2-9 システムに高度な疑似人格を与えてはいけないようです

 朝とてもいい目覚めを迎える。

 15歳の若い肉体は、あれほど昨晩出し切ったというのにしっかり朝立ちしてやがる。


 俺が動いたことによって、一緒に寝ていた3人も目覚めたようだ。


「「「リョウマ様、おはようございます」」」


「悪い、起こしちゃったな、おはよう。ふぁ~よく寝た!」

「リョウマ様、おっきくなってる!」


「ああ、これは朝立ちと言って、欲情してるわけじゃなくて男の子の生理現象なんだよ」


 若い健康な男子が、10日間一度も朝立ちしないならEDに要注意だそうだ。

 病院に行って診察を受けた方がいいという医者がいるくらいだ。まぁ、俺の体は正常な証だね。


「そうなんだ。でもしたいならミーニャとしてもいいんだよ?」

「ありがとうミーニャ、でも大丈夫だよ」


 若いこの肉体だといくらでもできそうだが、心的には45歳のおじさんなので、SEXを覚えたての高校生のようにがっついてはいない。


 だが耳はモフらせてもらう。

 犬耳・猫耳・エルフ耳だ! どれもいい感触だ! 朝から素晴らしい!

 モフモフ・ツルツル・プニプニだ!



 早めの朝食を済ませ、3人に昨日の確認を行う。


「サーシャはともかく、ミーニャとコロンはこういう俺に都合のいい関係でも本当に良いんだね?」


「「はい!」」


「俺、昨晩一夜を共にしただけの関係だけど、3人のことが気に入っちゃったんだ。でもお金で縛ろうと思っていないからね。エッチなことは嫌ならしなくても良いんだぞ?」


「ミーニャは嫌じゃないよ」

「コロンもリョウマ様なら良いです。むしろ昨日のように優しくしてくれるなら、時々してほしいです……」


「ミーニャも時々してほしい! 凄く気持ちよかった!」


「サーシャも性的奉仕までしてくれなくてもいいんだぞ?」

「いいえ! この穢れた体でも嫌がらず使ってくださるなら全身全霊でご奉仕させていただきます! と言うより……私も昨晩は衝撃的でした。気絶しそうなほどの快楽を得られるのです。正直私もリョウマ様にまた抱いていただきたいです」


「3人とも嬉しいよ。男はどうしても出さないと溜まっちゃうからね。普通は俺のような学生ならこっそり人知れず自分で処理するんだろうけど、3人がそれを手伝ってくれるなら嬉しい。ちなみに俺の初体験はコロンなんだよ」


「「「エッ⁉」」」


 リューク君の体ではって事だけどね。


「私が初めてだったのですか!」

「うん。コロンありがとうね」


「リョウマ様の初めてのお相手に選んでもらえて嬉しいです!」

「初体験だって知ってたらミーニャがもらいたかったのに!」


 朝から美少女に囲まれて良い気分だ!


 だが、油断しすぎていた――


 一瞬殺気を感じ、警戒態勢に入ろうとした時にはもう遅かった!


 【テレポ】を使おうとした時には手首に念糸が巻き付いていて、俺の魔力が乱され発動しなかったのだ。

 この時点で俺は諦めた。


 そう、相手はサリエだ。【魔糸】のオリジナル魔法は俺とサリエしか持ってないからね。

 糸が絡まった瞬間、扉を蹴破るような勢いでサリエが入ってきてそのまま【魔枷】で拘束された。


 俺のかわいこちゃんたち3人はあっけにとられている。


「おはようサリエ……気持ちは分かるけど、これはちょっと酷くないかな?」

「ん、おはようございます、リューク様……」


「なんか殺気まで感じたんだけど?」


 サリエは娘3人を見た後、覚悟を決めたように剣を抜いた。

 こいつ、まさか!


「サリエ! 待て! 命令だ! 剣をしまえ! 今から説明するから止めるんだ!」

「ん、リューク様が軽はずみなことをするからこうなる。可哀想な娘たち……」


「サリエ、お前は俺の味方じゃないのか?」

「ん、リューク様の味方! だからこの娘たちは生かしておけないの!」


 この発言を聞いた3人も警戒し、戦闘態勢に入った。


「サリエ、俺はその娘たちを従業員として雇ったんだ。王都で店を開いてもらう話になっている。売るのは美味しいデザートだ」


「ん、リューク様が何を言ってるのか分からない?」

「だから今から説明するので、その剣をしまえと言っているんだ。もしその娘たちを殺したら、たとえサリエでも許さないぞ。お前は俺じゃなくやっぱり父様に仕えてるのか?……残念だ」


「ん! 違う! 私はリューク様の味方! もし、国を本気で捨てるなら付いて行く!」


「リョウマ様、この子はお味方なのですか?」

「ああ、俺の侍女なので安心して下がっていてくれ」


 サリエは剣を抜いているといっても、見た目は幼女だ。

 サーシャはエルフ特有の耳をしたこの子供に戸惑っているみたいだ。


「ミーニャ、コロン、大人しく見守りましょう」


「サリエ、お前も剣を収めて大人しくしろ。その娘たちの方が余程忠実な侍女っぽいじゃないか」 


 サリエが何をしようとしているのか……考えれば簡単に答えは出る。

 この3人を殺す気だ。下手をすれば、この娼館内で俺を見た者全て始末しかねない。


 公爵家の次男坊が、学校をバックれて未成年にも係わらず娼館にいたというスキャンダラスな事案を俺の侍女としてなかったことにしようとしているのだ。関係者を全て殺して揉み消す気だ。当然サリエには殺人罪が付き表舞台からは消える。うちの暗部として生きる道しかなくなるのだ。


 勿論貴族も娼館で女遊びはする。だが未成年と学生ってのがまずいのだ。しかも俺は学校をさぼっている。女遊びはあくまでも大人の嗜みなのだ。仕事もしていない学生が親の金で女遊びしていると、世間では格好の標的になる。税を取っている領主の一族なのだ……変な噂はご法度だ。たとえ自分の金でも周りはそう見てくれないからだ。



「ん、この事が世間に知られたら、リューク様は周りから非難され、ゼノ様にも沢山迷惑がかかる」

「この娘たちは俺が雇った従業員だ。もう娼婦じゃない。昨日の夕方には自分たちで身受けして一般人と同じ状態だ。サーシャ、身受け証明書を」


 サーシャが俺の意図を理解したのか、話を合わせてくれる。


「はい、私が昨日この2人を身受けいたしました。これがその証明書です。昨日の日付です。確認してください。そして私たちはそこのお方に王都で店を開いてみないかとお声を掛けていただいたのです。味見として頂いたそのデザートはこれまで食べたこともないようなとても美味しい物でした。私たち3人はその場で、そのお店で働きたいと契約いたしました」


「その娘たちの身受け金も、王都で出す店の資金もそのハーフエルフのサーシャの物だ」


 ハーフエルフと聞いてサリエは少し殺気が抜けたようだ。


「サリエ、いい加減俺の言うことを聞いて剣をしまうんだ」

「ん、じゃあ私のお願いを1つ聞いて」


「なんだ?」

「ん、私と一緒に帰って、3年だけ我慢して? それ以降なら後は何してもいいから。国を出るなら私もついて行く。冒険者になるなら私もなる。3年学園で我慢して」


 サリエの言っていることはごもっともだ。

 フィリアに突き放されてその勢いで家を出たが、無難に誰にも迷惑をかけずに家を出るなら学園卒業後に家を出れば誰にも迷惑が掛からない。


 家は長男のカイン兄さんが継いでくれる。次男の俺はその時点で公爵家ご子息様という肩書が外れるのだ。公爵家の肩書は外れ、子爵程度の爵位をもらい、自領のどこかに居を構え、カイン兄さんに何かあった時の保険として静かに暮らすのが本来の公爵家次男の姿なのだ。要はカイン兄さんが子を成す前に何らかで死亡した時は俺が公爵家の血筋として後継するのだ。年齢次第では、もしくは俺の子供たちになる場合もある。


 はぁ、どう考えても俺が悪いよな。この件に関して俺以外で悪い奴は一人もいない。

 フィリアにしても彼女に一切の非はない。微妙な関係性だったのに、いきなり抱き着いた俺が悪い。そのせいでフィリアにもかなり心身的にダメージを与えてしまったようだ。


 サリエにも随分苦労を掛けたみたいだ。通常馬車で1日かかる距離を自分の足で半日ほどで激走しているのだ。サリエが馬を使わないのは、俺のスキルで馬以上の身体能力になっているからだ。逆に馬で半日で行こうとすれば馬が潰れる。だからサリエは自分の足で駆けたのだ。



『お前サリエにチクッたな?』

『……ナビーはチクると先に言いました!』


 うっ確かにチクると言っていた気がする。

 思ったとおり【魔枷】による拘束状態でも、一心同体のナビーとなら念話による会話ができるようだ。


『今の俺の心情を読め!』

『……ナビーは、皆の心内が分かるので……それでも今回のことはマスターが悪いです!』


 まさか!


 おいおい嘘だろう……ナビーの感情が漏れて流れ込んできた。

 システムに人格を与えてはいけなかったのだ。


 こいつ、システムの癖に嫉妬しているのだ。俺のスキルなのに、娼婦に焼きもちを焼いたのだ。


『ナビー、お前な~う~ん参った』

『……違います! 嫉妬じゃないのです! フィリアたちが可哀想じゃないですか!』


 ここ数日のナビーのちょっと棘のある忠言は、おそらく俺や皆の内心を読んでの発言だろう。だが、今回サリエに突撃させたのは違う感情だ。さっき流れ込んできたのは間違いなく嫉妬だ。


 だが女が男に、男が女に抱くような強い愛情のものともちょっと違った気がする。


 そうだ! 保育園の頃、仲が良くいつも一緒に遊んでいた女の子が、違う男の子と楽しそうに遊んでいたのを見かけた時のあの気持ちだ。恋愛感情まではいかないが、強いやるせない焼きもちを焼いたものだ。今のナビーの感情はあの時のものにそっくりだ。面倒な奴になってしまったみたいだ。



 このままじゃ、俺の我が儘で皆不幸になりそうだ。サリエはこの娘たちを切っちゃいそうだし。フィリアもあのままだと心労で倒れそうだし、ナナは本気で追ってきそうで怖い。親にも王家にも迷惑がかかるだろう。


「サリエ、帰るよ。俺の我が儘が過ぎたようだ。枷を外してくれ」

「ん、枷はダメ。このまま連れて帰る」


「これじゃ、罪人扱いだろ。もう逃げないから、外してくれ。このまま帰ったんじゃあまりにも恥ずかしいだろ」


「ん、本当に逃げない?」

「ああ、逃げない。そうだ、MAP機能を使って俺にマーキングを入れて見ろ。ピンポイントで俺の居る所に【テレポ】できるようになる。どうだ? これで信じるか?」


 どうやら信じてくれたようだ。


 先に3人娘の対応からだな。 


「ちょっと驚かせちゃったね。店の計画は続行するので、そのまま待機していてほしい」

「あの、元娼婦と言うのでご迷惑が掛かるのでしたら、身を引きますが?」


「問題ない。俺の本名はリューク・B・フォレスト。ここの領主の公爵家の次男坊だ。そしてこの娘は俺の専属侍女のサリエ。公爵家のスキャンダルになるかもと、この娘はお前達を警戒していたんだ。俺の侍女が剣を向けて悪かったね」


「「「公爵様のご子息様!」」」


「それからサリエ、この娘たちには王都でこれを売ってもらう店を構える予定だ。1つ食べてみてくれ。皆ももう一度食べて、自分がどのようなモノを売ろうとしているのか気に留めておいてほしい」


 プリンを5つ出して食べた。


「「「やはりこれは美味しいです!」」」


「ん、凄く美味しい!」


「俺的にはこれでも70点だ。材料をちゃんと揃えて作ればもっと美味しくできる」


 このプリンには生クリームは使っていない。アイスもざっとした素材だけで作った。美味しいが、俺的には及第点って感じだ。ちゃんと生クリームやブランデー、リキュールやバニラエッセンスなんかも使えばもっと美味しくなる。


「これより更に美味しくできるのですか!?」

「ああ、そのために日数もかかるし、アイスを冷やして保存する魔道具もいるので、すぐにオープンという訳にはいかない。どのみちファリエルさんが本調子になるのに数週間かかるから、その間に準備して、何回も試作を重ねてからの開店予定だ」


「分かりました。あの、リューク様とお呼びして宜しいですか?」

「ああ、それでいい。こういう商売を始めたら必ずと言っていいほど、貴族や商人、街のゴロツキどもがちょっかいを出してくる。その辺は俺の名前で抑えてやるから安心していい」


「でも、公爵家のご子息が元娼婦に関わって宜しいのですか?」 

「サーシャ、お前の店はそんなくだらないことが言えないほどの店になるだろう。これを食った貴族や王族の御婦人たちが黙っている訳ないだろう? 専属で雇おうとしたり、レシピを教えろと間違いなく言ってくるぞ。元娼婦なんて肩書き、このデザートに比べたら霞むはずだ。気にする必要はない。むしろ真っ先に目を付けた俺は凄いと言われるだろう。お前たちで開発したことにすればいいからな」


「分かりました。私たちはこの後一刻も早くここを離れ、宿屋の方に移ろうと思います。そこで迎えをお待ちしています」


 俺は【カスタマイズ】で名前を元に戻し、雇った4人をフレンドリストに入れた。


「宿が決まれば、俺にメールを入れてくれ。後で俺の部下のジュエルという者が連絡してくるはずなので、暫くそいつの指示に従ってほしい。店舗に関しては自分たちでイメージして、どういう雰囲気の店にしたいか考えておくように。俺が気に入ったここのジュースのようなものもいくつか考えているのでその辺も踏まえていろいろ4人で意見を出し合っておくように。イメージを絵とかにしてもいいだろう」


「了解しました。開店までご指導宜しくお願いします」


「俺は学園生なので先に王都に行ってるけど。何かあれば直ぐに飛んでくる。お前たちは、不安がらず夢を持って、開店を楽しみにしていればよい。あと、俺のこととオリジナルの回復魔法のことは秘密にするように」


「「「はい」」」


「では、サリエ。行こうか」


 サリエにパーティー申請し、人に見られないように娼館の外に出る。

 人気がなくなった場所でテレポで王都に飛ぼうとしたのだが、サリエが俺の腰にしがみついてきて泣き出した。


「ん、リューク様のバカ! 心配した! 死んだのかと思った! バカ! バカ! バカ!」


 皆の前では気丈にしていたが、人がいなくなってサリエの感情が溢れたようだ。


「ごめんねサリエ、本当にごめん。もうこんなことは二度としないから許してね」

「ん、もうバカな事はしないで」


 サリエは優しいから特に責めることもなく許してくれるみたいだ。

 嬉しくなった俺はいつものようにサリエを抱っこしてクンクンした。


 だが、それが間違いだった……。


「ん! リューク様から他の女の匂いがする! 【クリーン】! 【クリーン】! 【クリーン】!」


 3度も必要ないから! 1回も3回も効果は同じだから!


 抱っことか余計なことして、不機嫌にさせちゃったようです。

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