3-49 ローレル姉妹の実家訪問です

 荷物を運び終えた後、2人はエルフの王女に挨拶しに行ったようだ。ミルファ王女は、2人からすれば年齢は2つ上になる。国を代表するような2人なだけに挨拶は大事だよね。


 エルフ族は人口は少ないが、長寿故に高い知識と技術を有し、魔法制御も普通の人間より遥かに優れている。しかも殆どが容姿端麗で、その人の最も良い状態の肉体年齢を数百年維持するという特性もあって皆若々しい。当然人族の間でもエルフ様と敬称を付けて呼ぶような、エルフ崇拝的な者が沢山出てくる。俺の新たな母さんのロッテ先生もエルフ崇拝者だ。


 風の精霊の子孫と信じて、人族を超越した神に最も近しい存在としてエルフたちを敬っているのだ。


 ナビーが言うには、本当はどうも精霊の血は一切入ってないらしいのだが、俺にはその辺の事情はどうでもいい。俺にとって大事なのはエルフ耳と美しさだ。実際エルフは凄く美しい。ハーフですらとんでもなく美しいのだ。



 2人がエルフの王女に挨拶に行ってる間に、俺とフィリアで日中に起こった出来事を皆に大まかに説明した。話を聞いたナナが当然のようにしかめっ面をしている。サリエは、前髪が邪魔で表情がうかがえない……。



「兄様……プリシラ殿下以外にまた女を増やしたのですか?」

「ナナ、仮にも聖女様だぞ。ここに居ないからと言って、横暴な口のきき方をして良い相手じゃない」


「ナナは、聖女様に対して怒っているのではありません! たった数時間出かけただけで、嫁候補を連れてきた兄様に憤りを感じているのです! 聖女様を娶られるとか、他人事であれば大変素晴らしいことで、大いにおめでたい話として聞いていたでしょうけど……素直に喜べません! フィリアもそうでしょ?」


「ええ、でもプリシラ殿下以上に、建国が叶った際に他国への牽制になるでしょうね……はぁ~」

「ああ~、確かに……聖女様を娶られるということは、神の加護を得たと同義でしたね。他国は慎重になるしかないですもの。悪名高い銀竜を倒すほどの勇者がいると考えるのが妥当ですからね。勇者様相手に喧嘩を売る国などそうはないですよね……」


「はぁ~……なんかもう諦めるしかないかなって。仕方ないので、ルル様のお気持ちがどこまで本気なのか見るために少し時間を頂こうとしたのですが、ルル様がアリア様にお祈りしたかと思ったら、あれよあれよと入学手続きまで済ませちゃって……やはり聖女様って、私のような普通の女の子と違い、凄いお方なんだと実感させられちゃいました」


「サリエはどう思ってるの? 兄様にまた婚約者が増えそうだけど、その辺どうなの?」

「ん、私的には文句はない。聖女様なら神が称号を与えたほどの御方。リューク様にとって悪いはずがない」


「「ん~、それはそうだけど……」」



「俺をおいて嫁談義しないでくれないか……それとチェシル、今晩の訪問に聖女も同行したいそうなので、急で済まないがご両親にそのように伝えてほしい。後1時間後に到着することも含めて伝えてほしい」


「「聖女様も来られるのですか!? それに1時間!?」」

「ああ、転移魔法を使うのであっという間だ。1時間後にしたのは、先触れも兼ねて最終確認の時間もほしいだろうと思ってのことだ」


 ローレル家にはちょっと迷惑と思われているだろうが、今は我が儘な公爵家の二男坊と敵に思わせたいのでこれで良い。


「あの、リューク様? プリシラ王女様だけではなく、聖女様も御行きになるのですか?」


 クククッ、マームの奴なんて面白い顔をしているのだ! やっぱこの娘メンバーに誘って良かった!


「マームなんて顔してるんだ? 面白すぎるぞ」

「だって、リューク様だけでも胃がキリキリするのに、王女様に聖女様もですよ! 私、緊張で倒れそうです!」


「そうか、だが安心しろ。俺の班は、俺にサリエ、フィリアに加えて天下の聖女様が加わったんだ。回復魔法は万全だ、倒れても全然大丈夫だから、安心してぶっ倒れてくれ」


「もう! 冗談じゃないのですよ!? 何笑ってるんですか~」


「あはは、悪い悪い。でも、あまり気にしなくていいよ。マームのことは俺が責任を持って面倒見るから。今回の同行も、現地で魔法訓練とレべリングも兼ねているんだよ。だからキリクも今回同行してレベリングね」


「私はどこにでもお供します! お誘いくださって感謝します! 聖女様と王女様と同行できるなんて夢のようです」


 プリシラもルルも、キリクのような子爵家ぐらいの家格じゃ目にすることはあっても、声を掛けることのできない存在だ。親に自慢できると凄い喜びようなのだ。それに先日あげた剣を早速帯剣してきている。キリクのこういうところは好ましい。




 ほどなくして、2人が挨拶から帰ってきた。


「あのマルレーネ森国の王女様、なかなかお美しい色をお持ちでしたわ」 

「プリシラの目で見てきたのか?」


「ええ、美しいライトグリーンのオーラを纏っておいででした。エルフの方に多い色ですね。サリエに負けないほどの良い色合いです」


 へ~、そうなんだ。でも、俺はあの王女がサリエを無視したのを忘れられない。侍女たちのように小馬鹿にしたような嫌な感じはなかったが、良い印象は持っていない。




「リューク様、お父様から準備は整ったと連絡が来ました。改めて我が家のこと、宜しくお願いいたします」


 ローレル姉妹が深々と頭を下げて懇願してきた。


「はなからそのつもりだよ。今回はプリシラが同行してくれているのだし、難なく事は片付くと思う。俺たちは休日の土日を利用して、農地拡大と周辺の魔獣の間引きを行うのがメインの仕事になる。この際、将来的に街を想定して城壁なんかも造ってやるつもりでいる。俺的にはそれほど深刻な案件ではないので、2人は単に里帰り気分で事が終えるのを傍観してればいいよ。変に気負いすぎたりして、敵に勘付かれないようにね。いきなり設計主任の奴に強烈な殺気を放ったり、睨んだりしちゃダメだよ。証拠品になる村の構想図や設計図を処分されたりしたら、面倒だからね」


「「うっ……分かりました。なるべく目を合わせないようにします」」



 プリシラとルルが増えたので、簡単に自己紹介を皆で行い、注意事項を伝える。


「人数が多いのでレイドPTを組む。後、向こうではあくまで同じ班員の実家に遊びに来たという設定を忘れないように。設計技師1人の犯行じゃないだろうから、全員芋づる式に引き摺りだす。それまで知らん顔していてね」



 いくつか他にも注意して、兄さんに最終確認を行う。

 明日の早朝の捕縛予定だったが、兄様が騎乗用魔獣を使って速攻で向かってくれたおかげでもうすぐ到着するとの連絡があったので予定を早めている。


「兄様首尾はどうですか?」

「ああ、悪いが後1時間ほど時間をくれ。子爵領内に入ってから魔獣が思ったより多くて到着が予定時間より遅れている」


「無理なさらなくて結構ですので、安全最優先で向かってくださいね」

「その辺は大丈夫だ。誰もかすり傷1つ負ってないので心配ない」


 街道で魔獣が多いのは、子爵が定期的に討伐を行っていないということだ。領主の怠慢で怪我をするのは領民だ。街道を利用する商人や冒険者、旅芸人なんかが魔獣被害にあう。そうなるとその村や町に向かう者の数が減ってしまい、人口の増加も見込めなくなり、いずれは廃れた廃村の出来上がりだ。




 俺たちは部屋の中心に集まり、手を繋いで転移魔法を使って、先日マーキングしてきた地点に転移する。


「勇者様凄いです! このような大人数を一度に転移なさるなんて! 過去の勇者様の中でも桁違いの魔力量をお持ちなのですね!?」


 神殿で転移陣を管理しているので、ルルはそれなりの知識があるのだろう。

 おそらく通常の転移魔法と同じに思っているのだろうな。


「ルル、俺の転移魔法はオリジナルなんだ。なので、魔力量は普通の人よりは遥かに多いだろうけど、転移に使うMP消費量はそれほど多く使わないので、騒ぐようなことでもないんだ」


「リュークお兄様のオリジナル魔法なのですか!? むしろそっちの方が凄いことだと思います!」



 村の正門から入ったのだが、村人総出でのお出迎えだった……お出迎えというより、聖女と王女の御尊顔を是非拝みたいという者が殆どのようだ。


 確かにルルは可愛いからね……歴代の聖女様たちも美しいと評判の者ばかりだったそうだ。一目見たいという気持ちは分からないでもないが、流石に村人総出でのお出迎えはちょっと伯爵に気が咎めた。



「ようこそおいで下さいました! 何もない開拓途中の村でございますが、精いっぱい御持て成し致す所存でございます」


 ローレル家当主の挨拶に、代表でこちらで格の一番高いルルが応対する。


「突然の訪問申し訳ありません。わたくしとプリシラ王女も月曜から学園に通うことになりました。聞けば同じ班員のローレル姉妹の御実家に遊びに行くと聞いたもので、是非お供したいと無理を言って同行させていただきました。娘のクラスメートが遊びに来た程度の軽い気持ちで接して頂けると有難いです」


「そうですか、ならばそのように応対するよう努めましょう。リューク殿もお久しぶりでございます。娘たちを班員にお誘いくださったそうで感謝しております」


 ローレル伯爵はルルとプリシラに片膝ついて挨拶した後、俺に感謝の意を伝えてきた。家格では俺より上の伯爵当主なので、軽く頭を下げる程度に留めている。俺はあくまで公爵家の子息というだけで、現当主より格下にあたるのだ。伯爵は寄親であるフォレスト公爵家の子息ということで、俺にもそれ相応の態度で接してくれている。


 伯爵は中々の美形だが、気苦労が続いているせいもあってか、少しやつれ気味だ。

 伯爵の後方にいるのが彼女達のお母さんかな? 2人に似ていて凄い美人だ。



『……マスター、奴らです。今回の件に係わっている奴に★マークを付けてあげますので、全員上手く捕らえてくださいね』


『お、それは有り難い! 奴らか……領内に6人もいるの? しかも、実質治水工事に関わっている者ばかりとか、伯爵も人を見る目がないな』


『……状況的に仕方がないと思います。設計技師たちの身辺調査も事前にしっかり行っていましたが、全員これまで真面目に仕事をしてきた者ばかりですからね。例の子爵に最初は脅され、仕事を一時奪われてから大金を積まれ、金銭に負けて欲が出た者ばかりです。プリシラのような審議官でもなければ、あの者たちを見分けるのは困難だったかと思われます』



 さて、やつらをどうやって追い込もうかな……。

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