3-85 虫系の魔獣は見た目だけでもおっかないです

 休憩を終え、30階の階層ボスに挑む。


「あっ! お兄ちゃん外れだ……カマキリ強いから止めよう!」


 エリー、ボス戦は一度入って扉が閉まったら途中退室できないんだよ。

 エリーが見ただけで逃げ腰になっているのは、超おっかない顔をしたカマキリが相手だからだ。【キラーマンティス】という体高3mほどの大きなカマキリで、鋭利なノコギリ状の鎌のような腕をしている。Cランクの魔獣でかなり強く、ランダムで湧く30階層ボスの中では最強に位置するらしい。


 それ以外にも【ホイールワーム】という30cmくらいの虫の魔獣がカマキリの側に2匹いる。この魔獣はそれほど強くはないのだが、防御力がやたらと高い。この魔獣……ダンゴムシの魔獣なのだけど、丸まって凄い勢いで転がり体当たりをしてくる。丸まるとバレーボールくらいの大きさになるのだが、外殻がとても固い。腹側が柔らかく弱点らしいが、そう簡単に弱点は晒さないので、倒すのに苦労するそうだ。


 でかい危険なカマキリの鎌にばかり気を取られていたら、いきなり後ろからズドンっとハンマーで殴られたかと思うほどの衝撃がくるのだ。



 ここはルルにも活躍してもらおうかな。


「ルル、カマキリの足元を凍らせて!」

「はい!」


 指示をだすと凄く嬉しそうに返事をしてきた。

 ルルはカリーナをおんぶしたままなのだけど、補助道具の杖なしでも魔法発動はスムーズだ。


 ルルがカマキリを足止めしたのを見計らって、俺は【ホイールワーム】を凍らせる。

 普通なら動きが速いので、弓や魔法などの遠距離攻撃で仕留めるのは難しい魔獣なのだが、俺には【ホーミング】機能があるのであっという間に凍らせて倒すことができた。


 未だカマキリは、ルルに足元を地面ごと凍らされて身動きが取れないでいる。


「リューク様、このまま私が魔法で仕留めても良いでしょうか?」


 本来【キラーマンティス】はレベル30前後の者が3人以上で挑む魔獣なのだけど、俺に良いところを見せたいのか、ルルはやる気満々だ。


「そのまま倒せそうなら、ルルに任せる」


 ルルは止めの魔法に、上級魔法の【ファイアガボール】を選んだようだ。


 少し長めの呪文を唱えた後、カマキリめがけて劫火を放つ。

 見事胴体に当たり、轟音とともに魔法が爆発したカマキリは、ジュ~ッという音と香ばしい匂いをさせて燃え上がり、5秒ほど大暴れをして息絶えた。


 死体が煙となって消えた後に、大きな宝箱がドロップする。


「リューク様、どうでしたでしょうか?」

「凍らせてから火の攻撃は、常套手段で悪くはないよ」


「……悪くはないということは、もっと良い方法があったということですか?」


 少し不満げにルルが聞いてくる。


「そうだね……虫系は冷属性攻撃でかなり動きを鈍らせることができるよね。そして火にも弱くて、殆どの虫系魔獣は火耐性を持っていないので簡単に燃やせるよね?」


「はい。聖騎士たちの指導でもそう習いました」

「うん。でも火魔法は威力は凄いのだけど、周りにも被害や影響を及ぼしやすいんだよね。特に虫系は致命傷を負ってからもしぶとく暴れるから、完全に絶命して動かなくなるまで気が抜けないんだよ。で、さっきのカマキリも5秒ぐらい火が付いたまま暴れてたでしょ?」


「はい……凄く暴れていました」


「今回は大丈夫だったけど、あれくらい高威力の火魔法を放つと、せっかく凍らせて足止めした足元が溶ける可能性があるんだよね。もしそうなったら、火の粉を撒き散らしながらこっちに向かってきていたかもしれない。それと、羽持ちは中の薄羽が凄く燃えやすいから、羽をひらいて暴れられたら、周りに火の粉の熱風を降り注ぐ可能性もあるよね?」


「はい……確かにそうですね。ごめんなさい……」

「ルル、謝る必要はないよ……勘違いしたらいけない。さっきのルルの攻撃も間違ってないんだよ。周りに人も居ないし、一撃で倒せる自信があったから、上級魔法の火属性を選んで放ったんだよね? 別にそれで良いんだよ。只、さっきのカマキリには分かり易いくらいの弱点があるでしょ。せっかく足止めまで成功しているのだから、其処をついた方が正解でしょ?」


「カマキリの細い首でしょうか?」

「正解。もうあの場所から動けなくしてあるのだから、良く狙ってカッター系の魔法で仕留めれば、万が一暴れても、周りに被害を及ぼさないですむでしょ? それに上級じゃなくても、あの細い首なら中級魔法の【アクアラカッター】か【ウインダラカッター】で簡単に頭を落とせるはずだよ」


「はい、確かにそれが魔力節約にもなってベストな倒し方のようです」

「まぁ、事後での『たら、れば』の話は誰でもできるから、あくまで参考程度にね。実際の戦闘で冷静に状況判断するのは難しいことだから、常套手段の攻撃をするのが間違いないからね。それより、宝箱がドロップしたから見てみよう。子供たちが早く見たそうにソワソワしてるよ」



 宝箱だが、普通の装飾の少ない鉄の宝箱のようだ。

 宝箱はカマキリが消えた場所の地面に固定化されていて、蓋の開閉以外はできないし、そこから移動もできないようだ。中には魔石が3個とカマキリの鎌が2本、そして【ホイールワーム】の固い外殻が2個入っていた。 全て出し終えると、宝箱は魔獣が消える時と同じように煙になって消えてしまった……実に不思議だ。



「お兄ちゃん、今回のドロップは普通だね……」


 10階と20階のボスの時は、現物がそのままドロップして、宝箱に入っていなかった。


「エリー、宝箱に入っている時とそうでないときの違いってなに?」

「私もよく知らないけど……宝箱が出るのはボス戦の時だけで、宝箱がでるのは30階のボスからだよ。それと宝箱にランクがあって、黒>金>銀>鉄>木の5種類がこれまで確認されているそうだよ。私も初めて見たけど、たぶんさっきのは鉄の宝箱だよね?」


「そうだね。多分さっきのは鉄の宝箱だね」


『……マスター、FA/LA判定があるので、その人の幸運値が反映されます』


 FA(ファーストアタック)最初に攻撃した人、LA(ラストアタック)最後に止めを刺した人……つまり今回どっちもルルが行ったのでルルの影響が大きかったということか。


『ルルの幸運値が普通てことか?』

『……いえ、ルルの幸運値は一般人と比べたらかなり高いです。マスターが幸運値とは別に、神々の祝福を得まくっているので、おかしなドロップ率になっているのです』


『アリアの恩恵を受けてるのか?』

『……アリア様の恩恵はルルも得ています……どちらかというと、創主様が下さった祝福の影響かと……』


『創主の爺さんか……凄そうだな。なら次回から、ボス戦は俺が止めを刺して有難く恩恵を受けるかな』

『……それが宜しいかと』



「エリー、この虫の殻って売れるのかな?」

「お兄ちゃん、本当に知らないの? それ、冒険者の中では凄く人気あるんだよ」


 これが? ……普通のダンゴ虫を大きくして、鉄のように固くしただけにしか見えないのだが。


「リューク様、【ホイールワーム】は軽い割に固くて丈夫、しかも曲げ伸ばしの可動域が大きいので、そのまま加工して肘当てや膝当て、脛当てなどの防具に使われます」


 そういえば、ローラースケートやスケボーとかやってる子たちが肘や膝に着けてる防具に似ている。


「へ~、人気あるのか」

「そうだよお兄ちゃん。特に膝当ては人気あるんだよ。膝に弓を受けたら、冒険者として再起できないからね。でもそれがあったら、矢なんか弾いちゃうんだよ。そのサイズなら膝当てにできるから、とっても高く売れるよ」


 サイズが合えば加工してエリーにプレゼントしてあげてもいいのだが、これは少し大きいな。

 31階から下でも時々出るそうだから、何か防具に出来そうな物がドロップした時にでも、この子たちの装備のことは考えるとするか。


『……マスター! スタンプボアの革装備なんかどうでしょう? それなら今ある素材で作製可能です。成長期の子供にドラゴン装備は勿体ないですし、スタンプボアの革装備でも、実力を考えれば高価過ぎるモノです』


『そうだな、子供はすぐサイズが合わなくなるんだよな。アジャスターを付けて、多少調整できる仕様にして作ってあげてくれるか?』


『……はい、お任せください。では、すぐに制作に掛かりますね』




 子供たちの防具はナビーに任せて、俺たちはどんどん下る……。

 31階からはオークやゴブリンは出なくなり、虫系の魔獣が沢山増えた。




 34階で洞窟エリアを走っているときに蜘蛛の巣に掛かってしまう。

 俺は先頭を走っていたので、モロに引っかかってしまったのだ。


 ネバネバで気持ち悪い……。


「リューク様、大丈夫ですか?」

「お兄ちゃんでも、失敗するんだね?」


「「ご主人様が、ミスした……」」


 俺が蜘蛛の巣に掛かった直後に襲ってきた【ストリングスパイダー】という蜘蛛の魔獣は、ルルが凍魔法で瞬殺してくれましたよ……自分でも魔法で倒せたのだが、糸に絡まった状態ではちょっと情けない。


 蜘蛛の魔獣は正直カマキリより怖かったな……俺、蜘蛛はGより苦手だ。


 何か居るのはMAPで分かっていたのだけど、MAPでの赤反応は10mほど先だったんだよね。

 まさか、角を曲がって直ぐの所に通路を塞ぐように蜘蛛の巣が張られていたとは……。


 蜘蛛の巣は罠扱いされていなかったようで、MAPに表示されていなかったのだ。かなりの速度で走っていたため、角を曲がってすぐだったので止まりきれず突っ込んでしまったのだ。




『ナビーちゃん? ここに巣が張ってあるの……キミ、知っていたよね?』

『……はい! マスターが引っかかるかどうか、ドキドキでした! 見事に引っかかってくれました!』


 こいつ、なんで嬉しそうなんだよ!


『あっ! お前、なに動画で記録してるんだよ! 俺にこんな恥ずかしい醜態動画を強制的に網膜上に映して見せんな!』


『……後でサリエたちに見せてあげるのです! 皆、きっと喜びます! 良いものが録れました!』

『マジ止めてください……』



「お兄ちゃん、大きな糸玉が落ちてるよ!」


 エリーがドロップを発見して騒いでいる。今回ルルが倒したから【自動獲得】が働いてなかったんだね。

 直径50cmほどで、糸がグルグルに巻かれた糸の玉だな。


『……マスター、それ、ナビーにください! インナーや下着、ワンピースの素材にも最適です』


 蜘蛛の巣って、粘着性の強い糸と、全く粘着性のない2種類の糸で張られているんだよね。確か蜘蛛は粘着性のない糸の部分を伝って移動するんだったよな? そして、この高級糸はその粘着性のない糸だ。シルク以上のサラッとした柔らかな手触りと伸縮性の強い糸は、生地にすると太陽光で虹色にうっすら輝くそうだ。


 下着か……フィリアたちに、日本製の高級下着を着させてあげたいな。


「うん。ナビーにあげるから、後よろしく」



 またナビーに丸投げだが、可愛い下着は楽しみだ。

 下着のデザインは、俺がしようかな……折角【デザイナー】という職業スキルを持っているのだしね。


 ミーニャには黒のレースとか似合いそうだし、サーシャには白のガーターとか良いかも!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る