3-28 悪い子にはお仕置きです

 アリアの一方的な押しつけに、俺は我慢の限界だった。

 こそこそと父様と伯父様にアプローチをかけて取り込もうとしているのも気に入らない。


 周りから取り込んで俺に足枷を付けているのだ。アリアが介入して意図的にそう仕向けようとしている。ナビーがいなかったらコロッと騙されていた。


 それが気に入らない……。


 俺が守りたいと思うよう仕向けられるのと、自分から守りたいから守るのでは全然違ってくる。アリアの意思が介入するのが腹立たしいのだ。


 ローレル姉妹を助けようとナビーが提案してくるのはいい。そこに何の打算的要素はない。

 ナビー曰く、可愛い娘を助けてあげて姉妹の笑顔で俺もナビーも満足、不安要素がなくなった姉妹も満足で、いいこと尽くめなのだそうだ。家出中の盗賊退治の時にナビーと話して概ねその意見には賛同できるから、早急に対処しようと決めたのだ。女の子の笑顔は良いものだ、ご馳走様だ。


 だがあの駄女神の奴は、その情を利用しようとぬかしやがった! 何が慈愛のアリア様だ! ただのペテン師じゃないか!



 ドアを蹴破る勢いで開け放ち、アリアの元に歩み寄る。

 既に【魔糸】は放ってある。


「ヒャッ! なに? 今のなに!? なんかイヤな感じだった!」


 手と足を拘束するのに【魔糸】を2本放ったのだが、なぜかヒラッと躱された。


『ナビー! あいつ気配すら感じないはずの【魔糸】を回避したぞ!?』

『……おそらく第六感、シックスセンスってやつですね。マスターのただならぬ気配に反応したのでしょう。駄女神の癖に大したものです。でも、おかげで【魔糸】も完璧でないことが判明しました。以後、神クラスの者には躱される可能性があると頭に留め置いてください』


『そうだな。だが感心してる場合じゃないぞ、どうする?』

『……物量には勝てないでしょう。あ! 危険を察知して早々に神域に逃げ帰ろうと考えてます!』


 逃がしてなるものかと俺の出せる限界【魔糸】100本全て放った!


「あ! リュークさん違うのです!」

「何が違うんだ? 俺はまだ何も言ってないぞ?」


 【魔糸】100本でMPをかなり使ったが、ぎりぎり逃走寸前だったアリアの捕縛に成功した!

 ふぅ、もう少しで神域に逃げ込まれるところだった。俺は神域には行けないのだ。どこにあるのか、どういうものなのかが解らないと神域に転移するようなオリジナル魔法は、ナビー補正を使ってもイメージ不足で創れないのだ。


 そうだ! この際アリアにマーキングしてみるか。

 アリアが神界に戻った時に、マーキング指定で転移すれば行けるんじゃないか?


『……残念ながらできませんでした。生身で神界に行くのは危険だと判断されたようです。どのみち次元転移するにはMPが全然足らないかと』

『なるほど……そういえば俺が行った時は思念体だったね』


「ア・リ・アちゃん……どこ行こうとしてるのかな? 僕のお話はこれからですよ~」

「どうして? この部屋には【ブラインド】魔法がかかっていたのに……」


「爺さんは、俺に何もしなくていいって言ったよね? お前にも何もするなって言わなかったっけ?」

「リュークさん……どこまで聞いてました?」


「全部だ! 最初から全部だ!」


「ヒッ! 違うのです! これはあなたにとっても、この国にとっても良い事なア~いたいでしゅ!」

「この口か! この口がほざくのか~!」


 俺はスキル【ゴッドハンド】を使ってみた。

 【魔糸】でアリアを触れるなら、手の平に魔力の膜を薄く張ったら触れないかと考えたのだが、どうやら上手くいったようだ。


 アリアのほっぺを結構本気で左右に引っ張ってやったのだ。

 実体がないのに、アリアのホッペはやわやわで気持ちが良かった。


 だが許さん!


「にゃんで~どうしゅてしゃわれるの~」

「何言ってるのか分からん! うるさいから黙ってろ! さてどうしてくれよう……」


「ごめんなしゃい! いたいでしゅ……」

「わざと痛くしてるんだから、そりゃ痛いだろ?」


「あぅ~」


「で、なんでまたちょっかいを出してきた?」


 ほっぺを引っ張ってる指を離してやる……さて、なんと答えるかな?


「皆が幸せになれる案を提供しようと思いまし ア~~ア~!」


 俺はしゃべってるアリアの口を塞いだ。


 【ボールギャグ】新しく創ったスキルで、今のところアリアの為だけの専用口枷だ。口にボールの玉を銜えさせて舌を噛んだり、大声を出せないようにするための口の拘束具の一種だ。


「ア~! ア~! アハ~!」


 アリアが何か言っているが、ア~~としか言えない。

 口が閉じられないから、『い』や『う』などの発音ができないのだ。 


 可愛い顔立ちをしているだけにちょっと笑える!


 この口枷、銜える玉は空洞になっていて所々に穴を開けて呼吸ができるように空気穴を開けてある。

 でも大きく口を開けた状態なので、唾が飲めない。下手に俯くとその空気穴から涎がダラダラと垂れてしまう。



 アリアの奴、まだ言い訳しようとしている……。


「リューク様! 何をしてらっしゃるのですか!?」


 皆はあまりの俺の暴挙にあっけにとられて呆けてたが、フィリアが真っ先に理性を取り戻した。


「ん、リューク様ダメ! そのお方は女神アリア様!」


 サリエも我に返ったようで慌てて止めに入ってきた。


「勿論知ってるよ……だからお仕置きしてるんだよ。言っても解らない悪い子はお仕置きしなきゃね。皆も邪魔しないで見ててね」


 【魔法創造】

 1、【ケツバット】

 2、・対アリア用神武器

   ・【魔糸】の応用でバットのような形にする

   ・中は空洞にして硬さはプラスチックバット程度の硬さにする

   ・怪我するようなダメージは自動制御する

   ・『バコッ』っといい音が出る

 3、イメージ

 4、【魔法創造】発動



 「【ケツバット】発動……ふふふ、良い出来だ」


 俺はわざとらしく素振りをしてみせる。


 他の人には分からないだろうが、今の素振りだけでアリアには今から俺がやろうとしていることが理解できたようだ。


 なにせ前回お尻ペンペンの鞭打ち刑に遭っているからね。


「さぁアリアちゃんのお仕置きの時間だ♪」


 アリアは首をぶんぶん振ってイヤイヤしてるが、今回は許さん。


「あ~~! あ~!」


 前回同様【魔糸】で強制的に跪かして、ワンちゃんスタイルにする。

 流石にお尻ペロンチョは勘弁してやろう。


「まずはイチローの振り子打法だ!」


 バコッ!


 凄い音がした!



「あああ~~!!」


 あれ? ちょっと痛すぎる? すごくアリアが跳ねた。


『ナビー、どうなの? やり過ぎ?』

『……前回の鞭打ちより少しだけ痛いようですが、所詮子供のおもちゃのプラバットです。音の割には大丈夫ですので、後で前回のようにヒールで良いのでは?』


 ナビーの大丈夫だ宣言を受け、再開する。


「次は王さんの一本足打法!」


 バチコッ!


 あ、もろ入った。今のはホームラン確定だ!


 アリアがシクシク泣き出した……ちょっと気が咎める。う~ん、でもまだダメだな。


 2発じゃ絶対こいつまた何かしてくる。3発めを構えたとき父様が止めに入ってきた。


「リュークお前なんて罰当たりな! あまりな暴挙に俺も我を忘れて傍観してしまったではないか! 止めぬか! ばか者! 女神様になんて恐れ多いことを! アリア様うちの愚息が申し訳ありません!」


「父様、なに第三者的に止めているのですか? 父様も勿論お仕置きですよ。褒美をくれると呼び出しておいてナナを泣かせて、フィリアにも無茶なことを言って心労を与えて、許されるとは思ってないですよね?」


 フィリアに関しては人のこと言えないのだが、フィリアには後で誠心誠意謝って許してもらうつもりだ。


 即効でアリアと同じ格好をさせ【ボールギャグ】も付けてアリアの横に並べた。



 バチコッ!


「アア~!!」


「父様どうですか? 少しは反省しています? 僕が子供のころに2度ほど悪戯をしてお尻ペンペンしましたよね? あれ結構痛かったのを覚えていますよ……それ!」


 バコッ!


「アッ~!」


 父様はイヤイヤしてるが、アリアのように可愛くない……。


 バコッ!


「ハァー!」


 アリアと父様を交互にバットでシバキ倒す。


 なにやら気配を感じ、ふと目が止まった先に白い小さなねずみが居て転げまわっている?


 【魔糸】を飛ばして捕まえたのだが……。


『……創主の爺さんだろ? ネズミじゃないよね?』

『なんで分かったのじゃ!』


「【ブラインド】で見えないから、ねずみに化けて見にきたのか?」

『ふむ、流石に儂が顕現するのはまずかろ?』


 白鼠をそっと下ろしてやる。

 そしてまた叩こうとすると……。


『まだ気が済まぬのか? もうよかろう?』

「だけど、前回ぐらいの罰でもこいつ全然懲りてないんだぞ?」


『幾らやってもアリアは変わらぬぞ。そやつは己の身が傷つこうが厭わないだろうな。自分の為にやっているのではないからのぅ。全ては世の他、人の為、生物の為、この世界の為じゃ』


「自分の為じゃない……」


 爺さんの言うことはいつも心に響く。


 確かに俺にちょっかいを出してアリア個人が得をするわけではない。この世界を憂い、義務感のようなもので動いているのだろう。だげど尻拭いをさせられる俺の身にもなれってんだ。


 器が小さい? 矮小? 餓鬼? 何とでも言え! 騙し、半強制的にこの世界に縛り、理不尽に最愛の娘と引き離された。この世界で地球人は俺1人だけだ。下手に45歳と歳食ってる分、リューク君より向こうの世界にしがらみがあるんだ。娯楽溢れるあちらの世界で15歳の少年が目を輝かせるのと違い。こっちの世界は魔法以外は中世レベル……ネトゲ廃人とかだと3日で発狂するだろう。


『ふむ……まぁ、好きにするとよい。儂は只の傍観者じゃ。前にも言ったが好きにやってよいのじゃぞ?』



『……マスター、もうある程度お気も済んだでしょう? ナビーの提案を聞いてください』

『そういえばさっき考えがあるとか、何か言いかけてたな?』


 どうやらナビーに提案があるようだ。俺にとってナビー先生の意見は最重要事項だ。


 さっきはアリアにぶち切れて後に回したが、凄く気になる。

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