3-26 アリアはやはり駄女神でした
フィリアはサリエにしがみついて5分ほどシクシクやっていたのだが、個人香効果で落ち着いたのか、急に顔を上げ俺をキッと睨んできた。
そして、凄まじい殺気と共に質問してきた。念話じゃなく、ちょっと低めの肉声でだ。
「そういえば、サリエちゃんと婚約って? わたくし、何も聞いていないのですが?」
うゎ~フィリアのマジ怒りとかあんまり見たことなかったけど怖え~。
正規の婚約者に何も相談せず、他の娘と勝手に婚約してたのだ……そりゃ怒るよな。
サリエは頭のすぐ上でのフィリアの殺気を孕んだ肉声にビクッとしてフィリアから離脱しようとしたが、フィリアに両腕でがっしりとホールドされて逃げられないよう捕まってしまった。
サリエから助けてオーラがこっちにきたが、ちょっと俺も今のフィリアは怖い! 許せサリエ! 暫くお前の個人香で、フィリアの怒りを少しでも抑えてくれ! だが、お前とのことは認めてもらうよう頑張る!
降臨して全てを見れなくなったアリアにも分かるように念話で話してたが、もういいだろう。大事なことだから自分の口で直接伝えたい。誤解は解けた、後はお互いどう歩み寄るかだ。
「念話はもう止めるね。サリエにはフィリアに『ドンッ』されてした家出から帰ってきたその日に、俺の方からプロポーズをしたんだ」
俺を突き放したことを思い出したのか、フィリアの顔が歪んだ。この際、全て本心で思っていることを語った方がよい。
サリエへの想いを真摯にフィリアに聞かすのだった。
「リューク様、幼女趣味とかではないのですね?」
「違うよ! 誤解だよ! サリエに性的興奮を覚えたことはまだ一度もないよ!」
「ん、2人とも凄く失礼! もうすぐ16歳になるレディに対して酷い暴言!」
「あぅ、違うのサリエちゃん! ごめんなさい」
「俺は謝らない。サリエのことはまだ性的に興奮しないけど、凄く可愛いとは思ってる。俺がサリエを好きなのは、容姿だけじゃなくて内面の可愛さなんだ。サリエのおかげでどれだけ俺が救われたことか……」
「正直最近のリューク様とサリエちゃんの仲の良さに嫉妬していました。どこに行くにもいつも一緒で……さっきロベルト様のことに嫉妬していたリューク様のお気持ちも今なら少し分かります。わたくしはそんなことも気付かず、リューク様にお買い物に行った話や、移動の際の護衛で守っていただいたことを嬉しそうに聞かせていたのですね。今更ながら嫌な女です」
『……余談ですが、ロベルトをフィリアに付けていたのはフォレストの神父です。ロベルトは神父の弟の子で甥っ子にあたります。ロベルトが初顔合わせの際にフィリアに一目惚れしたのに気付いた神父は、ロベルトに可能性が僅かにでも出るようにと思い、よくフィリアの護衛に付けたようです。公爵家の婚約者にロベルトからは手出しできませんが、フィリアの方から惚れたのなら可能性が少しは出てきますからね。まぁ、可愛い女の娘の近くに居られるだけでも嬉しいだろうと、甥っ子贔屓した神父の伯父心です』
「ん、あの神父様は良い人! リューク様ごめんなさい! 悪意はない筈!」
「そうです! 皆に慕われているいい神父様です!」
神父のことをよく知っている2人が必死で庇ってきた。
「ナビー、お前の不用意な発言で、また皆が誤解しているだろ! 2人とも、俺は別に怒ってないよ」
『……ナビーは事実のみを言ったまでです。神父が良い人なのは当たり前のことです。神に選定され、神託によって選ばれた人しか神父には成れないのですから。でも神父が良かれと思ってやったことで、マスターが思い煩われたのも事実。凄く腹立たしいです……』
「なるほどね。確かに神父が余計な気を起こさなければ、俺がしなくてもいい嫉妬をすることもなかったよね」
「もう、ロベルト様に関わらないように致します! 神父様には何も言わないでくださいまし」
「ロベルトはフィリアの友人なのだろ? そんな簡単にもう関わらないとか言うものじゃないよ。友人と思っていたのに言われた方は凄くショックだぞ?」
「リューク様、それは理解できますが、公爵家とはそれほどの権力と威光があるのをお忘れなきように」
「ん、リューク様の不用意な発言で首が飛ぶ可能性もある」
その頃アリアの奴は、ゼヨ伯父さんと父様にあることを持ちかけていた。
「さて、リュークさんを上手く追い出せたので、ここに居る者たちに少し相談があるのです」
この部屋はアリアによって【ブラインド】魔法が掛けられている。なのになぜ今俺がアリアの会話をこうやって盗み見ているのか。
ナビーのお手柄である。
アリアのことを全く信用していないナビーは、先にナナを取り込んだのだ。
勿論アリアもナナを取り込むつもりでナナをここに残しているのだが、駄女神よりナビーの方が一枚上手のようだ。今現在ナビーはアリアが施している外部から視覚と聴覚情報を完全に隠す【ブラインド】魔法の内部から、ナナを経由して覗き見ている形だ。
「女神アリア様? 追い出すとは? うちの息子は何かいけないことにでも加担しているのでしょうか?」
「そういうのではないのです。回りくどいのはなしで言いますね。皆でリュークさんを使徒としてその気にさせてもらいたいのです」
「ん? どういうことです?」
「私は彼にあることをしてもらいたくて、崖から転落して死亡したのを生き返らせてあげたのです。正確には『仮死状態のままキープした』ですね。神でも死人は生き返らせません。ですが蘇生した彼は使徒と成ることを頑なに拒んでいるのです。私の話すら一切聞いてくれません……」
「兄様は、生まれながら水属性の加護があり、事故以前はアリア様のことをとても信仰しておりました。生き返らせてくれた時に拒絶するような何かがあったのではないですか?」
「流石はナナですね。リュークさんのことをよく分かってらっしゃる。どうしても使徒として行動してほしかった私は、彼を少し騙すような形になってしまったのです。詳しくは言えないのですが、本意ではなかったにしろ結果的にそうなってしまいました。それ以来彼は私を拒絶しています」
「アリア様は、兄様に拒絶されるほどの何かをなさったのですか?」
「はい。ですがこれだけは理解してほしいのです。心して聞いてください。リュークさんが協力してくれなければこの世界は滅びます。ゼノ王、自国がどうこう言っている場合ではないのです。全てが滅ぶのです」
「女神アリア様、それはどういった災いが起こるのでしょうか? 国どころか世界が滅ぶとは恐ろしい。リュークをどうするおつもりですか?」
「それはまだ言えません。言ってもよいのですが、ここで言うと、もしリュークさんに言ってしまったのがバレた時にどんな罰を与えられるか……とてもじゃないですけど怖くて言えません」
「あの……罰を与えるのは神の方であって、リュークじゃないですよね?」
「そのようなことはどうでもよいのです! とにかくリュークさんに使徒として動いて頂かないと世界は滅びるのです!」
「ですがアリア様、兄様にどうしてほしいのかちゃんと言ってくれないと、私たちも協力できませんよ?」
「それをこれから説明します。私がリュークさんにお願いしても、話すら聞いてもらえないのはもう理解しています。なので作戦を変えることにしました。具体的にいうと、あなたたちに対する情を利用させていただきます」
「情ですか?」
「ええ。私のお願いは聞いてもらえなくても、あなたたちを守りたいと思えば勝手に自分から戦地にでも行ってくれるだろうという結論に至りました」
「兄様なら、そうでしょうね。私たちが危険と知ったなら身を挺して庇ってくださることでしょう。ですがそういうことなら、この世界の主神であらせられるアリア様のお願いでも私は協力致しません」
「このままではあなたは、大事な妹としてリュークさんと添え遂げることなく一生を終えるでしょう」
「先ほど、兄様は私を国を出ることになっても連れて行ってくれるとおっしゃってくれました!」
「ええ、連れて行ってくれるでしょうね。ですが妹以上の関係には成れないでしょう。女神の名に懸けて宣誓します。あなたはこのままだと、連れて行ってもらった先で、フィリアとサリエがイチャイチャしてるのを側で見せつけられるだけの存在になるでしょう」
ナナは大泣きだ! 女神の宣誓は絶対、ナナの僅かな望みを打ち砕いたのだ。アリアの奴、残酷なことをする。
「あの、女神アリア様? 私共に何をお望みですか?」
「国王ゼヨがリュークさんを煽って怒らせたので、彼はこの煩わしい国を捨てて違う国に亡命する気のようです」
「それをなんとか女神様のお力で回避できないでしょうか?」
「何度も言うように、私の言は一切聞いてもらえないのです」
「ではどうなされるので?」
「彼は今幾つか問題を抱えています。これはナナにも関わってくることです。まず先にそれを解決してもらうよう説得します」
「それはどういう問題なのでしょう? 私も伯父として国王として全力でサポートいたします」
「あなたは何もしないでください。問題というのはローレル姉妹の実家のことが1つ目。これはゼノが少しは知っていますよね?」
「はい。現在不運にも川の氾濫で農地が荒れ、結構な額の借金で堤防整備を行っているようですね」
「ええ、それなのですが、意図的な悪意で起こった人災です。災害なのですが、悪意からくる人災と言った方がよいでしょう」
「え!? そうなのですか!?」
「あなたは今は知る必要ないです。リュークさんが既にその気になっているので、必ず何とかしてくれるでしょう」
「凄く気になるのですが! 教えては頂けないのですか!?」
「リュークさんに解決させることに意味があるのです。暗部を使ったりして場を濁さないようにしてくださいね。ゼヨにも言っておきますよ。この件はリュークさんに解決させることに意義があるのですから」
はぁ~、アリアの奴何を企んでいるのやら……。
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