝きだし肉芽ができて新たな腕や足が生えてきている。
「【痛覚無効】! 痛みは収まったかい?」
「痛くなくなったのです……」
「死ぬかと思いました……って! 足が生えてきています! アッ尻尾も!」
1分ほどで光が収まり、二人とも完全に元通りの体に戻っていた。
「ルディーの耳と腕が治ったのです……エグッ……」
「私の足と尻尾と耳も治ってます! ウエ~ン……」
二人ともワンワン泣きながら俺の腰にしがみついてきた。二人は暫く泣いた後に満面の笑顔を見せてくれた。
良い笑顔だ! ご馳走様♪
『……可愛いです♪ 子供はこうでなくてはなりません!』
ナビーも満足のようだ。
「カリーナの尻尾、こんなに長かったの? 長い尻尾って思ってたけど、凄く立派な尻尾だったんだね?」
「はい! 黒豹族自慢の尻尾です! 嬉しいです♪」
自分の身丈ほどある黒くて艶々した長い尻尾だった。
これまで長いと思ってた尻尾は実は6割ほどの長さだったのだ……触りたい!
「二人の耳も可愛いね!」
「はいなのです! ご主人様なら触ってもいいのです……」
「私の耳も触っていいです」
俺が触りたそうにしているの、バレバレだったみたいだ。
「ホント! どれどれ……うわ~! ルディはモフモフで、カリーナはツヤツヤだ! とってもいいね♪」
『……困ったお人ですね……マスター、獣人族が自分の耳や尻尾を触らせることの意味を理解しているのですか?』
『あ……そうなのか?』
『……はい。耳や尻尾を触っていいのは家族や恋人のようなとても親密な関係の者だけです。動物でいう毛づくろい、グルーミング的な意味があるのです』
『まぁ、もうこの娘たちは俺の家族みたいなものだしね』
『……どうもマスターは勘違いしています。その子たちは、マスターを家族としてではなく、パートナー、つがい、一人の男性として受け入れたのです』
『はぁ? 10歳と11歳の子供だよ?』
『……獣人は早熟ですし、本能で行動しますからね。優良なオスと本能的に判断したようですよ』
好意は嬉しいが、流石に射程外なので聞かなかったことにしよう。
「流石に今日は疲れた……ゆっくり風呂に浸かりたい」
「ルディも一緒に入りたいのです!」
「私も入りたいです。あのシャンプーで新しく生えた尻尾を洗いたいです」
「あ~、それなら一緒に入ろうか」
何故だかエリーまでついてきたが、まぁいいだろう。
ルルの『いいな~』というつぶやきは聞こえなかったことにしよう。
さて、入浴後にはちょっとしたプレゼントがある。
「ルディ、裸のままちょっとおいで。これはプレゼントだ」
ナビー作の装備一式だ。
・鋼のショートソード
・ストリングスパイダーのインナー
・デスケロッグの革パンツ(スタンプボアの膝当て補強入り)
・スタンプボアの革の胸当て
・スタンプボアのショートブーツ
ルディに装着したのだが……ナビー頑張り過ぎだ!
『……はい、頑張りました! どうですカッコ可愛いですよね?』
黒と茶色を基調とした防具が、ルディの白い耳や尻尾を良い具合に引き立てている。
カッコ可愛いという表現は正しい。だが、これは中級冒険者の上位の者が着けるような高級装備品だ。
「カッコいいのです! ご主人様! ルディが貰ってもいいの?」
ムッチャ喜んでる……まぁ、心もとない装備よりはいいか。
「うん。似合ってるよ。サイズもピッタリだね。ある程度調整できるから、1、2年は着られるかな。じゃあ、次はカリーナだ。カリーナも同じ防具だけど、武器は鋼のロングナイフにした。【シーフ】の者がよく扱う武器だね。身軽さが売りなので重い武器は合わないので、ロングナイフだ。普通のナイフだとちょっと火力が心もとないのでロングナイフかショートソードが良いと思う」
「ご主人様! カッコイイです! うわ~! これ、お父さんの防具より良さそう! 嬉しいです♪」
「いいなぁ~」
声の方を見たら、エリーが羨ましそうに二人を見ていた。
「エリーの分もあるよ」
勿論ナビーが一人仲間外れにする訳がない。
「エッ!? お兄ちゃんいいの? 私も貰っていいの?」
「エリー、良かったね!」
「ご主人様は優しいのです♪」
「ヤッター! みんなとお揃い♪ カッコイイね♪」
「エリーは魔法使い志望だけど、まだ生活魔法しか使えないから暫くはショートソード装備だよ」
「はい。新しい鋼のショートソードだ! これスッゴク高いのに本当にいいの?」
「エリーたちの手の大きさに合わせているから、握り部分が普通のモノより細くしているよ。良い感じでしょ? 皆、まだ筋力がないから自分たちで体は鍛えるんだよ?」
「「「は~い!」」」
子供たちの喧騒で、何事かと脱衣所を見に来たルルが子供たちのお揃いの装備を目にする。
「これは……リューク様……この装備はまだこの娘たちには分不相応です。甘やかし過ぎではないですか」
ぴしゃりと怒られてしまった―――
「いや~、俺もそう思ったけど、もう作っちゃったしね。子供サイズなので、他に着れるとしたらサリエくらいだけど、サリエの戦闘メイド服はこれより良いものなんだよね。心もとない初心者防具を着せるより良いでしょ?」
「確かにそうですが……エリー、ルディ、カリーナ、装備品を過信しないで慎重に行動しないとダメですよ」
「はいなのです」
「「はいルル様」」
「明日は、それを着てフルーツ採取を手伝ってもらうからね」
「「「はーい♪」」」
そう言いながら凝った肩をほぐすように柔軟をしていたら、カリーナがマッサージしてあげると言ってきた。でも、10歳ぐらいの子供ってすぐに飽きちゃうんだよね……30秒ほど? もって3分……気持ち良くなった頃に止めるんだよ。
「ああ、カリーナありがとう。でも、別にいいよ」
「ルディもしてあげるのです!」
「私もしてあげる!」
子供たち3人が言ってくる……装備のお礼だそうなので、お願いしよう。
脱衣所に設置してあるマッサージ台にうつ伏せに寝転がる。
ん? んん? 一人めちゃくちゃ気持ちいい子がいる! 誰だ?
はい、ルルが混じっていました――
「一人凄く効く子がいると思ったら……ルルだったのか」
「どうです? 先日サリエちゃんからコツを教わったのですよ。指圧に【治癒】を練りこむようにして発動しています。この施術法はリューク様がお考えになったそうですね? 素晴らしいですわ♪」
ルルは【アクアフロー】と同じようなことをやっていたようだ。
子供たちも以外と上手で気持ち良かった。
「みんなありがとう。疲れが取れてなくなったよ。ルル……子供一人背負って走り回ったので疲れているだろ? 良かったら君もしてあげるけど……」
カリーナを背負って1日中走っていたのだ。疲れていないはずがない。でも、聖女は処女性を重んじる……男に肌を見せるとか多分教義に反するだろう。以前のフィリアがそうだった……最近はタガが外れたみたいになっているけどね。
「お願いしてもよろしいですか?」
ルルは顔を真っ赤にしてお願いしてきた。
「エッ!? 教義とかで禁止されているのではないの?」
「性行為や過度の接触は禁止されていますが、治療行為なのですから、そのような教義はないですよ?」
ルルの入浴後にマッサージ治療しました……14歳とは思えないお体でした!
ヤワヤワのスベスベ肌でした♪ メロン級の良いものをお持ちでした!
【ボディースキャン】も念のために使ってみたが、筋肉痛以外異常個所はなかった。
『……当然です。聖女に選ばれる者が、病弱な訳ないではないですか』
とのことらしい。
「勇者様~♪ 気持ちいいです♪ サリエちゃんより凄いです♪」
理性が飛びそうだったが何とかルルの疲労も回復できた。
夜明けまでまだ時間はあるので一眠りして、明日、早朝だけ採取に時間を当てて、急いで帰るとしますかね。
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