3-29 ナビーはアリアの提案に賛成のようです

 ナビーは何か言いたいことがあるようだ。凄く気になる……。


 別に怪我とかはないのだがアリアと父様に回復魔法をかけてやる。


「アリア、ちょっとは反省してるか?」


 激しくうんうんと頷いているが、どうも嘘くさい。


「なんか嘘くさい……」

「あ~! あ~」


 首をフリフリして否定してるけど、う~ん。


「父様は?」

「あ~!」


 激しく頷いている、でもなんかアリアと違って可愛くないのでイラッとした。

 2人を並べて開放する前にちょっと意地悪をする。



「いつまでもこうやって拘束してても仕方がないですし、父様はこれで開放、アリアはもうちょっと様子見かな。その前に……レモン・お酢・グレープフルーツ……」


「「あ~!!」」


「ひゃはは! よし記念撮影だ! 2人とも今度やったらこの動画ばら撒くよ! 父様は予想以上に見苦しいですね……アリアは各神殿に配布したら信者が喜ぶんじゃない?」


 口枷をした状態で、酸っぱい物を連想させて、涎ダラダラ状態にして恥ずかしい動画を撮ったのだ。


『リューク、お主これは酷いの……』

『こんなのまだ序の口です、次やったら……ごにょごにょ……』


 俺は爺さんねずみの耳元で囁いた。


『なっ! なんて邪悪な……アリアよ、リュークはこれでも随分手加減しているようじゃ。次ちょっかい出したらちょっと人前では言えないような事態になるぞ……悪いことは言わぬ、もうこれっきりで止めておけ』


 アリアは俺と爺さんを交互に見て頷いて了承した。



 仕方がないので父様とアリアの拘束を解いてやる。気付けばいつの間にか、白いねずみも居なくなっている。俺とサリエに気配を察知させないとは、さすが創主様ってとこか。


「リュークさん! 今回のは酷いです! もうお嫁にいけない!」

「何が嫁だ! 見た目だけはフィリアとタメ張れるけど、そんな相手お前には無縁だと思え! お前みたいな性悪女、相手が可哀想だ!」


「酷い! あんまりです」


 なぜかアリアはあれほど流してたのに涎で汚れてない。

 父様は見るに耐えないので【クリーン】を掛けておく。


「リューク、親に向かって何てことするのだ!」

「親だからそのくらいのお仕置きで済んだんでしょ。さて、今回の主犯をどうしましょうかね……」


 国王のゼヨ伯父様がビクッとしたのが分かった。


「リューク、俺もやっぱりあの棒で叩かれるのか?」


「流石に国王をシバキ倒すと一生暗部に狙われそうなので、別のペナルティーを与えます。元々プリシラ救出の褒賞のために呼んだのでしょ? 罰として宝物庫を漁って行きます」


「まて! そう易々と貴重な武器や防具を渡すわけにはゆかぬ!」


「そのような物は要りませんが、伯父様に拒否権はないです。持って行くものは魔石と鉱石です。王家の宝物庫です。竜の魔石もありますよね? オリハルコンやアダマンタイト、ブラックメタルやミスリルもあれば持っていきます」


「なんだ? レジェンド武器を持っていくのではないのか? ドラゴンの魔石は15個ほどあったかな……国でいえば年に何個か入手できるので、魔石と鉱石なら別に構わんぞ」


「え? 良いのですか?」

「ああ、今回のは俺も反省している。すまなかった……ナナ、フィリア、2人も許してほしい。ちょっとリュークを試すだけのつもりだったのだが、欲を出してしまった」


「ゼヨ伯父様の意見の方が公爵家の令嬢の取るべき勤めとしては正しいのでしょう。でも伯父様、申し訳ありません。兄様意外と結婚させられるくらいなら死んだほうがましです」


「そうか、もうお前にそういう話は持ってゆかぬから安心しろ」

「ありがとうございます、伯父様」


「国王様、わたくしのような下級士族の娘に、第二王子殿下との婚姻話など有難く勿体ないお話なのですが、わたくしはもうリューク様としか結婚致す気はないのです。申し訳ありません。それに、このお話はもう両家で了承済み、そこに割り込むなどゼノ様とリューク様のお顔を潰す行為です。リューク様がわたくしのような下級士族なら問題ないのでしょうが、仮にも公爵家……もしゼノ様もこの話を賛成だというのならわたくしは悲しいですけど」


「いや、俺はこの話には一切関係ない。そこのゼクスもさっき兄上に従弟妹が久しぶりに顔を見せるからと呼ばれただけだ。決して何も言わず立っていろと言われていたので、ゼクスも何も言えなかったのだ」


「ゼクス兄様も伯父様の被害者だったのですか……」

「そうだぞリューク。確かにフィリア嬢のことは可愛いとは思っているが、お前たちが好き合ってるのを知っているのに、それを強引に奪っても俺がフィリア嬢に愛されて幸せになれるか? 強引に結婚しても、恨まれて邪険にされるのが落ちだろ? 俺はゼノ叔父さんのように奪った挙句惚れさせて見せる、みたいな気概はないよ」



 ゼクス君もゼヨ伯父様の被害者か……。


「仕方ないですね。気分的には国庫のお宝を全部掻っ攫って、城に【ナパームボム】を一発お見舞いして国外逃亡したいところですが、魔石と鉱石で矛を収めましょう」


「【ナパームボム】とはどういう魔法だ? なんか邪悪な響きだが。だが魔石全部はちと多いだろ? 何個かにしろ」


 確かにドラゴンの魔石ともなると1個数億ジェニーの価値がある。火竜の魔石ともなると利用価値が高く5億ジェニーは下らない。聖竜や闇竜など希少種は更に値が跳ね上がる。



「伯父様に拒否権はないのですが、確かに竜石類はかなりの高額。ほいほい渡せるものではないでしょうから、これと交換にしましょう」


 俺はインベントリから銀色の指輪を取り出した。


「指輪か? 竜の魔石以上の価値があるものなどそうはないぞ?」


「これはもうすぐ誕生日のサリエのプレゼントに、婚約指輪の意味も兼ねて用意していたものなのですが、付与に【毒無効】【精神攻撃耐性(強)】【魔法耐性】【自動サイズ調整】が付いてます。王族なら毒と精神攻撃は一番警戒するべきものですよね? その心配がなくなるのではないですか? 毒見させなくても、毒なんか平気なので、毒見に回して冷めたものじゃなく、あったかいうちに食べられますよ」


「【毒無効】!? それは本当か? 【毒耐性】の物は今も装着しているが、【毒無効】など聞いたこともないぞ!?」


 ゼヨ伯父様が興奮気味だが、サリエが俺の側にそっとやってきて、俺の裾を引っ張っている。


「どうしたサリエ?」


『……また鈍いことを……婚約指輪にと自分用に用意してもらったものがゼヨに渡ろうとしているのですよ、心中穏やかなわけないでしょう?』


『うっ、そりゃそうだ……ナビーありがとう、俺の配慮が足りなかったな』


「ああ、サリエ。この指輪よりもっと良い物があるので、サリエにはそれをプレゼントするから、大丈夫だよ」

「ん、ほんと?」


「ああ、サリエが嬉し泣きする位の良い物だ。期待していいぞ」

「ん、分かった! 期待してる」


 どうやら、この指輪を手放すことに了承してくれたようだ。


「リューク、ちょっと待っていろ」




 どうやら鑑定士を呼んだようだ。すぐにやってきて、鑑定が始まった。


「国王様! この指輪はどこのダンジョンボスのドロップですか!?」

「そこの甥っ子が持ってきたものだ。それより鑑定結果はどうなのだ?」


「あ、はい取り乱して申し訳ありません。素材はミスリル鋼95%・鋼5%で、ミスリルの純度はかなり高いですがよくあるミスリルの指輪です。ですが、付いている付与が【毒無効】【精神攻撃耐性(強)】【魔法耐性】【自動サイズ調整】と、どれをとってもレジェンド級の付与でございます! このような物に値は付けられません! 売り物なら言い値で何としてでも手に入れておくべきです。二度と市場に出るようなことはないでしょう」


「では聞くが、城の宝物庫にある竜の魔石15個と交換となった場合、それほどの価値がこの指輪にあると思うか?」


「竜の魔石など何個でもくれてあげなさいませ。確かに竜の魔石も貴重なものですが、魔獣は死ねばどこかでまた生まれるようになっています。以後手に入らない物ではございません。ですがこの指輪は間違いなく今後出回るような物ではないです。正直噂すら聞いたこともない付与が2つも付いているのです。危険な隣国との会談でも、これを所持していれば、そうそう暗殺などされることはないでしょう」


「よし! リューク、交渉成立だ! 魔石はあるだけ持っていけ!」

「あの、この神級の指輪をどこのダンジョンボスがドロップしたのかお教えくださいませぬか?」


「ああ、それは女神アリア様がくれたものです」

「え!? 私はそのようなものアー!」


「誰がしゃべっていいって言った! アリアはそれ銜えて黙ってろ」



 サリエが指輪の価値に驚き、残念そうな雰囲気を出しているので【念話】でフォローしておく。


『サリエ、あれはドロップ品じゃないからね。俺が付与魔法で付与を付けた物だから、何個でもまた作れるんだ。サリエにはミスリルじゃなくてブラックメタルで黒くてかっこいい指輪をプレゼントするよ。ミスリルはありきたりでやっぱり駄目だ、サリエには黒が似合うと思う』


『ん、安心した! 楽しみに待ってる』



 鑑定士も去り、魔石の交渉は済んだ。

 指輪は先に渡してあげた。王家の家宝にして、代々国王になる者に受け継がすとのことだ。



「さて、ナビー、お前の話を聞こう」

『……はい。ナビーなりに調べてみました。結論から先に言いますと、アリア様の建国案にナビーも賛成です』


「なっ! お前もか! この裏切り者!」

『……ナビーは決してマスターを裏切るようなことはありません。それはご存知なはずです。一見裏切り行為に見えてもそれはマスターにとって最善なことです』


「まぁ、そうなんだけど……俺はめんどうなことはやらない!」

『……それがそもそも間違いです。後の面倒事を減らすために、今多少の労力を出し惜しみしてはいけません』


「後々の為だと言うのか?」

『……そうです。マスターがどこの国に行っても目立つのは仕方がないのです。【インベントリ】一つをとっても災いの元です。ならば誰にも文句を言わせないようにするには自分の国を造るのがもっとも安全かつ確実です。統治が面倒なら代官をおけばよいのです。国ですので宰相をおいて、その者に任せればいいです。不正などはナビーが監視いたしますので、問題ないです。後、この案はアリア様のお出しになった案ですので……そうですね……サリエの寿命の500年ほど、国に最上級の加護を付けさせてはどうでしょう? 豊穣と安寧、希望の場所に温泉なども良いのではないですか?』


 う~ん、ナビーが言うとなんか良い物にも思えてきた。


「でもな~そうなると色々やらないといけないだろ?」

『……ローレル姉妹の件もありますし、マームもいます。自分から誘ったのですから、ちゃんと育ててあげないと可哀想ですよ? すぐに国を出なくても、夏休みとか休みの度に赴いて建国地を趣味的に開拓してみてはどうですか? ナビーは凄く興味があります。各属性の竜も一杯要るので、サリエとドラゴン狩りなどしても楽しいのではないですか? ドラゴンテールは最高に美味しいそうですし、ナビーも食べてみたいです』


 ナビーは夏休みを利用して開拓すれば良いと言う。堅苦しく考えないで、領地育成ゲームと思えばいいそうだ。


 少し興味が沸いてきた……。

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