3-92 フルーラ爆誕!

 翌朝、日が昇る前に起きて朝食を摂る。今日も忙しくなる予定だ。


 子供たちは朝からお肉を食べたいというので、オーク肉でさっと1品作ってあげた。



 本日の朝食


 ・オークのカツサンド

 ・生野菜サラダ

 ・オニオンスープ

 ・ミックスジュース



 子供たちは初めて食べるトンカツソースの甘辛い味に、めちゃくちゃ喜んでくれた。深層階のフルーツで作ったミックスジュースも、砂糖なしでも甘く美味しかった。


 3人は昨日あげた装備を着こんで朝から凄く機嫌が良い。



「さて、あまり時間もないので効率よく回るよ」


「「「は~い!」」」


 ナビーに現在冒険者の権利中じゃない箇所をピックアップしてもらい、順番に採取していく。


 特に夏エリアは沢山★マークを入れられた……木や苗ごと欲しいとの要望なので、根を傷つけないように土ごとごっそりナビー農園に頂くことが多かった。


『ナビー、冒険者同士で採取権が暗黙的にあるようだけど、根こそぎ貰っても本当に問題ないのか?』

『……はい。仮に伐採したとしても、何故か数日でエリアのどこかにまた同じ品種が生えてきて、見る間に急成長して1週間以内には果物が実を付けるようです』


 ダンジョンは摩訶不思議だな―――


「あ! リューク様、この青い花がそうです」

「へ~、綺麗な青だね……群生エリアっていっても、やっぱ少ないね」


 元はチロルの為にこれを取りに来たのだ……。


「そうですね。全部とっても30本ってところでしょうか?」


 15本ほど土ごと採取しておく。


「花を生で食べるだけでも、ある程度の毒消し効果は得られるようだから、半分は探索者たちの為に残しておこう」


 採取中に何度か魔獣が襲ってきたが、近付く前に俺の魔法で狩っている。子供たちではこのエリアで勝てる魔獣は1体もいないのだ。



 休憩をはさみながら、各エリアで可能な限り沢山の種を採取した。

 秋エリアでは自然薯やキノコ類も沢山採れた。松茸が赤松もない所にゴロゴロ生えていたのは驚いたけどね。



 そろそろお昼だな……ここで食べてから移動するか、帰ってから食べるか……。


「きゅるきゅるる~~」


 ルディのお腹が可愛く鳴った……


「あう~なのです……はずかしいのです」


「ちょうどお昼だしね。今日のお昼は超豪華にするよ! あ~、でもお昼にログハウスは目立ちそうだね」


 マーキングしてあった、ラスボスの居る階段前に皆と転移する。


「【転移魔法】! ごしゅじんさま凄いのです!」


「リューク様は闇魔法も得意なのですね……聖属性とは反属性なので普通は使えないのに……」


 冬エリアは今日も吹雪いていた。う~~さぶっ!

 【エアコン】魔法は掛けていたが、温度を少し上げないと耐えられないレベルだ。



「雪なのです♪」

「真っ白!」

「寒いです……」


 ルディはパウダースノーの中を腰まで埋もれてキャッキャと走り回っていた。

 エリーも元気にルディと遊んでいる。

 カリーナは尻尾を丸めてブルブル震えている。猫は寒さに弱いもんね。



 【エアコン】の温度管理を自動調整にしてあげた。


「ご主人様、ありがとう。温かいです♪」


「二人とも遊んでないで行くよ~」


「はいなのです!」

「は~い」



 階段を降りたら例のパーティーがたき火を囲んで昼食の準備をしていた。


「ルル様! あ、エリー! 本当に来ていたんだ……それに小さい子供がほかに二人も?」


 え~と誰だったっけ……ラン……


『……ランティスです』

『そうそう、ランティスさん。また唇が紫色になっている……この吹雪にも外で兎を追ってたんだ……』


 他の者も火を囲んで暖を取っている。ランティスさんがルルに気付いて駆け寄ってきたので、皆もこっちに来てルルに挨拶をしている。火の回りから離れたくないだろうに気の毒なことをした。


 あまりにも寒そうなので、ランティスさんたちにも【エアコン】魔法を掛けてあげる。


「【エアーコンディシュナー】この魔法は12時間だけ身の回りの温度を快適に保ってくれる」


「「「温かくなった! ありがとうございます!」」」


 お礼にと食事に誘われたが……勿論辞退した。彼らの昼食は、干し肉に乾パン、溶かしたチーズとスープのようだ。



 本日の昼食


 ・ドラゴンステーキ

 ・キノコのバターソテー

 ・松茸の茶わん蒸し

 ・松茸のお吸い物

 ・大根のシャキシャキ紫蘇ドレッシングサラダ

 ・パン

 ・グレープジュース

 ・チョコレートパフェ


「ドラゴンのお肉、美味しいのです♪」

「ご主人様、食べていいの? 売らないでもいいの?」

「お兄ちゃん、これ売ったら凄くお金になるんだよ?」


「カリーナ、エリー、遠慮しなくていい。ルディみたいに食べるといい。足らなかったらお替りもあるからね」


「「はい♪ 美味しい!」」

「リューク様、とても美味しいです♪」


 ルルにも気に入ってもらえて何よりだ。



 ランティスさんたちがめっちゃ欲しそうに見ていたので、オークステーキと松茸のお吸い物を提供してあげた。

 ドラゴンステーキは勿論あげないよ。赤の他人にあげるよりナナやフィリア、兄様や母様たちにあげたいしね。サーシャたちにもお土産としてあげる予定だ。


『……マスター、あのフルーツドラゴンがなにやら羨ましそうにしています』

『ん? でも実体はないのだろう? なんでナビーにそんなことが分かるんだ?』


『……ボス部屋の扉の方をご覧ください……』


 ナビーに言われるまま扉の方を見たら、目が合った……フルーツドラゴンの奴、扉を少し開いてこっちを見ていたのだ……実体化して覗いていやがった!


「バタン!」


 あ、逃げた―――


「リューク様……今のは?」

「うん、あいつだったね? なんか外が楽しそうなので、気になったようだよ……」


 俺1人でボス部屋の中に入って扉を閉める。あいつは消えていたので、声をかけて呼び出す。


「おーい、フルーツドラゴン……ちょっと用があるから出てきてくれない?」


 なかなか実体化して現れなかったが、何度かの呼びかけに光を発して実体化して出てきた。


「なに?……すぐ来てももう何もあげないって言ったでしょ? もうダメだからね?」

「そんなんじゃないよ。お前も一緒に食べるか? ドラゴン肉は流石にあれだから、オーク肉とかで出してあげるよ?」


「あはは、私に食事は不要よ……魔核なんだから……そもそも実体化もこの部屋限定なので、外には出れないわ」


 試してみるか―――


「【思念体創造】……どうだ?」


 目の前で実体化していた5mほどのドラゴンが強い光に包まれて、どんどん小さくなっていった。

 そして光が収まると、目の前には人化した18歳ぐらいの裸の金髪美少女が居た―――


「な、何これ! 人の姿になってる!」

「実体ではないけど、思念体としていま顕現しているんだ。俺のイメージで、どこまで制限が解除されたか分からないけど、俺と同じ五感を与えたから、食事もできるようになったはずだよ。そのままだとまずいので、この服を着ようか?」


「ねぇ……私はどうなっちゃったの?」

「俺のイメージでは、このダンジョン外にも出られるようにしたつもりだけど、検証してみないことには判らない。お前はこのダンジョンの魔核に強く紐付けられているから、完全開放はできないけど、ある程度自由にはなったんじゃないかな?」


「でも……もし私に挑みに来た冒険者や探索者が来た時、私が居なかったら困るでしょ?」

「誰か来たその時だけここに戻ればいいんじゃないか? 挑戦者はそれほど多くないんだろ? 思念体化を解除すれば、ここに勝手に戻っちゃうようイメージしておいたから、大丈夫じゃないか?」


「私、このダンジョンの外に出ても良いの?」

「検証してないから、ここから出られるとはまだ判断できない。試しにとりあえずこの部屋から出られるか試してみるか? 出られたら一緒に食事をしよう」


 フルーツドラゴンは、恐る恐る俺の服の裾を摘まみながら一緒に部屋の外に出てきた。


「出られた! 出られたよ!」


「リューク様? そ、その娘は? いったいどこから連れてこられたのです?」


 ルルの奴、金髪美少女に対しめっちゃ警戒し、不機嫌になった。

 ルルに近付いて、そっと耳打ちした―――



「ルル、この娘……例のフルーツドラゴンだよ……」

「ええ~~~!? でも、この娘……頭の上にドラゴンフルーツが乗ってないですよ?」


「いや、そんなものがあったら変でしょ!」


「こんにちは、ね、ね、私も一緒に食べていい?」


 子供たちに話しかけて、中に混ざっていった。カリーナたちは俺の方を見たので頷いてやったら、食事を勧めていた。それドラゴン肉だけど良いの? 自分の肉だよ?


『……彼女? の肉とは違います。あくまで神の用意した褒賞としてのドロップ品です』

『そっか、じゃあ問題ないね。部屋からは出れたけど、ダンジョンから出られるかな?』


『……どうでしょう……ナビーも思念体を頂きましたが、【インベントリ】内からはまだ魔力不足で出られませんよね? 彼女もその可能性は高いのではないでしょうか?』


『あ~ね……そうだったら当分諦めてもらうよ』


 フルーツドラゴンの奴、子供たちとめっちゃ楽しそうにしている。


「あのリューク様、彼女のことを何て呼べばよろしいのでしょうか?」

「ああ、確かに……彼女のことを皆の前で『フルーツドラゴン』って呼べないよね……」


 ルルとコソコソ話をしていたら、その会話が聞こえたようで、俺にこう言ってきた―――


「勇者様が名づけて」


「う~~~~ん、そうだな……『フルーラ』! どう?」

「リューク様、まんま付けたような名ですが可愛いです」


 ルルにはOKをもらえた。


「フルーラ! フルーラね♪」


 フルーツドラゴンも気に入ってくれたようだ。


 ランティスさんたちは急に表れた金髪美少女に興味津々だったが、俺が近寄せなかった。

 変な質問で身バレする可能性もあったためだ……フルーラの知能がどれほどかも知らないから、下手に関わらせない方が良いのだ。つい大きな声で俺のことを勇者様とか言われた日にはたまったものじゃない。


『……マスター、もしフルーラがダンジョンの外に出られた場合、どうなされるおつもりですか?』

『あ……』


『……やはり何も考えていなかったのですね……。もうなかったことにはできませんよ? 一度与えた飴を取り上げるようなことはなさらないでくださいね』


 何も考えていなかった……もし俺に付いてくるといった場合、フルーラの身の置き場が必要になってくる。

 俺は学園の寮住まいなので、面倒を見ることができないのに……考えが足りていなかった。


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 お読みくださりありがとうございます。


 前回の意味ありげなルルの会話の布石回収をさっさとしちゃいましたw

 フルーラの扱いはまだ未定です。



 皆さまのおかげで2巻の発売が確定いたしました。2巻発売日は5月17日となっています。

 このWEB版とはもう別物になっていますので、違う作品として読んで頂けるのではないでしょうか?

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