3-37 夜デートで癒されました
公園の噴水前に向かうとサーシャたちは既に着いていたようだが、何やら誰かと揉めているようだ。
あはは、どうやら冒険者パーティーにナンパされているみたいだ。
これは俺が悪かったな。超が付くほどの美少女4人がこんな目立つ場所で立っていたら、フリーの男たちがこぞって声を掛けるのは予想できたことだ。
いくらこの場所が待ち合わせに良く使われるからといって、彼女たちをこの場所に立たせるのはあまりに配慮が足らなかったようだ。
まぁ、所詮はナンパだ。お強いエルフのファリエルさんがいるのだし、そう問題にならないだろう。
遠巻きにニヤニヤしながら眺めていたら、コロンが俺を見つけて尻尾をブンブン振りながら近づいてきた。
「もう! リューク様、来ていたのならニヤニヤ見てないで助けてくださいよ!」
口調はちょっと怒っているのだが、尻尾が会えて嬉しいってブンブン振られている。やっぱ犬族は嘘が吐けないようで判り易くて良い。
他の皆も気付いてやって来た。
「リューク様、お久しぶりです……」
久しぶりってほどではないと思うのだが……黙って見ていたのを怒っているのかな?
『……もっと早く会いに来てほしかったという意味が込められているのですよ』
『そうか……それは悪いことをした』
「うん。色々忙しくってね。学園に通いながらだと、休日にしか用事を済ませられないから大変なんだ」
「そうでしたか……お忙しい中、立ち寄って頂いたのですね。ありがとうございます」
どうやら納得してもらえたようで、サーシャの口調も穏やかだ。まだ諦めていないのか、冒険者の5人組も付いて来た。
「おい! まだ俺たちの話の途中じゃないか! 待てよ!」
仕方ない……。
「お兄さんたち、しつこいのはモテないよ」
「なんだお前?」
「この娘たちの連れですよ」
「違います。私のご主人様です!」
「妾です!」
「ペットです!」
いやいやコロンちゃん? ペットは幾らなんでもなくない? 君、それで良いのか?
「あらあら、リューク様モテモテですね」
「ファリエルさん、随分顔色も良くなりましたね。体重もそこそこ戻りました?」
「おかげさまで凄く調子良いです! 体重はまだ36kgしかないのでもう少し頑張らないとですね」
「なに無視してやがる!」
「もう一度言いますが、しつこいのはモテないですよ? それと獣人族は鼻がとても利くのです。それほど臭いと近付いただけで嫌われちゃいますよ?」
「「すっごく臭い! こっちこないで!」」
うわーむっちゃストレートに言ったね。
ミーニャとコロンからすれば耐えられないレベルだろうし仕方ないな。
「んだと! この犬っころが!」
ムカついたのか、コロンに掴みかかろうとしたので、足を払ってその場に転がす。
「リューク様? ありがとう! でもこのぐらいの相手ならコロンの方が強いですよ?」
え? そうなの?
成程……強気なのはそれなりに自信があったんだね。
『……獣人族は種族的に強弱に拘ります。強いものに従属する性格も持ち合わせていますので、獣人族の王は強さを求められます。相手の強さを本能的に感じることができるので、この冒険者たちは自分より弱いと感じ取っているようですね。でも慢心は良くないです。少し注意してあげた方が良いですね』
他の4人も仲間の1人が転がされて少し殺気立つ。
「あの、止めておいた方がいいですよ? この方はこの地の領主様のご子息であらせられるリューク様です。公爵家のご子息に絡むと首が飛んじゃいますよ?」
「「「えっ!?」」」
「美少女ばかり4人も一般人が連れ歩けるとお思いですか?」
ファリエルさん……自分のことも含めて美少女って言っちゃったよ。
確かに見た目は凄い美少女なんだけど……確か47歳じゃなかったっけ?
ヒッ! 俺、何も口に出してないのにファリエルさんから凄い殺気がした!
流石純血エルフ様! この人、間違いなく強い。
「すみません! 御領主様の御子息とは……お許しください!」
「ああ、大丈夫だよ。気にしてないから。でもしつこい誘いは控えようね。それと風呂にちゃんと入ること。臭いのは獣人じゃなくても普通に女子からは嫌われるからね。身だしなみは大事だよ。特に獣人族の女の子を落としたいなら匂いは大事。ちょっとコロンおいで」
コロンを胸に抱くと、すぐクンクンしてきた。
「リューク様! 凄く良い匂いです!」
凄い勢いで尻尾が振られている。コロン可愛い!
「ほらね? 彼女は犬族だから特に匂いには敏感なんだよ。感情も尻尾で判り易いし」
「「「成程……参考になりました! ありがとうございます!」」」
「コロンばっかりずるいです!」
ミーニャも抱き着いてきて匂いを嗅ぎ始めた。
ミーニャの尻尾もゆっくり左右に振られていまにもゴロゴロ喉を鳴らしそうだ。ミーニャも可愛い!
「こら二人とも! リューク様がお優しいからと言って馴れ馴れしいですよ! 自分たちの立場を弁えなさい!」
「「あ! ごめんなさい!」」
「サーシャ、良いんだよ。変に気を張るな。じゃあ食事に行こうか」
「「「よし、今すぐ風呂に行こう!」」」
冒険者たちは今から風呂に行くようだ。公衆浴場がフォレストには数カ所あるんだから、そうするといい。臭いのはモテないからね。
おっと食事に行くその前に、注意はしておかないとね。
「この際聞くけど、ミーニャは強いの?」
「うん。さっきの人たちよりは強いよ。リューク様は強いのか弱いのかさえさっぱり分からないので却って怖い」
「二人ともなんとなく相手の強さが分かるんだと思うけど、それで判断するのはとても危険なことなんだよ? 本当に強い人ほど上手く気配を隠すんだからね?」
「「はーい!」」
『……どうもいまいち分かっていないようです』
俺は二人に向けて【将の威圧】をレベル3で放った。
「「ヒッ!」」
二人とも耳がピンと立ち、尻尾を股に隠すようにして縮こまってしまった。
「分かったかい? 強い人ほど気配を隠すのは上手いんだ。慢心はいけないよ?」
十分理解できたのかウンウンと激しく頷いている。
『……やり過ぎです。レベル3でもあれはかなりの威圧を感じるのです。獣人には酷なやつです。今の感じだと、もうマスターには絶対服従でしょうね……』
『そんなにか? 種族特性を考慮してやるべきだったか……まぁ、良いんじゃないか? もともと絶対服従な感じだったし』
『……恩で従順なのと、恐怖で服従なのは全く別物です。マスターは服従させたいのではないのでしょう?』
そりゃそうだ。でもこの娘たちなら問題ない、服従ではなく慕って付いて来てくれるだろう。だって可愛いから、ダダ甘に可愛がっちゃうもん!
少し豪華な貴族御用達のレストランに入り、豪勢な食事を振舞ってやる。好きなものを選ばせると遠慮しそうだったので無難にコース料理にした。
4人とも美味しそうに食べてくれて、見ているだけでほっこりした気分になれる。
こういう場で遠慮されると却って白けちゃうものだが、彼女たちは会話を楽しみつつ食べてくれる。この世界では静かに食べるのがマナーらしいが、会話くらいは問題ない。
「「リューク様、美味しいです!」」
「それは良かった。うん、美味しいね。これ兎かな? 香草で上手く臭みを消して、美味しく仕上げてるよね」
「はい、凄く美味しいです。このような高級なお店にも初めて入りました」
こういう店は一般人には敷居が高い。厳しいドレスコードこそないものの、さっきのような薄汚れた悪臭漂う冒険者は入り口で入店を拒否される。
最低限の常識ある装いをしていないと入店すらできないのだ。
今日の俺は冒険者仕様だが、入り口の案内人はちゃんと見る目があるようで、ちゃんと装備品でランクが判るようだ。剣1つとってもさっきの奴らの全員の総装備品より価値がある物だしね。
美味しい夕飯を食べ、とても満足してメイン通りを歩いている。
魔道具で照明をつけて店内を明るくし、まだ開いてる店舗もそれなりにあった。
ミーニャとコロンは外から中を覗いてはキャッキャと騒いでいる。
その二人の足が止まったのは、若者向きの服を売っている店舗の前だった。
「みんなちょっとおいで。これで好きな服を買っておいで。遠慮しないで全部使い切るんだよ」
そう言って皆に金貨を10枚づつ配る。
10万は与え過ぎだが、この世界の服は高額なのだ。
「「こんなに貰えないよ~」」
「遠慮するなと言っただろ? 獣人用の服はあまり置いてないだろうが、手直ししてもらって尻尾用の穴を開けてもらえばいいからね」
「私がそれくらいの手直しならできますので大丈夫です」
どうやら彼女たちが今着ている服もサーシャが手直ししてあげたようだ。
皆、凄く遠慮してたが、いざ買うとなったらとても嬉しそうに各自で体に当てたりして試着している。
ミーニャとコロンは夏用に綿のTシャツが欲しいようだ。
Tシャツはそれほど高くはないので何着買ってもまだ余裕がある。
「二人とも今履いてる靴が大分ヨレてるよね? 靴を買ったらどうかな?」
冒険者が履く靴はかなり高額だが、街履き用なら2万ほどでかなり良いものが買える。
俺の案でサーシャもファリエルさんも靴を買うようだ。
「サーシャ、そのワンピース似合うね! これから夏に向けて涼しげで良いと思うよ。薄い緑なのがとってもサーシャのイメージに合う」
褒めるととても嬉しそうにしてくれる。サーシャの耳が真っ赤になってて可愛い!
その後、ミーニャとコロンはTシャツに合うようなキュロットタイプのハーフパンツを2枚買っていた。
下着や靴下なども買ったが、最終的に皆2万ほど余ったようだ。
「夏用なので余っちゃったね。冬服なら足らないぐらいだったかもだけど。余った分はお小遣いにするといいから返さなくていいよ」
今日はアリアやゼヨ伯父様にかなりイラつかされたけど、最後に彼女たちに癒されて少し気分が良くなった。
ちょっとフィリアやサリエに申し訳ないという気もあるが、男の甲斐性として許してほしいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます