女神に騙された俺の異世界ハーレム生活

回復師

無料の7日間

1-1 面白そうなので、ちょっと異世界に行ってみます

 仕事を終え、家に帰って夕飯とお風呂を済ませた後、いつものようにPCの電源を入れる。


 明日から大型連休のゴールデンウィークに入る。俺は有給も使って10日間の休みを取った。たまりにたまった有給を早く使えと上司にうるさく言われたためだ。最近は溜めすぎると労働基準局や組合がうるさいのだそうだ。


 メールチェックをしていると、以前俺が遊んでいたゲームサイトからメールが届いていた。

 5年ほど遊んでいたが、ゲーム内の過疎化が進みつまらなくなってやめたゲームサイトだ。


 『7日間無料体験! ご満足頂けない場合代金は頂きません』


 メール内には大きくこう書かれた、よくありがちなキャッチコピーがついていた。

 その下のバナーをクリックすると、そのサイトにジャンプするようになっているみたいだ。


 代金は返金するとか、今時有料サイトかよ! と思いつつも、ちょっと覗いてみようという気になった。なにせ5年もはまるほど前作は面白かったんだよね……。その運営会社が新規で開発した超高画質3DMMOを、今日から開始されるβテスターの無料体験で7日間遊べるというから興味は沸くよね。


 大抵の場合βテスターに参加すると、ちょっと良い武器や装備がテスター参加特典として貰えたりする。ほかにも名前が引き継がれ、正規のスタート組より先に良い名前が付けられるというメリットとかもある。



 サイト内のデモ画面はとても美しく、剣や魔法があり、街並みは中世ヨーロッパ風のよくあるタイプのものだ。

 映像の綺麗さやキャラクターの美しさに興味をひかれ、連休中はどうせ暇だし……という考えもあって試しに寝るまでの2時間ほどやってみようとダウンロードボタンをクリックした。



 次の瞬間、PCの画面が目を開けられないほど光りだし、一瞬フワッとした浮遊感に襲われた。



 光が治まったと思ったら、知らない部屋の机に突っ伏していた。顔を上げると目の前には優しく微笑みを浮かべた綺麗な女性が机を挟んだ対面に座っている。凄く綺麗なのだが、目の下に薄っすら隈ができているのが少し残念だ。


 見た目20歳ぐらいだろうか? これまでの人生の中でも見たことがないくらいの美人さんだ。

 これが人外の美しさ……と言っても良いのかもしれない。


 髪はライトブルーのストレートで、腰の下あたりまであるが、サラサラでとても綺麗だ。



「こんばんは~」

「はい、こんばんは。って! ここどこですか!?」


「あれ? 意外と驚かないんですね? もっと驚いて慌てふためくかと思っていました」

「いやいや、十分驚いていますよ!」


「そうですか? まぁ、混乱し過ぎて話にならないよりいいですけど。それで、あなたはどこまで覚えていますか?」


 どこまでって……あの後何かあったのか? まさか死んだとかないよね?


「えーと、メールを見て面白そうだなと思い、ダウンロード画面をクリックしたら画面が光って気付いたらここにいました……」


「うんうん、大丈夫みたいですね。安心しました」

「一人で納得していないで、俺にも分かるように説明してください」


「私も記憶と魂の転移魔法を使ったのは初めてでしたので、少し不安だったのですが、問題なさそうですね。じゃあ、これから説明しますね」


「はい、そうしてくれないと何も分からないので……」


「簡単にいいますと、あなたは神の抽選に見事当選され『7日間無料体験! ご満足頂けない場合代金は頂きません』アンケート企画に参加できる権利を得たのです」


「えーと、言っていることが今一分からないのですが? あなたはやはり神様ってことですか?」


 神の抽選とか自分で言ってるしね。


「はいそうです。申し遅れました。あなたたちの世界より3ランクほど下位の世界のシステム管理をしている女神アリアと申します」


「あ、俺は小鳥遊龍馬(たかなしりょうま)です。システムというと、ゲーム内の世界ということでしょうか?」


「いえ、違います。システムというのは、この世界をお創りになられた創造神様が、この世界を管理するために置かれた『ユグドラシル』という管理システムのことです」


「ユグドラシル、確かゲームやラノベでよく聞く世界樹のことだったかな?」


「多分この世界での呼び方はそこからとったものだと思います。この世界をお創りになった創主様は、あなたの住む日本のゲームや小説などから情報を集め、参考にしてこの世界を創ったと言っています。この世界を創主様の設定基準に基づき、管理調整を自動制御しているのがユグドラシルシステムです」


 うん。説明を聞いてもやはり分からないな。



「それで、企画に当選したとはどういうことでしょうか? いかにも怪しいのですが……」

「ご想像通り、この世界を7日間だけ体験できる権利をあなたは得たのです。おめでとうございます」


「おめでとうと言われてもよく分からないので、ちっとも嬉しくないのですが……」


 もしも体験できるという世界が恐竜蠢く原始の世界だとちっとも嬉しくない……考古学者なら泣いて喜ぶかもしれないが、この世界がどういう世界か分かるまでは何とも言えない。



「……サイトのデモ映像をご覧になられましたよね?」

「はい、ってまさか!」


「はい! そのまさかです! やっとあなたの笑顔が見れました!」


「あの? 魔法があるんですよね?」

「日本のゲームやライトノベルが参考になった世界です。当然、剣や魔法、ドラゴン、勿論あなたの大好物のエルフや猫耳、犬耳モフモフ娘たちが沢山いますよ。それはもうモフリ放題です!」


「ゴクッ……モフリ放題! マジですか!」

「あ、でも本人の許可なく勝手に触ったら犯罪ですので、その辺はお気を付け下さい」


「そりゃそうですよね。でも魔法があるのか……」


 魔法がある……それはゲームやラノベ好きなら、殆どの人が憧れるはずである。

 想像しただけでドキドキする。


「地球にある素材は全てありますし、むしろ地球にない素材も沢山あるので、あなたなら色々できるのではないでしょうか?」


 うん? 色々できる? なんのことだろ?


「できるとはどういうことでしょう?」


「時代がまだ中世レベルまでしか発展していないので、いくら素材があってもまだ開発されてなく、無い物も多いのです。例えば、卵と牛乳と砂糖はあるのに、材料が高額ゆえに茶碗蒸しのようなものは有るのにプリンがまだ作られていないとかですね。逆にオリハルコンとかミスリル、魔石などがあるので地球には無い凄い武器とか、魔道具があります」


「ふーん、オリハルコンとか異世界っぽいですね。それで7日間の無料体験という話ですが、7日過ぎるとお金が要るのですか? 満足いかなかったら代金は要らないということみたいですが、具体的に代金とはどういうことでしょうか? 7日目以降は月額制で料金が掛かってくるという俺の考えで合っていますか?」


「具体的にいいますと、無料期間の7日を過ぎて、もしあなたがこの世界に残りたいと言った場合の為に対価として想定されたものです。その対価はお金ではありません。特にそう気になされなくても大丈夫ですよ」


「7日経って元の世界に帰りたいと言えば、ちゃんと帰してくれるのですか?」


「…………も、勿論じゃないですか……あくまであなたは7日間無料のβテスターに当選されたラッキーな人というだけです。アニメのように魔王を倒さないと帰さないとか、悪魔契約みたいに命を半分寄こせとかそのようなペナルティーは一切ございません……」


 うーん、テスターって言ってるけど、なんのテストか言ってくれないし、無料をやたらと強調するのが怪しいんだよな……。


「あの、7日を過ぎた場合の代金がやはり気になりますので教えてください」


「……そうですか。ではお教えします。無料期間の7日までは、あなたが元の世界に帰る際に転移された同じ時間に帰れます。ですが7日以降は過ぎた日数分の時間を代金として支払ってもらいます。7日を超過された滞在期間中の地球のあなたの体は保護されていますので安心してください。ですが、あまり超過し過ぎるとあなたの職場やご家族に迷惑が掛かるのでお気を付け下さい」


「代金とは超過時間分の擦り合わせでしたか……安心しました」

「7日過ぎなければそもそも対価も要らないので、別に深く考える必要もないと思いますが?」


「それもそうですね。もし、私がその企画の参加を断った場合はどうなるのですか?」

「この会話の記憶を消して、ダウンロードボタンのクリックをする瞬間に帰されます。ですので、おそらくあなたはゲームをダウンロードして普通に遊ぶのではないですか? そしてこの権利は二番手の候補者に譲渡されます」


「ん? 異世界行きの権利は1人だけってことですか?」

「そうですよ。異世界に送るにはかなりの神力を必要とします。そう何人も送り迎えできないのです。なのであなたのように異世界ものに興味があり、そういう知識があって、帰還時にしっかりと感想を言ってもらえるような方が選定されています。そうでないとテスターの意味がないですからね」


「ちゃんとテスターとしての参加意義があるのですね?」

「当然です。あなたの世界がモデルになった世界ですので、その世界の方に実際に行ってもらい、体験された後の生の声が聞きたいのです。意味もなく神力を使って異世界に送るようなことはしません。勿論そちらの世界の管理神から許可も得ています」


「えっ!? 地球にも神がいたのですか?」

「あたり前ではないですか。あ、そうか……基本そちら側の管理者は何もしていないですからね。まぁ、その話は禁止語句指定の範疇ですので控えておきましょう。これからあなたの希望に沿ったキャラメイキングをします。と言っても実在する希望に近しい人物に記憶転生するのですけどね」


「あの、俺がすでに参加する前提で話しているみたいなのですが?」


「……面倒ですのでぶっちゃけちゃうと、あなたが断らないのは分かっているのです。そういう属性の人を選んだのですからね。なのでさっさと話を進めましょう」


「属性って……はい、そうですね。異世界転移、転生モノ大好物です。余計な時間を取らせてごめんなさい」

「……ふぅ。では、まずは容姿から……なにか希望はありますか?」


「基本今のままでいいです。って! あれ? 痩せてる!」

「今頃気付いたのですか!? そのことにびっくりですよ!」


「どういうことでしょう?」

「今の状態はあなたが一番調子の良かった頃の体になっているのです。17歳の頃の体ですかね?」


「若返っているのですね?」

「あくまで今いる空間が神域にある仮想世界だからです。向こうの世界に転生した場合その転生先の人物の年齢になります。それを今決めているところです」


「事前に用意されてるわけじゃなくて、ある程度こっちで選べるんですね」

「当然です。人それぞれ好みが違いますからね。では話を進めます……転生先のあなたの生活環境はどんなのが良いですか?」


「そうですね~、貧乏なのは嫌かな。あと治安が悪かったり、男しかいないという寂しい環境も嫌です」

「あ、良いのがありました。若干顔のつくりが少し違いますが、見た目は大体同じです。身長が163cm体重が51kgとちょっと小柄ですが、年齢が現在15歳でもうすぐ16歳になる細マッチョな美少年です。どうでしょうか?」


「15歳か、いいですね! 生活環境はどうなっています?」

「公爵家の次男ですね」


「貴族ですか? 公爵というと親は王族ですか?」

「現、国王のすぐ下の弟にあたる方です。親兄妹ともとても良い方なので安心してください」


「なるほど、貴族体験も貴重で面白いかも知れませんね」

「ただ、本来この子は暗殺される運命なのです。死ぬのは惜しい人物なので、この際あなたの体とすることで死を救ってあげようと思います」


「アリア様は未来が分かるのですか?」

「いえ分かりませんよ。あなたの記憶を3日前の彼の体に転移させるのです。あなたの宿主となる彼は現在葬儀の真っ最中です。あなたを取り入れることによって仮死状態から蘇生させますので、そのつもりでいてください。それと彼の記憶を3割ほど残しておきますので、そちらの世界の知識として役立ててください。主な楽しかった思い出、逆に辛かった思い出や心に強く残っている思い出は全て残しておきます」


「暗殺とは穏やかでないですね。そんな所に行って大丈夫なのですか? もし死んじゃった場合、俺はどうなってしまうのですか?」


「転生先で死亡した場合は、7日間の無料期間が残っていてもその時点で地球に強制送還ですね」


「え? それだけですか?」

「はい、あなたはそれだけですが、現在葬儀中の彼は本当の死を迎えます。できればあなたが滞在する7日間の間に、従弟の陰謀を暴いて彼を救ってあげてください」


「犯人は従弟なのですね? その目的は何なのですか?」

「彼のフィアンセに横恋慕をしてしまい、彼を抹殺して後釜に自分が成ろうとしてるようですね。元は悪い人ではなかったのですが、今は嫉妬に狂った矮小な小者です」


「転生先ではフィアンセがいるのですか? まぁ、犯人が分かっているなら対処のしようはいくらでもありますよね」




「念のために特別にチートなスキルを何でも1つお付けしますので、この中から選んでください」


 チートきたー! と思ってしまったのは仕方がないよね。


「うわー、凄そうなのが一杯ならんでいますね」


 俺は30分ほどじっくり眺め、スキルの特性など色々質問したのだが、どれもしっくりくるものがなかった。

 確かに凄いものばかりだとは思う。【経験値10倍】とかチート過ぎでしょって思うが、たった7日間しかいないのにあまり意味がない。禁呪魔法とかも凄そうだけど、7日の間にそんな危険な魔法いつ使うのって話だしな。7日間という短い枠の事を考えるとどれもこれもパッとしない。


「なかなか決まりませんね……」

「ごめんなさい。7日という短い期限を考えたらどれもピンとこなくて」


「成程……ではユグドラシルにあなたのイメージでその欄にないモノを創ってもらいましょうか?」

「え? 俺のイメージで何でも良いのですか?」


「『何でも』といいましたが、あくまでも創主様がお認めになられる範囲でですよ。その判断基準もユグドラシルの管理項目に含まれているので、できないものはできないと判定されます。欲しい物や欲しいスキルはできるだけしっかりしたイメージを思い描いてください」


「イメージですか?」

「はい。具体的な例を挙げると、何でも切れる剣が欲しいと願う場合、そういうイメージをできるだけ鮮明に思ってくれればそのような剣が創られます。逆に世界を一瞬で滅ぼす神器とかを、どんなに鮮明に思い描いてもそれは拒否されます」


 そりゃそうでしょうね。アンケートの為に呼んだ異世界人に、自分の与えた武器で管理している世界を滅ぼされたとか笑い話にもならない。



 頭で思うだけで良いらしく、俺は結構な時間ユグドラシルに強いイメージを送って、俺専用のオリジナル魔法を創ってもらった。


「授けるのはたった1つなのにやたらと時間を掛けましたね。どんなものを得たのですか? フム、【魔法創造】ですか? オリジナル魔法を創りだせる魔法ってところですかね。なかなか良いのではないですか。面白いです」


 え~!? いいのかよ!? アラジンの魔法のランプの魔神さんでも、願いを増やすのはダメって先に明言してるのに! これって相当なインチキだよね? 俺1個じゃなくてどんどんスキル増やしちゃうよ?


「それではこれからあなたを、3日前の暗殺事故時の彼の体に転生させます。楽しんできてくださいね」

「はい、せっかくなので目一杯楽しんできます♪ 行ってきます!」




 俺は再度光に包まれ、異世界に転生するのだった。




『はぁ……騙すようなマネをしてごめんなさい。でも、あなたに協力してもらわないと、この世界はもう駄目なのです。本当にごめんなさい』




 誰も居なくなった部屋で、女神アリアがそっとつぶやくのだった。


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 お読みくださりありがとうございます。


 本作品は第3回カクヨムWeb小説コンテストにて特別賞を頂き、2019年2月20日にファンタジア文庫様から書籍販売されることになりました。

 2019/10/19日 3巻発売です。


 イラストレーターは人気絵師のNardack様です。忙しい中キャラデザしてくださりました。



 書籍版は全年齢対象になって、かなり本作と違っています。もう別物です。

 ぜひお手に取ってみてください!

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