3-64 悪戯したら、父様にこっぴどく怒られました

 折角フィリアがその気になってくれたのに、俺はサリエの誕生日を優先してしまった。


 だが後悔はしていない。なにせ中身45歳のおっさんだ……SEXを覚えたての高1男子とは違うのだ。フィリアと早く結ばれたいという気持ちはあるが、可愛いサリエの16歳の成人を兼ねた大事な誕生日を目一杯祝ってあげたいという気持ちの方が強い。


「ロッテ先生、明日俺とサリエは休みますね」

「ええ、サリエちゃんの両親の家に挨拶に行くのね?」


「はい。ついでにフォレストで幾つか私用も済ませてきます」

「分かりました。今回、学園には公務ではなく私用で欠席扱いにしますね」


 流石この辺は先生らしく厳しいな。私的な用事なので公務扱いにはしてくれない。




 寮に帰って自室に戻った。もう夕飯は済んでいるので、後は入浴だけだ。


「サリエ、今日は広い風呂に入りたいので男子寮の大浴場に行ってみる」

「ん、ダメ。大勢の場所は何があるか分からない。流石に男子のお風呂には一緒に行けない……だからダメ」


 警護ができないからダメって言ってるのか……。


「サリエ、今の俺にここの学生程度何人いても相手にならないの分かっているでしょ? 過保護も過ぎるよ」

「ん……そうだけど」



 まだ渋るサリエは放置してお風呂セットを持って大浴場にやってきた。少し遅い時間だったが結構まだ入っているようだ。


 俺もさっさと入ろうとしたのだが、ふと鏡が目についた。鏡に映ってたのは勿論俺なのだが……う~ん、女の子にも見えなくはない。


 体に力を入れれば筋肉が浮き出て細マッチョな体なのだが、脱力してれば細い手足に色白の肌、銀髪で身長163cm、体重51kgしかない男の娘なのだ。


 鏡を見ながら女子がお風呂で良くやっている、頭にタオルをターバン巻にして、前髪だけ少しサイドに垂らし、他の髪はタオルの中に入れた。


 ウッ……一段と女の子っぽくなってしまった。


 更に胸元を女巻にバスタオルっぽい布で覆ってみる。

 そして寄せて上げて、小さな谷間ができるほどきつく巻いてみた。


 うん! 超可愛い女の娘だ!


 母様の若い頃はこんな感じだった。母様似とは思っていたけど、これはちょっと……。



 悪戯心が芽生え、そのまま浴場に入っていく――

 当然中にいた男子は固まった。なにせ可愛い女の子がバスタオル1枚で入ってきたのだ。


「あの! ここ男子風呂だよ!」

「「余計な事言うな! うわ~可愛い……」」


「あの! 俺とお付き合いしていただけませんか!」


 アホどもが一斉に取り囲んできた、【クリスタルプレート】を出して撮影しようとする者まででてきたので、軽く初級の範囲魔法の【サンダーウォール】で皆を痺れさせてやった。


 勿論俺は【レビテト】で空中に一人浮いて水による感電は回避していますよ。


 感電させた後、タオルを外して身分を明かす。


「お前ら男色か? 公爵家の俺を襲おうとは無礼打ちにするぞ?」


「「「リューク様!?」」」

「「「エエエエエッッ!!?」」」


『……マスター、大人げない悪戯ですね……呆れてものが言えません』

『ウッ……俺は何してるんだ? まぁ良い、ちょっと面白かったからな。それよりちゃんとした鏡が欲しい。出来るか?』


『……水銀があれば良いのですが。ミスリルで代用してよろしいですか?』

『ああ、その辺は任せる。姿見と手鏡を20枚ほど頼む』


『……サリエの誕生プレゼントも兼ねているのですね。なら例のブラックトレントの木枠にしましょう! とても高級感あふれる物が出来ますよ!』


『お、良いな。基本、嫁や母様、婆様たち用にあげるものだから、出し惜しみはしない。サーシャたちにもあげようかな。どうもこの世界の銅鏡のような金属を磨いただけのちょっと歪んだ映りの悪い鏡が馴染めない』


『……明日の夕刻までには仕上げておきますね』



 サイズを決め、簡単に設計して後はナビーに任せた。


 皆を無視して入浴していたのだが、俺を男だと分かったにも拘らず、熱い視線で見つめてくる輩が数人いた。俺の気配察知に視線が絡みつくのだ……気色悪いわ!


 もう二度と来ない……。


『……自業自得でしょうに……』



 自室に帰るとサリエが入浴していたので速攻入って行った。


「ん、リューク様、さっき入ってきたでしょ」

「サリエと入りたいんだよ。もう大浴場には行かない! サリエと入る方がずっと良い」


 警護云々は建前で、どうやらサリエも本当は一緒に入りたかったようだ。


 可愛いやつめ!


「ん、リューク様……フィリアのお誘いどうして断ったの? 私用って何?」

「感の良いサリエは俺に聞かなくても本当は分かっているんだろ?」


「ん……」


『……分かっていてもマスターの口から直に聞きたいのですよ。それが女心というものです』

『なるほど……』


「今日は0:00を回ったらサリエの誕生日だからな。それなのに隣の部屋でフィリアとイチャイチャしてたら気分良くないだろ? 今日はサリエを目一杯俺が祝ってやるからね」


 湯船で俺に抱っこされてたサリエだが、振り返って体を反転させ、コアラダッコの状態になって俺の胸に顔を埋め泣きだした。


「ん、リューク様大好き! ありがとう!」


 この娘、俺をキュン死させる気か! 超可愛いぞ! 




 翌朝7時にパン屋に向かう。


「来たか……後3分待ってくれ」


 何やらニヤケ顔の親父が自信アリ気にしている。


「リューク様が置いていってくれた材料で作ったパンだ、どうだ?」


「ん、美味しい!」

「これは旨い! 前回のと比べたら別物ですね!」


「ひゃはは! やっと旨そうな顔しやがった!」

「お父さん! リュークさまの前ですよ!」


「いや構わない。オヤジさん、これより更に旨くできるかい?」

「何だと!?」


 俺はインベントリからナビーが焼いてストックしてある焼き立てパンを取り出す。


「ちょっと食べてみて?」

「何だまだアツアツじゃないか? どれ、何だこれ! 旨い……」


「どう? これより美味しくできる?」


「やってやろうじゃないか! 単価に後20ジェニー出してくれるか?」

「ええ、@300ジェニーまでならお出ししますよ」


「分かった、これはリュークさまが焼いたモノか?」

「ええ、中々のモノでしょ? でも、まだ美味しくできるはずなんです……」


 俺が日本で食っていたものはもっと旨い。


「ああ、おそらくこれ以上となるとパンに混ぜてるふっくらさせるためのものも開発もしなきゃならない。ちょっとそれまでは今日より少し良くなったモノで我慢してくれるか?」


 ふっくらさせるものとは、イースト菌のことだろうな……ここのパン屋が他も店より美味しいのは、試行錯誤の途中でイースト菌、天然酵母を偶然発見し、それを使っているからなのだ。


「今日のパンは十分美味しいですよ」

「だがお前の焼いたモノより若干劣っている……」


「ん、そんなことない。どっちも美味しい」

「ええ、これまで食べたパンの中で一番美味しいですわ」

「教会でも毎朝焼き立てのパンが出されますが、教会のはボソボソしてあまり美味しくないですね。これほど美味しく教会の窯でも焼ければ良いのに……」



「リューク様、そっちの嬢ちゃんたちは侍女か何かか? 焼き釜がある工房まで入ってきやがって。工房内だ、マントなんか脱ぎやがれ!」


 ルルにはフード付きマントを被らせている。

 朝から市内を出歩いていたら人が集まって大騒ぎになるので顔を隠しているのだ。


 常識的に厨房に入るときは、外からの埃を被っているだろう帽子や外套は脱ぐのが当たり前だ。


「あ、これは失礼いたしました!」


 ルルは慌ててフードを取ったのだが、パン屋の娘が一発で気づいた。


「なっ! ルル様! なんでルル様が?」


 即平伏し、呆然としてる親父を引き摺り倒した。パン屋の娘さん……凄い力だ。


「父が失礼なことを申してしまい、申し訳ありません!」

「私こそ変装の為とはいえ、作法が成っていませんでした。ごめんなさいね」


「勿体ないお言葉です。お父さん! 謝って!」

「せいじょさまにあらせられまちては……ほんじつはおひがらもよく」


「ヒャハハ! オヤジ何言ってんだ?」

「お父さんしっかりして!」


「リューク様! こんなお方を同伴してくるなら事前におっしゃって下さい! うちのお父さん聖女様を見てテンパッちゃったじゃないですか!」


 テンパッたオヤジが面白いからもうちょっとからかってやろうかな。


「それは悪かったね……ちなみにこっちの娘は第四王女のプリシラ殿下だよ」

「プリシラ王女殿下様!」


「ん、リューク様、平民をからかって遊んじゃダメ。可哀想」


 サリエに怒られてしまった……。


「オヤジ、このパンは学園に通うことになったこの二人も暫く毎日食べることになる。くれぐれも外部に漏らしちゃダメだよ。言ってる意味は分かるよね?」


「暗殺や毒殺だな……まさかこの俺が聖女様や王女様のパンを焼けるとはな。身に余る光栄だ……リューク様、誠心誠意を込めて焼かせてもらう」


「あはは、今日のパンだってオヤジの気合の入った旨いパンだったよ。また宜しくね」




 パン屋を出て寮に帰っているのだが、プリシラがキョロキョロ物珍しそうに朝の都の喧騒に興味津々のようだ。


「プリシラ、自分の住む城下の朝はどんな感じ?」

「はい、活気があって凄いです。見るもの全てが新鮮で……リュークお兄様、目を治してくれて本当にありがとうございます!」


「もっと素晴らしい光景も見せてあげるから楽しみにね」

「はい! 楽しみです」




 ナナの部屋に帰って朝食の予定だったのだが、学園長とロッテ先生が部屋で待ち構えていた。


「リューク君? あなた、なんて悪戯しているのよ……」


 先生のタブレットには、女巻にタオルを巻いてちょっと胸のある美少女が映し出されていた。


 はい、昨日の風呂場の俺ですね……雷落として撮影阻止したと思っていたのに、誰かが撮影に成功していたようだ。


「リュークや、どうも一晩でかなり出回ったようで、もはや回収不可能じゃ……公爵家の恥じゃの」


 学園長に真顔で恥とか言われてしまった……。


『ナビー! 何で阻止しなかったんだ! お前なら撮影されてしまったのを分かっていただろ?』

『……ちょっとした罰ですね。確かに恥ですが、王になればこのようなお遊びも早々できないので、まぁ良いかなと……』


『良いわけないだろ!』

『……昨晩も言いましたが自業自得でしょ? でもナナやフィリアはちょっと喜んでますよ』


「兄様らしい悪戯ですわ!」

「そうですね……リューク様がやりそうな悪戯ですわね。それにしても可愛いです……ふふふ」


「「「先生、それメール添付して送ってください!」」」

「ん、私も欲しい!」



 どうも昨晩はリューク君の記憶からくるものが強く出たらしい。45歳の俺は流石にこんな悪戯はしない。



 その後、父様からコールが鳴ってこっぴどく怒られた。

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