3-90 ルルがダンジョンボスの態度にお怒りです
ニラ……ではなく『月光草』が手に入ったので、もう1つの欲しいモノを手に入れに最下層に向かう。
「ルル、冬エリア吹雪いてるね」
「はい。さっきのエリアにいた冒険者が言うには、10日のうち7日間は吹雪いているそうですよ」
俺の装備は5月に着るもの……とても氷点下のエリアで居ていい格好ではない。
ルルも同様で、合いもののシスター服だ。
「ルル【エアーコンディショナー】で温度調整はしているけど寒くない?」
「はい。この魔法も凄いですね……真夏の熱い時期にはとても役立ちそうです」
フィリアやナナはルルとの婚姻は仕方ないとか言っているけど……ルルの事は【コピー】も視野に入れて一度ちゃんと考えよう。
「この冬エリアは流石に襲ってくる魔獣も少ないね」
「極寒ですからね……昆虫系がいないのでありがたいです。熊系と大猿系が多いようです」
俺的にはあれは大猿と言うより雪男だね……ヒマラヤ山脈方面だとイエティ、ロッキー山脈方面だとビックフット、中国の山地ではヒバゴンとか言われている未確認生物だ。実在するかは知らないけどね。
雪女は出ないのかな……日本では美人設定だし、いるなら見てみたい。
『……あれは妖怪の部類なので、この世界には反映されていないようです。いるのは雪の精霊です』
『そっか……吸血鬼やゾンビがいるのだからいてもいいのにね?』
『……吸血鬼は人族に部類しますが、ゾンビは魔獣ですよ。設定自体は創主様が決めたようなので、何か基準があるのかもしれませんね。あ! 今、狩った兎がこの冬エリア名物のホワイトラビットです。お肉が凄く美味しいそうです。それと毛皮が超高値で売買されています。冬エリアで狩りをしている冒険者は殆どがこの兎目当てですね』
『美味しい肉なら子供たちが喜ぶな』
『……サリエとマームもお肉大好きですよね』
『大きいからお土産にできるね。トマトで煮込んだら美味しそうだ。頼めるか?』
『……了解しました。でもどうせなら47階にあるトマトを採取して煮込みたいですね』
『じゃあ、明日行くから、お肉の下ごしらえだけ頼む』
『……はい。採取は苗ごとお願いしますね。ナビー農園で増やせるか試してみます』
この階も上空を飛んで行ったのですぐに最下層に降りる階段に辿り着いた。
ボス部屋の前の待機室には、1パーティだけ冒険者がいた。
「おいおい、まさかこの吹雪の中、そんな恰好で抜けてきたのか!?」
「どうした? って子供じゃないか? 二人だけ? 嘘だろ?」
「あ! ルル様!」
杖を持った30歳ぐらいの男がルルに気付いて近付いてきた。杖を持っているので魔法使いかヒーラーかな?
「あら? ランティスさんじゃないですか。このような最下層まで来られるほどの冒険者だったのですね」
「ルルの知り合いかい?」
「はい。孤児院卒園者の方で、毎月のように孤児院に寄付してくださっている方です。お肉も届けてくれるので、子供たちの間ではちょっとしたヒーローですね」
「滅相もない。俺はこれまで世話になった孤児院にお返しをしているだけですよ。それで、君は? 随分ルル様と仲良さそうだけど……」
答える義理はないけど、孤児院卒なら当然ルルと知り合いな訳だし、あまり邪険にもできないな。
「ルルとは只のクラスメイトだ」
嘘は言っていない……。
『……ルルを見てください。可愛いですよ……記録しておきましょう』
あはは……フグのようなふくれっ面だ……勇者だとか言えば喜ぶんだろうけど、真っ平御免だしね。
『それ、俺にもメールに貼って送っといて』
「クラスメイト?」
「私、数日前にフォレル学園の魔法科に編入しましたのよ」
「そうなのですか?」
「あ~悪いけど急ぎなので、そういう話は後で神殿でしてください。あなたたちはボスに挑むわけじゃないのですよね?」
「ああ、ここには野営目的でいる。まさかルル様と君の二人でボスに挑むのか? 今回神殿騎士様は来ていないのか?」
「今日は神殿騎士の方は随伴していませんよ。それより、あなたたち顔色が良くないようですが、大丈夫なのですか?」
ルルが心配そうに言ったが、確かに唇が紫っぽくあまり顔色は良くないな。
「少し前にここに辿り着いたばかりで、皆、まだ体が冷えているのです。宜しければルル様たちももうすぐ温かいスープが出来上がりますので、一緒に暖を取られてはどうですか?」
「リューク様、どういたします?」
「いや、子供たちが待っている。遅くなった分だけ心配するだろうから、できるだけ早く帰ろう」
「そうですわね。ランティスさん、近くにエリーも来ていて待たせていますので、用件を先に済ませますね」
「エリーって!? あんな小さな子をこんな深い層にですか? それにルル様、幾らなんでも二人では無謀すぎます。どうしても行かれるのなら、俺もお供します。いないよりはましでしょう」
「いや、いない方がマシなので、ご遠慮願います。さっ、時間が惜しい。行くよルル」
「はい! ゆう……リューク様……」
ルルの奴、また勇者様って言いかけただろ! 人前で言ったら許さないからね!
何か言いたそうなランティスさんは無視して、意気揚々と最終ボスの扉を開ける。
中は円状になった東京ドームほどの部屋だった。
入口の扉を閉めたら光のエフェクトが発生し、大きなドラゴンが部屋の中央に現れる!
現れたのだが……う~~~ん……どうしたものか―――
「あの、リューク様……あれはどうしたものでしょうか?」
「いや~、俺もちょっと困惑している……ルルにはどう見える?」
「犬です……負け犬です……」
現れたドラゴンは体高5、6mはあろうかという巨体だった。
体長は尻尾も入れたら15m近くありそうだ……確か恐竜のティラノサウルスがこのくらいじゃなかったっけ?
緑の硬いうろこに覆われていて、頭の上には噂どおりドラゴンフルーツが生えている。かなり強そうだ。
ここまではいい……俺たちが困惑しているのはこいつの行動だ。
俺たちと目が合った瞬間、ゆっくり寝そべって腹を見せ尻尾を振っているのだ。
犬でいうところの絶対服従のポーズだ……冒険者たちはフェイント攻撃はしないと言ってたのに……こいつはどうしたものか。
ルルが不意に切れた―――
「立って襲ってきなさい! 折角の勇者様との合同イベントなのです! 何ですかその間抜けな格好は! 早くドラゴンらしく獰猛な牙を見せて戦いなさい!」
「無理言わないでよ! 勇者様と聖女様のパーティーに敵う訳ないでしょ! 幾らラスボスとしての使命があると言っても、無謀なことはしたくないです! イ・ヤ・デ・ス~!」
喋った!?
メス? なのか? ドラゴンさんは戦いたくないと仰る……人語喋れるんだ。
「なんで俺たちのことを知っているんだ?」
「ダンジョン主だもん。あなたたちが入ってきた時点から見てたからね」
「ダンジョンの魔獣って、人を見たら見境なく襲うんじゃないのか?」
「基本はそうだよ。このダンジョンで人と会話できる知能を持っている存在は私だけだしね」
「でも、戦ってくれないと俺も困るんだよ……」
「称号なら戦ったことにして、付与してあげるよ?」
「いや、ドロップで欲しいモノがあるんだ」
「じゃあ、フルセットで全部だしてあげる」
「へっ? 全部って……全部?」
「うん。それなら戦わなくていいでしょ?」
「だね……でもいいの?」
「うん。どうせ戦ってもあっという間に倒されちゃうんだし。ダンジョンって元々神が与えた救済のためのものなのはお二人なら知っているよね? 他の人にならここまで大判振る舞いはしないけど、二人とも神側の人間だし、問題ないでしょ」
「うん? ダンジョンって神の管理下なのか? だったら何で魔物に襲わせて冒険者を殺すんだ?」
「その辺は詳しく知らないけど……試練の一つなんじゃない? 無償で与えるのは良くないしね」
そう言いながら、無償で黒い宝箱を出してくれた。これはいいのか? フルーツドラゴン―――
ブラックメタル製の宝石が散りばめられた超豪華な宝箱だ!
「開けていいか?」
「ええ、どうぞ」
価値のある順で、竜の牙・竜の爪・竜の革・土属性のSランク魔石・竜の心臓・竜の肝・竜の尻尾肉・竜の肉・ドラゴンフルーツが入っていた。
「マジで一式入ってた……あれ? でもエリクシルは入ってないんだな」
「エリクシルはこのダンジョンではドロップしないよ?」
どうやらこのダンジョンと違う、間違った情報が流れていたらしい。
「なあ、フルーツドラゴン……竜の肝、竜の尻尾肉、竜の肉、ドラゴンフルーツをもう1つずつ貰えないかな?」
「エエッ~! 勇者様、ちょっと欲張りだよ~」
「うっ……だったら、それらと竜の牙・竜の爪と交換ではダメか?」
「エッ? でも牙の方が遥かに価値が高いよ? どうして?」
「いや……肉好きな子供が多くてね……牙より肉の方が喜ぶかなって……」
「あはは、わかった! 今回だけ特別ね! また来ても何もあげないからね?」
「了解だ。うん? 牙と爪もくれるのか? 交換じゃなくてもいいのか?」
「うん。今回だけだよ?」
「ありがとう!」
思わず竜の頭に飛び乗って、フルーツの生えている付近をナデナデしてしまった。
「グルルル~♪ そこ気持ちいいの♪」
「全くなんて駄竜なのですか! 折角の討伐イベントが台無しです!」
「ルル、そう言うなって……無益な殺生をしなくて済むんだし、目的の品も手に入った。良いことずくめじゃないか」
「そうですが……不完全燃焼です。ここは二人で苦労してやっと竜を倒し、絆が深まるシーンだった筈なのです。将来子供たちに語ってあげる冒険譚の第1話目になるはずだったのに」
またシーンとか言ってるよ……駄竜って言ってるけど、ルルの方が残念聖女だ。
ここは絵本の中じゃないんだよ? それにもう自分の子供のこと考えてるんだ……。
「また、残念なものを見る目で見ましたね! 酷いです!」
『……マスター、【エリクシル剤】無事完成しました』
『え? もうできたの? 月光草の花弁は? 先に花が先じゃないの?』
ナビーさん、残念聖女の事は無視なのですね。
『……月光草ですが、見たまんまニラのように株分けでき、増やせました。花弁も3順満月を迎え、ストックも多少できています。肝の1/10ほどを使用し、【エリクシル剤】12本を作製しています』
『そんなにできたのか……分かった。ありがとうナビー』
『……ダンジョン内の植物の育成が可能だと分かったのですから、明日は沢山お願いしますね?』
『了解だ。俺も美味しいものが食べたいからね。頑張るよ』
「ルル、エリクシル剤が完成した。ルディとカリーナに飲ませてあげたいから、急いで帰ろうか?」
「完成って? 何時の間に? どうやって?」
「その辺はあまり追求しないでほしい……勇者のユニークスキルと思ってくれ……」
「分かりました。二人とも喜ぶでしょうね♪」
はぐらかすためとはいえ、自分で勇者と言ってしまった……ルルの奴、凄く嬉しそうだ。
ボスとの戦闘をしないで目的達成できてしまった。
ルルはドラゴン退治という勇者との鉄板イベントができず、少し不満気だったが、危険な目に遭うことなく、俺的にはラッキーだ。
さぁ、早く帰って、ルディやカリーナのなくなった腕や足を治してやろう。
もっと話をしたそうなフルーツドラゴンにまた来ると約束し、ボス部屋の扉を開けるのだった。
*****************************************************
お読みくださりありがとうございます。
一度壮絶な竜バトルを書いていたのですが、読み返すと普通だったので書き換えました。
尻尾で思いっ切り叩かれ、牙で噛みつかれシールドが剥がれてルルに回復してもらい九死に一生を得た的な感じだったのですが、それだとほんと普通ですよね……。
という訳で、斜め上の犬っころ竜誕生です。
ダンジョンボスが戦闘拒否で腹見せ降伏は流石にないでしょう。
2章以降の改稿をするすると言いつつ……時間がなく、まだ手つかずw
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます