3-8 ナビーに思念体を与えて見ました

 チートしまくり、色々創ったが、【インベントリ】には食料品しかない。何かを作るにも材料が足りないのだ。再度街で買い足す。


 何が1番ほしいか……色々あるが、まずはガラスかな? 教会にステンドグラスで造られた綺麗な飾り窓があったのでガラスの材料はあるはずだ。街の住民に聞き、ガラスの工房を訪ねて見た。


 厳ついおっさんが忙しく作業していて邪魔だと怒られたが、領主の息子と分かった瞬間低姿勢で相手をしてくれた。


「あの、うちに何の用ですかね?」

「そう警戒しなくてもいいですよ。忙しい所申し訳ないですが、少しガラスについてお聞きしたくて訪れました。透明なガラスの器とかできますか?」


「それを目指して頑張っておりますが、まだ実現できていないです。白く濁って透明とは言えませんね」


 ガラスの透過度は、いかに不純物を取り除くかだそうだ。化学薬品のないこの世界じゃ厳しいかな。酸化鉄や金、銀、銅などを混ぜれば色物のガラスは意外と簡単にできるのに、透明な物となると格段に技術力が増すみたいだね。


「じゃあ色付きでもいいですが、このくらいのサイズのガラスの器を作るとなったら1番安い素材を使って作ったとしてどのくらいの値段になるでしょうか?」


「1番安く仕上げても、1万ジェニーを下回ることはないでしょうね。小さいものはかえって難しいです」


 プリンの器にと思ったが……1万とか話にならない。


「ガラスの材料とかどこで仕入れればよいのですか?」


 何カ所かあるそうだが、ミリム母様の実家で扱っているそうなので、そこに向かう。


 ガラスの素材自体は超安かった。メインになる物はケイ砂と呼ばれるもので、このなかに不純物が多いと色が付くそうだ。良く着く色は緑、そういえば昔のワインボトルなどがこのような色をしている。


 俺はあまり詳しくないのでナビーに丸投げして、石灰やホウ酸など、類似効果のある素材を店にある分全て買い占めた。勿論追加注文もしておいたよ。



『ナビー、器の原価どのくらいになりそうだ?』

『……@130ジェニーってとこですかね。一般じゃ無理ですね。何せ人件費とか一切含まれてなくて原価だけでこの値です。ガラス製はダメです。相手は1万ジェニーで作っている物をプリンやアイスの器にして大量に捌くと各方面にいろんな被害が出ます』


 確かに、現行雑貨屋などで売られているガラスの器が暴落する。それは一生懸命作ったガラス工房の職人に対する暴挙だ。別なもので代案を考えるしかないな。身内用にはガラスで作るけどね。


『あ! そういえば俺の工房内って魔法だけで作れるのか?』

『……いきなり魔法でポンッてのは無理がありますね。なので思念体の人形を工房内に創りました。この人形に最初の物を1個作らせれば後はマスターの魔法で量産可能です』


 まずは1個手作業で作る必要があるのか。1個できると後は俺のオリジナル魔法で材料がある限り何個でも瞬時に量産可能というわけだね……我ながらチートすぎる。


『思念体ってあの女神のような状態なのか? それって物に触れないんじゃないか?』

『……アリア様は普通に椅子を引いて自分で座っていたでしょ? ちゃんと触れます。ですが五感がないので色々限界があるかもですね』


『確かにそうかもな……ナビーも五感ほしいか?』

『……? ナビーはマスターのスキルなので、そういうのは無理ですよね?』


『スキルといっても、俺がそうイメージして再構築すれば思念体化できるんじゃないか? 現にスキルであるナビーが工房内に思念体を創り出せているんだろ?』


『……できるのでしょうか? 過去に実例がないので検索できません』



 【魔法創造】

 1、【思念体創造】

 2、そこにあってそこにない存在に思念体を与え顕現できるようにする

   思念体の容姿はその顕現したい者の意志が反映される

   顕現した思念体には五感が与えられる

   五感はスキル使用者(俺)のものと同じとする

   思念体時に食べた物は塵処理工房へ転移する

   タブレット上に顕現できるようになる

 3、イメージ!

 4、【魔法創造】発動



『魔法はできたけど、上手くいったかは分かんないので実際使ってみるな。【思念体創造】』 


 俺はナビーに対してスキルを発動してみた。急な眩暈と立ち眩みに襲われた。


『何が起こった! おえっ……吐き気がする』

『……マスターのMPが2500も減っています! あ! 【亜空間倉庫】内で思念体化できています! マスターありがとうございます!』


『そうか、それは良かったな。でもMP消費2500とか、もとは5000消費って事だろ? ナビーには悪いがそうそう使えないな……』


『……いえ、どうやら、亜空間倉庫内なら常駐できるようです。一日に消費MP25で常駐可能です。タブレット上に顕現するにはMP3必要みたいです』


『そのくらいなら問題ないか。現実世界には顕現可能なのかな?』

『……残念ながら、マスターのMPが足らないですね。現実世界に顕現するにはMP25000必要だそうです。頑張ってレベル上げしてくださいね。マスターに現実世界で会いたいです!』


 急激な魔力不足でクラクラするので中級の魔力回復剤を飲む。


『そうだな、頑張ってレベル上げするよ。気長に待っていてくれ。で、どんな姿になったんだ? タブレット上に顕現して見せてくれよ』


『……恥ずかしいですが、どうですか?』


 タブレットに現れたナビーは可愛らしい姿をしていた。


『あれ? なんか見た事あるようなないような……でもめちゃくちゃ可愛いじゃないか!』

『……はい! マスターが時々眠っている時に見る夢の中の女性です!』


『エッ! そうなの? 凄く可愛い……』


 どうやら俺が睡眠中に見る夢の中で時々現れる女性なのだそうだ。夢で見るということは、俺が理想とする架空の人物なのだろうか? はっきり言ってめっちゃ好みです! 好みで言えばフィリアより上かも? フィリアも可愛いがやはり15歳、目の前のナビーは20歳ぐらいの成人女性なのです。


 腰までありそうな栗毛に近い黒髪の日本人ポイ顔のつくりだが、目はパッチリしていて笑顔が素敵だ。ナビーは口うるさい委員長のイメージがあったが、目の前のナビーはお淑やかな可愛い系だ。細身だがちゃんと出るとこは出ていてメリハリのある体をしている。


『……あのマスター。プリンを1つ食べてもいいでしょうか?』

『ああ、そうだな。せっかく体を与えたんだ、味覚は俺のモノだが他の人の感じ方とか知らないのでこれはしょうがないな。アイスも食べていいぞ』


『……ありがとうございます! 美味しい! これがプリンですか……凄く幸せです! アイスも美味しい! これが冷たいという感覚なのですね。マスターと同じ感覚なのはとても良いです。ナビーが美味しいと思ったものは、マスターも美味しいってことですからね。ナビー工房でどんどん美味しいものを開発しますね!』


『ナビー工房って……いつからお前の工房になったんだ。まぁいいけどね。じゃあ、ナビーにはこれから、醤油とソース類、味噌とかもほしいかな。砂糖や塩の精製も頼みたい。どうも黒砂糖はえぐみが少し気になる。開発宜しくね。特に醤油は優先的にね』


『……お任せください。そうなると大豆や小豆、麦や米などももっとほしいですね。できれば殻つきがいいです。工房で脱穀した方が良い物ができます。小麦粉も地方によって、強力粉や薄力粉などが違ってきますので、産地ごとに数種ほしいです』


『…そういうものもあるんだな。うどんとかラーメンとか麺の種類によって同じ小麦粉でも粉が違うんだっけ?』


『……はい、なのでできるだけ沢山の種類が必要ですね』

『分かった。あと早急に俺のいた日本レベルのシャンプーとリンス、ボディーソープがほしい。できるか?』


『……銘柄はどこのメーカーを希望されますか? それともどこでもいいですか?』

『選べるのか? だったら赤い容器の奇麗な女優さんがCMで沢山出ている某メーカーの物がいいけど……そんなことできるのか?』


『……ユグちゃん経由で某メーカーのメインサーバーをハッキングすれば数秒で成分表が入手できます。うーん、この世界の材料で色や匂いを全く同じに調整するのに時間がかかりそうですね』


『エッ!? もうハッキングして成分分かったの? 色も匂いも別に拘らないから、匂いは良い匂いにしてくれるなら別に何でもいいよ。どっちかというと匂いは要らないかな? 個人香の邪魔になるし、強い匂いは魔獣に気付かれかねない』


『……なるほど。ではシャンプー使用時に香る程度にして、後は揮発性を高めて、使用後は超微香になるようにしておきますね。今晩のお風呂に間に合わせるようにいたしますので、雑貨屋と薬師ギルドに行ってもらえますか?』


 醤油やソースも無難な日本の一流メーカの物にした。ウスターソースやオイスターソースも材料さえあればナビーに丸投げで簡単にできそうだ。

 ナビーの言うがままに色々買い漁ったら、すっからかんになった。今日一日で数千万が飛んでしまったのだ。しかも色々したいのでまだ足りないとほざきやがる。


 また狩りに行くしかないな……。


『……マスター! 狩りに行くならついでに木材が大量にほしいので、東の森に行ってください! あそこは強い魔獣が多いので伐採されず残ってる良い大木がかなりあります。魔石や革もほしいので早めに狩りに行ってくださいね』


『………………はい、善処します』


 ナビーが怖いです。体を得て工房内で色々できるようになったのが嬉しいようだけど、テンションが高すぎて付いていけない。


『……ごめんなさい。ナビーはマスターが寝ているときは何もすることがなくて退屈だったのです。マスターが起きている間は話し掛けられなくても観察できるので退屈はしないけど、マスターの睡眠中は本当につまらなかったのです。色々できると思うと嬉しくてつい……ごめんなさい』


 俺の心を覗いて俺が若干引いてるのを察したようだ。でもナビーの発言を聞いて俺はちょっと後悔した。俺の寝ているときのナビーなんて考えていなかったのだ。スリープモードで待機とは聞いていたが、何もすることがないという状況がどれほど苦痛なのか俺は知っている。ナビーに感情があると思った時点で配慮してあげなければいけない案件だった。


『ナビー、工房はお前の好きに使っていい。ただ、無駄に作り過ぎたりしないようにな。勿体ないのはダメだぞ。ちゃんと使いきれる範囲内で作ってくれな。でも、シャンプーリンスは少し多めに頼む。出来がよければフィリアやナナにもあげたいし、侍女や母様たちにも配ろうと思っている』




 時間一杯買い漁って、フィリアたちと合流し帰路に着いた。

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