3-71 パッチン留めは人気商品になりそうです
授業終了後、御爺様の家に来ている。
何故だか、王城の馬車が止まっていて、御爺様との話が終えたら城に来て欲しいと使いの者に言われる。
犯人は親父だった。
本来父様たちは俺とナナの入学式の為に王都に来ていたのだが、俺の建国の為に王都に駐在して色々手配をしてくれているようだ。
御爺様の家に居候しているうちの親父が、御爺様と俺のメールのやり取りを見ていて、伯父である現国王のゼヨ伯父様に俺が夕刻に来ると知らせたために、伯父様がここに迎えを寄こしたみたいだ。
「お父様どういうことですか? 僕の許可もなく勝手なことばかりして……」
「そう言うな。竜討伐まで、後1月半しかないので急ぎで俺も兄上も各部署に声を掛けて奔走しているのだ。現状報告と討伐後のお前との摺合せを早めにしておきたいそうだ」
「言っておきますが、伯父様やお父様に甘い汁は吸わせませんからね!」
「エッ!? こんなに頑張っているのにか!?」
「父親が子供の為に頑張るのは当たり前でしょう! そこに利権を求めようとする浅ましさが嫌なのです! 塩の利権は我が国が独占しますから、父様たちにはちゃんと買っていただきます」
「せめてフォレスト領が賄える分くらいはくれないかな~なんて……チラッ」
「全然可愛くないですね! むしろおっさんのチラッなんてキモいわ!」
「フォフォフォッ、リュークや、本当にフォレスト領にも一切サービス無しで売るのか?」
「ええ、身内贔屓は良くないです。まぁ、格安にはするつもりです。ですが、まだ稼働もしていない塩の話なんかしても皮算用ですよ。実際現地に行って、どれくらいの塩が精製できるか調査してからです。製塩する為の砂浜や塩田が造れる立地がなければ、格段に精製量が減ってしまいますからね」
「お前……使徒になってから凄いな。父さん、色々びっくりだ……」
実は彼の地はナビーが選んだ場所なのだ……勿論砂浜も潮流を利用し、干満で海水を引き込んで塩田で天日で蒸発させる候補地もある。
塩の精製法も4種類ぐらい考えてあるが、大量に精製できるようになるのは3年後くらいだろう。初期の塩田では塩分濃度が低すぎて、1年は海水を引き込み、天日で水分を乾かす地道な作業が暫くいるのだ。
「僕の知識と言うより神の恩恵ですね……これだけは言っておきますが、なんでもこの国に頼っていたら伯父様に良い様に食い物にされるだけですよ。その為に人員の件しかお願いしていないのですから。その人員もできるだけ御爺様の人脈から集めた方が良いです」
「それは分かっているつもりだよ……」
本当かよ……あの時の王城での件以来、父様には不信感が拭えない。
親父は放っておいて、御爺様と実のある話をしよう。
「御爺様、ちょっと御爺様の所の若い女の子の使用人を何名か呼んでもらえますか?出来れば仕事を頑張っている可愛い娘で、御爺様がご褒美をあげても良いかなって思える娘が良いですね」
「リュークや、呼ぶのは良いが、うちの使用人には手を出すでないぞ?」
「御爺様……そういうのではありません。新たな商品を作ったので、そのモデルになってもらうのです」
パッチンの髪留めを3名の女子に着けてやる……確かに御爺様が呼んだ子たちは真面目そうな可愛い子だ。
「従来のヘアピンと違い、多少動いても外れにくくできています。一度に押さえる髪の量も見ての通りヘアピンより多く押さえる事ができます。今着けてる物のようにワンポイントの飾りを付けても良いし、飾りをなくし黒く塗って目立たない様にしても良いでしょう。ワンポイントに付けるデザイン次第で、色々な年齢層の方に着けてもらえるかと思います。今回は猫・犬・竜・四つ葉・バラと5つ飾り部分を作ってみました」
「フム……髪飾りとしても使えるのか……原価はどれくらいで出来るのかの?」
「無地で元の素材にするものだと、鉄の合金製の一番安価な物で@20ジェニーくらいです。貴族用にはミスリルや銀製品なども宜しいかと考えています。ワンポイントの飾りが凝ったモノや宝石類にすると高く販売もできるでしょう。普通の髪飾りより落としにくくなるので、付与魔術で動きの激しい冒険者たちが好む付与を付けて付加価値を高めるのも有用でしょうね」
「@20ジェニーとは差利益が良いのぅ……ちなみにこの子たちが今付けている素材は何でできているのだ?」
「元は僕の嫁たちへのプレゼント品でしたので、錆びない様にミスリルを10%程混ぜています。今君たちが選んで着けているモノは、君たちにプレゼントだ」
「「「キャー! リューク様、ありがとうございます!」」」
まだ売られていない、しかもミスリル入りの可愛い髪飾りが貰えると聞いて、うら若き乙女たちは大歓喜だ。
「これ、あまりうちの使用人を甘やかすでない……」
それを聞いた乙女たちはがっかり顔だ。
「じゃが、この子たちはいつも頑張って仕事に励んでくれてるからのぅ……リュークがくれると言っておるのじゃから、有難く貰っておきなさい」
「「「はい! 大旦那様! ありがとうございます!」」」
流石御爺様……俺だけに感謝させるのではなく、日頃の行いを褒めてから自分の言も絡めてからあげるとか、勿体つけるあたり商人魂まるだしだな……同じあげるのでも、感謝対象が二名になった上に、日頃の労をねぎらう事で、彼女たちからすればちゃんと見てくれていると思えて嬉しいものだ……良い勉強になるな。
彼女たちが退室した後、例の50音表を取り出す。
「50音表じゃな? それをどうするのじゃ?」
「表に仮名とカタカナ、裏に九九表を書いています。今現在貴族にしか普及してないでしょ? 木板に焼印でプレスすれば、凄く格安で販売できると思います。貴族にはこのようにミスリルを混ぜて高級感を出すのも良いでしょう。商人の丁稚たちに配布して早く文字を学習させるのにも適しているのではないでしょうか?」
「そういえば確かに販売されていないな……基本、貴族や商人しか文字を学習していないから、親や教育係の者が文字を教えるのが通例になっているしのう。髪留めよりはあまり儲けにはなりそうにないが、これもそれなりに利は有りそうじゃの……」
髪留めほど喰いついてこなかった……。
髪留めは間違いなく売れると、御爺様の鼻息が荒い。
髪留が売れる予感はある……現にさっき渡した髪留めをめぐって、店の方でちょっとした騒ぎになっている。
さっきの娘たちが見せびらかしたので、貰えなかった娘たちが僻んで騒いでいるようだ。
「商標登録が終えるまで、あの子らの口を塞がねばならぬの……困った子らじゃ」
技術を盗まれ、先に商標登録されてしまったら意味がないのだ。登録が終えるまで、秘匿する必要があったようだ。
早々に彼女たちから一旦取り上げ、御爺様が数日預かることになった。取り上げられ涙目だったが、商標の盗難も有り得ると説明し理解してもらう。
それから前回の冷蔵庫やトイレの話になる。
「この二つはできれば販売を遅らせて、僕の国からの輸出品にしたいのですが可能ですか?」
「そうじゃの……一家に一台は売れそうだし。莫大な利益に成るじゃろうな……リュークの国の目玉品に成るはずじゃ。この国で売って税を払うより、孫のお前に利益をだしてやりたいの……じゃが、向こうで生産ラインを立ち上げるとなったら、早くても2年以上先になるじゃろうの……その期間が勿体ない気がするのじゃが……」
殆どの国が消費税の様なモノなので、利益のあった国で税を払う必要があるのだ。
この国で製造し、この国で販売したら、俺の下には僅かな特許料しか入って来ないのだ。
「7月半ばには建国発表を各国に伝え、招待状を送ります。8月27日の日曜に各国の首脳を招待しますので、その時についでにトイレと冷蔵庫を輸出品として売り込もうと思います。僕の国の製造ラインが完成するまでは、王都の方で製造してその分は伯父様に還元しましょう」
「リューク……建国発表は城を建造しなきゃできないぞ。城を建造してその発表を持って、3国以上の国に認められてからやっと建国の内定が神よりなされるのだからな。小規模な城でもそれなりに人と時間と金が要るのだぞ」
お父様がそう言いながら憐れんだ目で俺を見てくる。無知な子供がほざいてる風に思ってるんだろうな……。
「お父様……何当たり前のことを言っているのですか? もう城の方は、ある場所で7割ほど完成しています。どちらかと言うと内装の方に手古摺りそうなので、もう少し完成したら御爺様に一度見て頂いて、装飾品の手配をお願いできますか?」
「リュークよ、どういう事じゃ? ある場所とかじゃダメじゃぞ? ちゃんと彼の地に建てないと意味なかろう?」
「僕のオリジナル魔法で、違う場所で建てた城でも任意の場所に大規模召喚できるのです」
「「なっ!? 城をか!?」」
これには二人とも驚いたようだ……ごめんなさい嘘です。
実際は召喚ではなく、ただ俺の重量無制限の亜空間倉庫内から出し入れしているだけです。
俺の亜空間倉庫が質量無制限というのを秘匿する為についた嘘なのだ。
「そういうことなら、婆さんにも頼むかの。儂より婆さんの方が目利きができるのでな。王家に相応しいモノを選んでくれるじゃろう。完成後、部屋ごとに合った調度品を揃えた方が良いからのぅ」
特許申請は御爺様名義と言っておいたのに、全部俺名義で登録してあるらしい。
『老い先短い儂だと、すぐ死んで権利が自由になってしまうではないか』という事らしい。
それなら、以降の申請はサリエ名義にしようかな……と考えるのは当然だ。
だが、最長50年という縛りがあるそうだから、あまり意味はなさそうだ。
俺の世界の独占禁止法よりは開発者に優しい仕様だな。
ハァ……気が重いが、伯父様に会いに行くか。
夕飯まで準備していると言われたら、流石に断りにくいしね。
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