1-38 創主の爺さんに諭され、異世界で生きる事にしました

 創主様は、リューク君のその後をかいつまんで語ってくれた。

 アリアは俺が転移した時点で、リューク君にこういう話を持ちかけたのだそうだ。


「今、死んでしまったあなたの体で異世界体験をしている者がいます。その者が帰るまで、彼の体で彼の居た異世界で生活してみませんか?」


 リュークに持ちかけたのは4日間の俺の体を使った異世界体験。但し俺が時間を超過したら、その分延長されるというもの。延長されれば最初の4日以降はこちらの世界の時間を遅めるので時間差が発生し、リューク君は向こうで何年か過ごさないといけないことも説明されている。だが了承しないことには、リューク君はその時点で死が決定されてしまうのだ。


 契約と言うより脅迫だ。向こうでどのくらいの年数を過ごすか分からないが、俺がトリックを見破っていれば最短で4日だ。そして帰還するのは死亡して数日後の元の世界なのだ。


 当然リューク君は生き返ってフィリアや家族に再開できる可能性のある異世界行きを選択する。


 最初に女神に数十年の差異が出るはずと言われていたリューク君は、最悪向こうで人生を全うする覚悟で異世界に向かったそうだ。


 異世界に渡る際、彼がお約束的に1つ貰えるスキルに選んだのは【言語理解】。なんとも地味な支援系スキルをと思ったのだが、そもそも現代日本でリアルで魔法なんか使ったら大騒ぎになる。


 俺なら回復魔法とか選んで荒稼ぎを企みそうだが、リューク君は言語を選んだようだ。

 回復魔法で死亡確定の金持ちを治せば一生稼がなくてもいいくらい儲かると思うのだが……。


 リューク君は転移してすぐに叔父さんの会社を辞めて、退職金で小さな貿易商を始めたそうだ。

 メタボ体系が気に入らなかったようでダイエットも頑張ったようだ。


 10歳で皆の前でプロポーズするほどの大胆さと物怖じしない性格で、チート言語を使って世界中を飛び回って売り買いしたそうだ。物珍しいものを安く買って、違う国で高く売る。


 高度な文明に驚愕し、見る物全てが物珍しい異世界での世界探索はリューク君に合っていたようだ。


 75歳になった彼の会社は、現在年商1千億は稼いでいるとのことだ。


 その過程で知り合った異国の女性にリューク君は心を奪われたのだそうだ。国際結婚だね。

 転移して5年目のことらしい……俺の年齢では50歳のはずだ。相手は26歳の美しい女性だ。


 画像を見せてもらったのだが、50歳の俺は見事に痩せていて白髪交じりのダンディーなナイスミドルに変身していた。相手の女性はフィリアほどではないが、ブロンド美人のグラマラスちゃんだ。


 倍ほどの年齢差を気にすることもなく結婚。俺と同じく3割ほどの記憶があるリューク君は、記憶に引っ張られ、元からいる俺の娘をとても可愛がってくれたようだ。

 その娘も無事大学を卒業し、24歳で結婚し現在2子2孫の若いお婆ちゃんだそうだ。




 一通りの現状を聞いて、いくつか質問をする。


「今、俺が元の世界に帰ればどうなるんです?」


「74歳の体に転移され、向こうのリュークの活動してきた記憶が統合される。その後の寿命を全うすればよい。リュークは今の時間に戻れるのじゃが、本人はそれを望んではいない。せっかく儂がおるのじゃ、直接彼と話をさせてやろう。どうじゃ?」


 少し迷ったが、了承した。


 念話かと思っていたのだが、直接この部屋に歳を取った俺が転移されてきた。


「こんにちは龍馬さん、初めまして」

「てか、なんでその姿なんだよ。この精神世界じゃ一番良いときの姿になれるのじゃなかったのか?」


「敢えて僕がこの姿を望みました」

「75歳にしては随分若いな。50歳後半にしか見えないぞ?」


「あら? 僕の属性をお忘れですか?」

「ん? まさか!?」


「はい、水属性のヒーラーです。魔力循環が得意なので若々しくいられます。将来世界最高年齢保持者としてギネスにのるかもですね。あはははっ」


「あっちでも使えたのか……」

「はい。アリア様がせめてもの詫びだとスキルを残してくださいました。僕自体の存在は生き返ったと言っていいのですが、本質は転生ではなく龍馬さんの体への転移でしたからね。龍馬さんが習得していた技術は色々役に立ちましたよ。特にピアノは高級クラブには必ず置いてますからね。ブランド品で身を固め、【言語理解】で得た流暢な英語やフランス語で弾き語ってやればクラブの綺麗処が群がって来てモテまくりでしたよ。多少危険な地域でもこっそり魔法をぶっ放して返り討ちにしましたしね。多少の怪我なら【アクアヒール】で回復できますし」


 うわ~、リューク君あの歳からなのに随分はっちゃけてたんだね。

 あ~そうか! 肉体年齢45でも中身は15歳の少年だったね。そりゃ、やんちゃな筈だよ。


「あの、龍馬さん。お願いがあります。このまま僕をあの世界で生を全うさせてくれませんでしょうか? 無理を承知でお願いします!」


 俺に深々と頭を下げ真摯に懇願してきた。


 この創主の爺さん、念話じゃなくて直接リューク君をこっちに転移させて直に合わせたのはこういうことか……なかなかの策士だな。アリアとは違って真っ当な手段なので更に手強い相手だ。


 直接面と向かっては何事も断り辛いものだ。まして相手に負担を強いるのを分かっている事柄だ。


「リューク君、フィリアのことは良いのか? 君は若さと共に何事もなかったように元の世界に帰れるんだぞ?」 

「フィリアのことは随分悩みました。30年経った今でも好きです。でも今の家族はそれ以上の存在になっているのです。娘のいる龍馬さんなら分かりますよね?」


「その我が娘がいる世界に俺が戻りたいと言ったらどうする?」

「だからこうしてお願いしているのです。もうあなたが知っている娘はいません。今の彼女は僕の娘です。結婚して子を産んで、今はその子にも子ができて今は若いお婆ちゃんです。幸せに暮らしています。あなたの知らない僕の孫やひ孫なんです。どうか私から孫やひ孫を奪わないでください。お願いします」


「ひ孫までいるのか……じゃあ、フィリアは見捨てるんだな。俺がもらって抱くけどいいんだな?」

「うっ~、見捨てるのではないです。意地悪言わないで下さいよ。寝取られるのは悔しいですが、あなたに彼女を託します。幸せにしてあげてください。あなたの記憶を3割持っている僕は、あなたの性格は十分知っていますからね……」


 抱くとか言って煽ってみたが、はぁ~俺と器が違う。俺に託すってか? 記憶を共有しただけあって、俺の性格は誰よりも知っているのだ……本心で煽ったのではないとバレているようだ。


 もうすぐ75歳とか言ってたが、中身的には15年プラス30年で俺と同じ45歳か。同い年なのに随分精神年齢に差が付いてしまっている。世界中を飛び回り、日本で大分揉まれたんだろうな。


 俺はいつまで経ってもガキのまんまだ。


 フィリアとの思い出はリュークにとっては10歳から15歳までの5年間、今の家族は25年だ、比べるまでもないよな。娘にしても俺は20歳まで育てたが、彼は30年の付き合いだ。年数の問題ではないのだが、そう簡単に引き離していい訳がない。




「創主様、リュークが向こうで寿命をまっとうしたら、彼はどうなります?」

「輪廻転生という言葉が近いのかの、あれに似た魂の待機期間に入る」


「俺はどうなります?」

「帰る肉体が消滅するのだ。リュークとしてこちらで生をまっとうするしかなくなるじゃろうて」


「実はなリューク君、ナナとフィリアに1時間で見破られて、ちょっと困ったことになっている。それがあるので、あまりこの世界は居心地が良くないんだよね。ナナの足と、セシア母様の病気や不妊のことは俺の創ったオリジナルスキルで解決したんだけどね……」


 俺はリューク君に相談してみた。


「セシア母様やナナの足、治してくれたのですか! ありがとうございます! あなたの娘も最初『あれ? お父さん仕事辞めてなんか変わった?』とか言っていましたよ。でもほら、非科学的なことを嫌うあなたの娘だけあって、別人と入れ替わってるとかありえないことは念頭からすぐ消し去って、すぐ馴染んでくれましたよ。フィリアたちも1、2カ月もあれば違和感も消えるはずです。だって記憶というものはその性格を形作ってきた事象の記録ですからね。僕の記憶と融合した龍馬さんは、もうリューク・フォレストでもあるのです」


「フィリアたちが気に入らないのでしたら、リュークのように世界に旅に出ればよいのです! あなたの好きなケモミミっ娘の居る国に行ってみましょう!」


「アリアお前全然反省してないな! リューク君の記憶がある俺がそう簡単にフィリアたちを見捨てられるわけないだろうが! ただ世界に早く放り出して何かさせたいんだろう! この駄女神が!」


 【魔糸】と【魔枷】で速攻で拘束し、服の上からだがお尻ペンペンする。


「イタッ! ごめんなさい! 学園の3年間が勿体ないかな~ってイタッ! ごめんなさい! 反省してます! もうお尻ぶたないで~!」


「ヒャハハッハ、ゲホゲホッ……ガハァッ!」

「龍馬さん何しているのですか! その方は女神アリア様ですよ! 創主様大丈夫ですか!」


 この世界の住人だったリューク君からすれば女神は実在して、加護や祝福を与えてくれるとても崇高な存在なのだ。その主神のお尻を鞭打ちしてる俺に度肝を抜いたようだ。創主の爺さんは笑い過ぎてむせ込んだだけだ。


「ふぅ~死ぬかと思った。龍馬よあまり笑わせるでない、危うく笑天するかと思ったわ」


 ダジャレのつもりか? 実体のないエネルギー精神体とか言ってたくせに、死ぬわけがないでしょ。


「創主様、このまま俺が死を望んだ場合はどうなりますか?」

「どうもならんぞ。リュークはお前の体で龍馬として寿命を全うし、其方はリュークとして生を終えるだけじゃ、ここにくる時のままの状態、つまりベッドで眠ったまま死亡じゃの、原因不明の急死ということになるな。サリエは少し責を取らされるかもしれぬがな……ひょっとしたら逃げられていた暗殺者に毒殺されたことになるかもしれぬのぅ」


「何でサリエが? 知らない間に勝手に死んでただけでしょうに」

「何のための控えの侍女だって話じゃ。早く気付けば回復者がいる世界なのだ、なんで死亡するまで気付かなかったと責められるのは理不尽だが当然じゃろう。まして、此度は主のお前が入浴してないのに、侍女のサリエが先に風呂に入ってる間に亡くなってたとかいう、サリエにとっては不運としか言いようのない状況じゃの」


「はぁ~戻るのもダメ、死ぬのもダメ。俺は、リュークとしてアリアに何かやらされるしかないのかな?」


「龍馬よ、何度も言うが何もしなくてもよい。流石に元の時間に戻してなかったことにはできぬのでこのままじゃが、これ以上其方らに負担を掛けたくはないからのぅ。リュークもアリアのせいで心身的に苦労をかけた。もういつ戻されるか怯えて生活しなくてよいからの」


「勿体ないお言葉です。創主様ありがとうございます」

「龍馬も変に思い悩まず、気ままにやればよい。もともと異世界生活は其方も望んでたことだろう? 機会があれば行ってみたいと思っておっただろう? 元々そういう属性持ちの奴が勇者として選ばれるのだからな。かなりの神力を使って召喚したのに、ホームシックで直ぐ帰りたいとか言われたら堪らんからのぅ」


「確かにそういう気質は持っていたけどね……詐欺っぽく捕まって、半強制的に何かさせられるのは嫌なんだよ」


「だから何もしなくてもよいと言っておるじゃろう。せめてもの詫びじゃ、与えたスキルもそのまま使えばよい。制限もかけないからやりたい放題やればよいぞ。その国が気に入らなければ、アリアの言うように外の世界に出てもいい。お前も言っていたようにヒーラーはどこの国に行っても歓迎されるしの」


「創主様! それでは私が困るのです!」


「アリアは黙っておれ。お前のやり方がちょっとグレー過ぎるのじゃ。龍馬が怒るのも当然じゃぞ。龍馬よ、本当はアリアも其方のことは心底心配しておっての、お前を送ってから7日の間一睡もしないでお前のことを監視して見守っておったくらいじゃ。心の底から申し訳ないとも思っておる。本当に何もせんでよいから、只生きろ。死んではつまらんぞ、よいな?」


 創主の爺さんは、敵の話や何かをしろなどという話は一切しなかった。好きに生きろとだけ俺に言う。アリアは創主の発言に困り顔だが、創主の爺さんは意に介した様子もなく平然としている。


「創主の爺さんの言う通り、リュークとして生きるよ。でも本当に何もしないからな?」

「フォッフォッフォ、それでよい。死んではつまらん! 只、せっかくの異世界なのじゃ、楽しく生きる努力はするのじゃぞ? よいな? なぁに、ここまで儂も係わったのじゃ、いざという時は手を貸してやるで、其方は何もせんでよい」



 俺はリューク君に娘を託し、彼は自分の家族を俺に宜しくと託した。

 お互い握手を交わし、各自帰るべき場所に帰る。



 創主様自ら俺を送ってくれるようだ……眩い光から解放され目を開ければベッドに寝たままの状態だった。


 サリエはまだ入浴中だ。

 俺も風呂はまだだったな……勿論お風呂に特攻する。



 俺はリューク・B・フォレストとして正式に生きることを選んだのだった。


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 お読みいただきありがとうございます。

 1章終了です。

 面白いと思ってくれた方は、フォロー登録して継読していただけると嬉しいです。


 この作品は本来1章で終える予定で書いたものでした。


 1章で主人公のキャラがちょっと薄いとあるレーベルの担当者様に指摘され、ならばと2章以降やりたい放題やっちゃっていますw


 2章から人によっては主人公に不快感もあるようなので、自分には合わない、無理だ、ダメだと思った方はそっとご退場ください。スカンクやイタチの最後っ屁のように吐き捨てるようなコメントはメンタルの弱い私には要りませんw そういうコメントは、好きで読んでくれている人にも凄く失礼ですからね。そっとご退場ください。


 以前は余程でない限り削除しませんでしたが、商業書籍になったので、メリットのないコメントはすぐに削除するようにいたしております。ご理解くださいませ。


 書籍の2巻からは、全く別作品になっています。

 この作品に出てくる登場人物も6人ほどいなくなり、その分1人に密度を濃くしています。龍馬という存在感もなるべく出さないようにし、ただひたすらヒロインたちとイチャイチャ仲良くする作品です。癖の強い苛立たしいリューク君はどこ行った?というくらい違っていますので、気になる方は是非手にして書籍版の方もご覧くださいませ。


 2巻は2019年5月17日発売です!

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