3-41 ローレル姉妹に事情説明をしました

 ギルドの楽しい授業はあっという間だった。話し上手な受付嬢のお姉さんの授業は盛況に終えた。俺も次からあのお姉さんの所に並ぼうかなと思ったぐらいだ。



 現在昼休みなのだが、俺の居室に学園長、担任のロッテ先生、班員とマーレル姉妹に来てもらっている。建国のことを内緒にしていると活動に支障が出るので、ある程度話すつもりでいるのだ。


 先にインベントリから事前に作ってあった昼食をだして、さっさと食事は済ませてもらった。


「学園長まで来てもらってすいません」

「なぁ~に、構わんさ。旨い昼食も頂いたことだしな。ふぉふぉふぉ」


「後、今から話すことは国家機密に属しますので、くれぐれも内密にお願いします。漏らすと暗部が動くような事態が発生しますので十分ご理解ください」


「ちょっと待つのじゃ! 暗部とは物騒じゃの……一般生徒に聞かせてよい話じゃなかろう?」

「そうなのですが、班員に隠していて活動できるような事案ではないので話して協力をしてもらいます」


「ウ~ム、大丈夫なのか? 儂は少し不安なのじゃが? お前が公爵家というのが更に不安を煽っておる」

「でも、近いうちには公表されることですので、特に学園長には直ぐ耳に入る事案ですよ?」


「よし、なら話すがよい! 他言はせぬ」


 そこまで気合い入れなくても大丈夫ですよ。


「その前にマーム、俺の班員にいるとかなりの危険があるけど、話を聞く前にこのまま残るか去るか決めてほしい」


「え!? 私ですか? 危険とはどの程度でしょうか?」

「そうだな……他の国の暗殺部隊がマームを誘拐しに来る可能性があるぐらいかな?」


「メッチャヤバい話じゃないですか! 何ですかそれは! う~~超危険な感じです!」

「話を聞いたら、もう引けないよ……聞く前に決めてほしい」


「あの? 私たちには聞くか聞かないかお聞きにならないのでしょうか?」

「悪いがキリクには強制的に関わってもらう。ローレル姉妹も別件があるので強制だな。マーレル姉妹は聞いた後から不安なら抜けても良い」


「あの! どうして私は先に判断させるのに、マーレル様たちは後からでも判断して良いのですか?」

「マーレル家・ローレル家・チャーチル家はフォレスト家の子家にあたるんだ。親が潰れれば子にも被害が及ぶような関係性を持っているから、そうそう親家を裏切るようなことはしないんだよ。マームの事を信用してないわけじゃないけど、そういう貴族のしがらみや危険性をあまり知らないだろ? ついうっかりで両親に話しただけで、そこからどんどん噂として広まっちゃう可能性もあるんだ。貴族の子供たちは幼少のころからそういう躾をされているので、話すなと言われれば決して親兄妹にも話さないんだよ」


「そうですか……私が居るとご迷惑がかかるのでしょうか?」

「マームの頑張り次第かな? 最初は足手纏いになるのは仕方がないって言ってあるよね? 努力しないなら進歩もしないからこのまま迷惑のままだけど、マームは努力家だろ? 1年以内にはきっと役立つ良い人材だと俺は思っているよ……俺としてはこのまま頑張って付いて来てほしいかな」


「私はできることならリューク様に付いて行きたいです! 可能な限り努力いたしますので、このままパーティーに置いてください!」


「うん。良い答えだ! じゃあ今から話すことは国家機密なので誰にも言っちゃダメだよ? 親兄弟にもダメだ。教室で話すことも禁止する。話していいのは、ここと、ナナの部屋でこっちから話を振った時だけね? 皆も良いかな?」


 全員の了承を得たので、話すことにする。


「何から話そうか……ごめんやっぱ先にローレル姉妹の件から片付けるかな」

「「私たちですか?」」


「見事なハモリだね! うん、君たちのことだ。今晩か明日の朝に君の実家に行きたいので、両親に許可をもらってほしい。今晩からなら2泊、明日の朝からなら1泊するのでそのように伝えてほしい」


 姉妹は顔を見合わせて、申し訳なさそうな顔で姉のチェシルが俺に言ってきた。


「リューク様、申し訳ございません! 実家は今、少し立て込んでいまして……遊びに帰れるような状態ではないのです。申し訳ありません!」


「うん。知ってるよ……治水工事で大変なんでしょ? 俺が向かうのはその案件でなんだ」


 姉妹は俺が知っているということに驚いている。

 正直借金だらけで今にも没落しそうなことは、恥ずかしくて知られたくないことなのだろう。


「でしたら尚更リューク様の御力をお借りする訳にはいきません! 今、私の父が一生懸命対処しています! ここで私たちが親家に頼っては、父の顔に泥を塗って恥をかかせてしまいます! そうなっては貴族として周りに舐められて、今後落ちていくだけになってしまいます!」


「マシェリも同じ気持ちかい?」

「はい! リューク様の御気持ちは嬉しいのですが、姉様と同じ気持ちでございます!」


 良い! 実に良い! この気概! 貴族としての誇りが強い。うん、見ていて凄く良い!


「うん。でもね、このまま俺が見過ごすと、君たち姉妹は間違いなく没落して奴隷落ち……即娼館行きなんだよね。可愛い君たちが娼婦になるのはちょっと俺的には嫌なんだ……」


「リューク様は、私の父の力じゃ没落するというのですか! 幾らリューク様でも聞き捨てなりません!」

「そうです兄様! 根拠もなしに父親をバカにされれば怒って当然です!」


「ナナ……俺が根拠もなしに人の親をダメ出しすると思っているのか?」

「いえ……そんな失礼なことをする兄様ではないです」


「チェシルとマシェリに今からいうことを口止めするよ。感情的に動かれたら俺の計画がダメになるからね」

「「分かりました。お聞かせください!」」


 おお! またハモッた!


「結論から言うね。今借金してやっている治水工事、数年以内に、下手したら今季の雨季にまた決壊するよ」

「「なっ! なぜ言い切るのですか? リューク様にはなにが分かってらっしゃるのですか?」」


「君のお父さんが雇った設計主任は、君の父親の元ライバルだった子爵家が放った者なんだよ。つまり最初の設計段階から、君のお父さんは嵌められていたんだ。土地は肥えた農地にするのに良い土地だし、村自体の設計は将来町に発展させるように計算され、上下水道も完璧に設計されているので、すっかり騙されちゃっているんだろうけど、農地にした場所は5年周期で必ず川が氾濫している悪地なんだよね」


「その子爵家というのは、まさか隣領のダルタス子爵様でしょうか?」


「うん。ダルタス家はうちの議案で開墾案が上がった時点で、自分たちがそこの領地を叙任されるものと勝手に思い込んでいたようで、横から君の父さんに掻っ攫われた気でいるようだよ。なにせダルタス領の直ぐ側でしょ。開拓の話が本決まりになった時点で間違いなく声がかかると思い込んで、色々資金を投入して準備していたようだよ」


「それが自分の家ではなく他家に話が言ったから、父様に失敗させるためにわざと川の氾濫が起きる地に農地を作らせたのですか!?」

「それだけじゃないよ。設計自体は完璧なので君の父さんが破綻して没落する前に君たち4姉妹は嫁にしてやるとか言って引き取る気でいるようだよ。娼婦になるより良いだろうと持ちかける気だね。そして残った土地は自分が引き継いで開拓すると言いつつ、川が氾濫しない方に農地を移設するだけで、肥えた有用な農地と伯爵位と可愛い性奴隷が4人も手に入るとほくそ笑んでいるよ」


 姉妹は悔しさのあまり泣き出してしまった。


「君たちが今動いても証拠は何も出ないし、とぼけられてお終いなので俺に任せてくれるかな?」

「「リューク様! お願いします! 父様を、ローレル家をお助け下さい!」」


 おお! またハモッた!


「うん、そのつもりだよ。なので、君たちでちょっと強引でも両親に訪問の手配を取り次いでくれないかな?」

「訪問理由は内緒なのですね?」


「そうだね、クラスの班員になった者たちで遊びに行くことになってしまった。フォレスト家のバカ次男坊が我が儘で断りきれなかったとでも言っておけばいいよ」


「「ええっ!? それではリューク様が!」」

「良いんだよ。目的は設計主任の捕縛とそれを放った子爵家の断罪なんだから」


 その後渋る両親を姉妹で説得して、今晩の訪問を取り付けた。今頃総出で晩餐の手配やら、部屋の掃除をしていることだろう。


 俺は兄様にコールを入れ、子爵家の捕縛に向かってもらった。

 夕刻までに後6時間、途中でゆっくり野営を挟んでも、兄様たちなら明日の朝には到着するだろう。


 それとちょっと嫌なのだが、プリシラに今回はお願いすることにした。


『プリシラ、ちょっと君にお願いがあるんだけど良いかな?』

『リュークお兄様のお願いなら何でも聞き届けますわよ!』


『うん。今から学園に来てほしいんだ。そして今晩ちょっと学園の班員の家に行ってお泊りするんだけど、明日その家で君に1級査問官の仕事をやってもらいたいんだけど良いかな?』


『審問官の仕事ですか……私に会いたいとかじゃないのですね』

『でもこういう時しかプリシラは俺と親交を深める機会はないんじゃないかな? そうだ! 今晩君の眼を治してあげるよ! それでどうかな?』


『眼ですか? う~ん……リュークお兄様の御顔も早く見たいですし、そのお話お受けしますわ! 父様に許可を取ってすぐに学園に向かいますね?』


『うん、ありがとうね。二泊のお泊りなのでちゃんと着替えなどのお泊りセットも持ってくるんだよ?』

『お兄様とお泊り! なんだか楽しそうです! すぐに向かいますね!』


「「プリシラ殿下まで来られるのですか! お父様にお知らせせねば!」」


「8人も押しかけちゃってごめんよ。捕縛自体は大したことじゃないんだよ。その後の農地の治水にちょっと皆も協力してもらおうかと思ってね」


「「え!? 治水の件までリューク様が?」」

「その為に、昨日レべル上げ頑張って種族レベル30にしてきたんだからね」


「「「え? レベル30?」」」

「ん! 私を置いて勝手にレベル上げしたの!?」


 うわ、サリエがめっちゃ怒ってる! 護衛なのに連れて行かないで、魔獣を狩ったのが気に入らないのか。


「サリエごめん! もう二度とサリエが居ない時に勝手に魔獣を狩ったりしないので、怒らないでくれ!」

「ん! 私が居ない時に護衛の意味がないことをするなら、二度と離れない!」


「もうしないから! ちゃんと護衛のサリエが居る時に一緒に狩ろうね?」

「ん! 約束! 破ったら全部バラス!」


 バラスって何をバラスんですか? 脅迫はダメですよ?



 一応これでローレル姉妹のことは何とかできるだろう。

 ここからが、本命なんだよな……皆になんて言おうかな。

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