3-50 パイル伯爵に事情説明する事にしました
伯爵は各自部屋に案内した後、夕飯をどうするか尋ねてきた。
食事が遅くなると後片付けとかがあるので使用人も嫌がるだろうが、兄を待たせることになるので俺は先に面倒事を済ませることにした。
「パイル伯爵、食事の前に1時間ほど時間がほしいのですが良いですか?」
「ああ、なんだい?」
「先日、王城に行った際に国王様から学園卒業後のことを聞かれましてね。俺は冒険者になりたいと言ったら、凄く顔をしかめられて嫌がられたのです」
「冒険者ですか……貴族の三男以降は学園卒業後になる者も多いでしょうが、公爵家は王族だ。悪意に満ちた奴に誘拐されたり、甘い言葉で騙したり取り入ろうとして来る輩が後を絶たないだろうね。そりゃ、嫌な顔しただろう」
少し残念そうな顔で俺を見ている。
公爵家のバカ次男というイメージが、伯爵の中ですっかり定着したようだ。
「代案で領地開墾をしろと、伯父様から勧められました。先日、たまたまプリシラを救出したのでそのお礼に資金は王家で負担してくれるそうなのですよ」
「ほう、冒険者になってあちこちで迷惑かけられるより、土地を与えて爵位で土地に縛る気ですな」
俺が意図してバカ次男を演出したのだけど、今の言い方はちょっとカチンときた。
自分で馬鹿を演出したのに、いざ言われるとちょっと腹立たしいものだ。
「なんで、冒険者になる前から俺が迷惑かける前提で話しているのですか?」
まぁ、実際予約なしで前日に訪問しますとか、バカ丸出しなのでしょうがないか。
財政難で苦しい所に、王女と聖女だ。下手な接待はできないので、それなりにお金も使っただろう。伯爵の機嫌が悪いのは仕方ない。
「あはは、済まない。もっとリューク君が世間を知れば、冒険者は甘くないと分かると思うよ」
サリエと2人でオークのコロニーを3つも壊滅してるの知らないんだね。知っていたらそんなこと言わなかったと思う。
「そうですか。で、今回の急な訪問の理由に、ローレル姉妹から自領が現在開拓中だとお聞きして、優秀な設計技師に依頼して将来街に発展させるのを見越して設計されていると聞いたのです。なので、参考にその設計技師たちに話を聞きたいかなと思いまして……」
「成程……そういう理由が一応あったのか。了解した。では明日、設計主任に屋敷に来てもらうことにする。それで良いかな?」
普通はそうなるよな……時間的に、もう少しすれば食事時だ。もう食べてる家庭も中にはあるだろう。
「いえ、迷惑なのは承知で今お呼びください。設計主任は勿論、各部門のリーダー全員です」
「それは幾らなんでも急だし、横暴だ。彼らにも家庭があるのだから、夕食前の時間に呼び出すのならそれなりの理由が要るのだよ。そんな馬鹿なことは俺にはできないので、明日まで待ってくれるかな?」
俺は馬鹿なことはできないとか、言い換えればお前は馬鹿だと言ってるようなものだ。もはやバカを諭すような口調になってきた……。
俺のバカっぷりにも、なるだけ感情を抑えて顔に出さないようにしているし、伯爵にはちゃんと事前説明しておくかな、下手に説明なしで食い下がっても時間を食うだけだ。
「パイル伯爵、人払いをしてください。実は、そこのプリシラと俺は婚約しましてね、ちょっと内容はまだ未公開なので、騎士たちを下げてもらえますか」
「さっきの設計師の呼び出しと話が繋がらないのだが……」
いきなり話が飛んで婚約話を始めたものだから、俺の頭の方を心配し始めたようだ。
「ルル……なんか面倒になってきた、手っ取り早く頼む」
「うふふ、了解です。ローレル伯爵、少し事情がありますの。人払いを」
「分かりました。皆下がってくれ……」
部屋に【音波遮断】を張って声が漏れないようにした。
「パイル伯爵、申し訳ない。実は今回の訪問は、設計主任のノーチルの詰問、及びローレル家を貶めようと企てたダルタス子爵の捕縛が本命なのです」
「ノーチルの詰問? アジルがうちを貶める?」
「アジル・E・ダルタスは、ここの開拓案が出た時、自領のすぐ横という理由でうちの父からここの開拓を自分が任されるものだと勝手に思い込んだようなのです。思い込みで勝手にすぐ動けるようにと色々準備をしていたようなのだけど、実際はパイル殿が任命されてしまった。準備資金もそれなりに使っていたし、なにより伯爵位が欲しかったようで、あなたに強い嫉妬と妬みを持ったようです。そこで、奴はあなたから全てを奪う計画を立てた。設計の計画主任を買収し、それをあなたに紹介する。奴は最初の設計段階で、水害の起こる土地に農地を作らせたのですよ」
「なっ!? 君はなぜそのようなことを知っているんだ? それが事実なら、今やってる治水工事も罠だということになるじゃないか!」
「勿論罠ですよ。下手したらもうすぐくる今季の雨季でまた氾濫してローレル家は破綻して没落します。まぁ、それが狙いみたいですけどね。ダルタス子爵は、破綻後のこの土地の引き継ぎ、及び美しい奥方とローレル姉妹、妹のメリルちゃんの体も目的に入っています。没落した借金の返済に娼館に売られるのは可哀想だと言って、全員自分の家の嫁にする話を持ちかける気です。奥方は自分の妾に、姉妹は自分の息子たちに、メリルちゃんは未定だけど、同じように将来身内の嫁か妾にする気でしょう」
ワナワナと伯爵は震えだして、完全にブチ切れ状態だ。
「お父様、リューク様は使徒様なのです。このお話は女神アリア様による神託だそうです。全て事実なのです。今回班員にして下さったばかりか、私たちを心配してくれて、雨季に入る前にわざわざこんな所まで来てくださったのですよ」
「可愛いうちの班員が、エロ子爵に甚振られるのは許せないからね。パイル伯爵、そういう訳なのでさっさと終わらせちゃいます。現在うちの兄がダルタス領内で捕縛の為待機中です。あまり長く兄を待たせたくないので、設計主任のノーチルと以下の5名を今すぐ呼び出してください。あなたは決して今のように顔に出さないでくださいね。図面や開墾計画書を処分されてしまったら、立証が面倒になります。今日中に終わらせて、明日明後日で治水工事を終わらせたいので、呼出し後は全て俺に任せてください」
伯爵は気を少し落ち着かせてから、設計主任のノーチルにコールをした。
『ノーチル、済まないが今から俺の屋敷に至急来てくれないか? 例の公爵家の二男がすぐにお前を呼んでほしいそうなんだよ』
『私をですか? またどういう理由なんでしょう?』
『あ、次男坊が来た……直接聞いてくれ』
うん、計画通り。伯爵もなかなか良い演技だ。
『君が設計主任かい? 食事前に悪いのだけど、今すぐ来てくれるかな?』
『あの……私にどういうご用件でしょうか?』
急な呼び出しに警戒しているな。後ろめたいことがなければここまで緊張した声にはならないだろう、少し声が震えている。
『俺ね、近々開拓領地を伯父である国王に貰えることになってね。近い将来開墾することになったんだよね。その話をさっきしたら、パイル伯爵が君を推薦するので、是非話が聞きたくてね。早くしないとゼヨ伯父様が他の設計技師に話を持ってっちゃうからできるだけ早く話しをしたいんだ。なのでここの領地の計画書と設計図、構想図なんか全部持って今から来てくれるかい。王家がお金を出すので、かなり大きな計画になるのだけど、伯爵が君なら大丈夫だというんだ。最初から都にする規模の計画書を立ててもらうことになるけど君はできる?』
『都規模の開拓ですか!? はい、勿論できます! 今すぐお屋敷にお伺いさせて頂きます!』
『あ、ちゃんとここの領地に係わった構想図や計画書なんかを全て持ってきて、俺に説明ができるように準備してきてね。それと、各現場のリーダーたちの声も聞きたいので一緒に来てもらえるかな? ゼヨ伯父様はすぐにでも動いちゃう人だから、急がないと他に話をもってっちゃうので悪いけど今すぐお願いね』
『はい! 関係者を全て同行させて、どのような質問にもお答えできるようにしてすぐにお伺いします』
都レベルの開拓となると莫大なお金が動く。当然その構成図案を設計した者には、莫大な謝礼と都が栄える間は名誉と名声が得られる。
俺の計画通りすぐに来るそうだ。
「リューク君……公爵家のバカ次男を演じていたんだね。何だい今の完璧な設定……あれじゃ彼もコロッと騙されるよ」
「まんざら嘘な設定でもないんですよ。この夏休みに、開墾するのは本当なんです」
「そうなのか? じゃあ、行く行くは領地を得て、侯爵か伯爵にはなるんだろうね」
どうしようかな、まぁ彼なら言っちゃってもいいか。どうせ、姉妹が班員に居るんだ、うちの子家だし、早いか遅いかの微々たる違いだろう。
「まだ発表はしてないですが、只の領地開墾じゃなくて建国の為の開拓です。塩を手に入れたいので、例のドワーフ国が敗走した土地を俺が頂くことにしました。伯父様に良いようにされるのは嫌なので、この国の属国ではなく独立国として建国します」
「はぁ!? あの銀竜の地か?」
どうやら、また俺の株が下がったようだ。半信半疑で、子供の夢物語として捉えたようだ。
「パイル伯爵、あなたのいけないところですね。今、現実的じゃないからと思って俺を見下したでしょ。お忘れですか? 俺は使徒なんですよ。銀竜とか相手にもなりません。建国後も塩の流出を防ぐために沿岸国が共闘で戦争を仕掛けてくるでしょうが、それも問題なく蹴散らす火力が俺にはあるのです。考えても見てください。あの慎重な国王が、なんの勝算もなく動くと思いますか?」
「いや、賢王と称賛される御方だ。エルフやドワーフ国が動いた際も、自国は無理だと判断されてここ何代かの王は動いていない。あの、一際慎重なゼヨ国王様が動かれるのか……」
「だって、女神アリアがバックにいますからね。伯父様も直接顕現されて目の前で神託されたら、ハイって言うしかないですよ」
「え? その建国はアリア様の神託なのかい?」
「ええ、そうなりますね。その際、建国後に他国の牽制になるからとプリシラと婚約させられちゃいましたけどね」
「リュークお兄様、酷い言い方です! そんな嫌々させられたみたいな言い方しないでください!」
「あ、私も婚約しましたのよ!」
「ルル! お前とはしてないだろ! 勝手に婚約するな!」
「嫌です! 勇者様と聖女はセットなのですよ! 諦めて結婚してください!」
「お前無茶苦茶だな……ナナも酷いけど、お前が一番ヤバいぞ」
「聖女様に王女様まで……どうやら君を誤解していたようだ。これまでの見下した言いようを謝罪する。どうか、我が家を助けてほしい。俺を信じて付いて来てくれた子爵領時分からの者たちの生活も掛かっている。悔しいが俺には奴らの計画を見抜けなかった……」
「仕方がないですよ……相手は犯罪履歴のない、元は真面目な今回が初犯の者ばかりですからね。でも騙されてしまったのは事実です。女神の神託がなければ俺も気づかず、近い将来没落していたでしょう」
アリアにコロッと騙された俺が何言ってんの? ってな感じだが、一応忠告はしておく。
事情を説明し終わる頃に開拓に係わっている、関係者のリーダがすべて集まった。
プリシラを使ってサクッと終えますかね。
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