1-11 冒険者ギルドに行ってみました

 現在ギルドに向かうため街道を使って帰宅中なのだが、後ろから付いてくるサリエの視線を感じる。


「サリエ、何か聞きたいのだろう?」

「ん、でも教えてくれないのでしょ?」


「さっきの火魔法のこと?」

「ん、そう。資料にはリューク様は水>風>聖>雷ってなってた。水系の人は火魔法は苦手なはず。でもさっき中級魔法の高レベルを使った。これは凄くおかしいこと……」


「正直、今時点で僕はサリエのことをとても気に入ってる」

「ん、嬉しい。私も今日一日凄く楽しかった。私のこれまでの人生分、今日だけで喋ったかも」


「父様から無口な子だとは聞いてたけど……それほどとは。サリエは好印象だけど、でもまだ知り合って二日目だし全て話すのは躊躇っているんだ」


「ん、それは仕方のないこと。信用は積み重ねが大事」


 今の俺に遺伝的主属性とかいうのは関係ない。奪ったスキルにAPを振ることによって全て覚えられるからだ。最初の基礎となる初級魔法さえ手に入れればいいのだ。聖属性や闇属性のようにレアなスキルは、手に入らなければ似たようなものを創ればいい。



「ところで、コロニーがもう1つあるんだけどどうする? もう目的のレベルになったし、もう1カ所の方はジェネラルがいて結構大きなコロニーなんだよね」


「ん! ジェネラル!? 凄く美味しいってお義父様が言ってた!」

「そっちかよ!」


「ん、リューク様はどうしたいの?」

「今日一日でレベル21に上がったし、はっきり言ってもうサリエより強いしね。どっちでもいいかな」


「ん!? 私より強い?」

「嘘だと思う?」


「ん……レベル21……私より強い……?」


 種族レベルより技やスキルの熟練レベルの方が大事だと昨日自分で言っていたのに……。


「まぁ、そうだろうね。夕飯の後、少し話し合おうか」



 入門前に俺に敵意を向ける奴が近くにいないかMAPで確認する。

 俺なら間違いなく門の入り口で待ち伏せするのだが、地図上に反応はない。


 俺たちが街の外に出たことすら分かっていないのかもしれない。


「うーん、入り口で待ち伏せがあると思ったのにいないな……」

「ん! そんなことまで分かるの!?」


「ああ、凄いだろ? 僕の探索魔法はダンジョンでも凄いぞ。罠や宝箱の位置まで詳細に調べられるし、隠し部屋なんかも簡単に発見できる」


「ん! 夏休みにリューク様とダンジョン行きたい! 楽しそう!」

「そうだね。考えておくよ」


 俺もサリエとダンジョンに行きたいのはやまやまだが、流石にダンジョン攻略する時間は俺にはない。


「レベルが上がったおかげで敵も確実に発見できる。実はもう吹き矢を使った暗殺犯はさっき見つけたんだけどね」


「ん? どういうこと?」

「それも夕食後に教えるね」


「ん~、凄く気になる」

「あはは、ここじゃダメだよ。夕食後にね」



 ギルドに到着し、受付嬢がいるカウンターから順番待ちの木札を受け取る。番号が呼ばれればそこに行けばいいのだ。なんか銀行や役所みたいだ……。


 受付嬢は皆美人揃いだね。この時間は依頼を終えた冒険者が帰ってきて報告する時間でもあるため、結構混雑している。




 順番待ちの間に俺は見つけてしまった。


 猫耳娘だ!


 顔は普通の人間なのに耳が頭の上についてて音に反応してピコピコ動いている。尻尾もあってフルフル左右に揺れている。触りて~! クリッとした猫目の愛嬌のある顔をしている。


 他にも蜥蜴のような種族や犬族の獣人などがいた。残念ながら獣人の女性はあまりいないようだ。この国では獣人族の冒険者自体が少ない。獣人は獣人同士で国や村を形成しているからだ。この国にいる者は人族とのハーフや治安の良さから気に入って居ついた者、奴隷などで売られてきた者、要は少数派の者だ。


 俺はエルフが見たい……どこかにいないかな?

 ハーフのサリエは見たけど、1/4だしね。



 順番がきたので受付に向かう。


「こんにちは、今日はどのようなご用件でしょうか?」

「街の外で小規模のオークのコロニーを潰してきたのでそれの報告と、そのオークの解体と買取をお願いしたいのですが」


「ギルドカードの提示をお願いします。それとコロニーの規模と場所をお教えください」


 受付嬢にギルドカードを手渡す。


 リューク君はギルド登録していたので今回登録する必要はない。俺は初心者のブロンズカード、サリエはアイアンカードだ。


 ギルドカードにはランクがあって、ブロンズ<アイアン<シルバー<ゴールド<ブラックの順になっている。


 アイアンランクからシルバーランクに昇格するには、護衛依頼を3回以上しないといけない規則があるためにサリエはまだアイアンなのだそうだ。実力的にはゴールドクラスだと自分で言っているが、カリナ隊長に勝ち越せるのだ。おそらく事実だろう。


「これは……領主様のご子息でしたか。失礼しました」


 席を立ち深々と頭を下げ謝罪をしてくるが、別にこの娘は悪いことは何もしていない。

 受付嬢の態度で周りの視線を集めてしまう。


「悪目立ちするので止めてください。それにあなたは何も悪いことしてないでしょ? 頭を下げる必要はないです」

「公爵様のご子息を長時間待たせてしまいました。次からはお声を掛けてくださればすぐに職員が対処いたします」


「座ってください。そんなことする必要はないですよ。公務ではなく冒険者としてきているのです。皆と同じように普通に扱ってください」


「ですが……分かりました」


「コロニーですが、東門を出て街道を4キロほどの場所から北に1キロ入った場所にありました。崖の下の窪みが雨避けになっていた所をさらに掘って大きくしたのを巣にしていました。オークが30頭、ゴブリンが53、コボルドが13頭いて、ナイトが群れのリーダーでした。他の上位種はプリーストが2頭、ソルジャーが2頭、アーチャーが3頭ですね。コボルドとゴブリンはその場で魔石だけ抜いて焼却処分してきましたので、疫病やゾンビ化の心配もありません」


「はい、2人のギルドカードで確認できました。現在街のお肉が枯渇気味で大変ありがたいです。ここ最近街道でオークが何度か目撃されていたので、その可能性も危惧して探索依頼を出そうかと先日ギルド内で話があったところです」


「そうでしたか、それは丁度良かったですね」


「スライムやホーンラビットも倒されているようですが、この分も売ってくださるのでしょうか?」


「えーと、魔石は全部売りに出しますが、兎は解体済みで今晩の我が家の夕食になる予定です。売るのは魔石と毛皮ですね。オークの肉もナイトが全部で3頭いますが、ナイト1とプリースト1は解体後持って帰ります。売却金は全部サリエのカードの方に入れておいてください」


 サリエが会話中に俺の袖を引っ張ってくる。


「ん? どうしたサリエ?」

「ん、お金良いの?」


「ああ、僕は結構な額のお小遣いをもらっていて、貯金もあるからね。それに殆どサリエが狩ったんだし、遠慮はいらないよ」

「ん、ありがとう。良かったら私にオークを3頭分ほど譲ってほしい」


「一緒に食べるんだから、同じことだろ?」

「ん、違うの。孤児院にお肉を寄付したいの。お金も少し寄付していい?」


「ああ、そういうことか。ああ、勿論いいよ。3頭分でいいのか?」

「ん、街も足らないそうだし、3頭分でいい」


「上位種じゃなくていいの?」

「ん、お金にして寄付してあげた方が役立つ」


「そういうことなので、解体依頼を出しますね。美味しそうなナイト1、プリースト1、オーク3を肉の状態で後日受け取りにきます。残りは魔石込みで売りますので買取りお願いします」


「分かりました。オークが持っていた剣や装備品などはなかったのでしょうか?」

「売れるようなものはなかったですね。ボロボロに錆びたナイフ、剣、槍だけでした」


 屑装備品も念のために一度ギルドに提出しておく。


「オークは今お持ちなのでしょうか?」

「はい、僕とサリエで半分ずつ持っています。全部で45頭います」


「買取予想額なのですが、おそらく討伐報酬も込みで200万ジェニーぐらいになると思われますが、全てウォーレル様のカードに入金でよろしいのですね?」


 思ったより多い。異世界の冒険者は上手く立ち回れば稼げるんだな。


 ギルドは銀行のような役割もある。ギルドカードにはキャッシュカードのような機能があり、世界中どこのギルドでも現金の出し入れが可能なのだ。


「はい、全部そっちで良いですよ」

「では、量が多いので奥の解体倉庫の方で出してもらってもよろしいですか?」



 別の職員に連れられて、奥の解体作業場で全部だす。魔石と兎の毛皮はテーブルのトレイに入れた。


「血抜きは終えていますので、解体をお願いします」

「結構な数だね。美味しそうなナイト1、プリースト1、オーク3頭以外は売ってくれるという話で間違いないね?」


「はい、それでお願いします」

「街のお肉が枯渇気味だから、今回優先して解体するとしよう。血抜きも終えていることだし、明日のお昼には完了できると思う。昼以降に受け取りに来てくれるかな?」


「分かりました。よろしくお願いします」




 サリエと家に戻ったのだが、ラエルの使いの騎士が玄関先で待機していた。

 うちの使用人に中に入れてもらえず、かなりの時間待っていたようだ。


「リューク様お帰りなさいませ。ラエル様に仕える騎士パイルと申します」

「ただいま。誰であろうと館の中に入れるなと言っておいたので不便を掛けたようだね」


「はぁ、中で待たせてほしいと言ったのですが、頑なに拒否されてしまいました」

「毒殺やどんな罠を仕掛けられるか分からないからね。精神系の魔法を掛けられている者もいるかもしれないので、あなたがどうこうではなく、全て疑ってかかった方が良いのだよ」


「そうでしたか、了承しました」

「で、どのような用件だ?」


「いえ、リューク様と連絡が取れないので、帰ってきたら知らせてほしいとラエル様が私にご命令されましたもので……」

「ああ、成程。実は今現在、父以外の全ての連絡を断っている。フィアンセのフィリアや妹からもコールが何度もあったのだが出ていない」


「え? それはどうしてでしょう?」

「誰が、どういう目的で俺を狙ったのかが分かっていないのだよ? 事件が片付くまでは誰も近づけない方が良いでしょ? 僕のせいで巻き込まれる可能性もあるしね」


「そういうことでしたか……」

「ラエルにもそう伝えてもらえるかな? どんなスキル持ちがいるか判らないので、慎重をきたして行動するので、連絡してきても基本出ないし、訪ねてきても出て行かないと伝えておいて。あなたとも今回限りで、以降は訪ねてきても会わないので理解してほしい」


「随分慎重なのですね」

「ん! そんなの当たり前! 一度リューク様は死にかけた! 慎重にならない方がおかしい! 今の発言はリューク様に失礼!」


「そうでした! 申し訳ありません! 軽はずみな発言をお許しください」


 この者に殺意や攻撃的悪意はMAPから窺えない。本当にただの伝言を頼まれた使い走りのようだ。

 その彼の理解も得たので、早々にお帰り頂く。



 無口なサリエが、俺のために怒って一生懸命言ってくれたことが凄く嬉しかった。




 とりあえず、シェフに兎を渡さないとね……夕飯が凄く楽しみだ。

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