3-36 ジュエルを内政に起用しようと思います
ギルドに剣の受け取りに来ているのだが、夕時なのでかなり混雑している。
待つのかったるいな~と思っていたら、ダラスさんが俺を見つけてとんできた。
「リューク様、お待ちしていました。ささっ、こちらへ……お預かりしていた宝石や装飾品と各種武器でございます」
「ああ、ありがとう。例の逃げていた奴はどうなった?」
「それが想像以上の馬鹿でして、バナムの村のギルドに顔を出したのですぐさま捕縛されました。どうやら門は壁を乗り越えて侵入したようですが、馬鹿なのでしょう……クエストを探しに冒険者ギルドに依頼書を見せてくれとギルドカードを提示したようです」
マジ馬鹿だ……そこまで馬鹿な奴もいるんだなとびっくりだ。
「まぁ捕まって良かったです。ところで、ギルドにCランク程度の火属性の魔石の在庫はないですかね?」
「はい、あります」
「それは幾らしますか?」
「大体6~7万ジェニーぐらいですね」
意外と安いな。10万ジェニーぐらいするかと思っていたのだが、この値段なら買っておこうかな。
お風呂や台所のお湯用の魔道具や、トイレの便座を暖めたりで魔石を結構使うのだ。トイレぐらいならSSS~Gランクまで10段階級ある魔物のランクのFかGの属性魔石で十分だが、シャワーや魔道コンロのように少し火力がいるようなものはCランクほどの物を使いたい。
「それを20個売ってください。雷と水のDランクは幾らぐらいですか?」
「雷のDランクなら4万ジェニー前後ですね。水は3万前後です」
「じゃあ、それも20個ずつお願いします。代金はカードから差し引いてください」
「ありがとうございます。でもそんなに沢山の魔石をどうなさるのですか?」
「学園に通い始めてから、少し魔道具の開発に興味がでてきて、ちょっと色々やってみたいことがあるのです」
「開発は失敗も多く、沢山魔石も消費するので、中々新規の物が出来ないのが現状です。何を作られるのか知りませんが上手くいくと良いですね」
大量の魔石を購入し、ギルドのアイテムBOXに預けてあったジェネラルの肉を受け取る。
ギルドと教会には神がアイテムBOXを与えているのだ。これは俺のインベントリと同じ物で、収納量無制限で時間停止効果があるものだ。預けるのには少し保管料を取られるが大した金額じゃないので高級食材などを預ける貴族も多い。
これでやっと一段落が着いた。
よし! サーシャたちにお伺いを立ててみるかな?
『サーシャ、夕飯はもう食べたかい?』
『リューク様! いいえまだです。丁度皆と何しようかと話していたところです』
『じゃあ、俺と外で食べないか? 今フォレストに来ているのだけど、出て来れるかな?』
『はい! 行きます! どこに行けば宜しいですか?』
『そうだね、中央広場の噴水前に1時間後でどうだろう?』
『分かりました! あの、母も連れて行ってあげて宜しいのでしょうか?』
『なに当然なことを言ってるんだ? もう彼女も俺の従業員なんだから、同じように扱うよ? ミーニャもコロンも連れて来るんだよ』
『はい! ありがとうございます』
待っているその間にジュエルに少し話がある。
コールするとすぐに出た。
『ジュエル、少し話がある。今、お前の居る宿屋の前にきているんだけど、ちょっと出て来てくれ』
『リューク様、前まで来ているのなら中にお入りください』
『少し内密な話なので、お前の妹にはまだ話せないんだ』
『了解しました。すぐに出ます』
『妹には30分ほど出かけると言っておいてくれ』
『了解しました』
ジュエルはすぐに出てきた。
「お待たせしました。お話はこのような場所で立ち話でもよろしいのですか?」
「ああ、問題ない」
ジュエルはちょっと緊張した面持ちで俺が話を切り出すのを待っている。
「ちょっと厄介なことになっていて、ジュエルにも協力してもらおうかと思っている」
「どのようなことでもお言い付けください」
「うん。そのお前の忠誠心を見込んでの話だ。お前貴族になれ」
「………………はぁ?」
流石に予想外だったらしく、ジュエルはなんとも間抜けな声を発した。
「貴族になれ。俺の側に控えて暗部か親衛隊か正騎士隊の指揮を取ってもらいたい……」
「え~と? 暗部って騎士爵の称号を得るんですよね?」
「そうだが、お前にはとりあえず伯爵位を持ってもらう。晩年には侯爵に成って側で仕えてもらいたい」
「えっ!? 伯爵!? 侯爵!? そんなの平民が成れる訳ないじゃないですか! いくら公爵家のご子息でも不可能です!」
「冒険者の仕事をさせると言っておきながら、お前には済まないと思うが、事情が変わったんだ。俺は国王に成るので、信用のおける配下がいる」
「リューク様! 伯父の現王から王位を簒奪するおつもりですか!?」
ええっ!? そっち?
「イヤイヤ違うよ! そっちじゃなくて新たに建国するんだよ! 新国家の建国! お前はそこの重鎮になってもらう」
「建国ですか? それは謀反を起こすということですか?」
「どうしてそう悪い方に取るんだよ。国から資金や人材なども全面的に支援、協力してくれる話になっている案件だ。そこにお前も参加しろ。裏事情に精通しているお前なら暗部がいいと思うのだが、俺の命の危険度が急激に増したので親衛隊として俺のすぐ側に控えて警護を頼みたい」
簡単にだが事の顛末を語り、現状を説明した。
「塩ですか……この国の念願ですよね。でもそれってあの銀竜を退治しないといけないのですよ? 8年ほど前にドワーフ国が逃げ帰ってきたほどです。しかもその竜は無傷だったとか……」
「それは多分なんなく倒せると思う。俺が危惧してるのは、その後の周辺国家の介入だ。暗殺や俺の身内への間接的脅迫や誘拐などが心配だ」
「何カ国かある沿岸国ですね……確かに厄介ですね。それにしても私が貴族ですか……貴族専門の元暗殺者の私が……クククッ、リューク様、人生何が起こるか分からないものですね。リューク様のご意思に従います。それで恩が返せるのなら、どんなことでもしてみせます」
やはりジュエルを殺さず囲っておいて正解だった。こいつからは良い匂いがしているのだ、根は悪い奴じゃない。犯罪者に違わないのだが、妹の為と自我を殺して生きてきたのだろう。お前が殺した人間の数百倍の人間を生かさせてやる。殺した奴の弔いだと思って、悪いが俺に付き合ってもらおうか。
「悪いな、建国案は既に稼動していて、うちの親父と国王が率先してやってくれるようだ。資金の試算と人員の確保も始まっている。俺は夏休みに入ったら即、竜を倒しに行くけど、ジュエルは父様に付いて国境付近の仮設村に行ってほしい。近いうちにゼヨ王と父様にお前を幹部候補だと紹介するから、そのつもりで礼節マナーを学んでおいてくれ」
「私みたいな奴を本当に側において良いのですか? 何者だと聞かれたらどう答えたら宜しいのでしょう? 国の暗部ともなると、私の身元は丸裸にされてしまいますよ?」
「ああ、この際もう良い。犯罪履歴は消してある、バレても良いんだよ。色々聞かれたら冒険者仲間ですと言えば良いだろう。バレてもそれで押し通す」
ジュエルにさっき手に入れたジェネラルの剣をあげようかと思ったのだが、こいつにはもっと良い武器を持たせたいと思いやめた。
「ジュエル、お前に良いものをやろう」
パーティー申請をし、スキルをコピーしてあげた。
【身体強化】【腕力強化】【隠密】【忍足】【気配察知】【魔力感知】【俊足】【プロテス】【シェル】【ホーミング】【魔法消費量軽減】【アクアヒール】【アクアラヒール】【アクアキュアー】【アクアラキュアー】【サンダースピア】【サンダラスピア】【将の威圧】【魔糸】【魔枷】【インベントリ】……暗殺者だったジュエルは当然【隠密】や【忍足】は持っていたが、これらもLv10にしておいた。剣の熟練度は今はまだ良いだろう。【身体強化】Lv10、これだけでも十分強いのだ。
「どうなっているんですか! 嘘でしょう!? こんなことがあって堪りますか! 何の苦労もなく強くなれるなんて……」
「ジュエル、気持ちは分からないでもないが、お前の知らないこういう理不尽で不可思議なこともこの世にはあるのだ。国のトップになるということは、そういう規格外の奴らを相手にしなきゃいけないことも出てくる。お前にやったスキルもそれが全てじゃない。俺は強くなった今のお前より遥かに強いぞ」
「うわ~、私ってそんな人相手を暗殺しようとしてたんだ……知らないって恐ろしいですね」
「急に能力が上がっても、体が付いてこれずに弊害が出る。ジュエルは慢心しないで、それらを使いこなせるように練習するんだ。【将の威圧】と雷からの攻撃はかなり使えるから、オーク相手にでも練習するといい。分からないスキルがあれば聞いてくれ」
「【ホーミング】というのはどういうスキルなのでしょう?」
「それは、魔法が発動前にイメージした場所にピンポイントで当たるというものだ。敵が逃げても追尾してイメージしたカ所に必ず当たるようになる。【魔糸】と【魔枷】はこれだ、お前を捕らえたときのスキルだな。魔力を乱して魔法を使えなくできる。ドレイン効果もあるので、MP切れになりそうなら相手に【魔糸】を絡めて魔力を吸い上げるイメージをすれば自分に魔力を移せる」
簡単にだが一通り説明してやった。
詳しくは後でメールで送ることにした。1度じゃ覚えきらないだろうからね。
「はぁ……なんかとんでもないですが、ありがたく使わせて頂きます。国の暗部とか、とうとう私の死に場所が決まったかと思いましたが、この力があれば、竜も倒せそうな気がしてきました」
暗部じゃなく、親衛隊にって何度も言ってるのに……。
「いや、竜は無理だぞ? 死ぬから止めておけ……」
「そうですか? 勝てそうな気もしますが……」
「慢心するなと言ったばっかりだろう……竜は無理だ。亜種のワイバーン程度なら余裕だろうけどな」
「でも、ありがとうございます! きっとお役に立ちますね!」
「ああ、期待している! マジで期待しているんだからな!」
「うっ……凄いプレッシャーが! 頑張ります」
丁度30分で話が終わる。
妹に手土産だと、プリンとアイスを4個ずつ持たせてやったら、とんで宿屋に帰っていった。早速【インベントリ】が役立ったようだ。アイスも溶けることなく永遠に保管できるからね。
ナビーは終始無言だったが、内心犯罪者の起用が気に入らないのだと思う。
どんなにジュエルが良い奴でも、ナビーはユグドラシルのコピーだ。何だかんだ言っても凄く厳格だ。グレーなのは許せても、ブラックなのは嫌う傾向がある。いくら殺した相手が貴族の悪人だけだとしても、ジュエルは完全なブラックだ。
ナビー的には俺の近くにいるのが許せない存在なのだろうと思う。ジュエルの忠誠心が偽者なら、絶対俺に近づけさせないだろう。
さぁ、やっと憩いの時間だ!
サーシャたちとの待ち合わせの場に向かう。
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