3-35 家の素材が集まったようです

 ナビーの指示で大木の伐採をかれこれ3時間近く行っている。


『ナビー……流石にもういいだろう? 何本伐採させる気だよ?』


 今、3本目の魔力回復剤を飲んだところだ。魔法での伐採なので当然MPを消費する。早々MP切れを起こさない自信があるのに、3本目を飲む事態ってどういうこと?


 どうもこうもない、15kmのエリアから3500本ほど伐採している……単に大量に切らされてMPが枯渇しただけだ。


『……では後30本で今日は宜しいでしょう』

『おい! 今日はってふざけんなよ!』


『……今伐採した分は試作第一号のログハウス用の物と、サーシャたちが王都で開く分の店舗兼住居用とマスターの住む王城用の木材になります。勿論それだけでは余ると思いますので当分必要はないのですが、建国を始めたら作業員のための家や、家臣たちの居住区用など色々用途がでてきますので、現地でまた伐採していただきます』


『なんだ、現地に行ってからの話か……それなら多少の覚悟はできている。どうせ湖付近か川の沿線に農業地もいるから、邪魔な木の伐採は必要だからね』


『……ええ、農地確保のその際はまたお願いします。ああ、それからもう少し南の奥地にトレントが群生しているエリアがあるのですが、宜しければ数体狩ってもらえないでしょうか?』


『トレントっていったら木の魔獣だよね? 素材に使うの?』

『……はい。サリエの武器の鞘や柄に使ったら立派な物ができます。それに書斎の机やリビングの机や椅子もトレント製の物の方が映えますしね』


『それは良いね! うん、リビングはトレントの木にしよう!』



 またナビーに上手く乗せられたような気もするが、良い物にしたいという気はある。せっかくここまで来てるんだし、ついでだよね。


『ナビー、トレントってどういう魔獣? 注意したらいいことってある?』

『……そうですね。植物系の木の魔獣です。地面に根を張るのではなく突き刺し、植物のように土から水と養分を吸収でき光合成もします。ですが、食虫植物のように生物を取り込んで直接根を差し込んで養分を吸収したり、自分の体内に取り込んで同化させて養分を吸収させたりもできるようです。取り込んだ人や動物の手足や顔が木に浮かび上がっていることもあり地域によっては人面樹や人面朴とかいう言い方もされますね』


『木に顔があったら嫌だよね』

『……根を足代わりに使って移動もできますが、スピードはあまりないです。枝を鞭のようにしならせて攻撃してくるのでそれさえ気をつければ大丈夫ですね。上位種になると毒を持ったものもいますが、マスターの脅威にはなりえません』


『分かった。植物なら火に弱いんだよな?』

『……そうですが、討伐が目的ではないのでそれはNGです。【ナパームボム】の実験をしようとしてもダメですよ! 素材がダメになってしまいます。倒すなら植物のもう一つの方の弱点をお使いください』


『うっ、ばれてる。じゃ~凍らせれば良いのかな? 植物は冷気にも弱いよね?』

『……はい。凍らせれば素材は綺麗なまま確保できますので、それが宜しいですね』


 今上空からナビーに倒すやつを選んでもらっている。


『……マスター! あれが良さそうです! 真っ直ぐだし、色もいい感じではないでしょうか?』

『お、いいね! ちょっと緑が濃い感じがなんともいい味になりそうだね?』


『……はい、乾燥から加工はナビーがやりますので、デザイン設計はマスターにお任せしますね』

『了解だ』


 トレントは固体によって歪に曲がってたりする奴もいるようだ。

 真っ直ぐで色合いが綺麗なのをナビーに選んでもらった。


 ゆっくり降下して、ターゲットにした奴の背面に降りたのだが、でかい!


『ナビー! でかいじゃないか! 20mぐらい在るだろこれ!』

『……18m24cm6mmです』


『誰が正確な体高を教えろって言ったよ!』


 ナビーに突っ込みを入れてたら、いきなり地面から槍のような物が飛び出してきた。


『ヒャッ! あっぶねー! もうちょっとで肛門から串刺しになるとこだった!』


 気配察知のおかげで何とか躱せたが、木におかま掘られるのはしゃれにならない。


『……シールド張っているので大丈夫ですよ……なに焦っているんですか。無様ですね』


 うっ……ナビーは網膜上で腰に手を当て、ダメだししてくる。


 俺がついついナビーの言う事を聞いちゃう理由に、この愛らしい容姿がある。

 ナビーの容姿は、どうやら俺が夢でたまに見る女性らしい。夢なので目覚めた時には顔も覚えてないのだが、可愛い娘に出会って幸せないい夢だったというイメージが強く残っている。その時の女性をナビーが抽出して思念体にしたのだそうだ。


 つまりナビーの容姿は、俺の理想の女性像ということになる。

 その可愛い娘に正論を説きつつ可愛くおねだりをされると、ついついその気にさせられてその通りに行動してしまうのだ。まぁ、アリアと違って嘘や騙したりするようなこともないし俺も了承済みなのだが、もうちょっと加減をしてほしい……時々ちょっとウザい。



 【飛翔】で上空に上がって射程外に逃れる。降りて向こうの射程にこっちから入る必要はなかったな。

 上空から、液体窒素のイメージで【アクアラボール】を直接3個ぶつけた。


『あれ? 【自動拾得】が働かないな?』

『……地面に根深く刺し込んでいる部分も多いですからね。そっちがまだ活動中のようです』


 じゃあということで重力魔法の【レビテラ】を発動し、地面ごと空中に浮かせ土だけ落として出てきた根っこ部にも【アクアラボール】を放って完全に凍らせた。


 完全に凍ってから1分ほどしたら【インベントリ】の方に転移してきた。


『……戦闘が見たかったのに、あっけなく倒しちゃいましたね』

『頭を使って楽に倒せるなら、そうするよ』


『……多少は技術をを高めるための実地訓練もしたほうが良いですよ?』

『そうだけど、サリエとの訓練の方が身に付きそうだし、さっきの奴はでかくておっかなかったからね』


『……慎重なのは良い事ですが、度が過ぎるとみっともないですので程々にお願いします。サリエに幻滅されないよう気をつけましょうね』


『うん……』



『……近くに上位種のブラック・トレントがいるようなので見に行きましょう』


『居るなら狩ればいいだろ?』

『……形が悪くて使えない素材なら狩る必要はないです。村や町から遠いので人害がでる個体ではないですしね』 


 それもそうか。


『どうだ? あの黒っぽい奴だろ?』

『……マスター! あれは良い素材です! サリエの刀の柄はあれにしましょう!』


 余程気に入ったのかテンションが高い。


 さっきと同じように空中から凍らせてサクッと狩り終えた。


『……うん! 良い物です!』

『リビングのテーブル分にもまわせるか?』


『……十分足りますが、テーブル素材にするのは勿体ないですね……武器や防具の素材としてかなりの高額で売れる品ですよ?』


『でも、この木の黒いテーブルで白い皿に盛られた料理を食べると、気分的に美味しく感じそうなんだけどな』

『……なら、テーブル素材でも良いですね。足らなければまた狩れば良いのですし。あ! マスターおめでとうございます! 今の狩りで種族レベル30になりました! 上級魔法開放です! 4種以上の上級魔法を拾得するのが大賢者のジョブを会得する条件なので、それもクリアです。明日にでも教会で2ndジョブに大賢者をセットしましょう! 既にレベル30を超えているサリエにも上級魔法をコピーしてあげれば、2ndジョブの魔術師を大賢者に変更できるので、一緒に教会に行くと良いです』


『賢者を取る前でも、大賢者にして良いのか?』

『……はい。獲得条件さえクリアできれば何の問題もないです。大賢者に成ると、MP量が3~5倍になりますのでかなり余裕ができると思いますよ』


『そんなに魔力量が増えるのか? それなら、先に狩をしてレベルを上げて大賢者ジョブを得てから伐採したら良かっただろ? まずいMP回復剤をがぶ飲みしなくて済んだのに……』


『……あ……ごめんなさい。ログハウス用の木と粘土が欲しくてそっちまで気が回っていませんでした……』

『まぁ、済んだことだ。加工の方は任せるな』


 ナビーは効率の悪いサポートをしてしまったことを悔いて少ししょんぼりしてしまっているが、このくらいのテンションで丁度良い。



『トレントはもう良いか? いいなら次は粘土採取に行こうか? 粘土は湿原の方のヤツじゃなくても良いのか?』


『……はい。こちらの方が質自体は良いのです。牛の肉を理由にすれば、マスターがすぐにでも行ってくれるかと思い、最初は魔石も得られる湿原の方を勧めていました。魔石の方もより良いものを王城で得たので、急ぐ必要はないです。牛やカエルの革が欲しいので、そのうち行ってもらえると嬉しいですけどね』


 粘土はすぐ近くの沢の粘土層から採取した。灰色っぽい土は肌理が細かくキラキラ光るガラス質な物が混ざっている。超高温で焼くとそれが耐火素材になるそうだ。なにせそのガラス質な素材の融点はブラックメタルの2倍の数値なのだ。


 どこにでもあるわけではないとのことだったので、この粘土も大量にインベントリに確保した。


『……マスター、お疲れ様でした! 早速ログハウスの建築を始めましたので、完成をお待ちください。それと店舗のほうはサーシャたちにできるだけ具体的な質問でイメージを絵に書いたりして聞いてあげてください。それを元に仮設計します』


『了解、今晩聞き出すよ。じゃあ次はローレル家の領地へ地点登録に行こうか』

『……ここから北北東に約52kmの距離に村の入り口があります』


『まだ村なのか?』

『ええ、もうすぐ町にってところだったのですが、例の川の氾濫で村を捨てて出て行く者も多く、人口もかなり減り、新たに来る農民もパッタリなくなったのでまだ村の状態ですね』


『そりゃそうだよな……農地が川に浸かる場所とか、誰も開拓したくないよね。一度でもそうなったら次もありえると思うと、そんな場所に居を構えたくはないか……』



 【飛翔】でものの数分でたどり着き、はるか上空から眺める。


 寒村としていて活気がない。

 収入のなかった農民は、貯えがなければ奴隷落ちに成るしかないのだが、ローレル家が借金をして保障したので、今期は誰も奴隷落ちしなくて済んでいるようだ。


 何時また川の氾濫が起きるかもと思うと、どうしても村全体でこういう嫌な雰囲気になるのだろう。


『……マスター、あの双子ちゃんを助けてあげましょうね?』

『ああ、任せておけ。あの姉妹は好きだ。媚びて俺の家を頼ってこないところが良い。狩りのお願いをしてきたぐらいで、金のことには一切触れてこない。本音では、俺の親を頼りたいだろうに……』



 素材集めも地点登録も終えたので、フォレストのギルドに向かうとしましょうかね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る