3-27 アリアは色々考えているようです

 アリアがなにやらコソコソやっているが、ナビーが面白がってちょっと様子を見たいと言うので放置してある。


「正直ローレル家は皆善良なので、私も気にはなっていましたが、今回リュークさんの為に利用させてもらいます」

「利用ですか。アリア様はどういうお考えなのです? 兄様を悪用なさるのですか?」


「悪用なんて言い方しないでください。すぐにでも国を出る気でいる彼を少しの間でもローレル姉妹を利用して学園に引き止めることができるはずです」


「あ~そういうことですか。情とはそういう意味なのですね?」

「そうですよ。リュークさんを悪用など考えていません。ですが今の彼なら即日で解決してしまうでしょう。そこで、次はナナの班員でもあるレイリアさんを利用します。この案件は凄く厄介ですので1カ月はリュークさんでも時間を有するでしょう」


「ツェペル家の息女に問題があるのですか?」

「ゼノ、彼女に何一つ問題はないです。むしろリュークの嫁の1人にしたいくらい良い子です」


「女神アリアがお認めになるほどの娘ですか? 私が動いて第二夫人候補にしても宜しいでしょうか?」

「お父様! 何をおっしゃっているのですか! そんなのはダメです!」


「ナナの言うとおり、親の決める縁談にリュークさんは興味ありません。むしろ嫌悪さえ抱いています。だから先程ゼヨにあれほど反発したのです」


 この意見にはゼヨが噛み付いた。


「ですが、アリア様。貴族として生まれたからには貴族としての責任がございます」

「ゼヨ、それはあなたの国王的考えであって、リュークの考えに反するものです。思想そのものが違うのですから、相容れることはないでしょう」


「理想論だけでは政(まつりごと)は収められません。貴族の婚姻は大事な政治の一環なのです」


「あはは、笑止。あなたが女を利用しなければ内政ができないだけで、実の娘を道具扱いしてやっと保てるというのなら、それはあなたが無能だからです。リュークなら女を利用することなく、外交も内政もやり遂げるでしょう」


「うっ……無能ですか。私だって可愛い娘たちに好きな恋愛をさせてあげたいです。いい訳ですが相手は暗部で徹底的に調べ上げた最上の男しか宛がっていないのですよ」


「本当に下らない言い訳です。現にあなたの長女は今現在、毎日死を望んでいるほど不幸ではないですか」

「エッ!? どういうことでしょう!?」


「確かにお相手は良い男で彼女もそれに不満はないようですが、結婚後1年、未だ子ができず周りからのプレッシャーにかなり参ってるようですね。それと旦那が下手すぎてそれもかなりのストレスの要因になっています。下手なのに彼女を想って朝晩毎日求めてくるのも問題ですね。早く子を授けて楽にしてやろうという意思は彼女に伝わっているのですが、なにせ下手糞。自分だけさっさと達して中途半端に行為を終えられるので毎日不完全燃焼。つまらない毎日に死を望み始めています。今回特別にこのような助言をしましたが、夫婦のプライベートなことですし、彼にとっては皆の前で大恥をかくことになりました。ここだけの秘密にしてくださいね」


 アリアのヤツなんてことバラすんだ! 俺が旦那さんなら、ちょっと許せない暴露話だ!


「そんな……娘のアーリヤがそんなことで苦しんでいるとは思いもよらなかった」


「それに次女も今現在凄く苦しんでいるのですよ」

「エッ!? ククリが? 私には何も言ってきてないですが?」


「言わせないように強要して躾けたからでしょ。彼女はそこにいる親衛隊のジルのことが大好きなのですよ。ジルも時々声を掛けてくれる第二王女のことが大好きだけど身分違い。口にすることもできずに、叶わぬ恋として誰にも言わず諦めているようです」


「そうなのかジル!」

「滅相もないです国王様! 私のような下級貴族がお相手など、あってはならない話です」


「ふ~ん、ジルは女神の私が嘘を言っていると言うのかな? あなたたちの為に言ってあげてるのになぁ~」

「いえ! 決してそのようなことは……」


「ジル、はっきり致せ!」

「はい、申し訳ありません! すれ違う度にお声を掛けて下さるククリ殿下をお慕いいたしてはおりますが、叶わぬ恋と思っております」


「ゼヨが用意したお相手も、文句のない良い男だとは思いますが、それはあくまで第三者視点。彼女の望まぬ御相手など不幸としか言いようがないでしょう。諦めて結婚しても心には常にジルのことが残ったままになるでしょうね」


「俺はどうすればよいのだ……2人の娘が思い悩んでいるとは思ってもいなかった」


「プリシラもです。3人です、ですよねプリシラ?」

「エッ!? あ、はい! 私はリュークお兄様以外とは嫌です。我が儘なのは分かっていますが、嫌なものは嫌です! お父様を捨ててでも、リュークお兄様にどこまでも着いて行きます!」


 ゼヨは困った顔をして、どうしたらいいのか考えているが全く答えが出そうにないみたいだ。



「そこでです! 私に良い案があります! 長女の件はリュークが解決してくれるでしょう。彼が持っているジェネラルの睾丸を錬金錬成することで、ある精力剤ができます。その特性にオークの種族特性の生まれる子供は9割以上男児という特性があるので、それを利用すると良いでしょう。あと、旦那の方にはリュークの持っている【性技】というスキルがあるのでお願いすると良いでしょう。詳しくは言えませんので、私から頼んであげます」


「リュークにお願いすれば、解決するのですね?」


「そうです。ですが、色々やっても国を出て行くリュークさんを止められないでしょう。なのでここは彼に新たな国を隣に造ってもらいましょう」


「「「エッ!? 建国ですか!」」」


 あまりにぶっ飛んだ意見にナナでさえ皆とハモッてしまった。


「リュークさんがこの国を出て行くなら、他国に使徒が流れるのは許容できないとし、隣国に自国を建国するのを条件に出すのです。条件を飲まなければ家族に責が及ぶとかでよいでしょう。そしてプリシラを友好国の親善の証として嫁に出すのです。で、ジルの家格が問題なのであればジルをその国に出しなさい、ジルは三男です、問題ないでしょう。新たな国の建国です役職は幾らでも増設できます。親衛隊長として伯爵位くらいで十分でしょう。ククリを降嫁なさい」


「あの!? リュークを国王になさるおつもりですか!?」

「そうです。守る国民ができたのなら、彼は全力で守ってくれるでしょう。少し強引ですが、彼は情に訴えるのが一番効果的なのです。ナナも勿論そこのお妃になれるように算段しますので、協力してくださいね」



『……あ! ナナが落ちました……アリア様にのせられるなんて情けない娘。マスターの国王姿と自分がその側でお妃になったのを想像してしまったようです』


「待ってくださいアリア様、いくらなんでも国王とは……」


「何もおかしな話ではないでしょう? 国王の兄弟が公爵となり、近隣で開拓を行ってるうちに王城のある王都より力を付けてしまい、体裁的に属国として建国するという事例は幾らでもあります」


「ですが……」


「何もこの国にメリットがないわけではありません。建国の場所は古竜住まう例のデルタ地帯。この国が塩を手に入れるチャンスですよ?」


「彼の地は10カ国が狙っていますが、どの国も悉く失敗しております。我が国も過去に4度攻めていますが、古竜と水竜に壊滅させられて、もう80年ほど放置しています。20年前に沿岸3国が我が国に塩を手に入れさせないようにと同盟を結んで攻めたのですが壊滅。10年前には我が国と同じく塩を求めてエルフ国が大部隊を引き攣れて侵攻したのですが、1/5を失って逃げ帰っています。一番最近では8年前にエルフ国を笑って塩と鉱山を求めて立ち上がったドワーフ国が、1/3を失って遁走しています」


「あの古竜は表皮がミスリルでできている特殊上位種ですからね。有象無象が幾ら集まって攻めても傷一つ与えられないでしょう」


「リュークなら、古竜や水竜に勝てるとおっしゃるのですか?」

「3秒です! もう彼に敵う者などいないのです……なのに私に協力してくれないのです。その気になってくれさえすれば敵などいないというのに……」



 塩はこの国の悲願なのだ。この国では僅かな岩塩が採れるだけで、9割を隣国の沿岸国から仕入れている。沿岸国は塩害で作物が育ちにくいという弊害があり、逆に食料の3割をこの国から仕入れている状態だ。


 沿岸国は農地を、この国は塩を巡って何度も戦争を起こしている。今も国境付近では小さな小競り合いが頻繁に起こっている。


 圧倒的にこちらの国が大きいのだが、こちらから侵攻した場合には沿岸三国が一時的に同盟を結び、塩が手に入ってしまい作物の取引が不利になるのを恐れ、結託して阻止してくるのだ。


 かといって同盟を組んでこの国に攻め込んでくることもない。どの国もこの国から食料を輸入しているのだ。本格的な戦争になれば、輸入分が全面カットされてしまい戦争に使う兵糧が賄えないのだ。




 もう我慢ならない! ゼヨ伯父さんがその気になってしまっている!


 古竜を倒してもらえるなら、資金援助をして同盟国を建ててもらい、安価で塩を輸出してもらった方が将来的に良いからだ。



「フィリア、ごめんね。もう置いて行くとかそんな話は一切しない。だから今日のことは許してね」

「私こそ、色々ごめんなさい。思春期の男子の性欲のことはお茶会の時に話題になって知っていたのに……ごめんなさい」


「いや、性欲とかは別にいいんだ。俺のことを好いてくれてるかが不安だっただけだから」

「そうですわよね。3人も美しい娼婦を囲ってらっしゃるんですもの、今更性処理にわたくしなど必要ありませんよね!」


 あうっ、やっぱサーシャたちのこと怒ってたのね。



「その件はまた後で話そう。ちょっと国王たちの所に行ってくる」

「わたくしも行きますわ。凄く恥ずかしいけど……一緒に行きます」


「ん、私も行く」



 さて、アリアの奴どうしてくれよう!



 【魔法創造】

 1、【ゴッドハンド】

 2、・対アリア用魔法

   ・思念体である神を、手に魔力を薄く纏うことによって触れるようになる

   ・触覚を有する

 3、イメージ

 4、【魔法創造】発動



 【魔法創造】

 1、【ボールギャグ】

 2、・口枷を嵌めると大きな声が出せない

   ・【魔枷】と同様の効果がある

   ・女神の言霊を封じる 

 3、イメージ

 4、【魔法創造】発動



『……マスター! お待ちください! アリア様の件なのですがちょっとナビーに考えがあります』

『分かった。後で聞くから、とりあえず俺の好きにさせてくれ! アリアの奴、もう我慢ならん!』


『……分かりました。あまり酷いことはなさらないでくださいね。アリア様も民を思ってのことです。駄女神だけど、ボソッ……』



 めんどくさい国政など真っ平ごめんだ!

 我慢の限界で、謁見の間に突入するのだった。

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