3-34 魔法での伐採作業はサクサクです

 ゼヨ伯父様と父様とは後日詰めた話をするということで一度解散となった。国王もそう何時間も大事な話とはいえ取れる時間が少ないそうだ。


 明日飛竜でギャレルの街の領主を斬首に行く気らしいので、そのための時間を今から頑張って作らないといけないのだとか……こういうのを聞くと、王になんか成りたくないと思ってしまう。


 次会う時までに建国に必要そうな事項を割り出して、最低限必要な資金や人員の見積もりを立ててくれるそうだ。ナビー曰く、父様たちがたてた計画書の1/10以下でやれるだろうとのこと。


 でもナビー試算は俺がこき使われるのだと思っている。


 治水工事→俺の土魔法で人件費と材料費を大幅節約

 家屋建築→俺の土魔法と錬金練成魔法を駆使して建築

 農地開墾→俺の土魔法と風魔法で伐採と農地確保


 まぁ、こんな風にチート魔法を使えば色々経費削減できそうなのだ。当然俺が快適さを追求した都市設計だ。街灯は勿論、エアコンや【クリーン】で浄化するトイレ、各家庭への給湯も考えがある。


 そういう快適さが知れ渡れば人も勝手に集まってくる。


 各種魔道具、これもナビーが既に開発を始めている。勿論俺しかできないような物ではだめだ。この世界の既存魔法や既存技術でできる物じゃないといけない。そうじゃなければ子孫に引き継げないからね。




 本来の登城目的だった褒賞を受け取る。

 宝物庫から約束の竜の魔石15個をもらい、希少金属もたっぷり頂いた。



 親衛隊のジルは暫く父様預かりとなり、夏休みまでに竜のテリトリーの手前に仮設村を造る為の護衛に駆り出されるようだ。


 夏休みに入ると俺が速攻で竜を倒しに行くと言ってしまった。それまでに中継拠点となる場所に仮設村が何箇所かに造られる予定らしい。


 はっきりいって莫大な資金が動く。

 女神アリアが介入したので、慎重なゼヨ伯父様も父様も完全にイケイケムードになっている。なにせ主神が味方に付いているのだ。建国以来抱えるこの国の数百年の塩問題に終止符が打たれるのだ。

 歴代の王が成せなかったことをこの代のゼヨ伯父様が貢献したとしたら、末代まで名君として名が残るだろう。


 プリシラは俺たちに付いてきたそうにしていたが、俺たちは学園生。学年が違う。来年後輩として入ってくるだろうが、それまでは休みの日に会う程度だろう。婚約云々でプリシラはごねたが保留にしてもらった。


 やはりあまり知らない娘といきなり婚約とか、現代日本生まれの俺には理解できそうにない。


 近いうちに目を治してあげる約束はしている。本来この世界では先天性のものは治らないのだ。部位の欠損ではなく、生まれつきのものはそれが正常だと魔法認識されてしまうので、部位欠損が回復できる魔法でも治せない。




 王城を出て現在は馬車で学園に送ってもらっている最中だ。


「サリエ、お前にまで負担をかけるね」

「ん、問題ない。リューク様が皆の前で私と婚約したって言ってくれたのが嬉しかった♪」


 サリエやっぱ可愛いな~! 仕草や発言が俺の心をキュンキュンさせる。

 これで見た目さえ10歳児じゃなければな~。

 サリエとほんわかな気分になっている対面から、ナナとフィリアの痛い視線が突き刺さってくる。



『……マスター! 今日はまだ時間が早いので、このまま【飛翔】で粘土と木材の追加補充に向かいましょう! 帰りに少し寄り道をして、ローレル姉妹の実家の少し離れた場所に地点登録をしてくれば流れ的にとても効率がいいです!』


 やっぱり言ってきたよ。ナビーは思念体で疲れ知らずだからな。同じにされても困るんだよね。


『今日は朝から色々あって、心も体も疲れたのでゆっくり部屋に帰って休むよ』


『…………………………そうだ! マスター、今日はサリエは女子会に呼ばれていて居ません。フォレストの冒険者ギルドに例の剣と宝石の受け取りをしに行きましょう! そのついでにサーシャたちの所に泊まって、ついさっき出来たプリンの完成形をお披露目してあげましょう! アイスクリームもバニラとチョコ味が満足いくできに仕上がっています! 是非食べさせてあげましょう! そろそろ、レシピを伝授して練習させる頃合です」


『クッ! お前、どうせ本音はフォレストはついでで、先に粘土と木材採りに行けって言うんだろ?』


『……後、数日でサリエの誕生日です。ナビー工房で造った武器より、マスターが直接打った武器の方が優れているし、サリエも喜ぶのではないでしょうか? そのためにはハウスクリエイトで使用する粘土と木材が不足しています。可愛いサリエのためにちょっと頑張ってみませんか? 先延ばしにすると何か急用が入った場合に武器工房付きログハウスの建造が間に合わず、サリエの武器が誕生日にできなくなる可能性もあります』


 またナビーは痛いところを的確に突いて俺をその気にさせてくる……強制じゃなく諭してくるところがなんとも使い上手だ。まったくナビーのおっしゃる通りなので、反論するのも諦めて従うことにする。


『分かったよ……先延ばしにしてサリエの誕生日の期日が迫ってきたら、雨とか降っていても粘土採りに行けとか言われそうだし……天気の良い今日行くよ』


『……そうです! 余裕を持って行動しましょう。サーシャたちのことは特別に今日は目を瞑りましょう!』

『それは、俺の自由だろ! ナビーの許可なんか最初からもらうつもりなんかないよ!』


『……そうですか……ではナナたちにチクリます』

『いや待て! ナビーさん、そういう脅迫的行為は僕は嫌いだな~。お互い上手く共存しようではないか?』


『……はい。ナビーとマスターは一心同体ですので、マスターがナビーを嫌だと言っても、ナビーを創った時点でもう手遅れなのです。お互いに上手く付き合っていきましょう! ナビーは全力でサポートします!』


『ナビーの全力サポートはちょっとウザいので、半分ほどにしておこうか……』


 とりあえず皆にそのことを伝える。


「フィリアたちはこの後女子会か?」

「はい、3人で色々今晩は語ろうと思います。サリエちゃんをお借りしますね?」


「うん、いいけど。サリエに変な強要とか約束事を無理強いしないでね?」

「そのようなことしませんよ! 私たちを何だと思ってらっしゃるのですか! 酷いです!」


「サリエ、ナナやフィリアに意地悪言われたらちゃんと言うんだぞ?」

「兄様! そんなこと言いませんよ!」


「ん、ちょっと緊張するけど頑張る」

「頑張るって……サリエちゃんまで、もう!」


 正直あまり心配はしていない。ナナもフィリアも本当に優しい娘たちだ。

 只、ナナは変に俺が絡むとヤバいスイッチが入るので、それだけが気になるのだが酷いことにはならないだろう。


 なにせ、サリエのほうが圧倒的に強い。


「今日の夕飯は俺は要らない。サリエが居ないので良い機会だから、今からちょっとサリエの誕生プレゼントの素材を採りに行ってくる。目的の採取場の近くなので、ついでにローレル家の領地付近に立ち寄って地点登録してくるよ。その帰りに、フォレストの冒険者ギルドで例の剣と宝石を引き取ってこようと思っている」


「ん、忘れてた! もう受け取れるの?」

「ああ、先日連絡があった。預けてあるジェネラルとスタンプボアのお肉も受け取ってくるよ。班員も呼んであげて、今度みんなで食べよう」


「ん、ジェネラルのお肉楽しみ! 初めて食べる」 



「フィリア、今日は色々ごめん。後でちゃんと謝るけど、勘違いで酷いこと言ってしまった」

「はい。凄く傷つきました……わたくし一生懸命頑張ったのに、まさかゼノ様と同じようなことを言われるとは思ってもいませんでした」


「あぅ。思い出すと恥ずかしい……」

「恥ずかしいのは私の方です。後でナビー様という女神様のこともお聞かせくださいね。でないと許してあげません」


 確かにフィリアにはとんでもない恥をかかせてしまった。事の発端になったナビーのことも説明が要るだろうな。勘違いして暴走した俺が一番悪いのだが、ある程度ナビーのことも話すつもりだ。



 学園前で皆と別れて、俺は東門に向かった。ここから急に飛び立つのは何かとまずそうなので、街から出た後に【飛翔】は使うと決めている。


 今から向かうところは、父様の領地フォレストから西南西に240kmほどの場所にある森だ。

 そこには大きく育った大木が沢山手付かずのままある。

 勿論人が管理していないので枝打ちや間引きもされていない。多少節が多かったりするが、この世界の特性なのか、それほど歪に曲がって育った木はない。どれも真っ直ぐ伸びている。




『ナビーに任せて正解だったね! 朝のように暴走しなかったら【飛翔】は使えるスキルだよ!』


 ナビーに制御を任せて、自分のイメージ通り飛ぶのは鳥になったようで気持ちが良かった! 朝のようにマッハ2とかがおかしかったのだ……あれはもうやらない、怖すぎる。


『……急加速、急転進、急停止に気をつければ、それほど危険はないと思います。それらはGによるブラックアウトに陥る可能性もあるので絶対禁止です! 防御もなしに高度から落下したら流石のマスターもそれまでです』


『分かった、気をつけるよ。その辺の制御はやっぱナビーに任せるね。加減が判らなくて失敗したら危険だし』

『……分かりました。その方がナビーも安心です』


『じゃ、先に木材から始めるよ。ナビーの方でよさげな木にマーキングを入れてくれる? 俺はそれを空中から【ウィンダラカッター】で伐採して【自動拾得】で回収していくから』


『……また凄いことを考え付きましたね。それならサクサク伐採できそうです』


 ナビーの指示通りの木を魔法でどんどん伐採していく。

 大体20mに1本程度の間隔で間引くように俺に切らせているようだ。


『……この方が残った木の成長が良くなるのです。あまり密集していると養分の奪い合いになってどっちも枯れてしまいます』



 成程な……日当たりも良くなって残った方の木は快適になるんだ。

 間引いた方の木は俺が有効利用するので勘弁な!

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