3-48 聖女様と王女様がゴリ押し入学するそうです

 アリアが余計なことをしたせいで色々面倒な事態になっている。


 神殿前で聖女様がワンワンと大粒の涙を流して大泣きしているのだ。当然信者たちは何事かと集まって来て、人だかりができてしまう。


「ルル様、俺の言い方が悪かった……ちゃんと話そうか」


 さっきの控室に連れて行き、人払いをしてもらう。

 この部屋の中には、俺・フィリア・プリシラ・聖女ルルの4人だけにしてもらった。



「ルル様、さっきも言った通り俺は使徒とかに全く興味がない。女神アリアに騙されてしまっただけの普通の学生です」


『……マスター、普通といい張るのは無理があります……さっきの常識外れの範囲回復を見せられた後で普通と言ってもね……もっとマシな言い訳でもしないとルルは納得しないですよ?』


『どうしろって言うんだよ……』



「リュークお兄様、使徒云々はともかくとして、ルル様をリュークお兄様のお国にお連れするのは良いことではないでしょうか?」


「プリシラ、そう簡単な話でもないんだよ……ルル様は、聖女になった者は使徒として活躍した勇者と必然的に結婚できると思い込んでいるんだよ。物語の中と現実をどうもリアルに混ぜちゃった思考をしているみたいなんだ……」


「まさか? そんなお花畑な考えを聖女様がする訳がないではないですか? えっ? えええ~~~!?」


 どうやら、プリシラはルルの内心を査問官としての資質で読み解いたようだ。


「聖女様!? 幾らなんでも、現実はそんなに甘くないですよ? 過去の勇者たちも、苦楽を共にしてその中で恋に落ちていったのです。中には勇者様ではなく、旅を共にした魔法使いや騎士の方に恋して勇者様は悲恋に終わった方もいると聞きます」


「ですが! 私の代には使徒様がいらっしゃるのです! もう私は一目惚れです! チャンスすら与えられずに捨て置かれるのは納得いきません! せめて旅に同行させてください!」


「はぁ……もう敬称は止めるね。ルル、そもそも俺は旅とかに出ない。只の魔法科に通う学園生なんだよ。ちょっと建国する羽目になっちゃったけど、それも別に人の為とかではなくて、自分の我が儘を通すために行うんだ。使徒でも勇者でもないんだ」


「でも、ドラゴン退治に向かわれるのですよね? 私は、いついかなる事態が起きても良いようにと、毎日必死で修行して参りました。どのような形でも構いません! 使徒様のお側に置いてください! フィリアさんもなにか言って私を助けてください!」


「ルル様……わたくしもルル様が一生懸命頑張っているお姿を見て知っていますが……リューク様はわたくしのフィアンセなのです。そうやすやすと恋敵を増やす気にはなれません」


「ルル様、わたくしも先日リュークお兄様と婚約していますのよ。聖女というだけで、結婚したいとか了承できません」


「プリシラ、お前が言っても何の説得力もないな……お前の理論で言うなら、王女というだけで俺と結婚できないよな。大事なのは双方の気持ちだ。一方通行では結婚できない」


「リュークお兄様! まだそのようなことを! わたくしとの婚姻はお諦めになって下さいまし! 王家と公爵家の義務と思ってもらっても結構です! わたくしとの結婚は公務と思ってもらっても今は構いません! 一生懸命尽くして、必ずお兄様を惚れさせて見せます!」


 諦めろとか、あの父を持つ王女らしい言い方だな。


「リューク様、この御二方どうなさるのですか?」

「フィリア的にはどう思ってる? 俺は家格とかどうでも良い。お前とサリエさえいればいいと思っている。ナナはちょっと実の兄妹でとかすぐに受け入れられないだろうけど。可愛い妹に死なれても困るし、それこそ諦めた……」


「プリシラ殿下とルル様には全く興味がないのですか?」


 面倒な質問だ……少なくともプリシラと聖女に嘘は言っても通らない。


「正直プリシラのことは、ちょっと可愛い妹的に感じ始めている。可愛い娘に懐かれて、嫌だと思う方がおかしいからな……ルルに関しては、見た目は凄く可愛いと思う。プリシラより正直見た目は好みだ。でも、だからといって碌に話したこともない女の子をどうこうしようとは思えない」



「はぁ……わたくしでは手に負えそうにないです。プリシラ殿下、あなたのことは婚約者一同で認める話になっています。失礼を承知で言いますと、大国の姫という肩書があるからです。ルル様も同じ流れで認めるしかないようです。ルル様が本気でリューク様を好きになったのなら、将来的に婚約を認めるしかないです。だって聖女という存在は、神がお認めになるほどの御方なのです。わたくしのような、民から慕われて言われているだけのニセ聖女とは訳が違います。本当ならわたくしは身を引いて、御二方にリューク様を譲らなければいけないのでしょうけど、そんなことをするくらいなら死んだ方がマシです。わたくしにリューク様を譲る気はありません」


 フィリアは結局何が言いたいのだ?

 なんかいつものフィリアらしくない……。


「フィリアさん? それって、私も仲間に入れてくれるってことですか?」

「わたくしにどうこう指図する権利はありませんが、ルル様の気持ちがどこまで本気か、もう少し様子見させてくださいませんか? リューク様、それまでルル様の同行を許可してください」


「許可とか言っても、俺はどこにも行かないぞ? どうしろっていうんだ? 国が出来た時に神殿の巫女として来てくれるなら大歓迎だけどね」


 ルルは少し考えた後、何やらお祈りを始めた。

 何してるのかなと思ってたら、急に笑顔になってあちこちにコールし始めた。


『……マスター、ルルはアリア様にお祈りをして、入れ知恵して頂いたようです。しかも、アリア様自らなにやら神託を各方面に送る気のようですね』


『おい! アリア! 何する気だ! ちょっと先に俺に言え! どうせ覗いてるんだろ?』

『リュークさん、え~とですね……先ほどルルにお願いされてしましまして、それを神々で神議致した結果、ルルのこれまでの頑張りを考慮して、全員一致でルルのお願いを聞き届けることにしたのです』


『ルルは何をお願いしたんだ?』

『リュークさんのクラスへの特別入学です……プリシラも一緒に入学させてほしいとの願いだったので、2人が途中入学できるように各関係者のトップに神託を下すところです』


『ちょっと待て! 学年がそもそも違うだろうが! 2人の入学は来年だろ! 神がそれを無理やり歪めて関与する気か!?』


『特例は過去にも3例ほどあるのです。17年前の天才発明家の少女を10歳で入学させたのを皮切りに、16歳の入学が絶対という訳ではないのです』


 だが、神の権威を使うのはどうかと思う。

 ルルはともかくプリシラは納得できない。


『もちろんルルもプリシラも厳しい途中入学の入学試験は受けてもらいますよ。でも2人とも問題ないでしょう。王族の教育と神殿での聖女教育を受けているのです。そもそも既に入学する必要のないほどの知識をルルは備えています。リュークさんに認めてもらいたい一心でこのような策をおねだりしたのでしょうね』


『お前が余計なことを言うからややこしくなるんだろうが! 人のことを勝手に使徒扱いしやがって!』

『ごめんなさい。でも女神は嘘は言えないのです。ルルに尋ねられたので正直に言っただけです』


 まったく悪びれた風でもない。何が嘘は付けないだ! この詐欺師が!




「使徒様! 私も月曜から学園の魔法科に通えることになりました!」


 ルルの奴、凄く嬉しそうだ……見た目はフィリア並みに可愛いんだよな。そんな娘が犬のようにはしゃいでいるのを見たらダメとは言いにくい。


「プリシラ、どうやら君も学園に月曜から通えるようになりそうだ」

「え? リュークお兄様、わたくしが学園にですか?」


「ルルが、女神アリアにそうお願いしたみたいだ。ルルが日頃真面目に修行や勉強をして過ごしていたから、神々がそれを認めたんだってさ……ルルがついでなのか知らないけど、君の入学も一緒にと頼んだようだ」


「ルル様! わたくしの事までありがとうございます!」

「ええ、でも私の応援もしてくださいね。それにしても流石使徒様です。もう神託がなされてご存じなのですね。聖女に任命されているわたしでも神託など数えるほどしかないのに。そうだ、プリシラ殿下、このあと学園で入学試験を受けなければなりませんが大丈夫ですか?」


「プリシラどうする? この後、お前の観光の予定だったけど……」

「入学の方が大事ですので、学園に向かいましょう。お父様にも報告しなければなりませんし、少し忙しくなりそうです」


 観光どころじゃないか……プリシラもなんか嬉しそうだな。



 この後2人は直ぐに行動をおこし、大司教様やゼヨ伯父様とも話をきっちりつけたようだ。


 ゼヨ伯父様からすぐに俺にコールがきた。


『リューク済まないな……なにやらプリシラが我が儘を言って迷惑かけたようだ。治った目をすぐにでも見に行きたいのだが、忙しいので来るなと言われてしまった……重ねて言うが、治してくれてありがとう』


『目のことは御気になさらずとも良いですよ。所詮身内のことですしね。後、学園の件はプリシラではなくて、聖女ルル様の我が儘です。プリシラはルルについでに誘ってもらったようですね。どうも許嫁たちの中に1人で割り込むのがちょっと怖かったのか、プリシラに協力要請したみたいです』


『成程……ということは、まさか王都から聖女ルル様をお前の国に連れて行く気でいるのか?』

『僕はその気はないのですが、ルルはその気のようです……どうも、伝記や物語をリアルと重ねてる節があるようでして、聖女は勇者とともに行動して、行く行くは結婚できると思い込んでいるようなのです。だから夏休みにドラゴン退治をするとアリアが教えてしまったようで、何が何でも同行するとこのような奇策に走ったようです』


『聖女はその為に辛い修行を日々しているのだからな。俺もルル嬢のことは諦めるしかないのかな……国に1人は必ず聖女様は現れるので、ルル嬢が国を出た後必ず次の誰かに神託が下るはずだ。ルル嬢が行かなければ、お前の国の聖女は本当にフィリアが成っていたかもしれないな』


『それはあり得ますね。でも2人を入学させて良かったのですか?』

『ああ、それは問題ない。学園長もすんなり認めたみたいだ。何せアリア様自ら神託を下したのだからな。断る訳にもいくまい。世間知らずなので迷惑をかけるやもしれぬが、プリシラのことは頼むぞ』


『プリシラも何やら凄く嬉しそうにしているので、今更俺の方からダメとか言えない雰囲気ですしね』

『だよな、目のことで活動範囲も狭く、ふさぎ込みがちだったあの子がとても嬉しそうに連絡してきたよ。本当にお前には感謝している。年齢で言えば1つしか変わらないのだから、学友の一人でもできれば良いのだがな……』



 伯父様と建国の件などの情報交換もついでに行った。2人の入学の件もどうやら正式に受理されるようだ。



 俺は二人の試験の間、フィリアと王都でデートすることにした。



 二人とも試験を難なくクリアしたようで、その日の夕刻には、神殿と王家から荷物を大量に乗せた馬車が女子寮に横付けされた。ナナの居た女子寮の最上階に二名の新規入寮だ。

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