3-66 ローレル家より緊張しました
サリエと今ログハウスの初風呂で、お風呂の出来栄えを検証中だ。
玄関の裏面に位置する浴槽部はログハウスから出っ張っていて、180度天井も含めてガラス張りだ。ガラスだが、外からは見えない特殊ガラス仕様だ。
リモコン操作で、内部から外を見えたり見えなかったりもできる。照明や、シャワー等の設備も、全て魔石を使って開発した魔道具だ。
このお風呂の湯船にはジャグジー2箇所と、打たせ湯2本が設置してある。ジャグジーは腰・太もも・ふくらはぎ・足の裏に当たる様にしてあり、その状態で肩に打たせ湯を落とせるようにした。
「ん~! リューク様~、これ気持ち良い~!」
「ああ、良い感じだ~。サウナは今日は止めておくね……鍛冶場で散々汗掻いたから、これ以上は脱水状態になりかねない」
「ん、また一緒に入る。次回のお楽しみ」
脱衣所には、マッサージ台を2台置いている。
フィリアやナナにも【ボディースキャン】【アクアフロー】【細胞治療】を教え込むつもりでいる。
「じゃあサリエ、マッサージ頼むね。流石に鍛冶仕事は疲れた」
「ん、任せて!」
サリエのマッサージ技術はヤバいレベルに達している。
「サリエ! もうちょっと手加減して! 気持ち良すぎて、今、気絶しそうになってた!」
そうなのだ……気絶しそうなほど気持ちが良いのだ。
サリエが小さな指で、ツボにピンポイントで刺さるよう押してくる。
一瞬鳥肌が立って、強烈な痛気持ち良い快楽が襲ってきた後、意識がフッと遠のくのだ。
「ふぅ~、さっきの鍛冶仕事の疲れが全部すっ飛んだ! ありがとうサリエ」
「ん、リューク様の為なら、毎日何時間でもできる」
嬉しい事を言ってくれる。
マッサージというものは、やってもらってる人は気持ち良いが、施術している人は結構な重労働なのだ。指は痛くなるし、何より退屈で面白くない……集中して持続するのが難しいのだ。
子供に肩もみをお願いすると、大抵が3分で止めてしまう。
仕事ととしてならともかく、相手を癒してやろうという気持ちがないと、15分以上はできないだろう。
サリエからは、気持ち良くして癒してやろうという気が、ヒシヒシと伝わってくるのだ。だから、回数を重ねるごとに、俺を気持ち良くさせようと技術進化を続けている。
さて、全快したことだし……トルトス師匠に会いに行きますかね。
サリエの養父であるトルトスさんは、俺たちフォレスト領の剣術指導をしてくれている人物だ。
トルトスさんの実家は男爵家だったのだが、その剣術の腕を買われて父様の代で子爵にとりたて、フォレスト領全ての剣術指導の任務を与えたのだ。
だが、彼は夫婦生活が10年経っても子供ができなかった。
折角子爵になったのに一代で取り潰しになるのは惜しいと、養子を探していたところに父様がサリエを神殿で見つけ、侍女候補も兼ねて養女にさせたのだ。
貴族の後継は普通男子が引き継ぐのが通例だが、才が認められれば、女当主も可能なのだ。カリナ隊長がそれにあたる人物だ。
トルトス夫妻は、最初はハーフエルフ……と戸惑っていたが、3日もしないうちにサリエにメロメロになって、実の娘のように可愛がってこの8年育ててきたのだ。
今日、婚約の了承を得るための訪問とは一切伝えてない。
夫妻は、サリエの誕生日なので俺が気を効かせて一時帰宅してくれたのだと思っているようだ。
ウ~~ッ、ローレル家の時は向こうが強引に話をすすめたので、何も気負うことはなかったが、今日はこちらからお願いする立場だし、トルトスさんは幼少時からフォレスト家の剣術指導をしてくれている俺たち兄弟の剣の師匠なのだ……流石に緊張する。
サリエの家に到着すると、夫妻は玄関先に出ていて待ってくれていたようだ。おそらくタイミングを計って、サリエがメールで知らせたんだな。
「リューク君、久しいな……2カ月前より何やら気配が鋭くなっているな。足運びも別人のようだが、この短期間に何があった?」
「あなた、剣術のお話はまた後で……リューク様、ようこそおいでくださいました。わざわざ高額な転移陣でサリエの為に里帰りして下さってありがとうございます」
神殿の転移陣は使ってないんだけどね……。
この世界の16歳の誕生日は、殆どの者が一時帰省をして成人の誕生日を家族で盛大に祝うのだ。それにしても、ちょっと見ただけで腕が上がってるって分かっちゃうんだな。
「ガネットさん、御無沙汰しております。サリエの誕生日もそうですが、今日はトルトス師匠にお願いがあって来ました」
「主人にお願いですか?」
ちょっと師匠のステータスが気になって【詳細鑑定】で覗いてみた。
「ん? リューク君、あまり人のステータスをこっそり覗くのは感心しないな……」
あらま! 初めて気づかれた! 流石だな……。
「師匠、流石ですね……初めて気づかれました。ごめんなさい」
「弟子の君なら、別に構わないのだが、こっそりやられると誰でも良い気はしないから、気を付けるように」
「はい、心得ました」
「ん、お義父様、お義母様、ただいま」
「お帰りサリエ! 16歳おめでとう!」
「おかえりなさい、サリエちゃん!」
あらま~、もうデレッデレな顔して、威厳も何もない別人のようだ……。
ちなみに師匠の種族レベルは73もあり、剣の熟練レベルは【剣神】Lv2だった。めっちゃ強いはずだ……この人、父様より全てのステータスが上だった。
年齢が37歳という事を考えれば、余程の修練をやってきたのだろう。長い期間ダンジョンに籠ってレベル上げとかもやったのかな。
丁度昼食時間だったのだが、夫人が豪華なモノを用意してくれていた。
「夕飯時までいられないそうなので、替わりにお昼を用意したよ。それと誕生日プレゼントなのだが……」
夫人が、小箱を持ってきてトルトスさんに手渡した。
「剣にしようかと思ったのだが、腕に見合っていないモノをあげてもサリエの為にならないし、前回侍女に選ばれた時にあげたモノもかなり良いモノだから、守護の付与が付いたネックレスを用意したよ」
それは、3カラットほどのエメラルドの埋まったネックレスだった。
付与に、【物理耐性】Lv3と【速度上昇】Lv1の効果が付いていた。
「サリエ、それ結構な品だよ……鑑定してみて御覧」
「ん? リューク様はもう見たの?」
「前にも教えただろ……常に警戒しろって。身内でも、こういうモノには無意識で掛けて見るくらいスムーズにこなさなきゃならないよ。俺の立場を考えたら、それくらいやってもらわなきゃいけない」
「ん、そうだった……今後はそうするね。エッ? 適正価格2600万ジェニー! お義父様! これ」
「これ、リューク君……護衛を兼ねていると言っても、こういう誕生日の品に本人の目の前で調べさせるのはどうかと思うぞ。後でこっそりやるのが礼儀だろ?」
「師匠の耳には僕の事情はまだ入ってないのですか?」
「あっ……そうだな。失念していた……噂は本当なんだね。今日はそのこともあって同行してきたのかな」
「はい、トルトスさん。僕は先日サリエにプロポーズしました。今日は婚約の了承を得るために訪問しました」
「「エッ? エエエエッッ!」」
夫婦で、驚いている。
まぁ、サリエはどう見ても10歳児だしね……ロリコン野郎でもない限り結婚とかまずないだろう。
「正直今のサリエに欲情することはないのですが、彼女の優しい癒しに絆されちゃいました。いずれ、誰もが手に入れたいと思うレディーに成長するでしょう。その前に僕が婚約し、娶る事にしました」
「君は、この国あげて彼の地の国王にしようとしている人物なのだぞ? 立場は分かっているのか?」
「勿論です。昨日父様にも会って了承していただきました」
「ん、怖かったけど、ゼノ様に認めてもらえた」
「素敵、サリエちゃん良かったね! 公爵家の御子息様と結婚できるなんて!」
「いや、ガネット……国家機密案件だったのでお前には言っていないが、噂が本当ならリューク君はもうすぐ国王に成るんだよ。しかも、この国の属国ではなく、ちゃんとした独立国の国王だ……サリエはそこの王妃になるということだ」
『……ゼノの方から建国の件は相談があったようです。建国の際には良い人材を紹介して欲しいと、領内の若手の剣術指導にあたっているトルトスに声を掛けたようですね』
『成程ね……師匠なら弟子の中に三男より下の者にも知り合いが多そうだよね』
「まぁ、素敵! 御妃様になるのね。サリエちゃんなら、きっと可愛い御妃になれるわ」
「サリエは妾ではなく、第三夫人の側室として向え入れる予定ですので、そうなるとウォーレル家の後継問題が生じます」
「あなた……」
「ああ、分かっている。うちのことは気にしなくて良い。サリエが幸せに成ってくれるなら何の問題もない」
師匠カッコいい! そんな師匠に、選択権を与えよう!
「ん、お義父様ありがとう!」
「サリエ……何か忘れてないか? まぁ良いか……トルトスさんに、2つ提案があります。1つは、俺とサリエに子供が出来た時に、その子を、ウォーレル家に養子に出す案。でも、これは子供に悲しい思いをさせるし、王家の後継問題にも関わってくるので、お勧めしません。もう1つの案は、ガネットさんに、今から子供を産んでもらう案。こっちの方が、夫妻からすれば実子だし、年齢的にも夫人は36歳でまだ、十分可能な範囲です」
「でも、我々には子供は授からないんだよ……どの医者や神父様に診てもらっても分からないそうだ」
「ん、【ボディースキャン】があった!」
「サリエが、診察してみる? 分からなかったら教えてあげるよ?」
「ん、私がお義母様を診る! 恩返しができるかも!」
「それじゃあ、俺が師匠を診させてもらうね」
不妊の原因は2つ……夫婦両方にあった。
師匠は子種が薄いのだ……片方は機能してなく、もう片方も精子の作りが悪く、一般人の1/10000の数しか活発な精子が作られていなかったのだ。
夫人の方は子宮筋腫……アーリヤ姉さんと同じ症状だな。
卵巣から、卵管を下って子宮まで排卵日に卵子が下りてくるのだが、途中が大きくなった筋腫で圧迫され狭くなってしまった場所で引っかかってしまい、受精がこれまで上手くできなかったのだ。そして運よく受精できたとしても、大きな筋腫が邪魔をして、受精卵が子宮に着床できずに流れてしまっていたのだ。
子宮筋腫自体は珍しいものではない。なにせ30代以上の日本人女性の1/3が発症して持っているモノらしい。まぁ実際筋腫が大きくなりすぎたり、悪さをする場所にできるかは運次第な面もあるのだ……。
【細胞治療】でどちらも治療するとしよう。
「ん! リューク様……分からない」
先に治療を終えていた俺に、助けを求めてきた。
「何が分からないんだ?」
「ん、全部……」
まず、卵子、精子が理解できていなかった……目に見えないのだから分かるはずもないか。当然受精のシステムも理解していない。
ナビーが日本の保険体育の授業で流す性教育ビデオを、分かりやすく編集したものを作ってくれていたので、それをタブレットに流してサリエに見せた。
「ん、人も卵からだったんだね……」
鮭の産卵シーンや、色々な動物の性行為の仕方、植物のオシベとメシベのことまで簡潔に纏めてあった。
15分のビデオを見た後は、サリエ一人で治療できた。
「ガネット夫人の、子供が出来る可能性の高い日は、5日後ですね。師匠にこれを渡しておきます。オークの睾丸から作りだした秘薬です。オーク特性を利用しますので、9割の確率で男児が生まれます。女児が欲しい場合は、飲んじゃダメですよ。それと、ガネットさんが飲むと催淫効果と排卵誘発効果があるので、双子や三つ子の可能性もあります。子を作るか、サリエの子を養子にするか、他から新たに養子を探すか、選択は師匠に任せます」
「ガネット、俺はお前の子がやはり欲しい」
「はいあなた、わたくしも年甲斐もなく我が子は欲しいです。男児が欲しいので、そのお薬を頂きましょう」
「秘薬を使うのは4日後ですよ! 今飲んでも子はできませんからね! 4日後の16時頃に飲めば、丁度良いぐらいじゃないでしょうか。それで、肝心なサリエとの婚約の了承をまだ貰っていないのですが……」
「勿論文句などない。こちらとしては嬉しい限りだ。幸せにしてやってくれ」
「リューク様、サリエちゃんを宜しくお願いします」
夫妻からは、快く了承を得られた。
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