3-42 公務扱いで学園を休めるそうです
ローレル家に今晩の訪問予約を取り付け、プリシラの同行も確保したので捕縛自体は問題ないだろう。建国の話をする前に、午後から休むことを先に伝えるかな。
「先生、午後から俺は休みますね。神殿に行ってジョブの習得とナナの実家に行って色々契約書関係を渡す必要があるのです」
「そうですか。私たちを呼んだのはそれが理由ですか?」
「いえ、全くの別件です。国家機密に属する事案ですが、先生はどうせ身内ですし早いか遅いかの違いです」
「うむ、儂を呼んだということは、学園も関係するのかのぅ?」
「いえ、今日のように休みが増えるかと思いまして。それと学園長にも個人的に何らかの圧がかかってくることもあるかもしれません。話を引っ張るようなことじゃないので簡潔に言います。今度の夏休みを利用して建国する予定なのです」
「ん? 建国とな?」
「「「???」」」
「それだけじゃ分かんないですよね。具体的に言うとですね、各国が何百年も前から狙ってる例のエルフとドワーフが半壊した土地を俺が落としてそこに国を造ります。俺が国王になるのですが、ゼヨ伯父様の属国になる気はありません。完全な独立国の建国です」
「「「えええっ!!?」」」
まぁ、そういう反応するよな。
「急な話なのですが、既にゼヨ国王とうちの父様は密かに動いています。ある程度のプランが練りあがるまでは国家機密扱いになっていますので注意してください。学園長なら危険性の意味もお分かりですね?」
「ふむ、塩じゃな。沿岸国が塩の流出を食い止めに暗部を送り込んでくる可能性があるのじゃな?」
「その通りです。実際に城を建てて国として名乗りを上げればその周辺は自国になりますからね」
確か3カ国以上の建国同意書とかが要ったはずだけど、この国と同盟国の塩の欲しいエルフ国やドワーフ国が署名してくれるはずだ。
「だが、あの土地が何百年も落とせんのは銀竜と名がついた古代種のドラゴンがおるからじゃ。あれは人じゃ何ともならんぞ?」
「竜は全く問題じゃないと思っています。俺の所持しているオリジナルの禁呪魔法一発で倒せます。問題は建国宣言した後です。竜の脅威がなくなったと知ると、こぞって新国家を落としに一斉に侵略してこようとするでしょう」
「当然じゃな。まして其方はこの国の公爵家の子息じゃ。この国に塩を与えては、輸入と輸出の価格バランスが総崩れになってしまうのでな。必死で阻止しにくるじゃろうの」
学園長は年の功だけあって、皆まで言わずとも即座に理解してくれたようだ。
「キリク、お前にはこの3年間の学園生活中に内政について学んでほしいと思っている。将来俺の側で直臣として仕えてほしい。この剣を期待の証としてお前にやろう、頑張って父様や国王が用意する人材に食い込んでこい!」
俺は昨日ギルドから受け取ってきたばかりのオリハルコンの剣をキリクに手渡した。
【リストア】で新品状態に戻してあるその剣はとても美しく、見ただけで一品物の凄い剣だと分かるものだ。
皆の視線がその美しい剣に注がれている。学園長ですら羨ましそうに見ているほどだ。
「あの、私にこれを?」
「ああ、オリハルコンの剣だ。今のお前の腕では使いこなせないだろうが、それが見合うぐらいの要職を目指してほしい」
キリクは涙目で震えながらその剣を受け取った。
「あの、サリエ殿は……」
剣を受け取った後、現在俺の側に控えてるサリエのことが気になったのか聞いてきた……良い配慮だ。
「ああ、彼女は3年後に俺の妃になるので、職務とはまた違う形で世話になると思う。サリエは今はまだ幼く見えるけど、必ず良い女になる。将来性を見込んで今から確保してあるんだ。今でも妖精のように可愛いんだぞ」
「ん! 確保とか言うな!」
「イテッ! 蹴る事ないだろ……」
だんだん馴染んで家格のことを気にせず、フレンドリーに接するようになってくれたのは良いけど、人前で主は蹴っちゃダメだよ? このノリは嫌じゃないから、言わないけどね。
「兄様、プリシラ殿下のこと、どうなさるおつもりですか? それだけお聞かせください!」
「それなんだよね……正直に言えば面倒くさい。でも嫌っているわけじゃないし、プリシラの有用性は理解している。でもな~、なんだか道具扱いしたくないんだよ」
「なるほどのぅ。ゼヨ国王様がプリシラ殿下をお付けになったか。他国への牽制にはこれ以上ない良い手じゃな。話半分に聞いておったが、冗談ではなく国王様の本気度が高い話なのじゃな」
「プリシラとの婚姻が有用だと学園長も思いますか?」
「うむ、大国の姫を国におくことで牽制になる。もし侵略国が現れた時でも、即この国がプリシラ殿下を理由に動くことができるようになるしの」
「プリシラ殿下が兄様のことを慕っているのですから、後は兄様次第なのですが、問題は誰が正室をもらい受けるかということなのです」
「学園長、在学中の学生での結婚は可能でしょうか?」
「可能じゃが、子が出来たりしたら、規則で休学ではなく退学してもらう。それと学園内で風紀を乱すような行為も禁止じゃ」
「そういう意味ではないのです。俺としては10歳の頃より婚約しているフィリアを正室にする以外に選択肢はありません。フィリア、俺の誕生日に合わせて婚約ではなく結婚しよう。これで第一夫人は確定だ。後から成人したプリシラを娶ることになったとしてもそれは俺たち以降の話なので第二王妃扱いになるだろう。それでいいか?」
「はい! ありがとうございます! リューク様!」
余程嬉しかったのか、フィリアは人前にも拘らず俺に抱き着いてきた。
久しぶりのフィリアの感触だ。とても良い匂いがして幸せだ!
「んっんん! リューク様! ナナ様と私の扱いはどうなるの?」
サリエのわざとらしい咳払いで、顔を赤らめて慌ててフィリアは離れてしまった。
「サリエについては、誕生日の日にお前の家に行ってトルトス師匠に婚約を申し込むつもりだよ。結婚はフィリアの後か同日に合同で行うか、それは後で決めようか」
「ん! フィリアと一緒が良い!」
「良いの? 並んでやるなら皆にフィリアと比べられるよ? それと結婚式では前髪は禁止ね。俯くのもダメだぞ、俺の誕生日は11月だから建国の発表はもう済んでるはずだから、サリエもフィリアも国王の妃なんだから、堂々と顔を出して国民に見せないとダメだからね」
「んん! 無理!」
無理とかふざけたことをぬかすサリエを引き寄せ、皆の前で前髪を一瞬掻き揚げてやった。
「「「可愛い妖精さんだ!」」」
「でしょ? 隠すのは勿体ないけど、本人が嫌がるから今は良い。けど結婚式の時は強制だ。良いねサリエ?」
「んみゃー! だってお母様と約束が!」
「我が子の幸せの集大成の結婚式に、顔を隠して喜ぶ母親がいる訳ないだろ? 子供の頃に誘拐されないように可愛いサリエのことを心配で母親が言ったことだ。だが、もう他者を跳ね返せるだけの戦力は十分あるんだ。サリエは堂々としていれば良い」
「ん……頑張る……」
随分弱気だが、それでも結婚にはあこがれているのか、嫌とは言わない。サリエも乙女なんだな。
「キリクとマーレル姉妹は国を離れることについてはどう? やはり出国はできない?」
「私はリューク様に付いて行きます!」
「ありがとう、キリク。新国家故、役職は一杯空きがある。キリクの頑張り次第で、優秀なら兄弟も呼んでいいからね」
「本当ですか! 頑張ります!」
「「私たちもご一緒したいです」」
「それは、さっき俺が言った打算的な意味も含めてかな?」
「はい。子爵家では兄や弟も長男以外はどうしても職にあぶれてしまいます。もし建国が本当ならこれほど魅力的なお話はありません」
「リュークよ、もし銀竜を倒せたとしても、あの地は危険じゃぞ? 開墾せねば領地は広がらぬ。魅力がなければ人は集まらぬのじゃ。国民が居ないのでは国とは言えぬ。名ばかりの、この国の植民地じゃ。その辺の案は大丈夫なのか?」
俺は試作中の魔道具を色々取り出した。
「これは俺が今開発中の魔道具です」
「「「涼しくなった!?」」」
「今スイッチを入れたのが、空調の魔道具です。夏は涼しく冬は温かです。この魔道具を俺の国の建築物全てに取り付けます。3年ほどで内部に使っている魔石が消耗してしまうので交換が必要ですが、オーク程度の屑魔石で十分なので、庶民にも買い替えできる金額に抑えるつもりでいます。そして、これはトイレ用の魔道具です。【クリーン】の浄化魔法を組み込んでいますので、街全体の糞尿処理の問題は一切ありません。この王都でさえ排尿臭は酷いです。俺の国では一切匂いはさせません。下水道にも浄化装置の魔道具を各所に設置しますので、流行り病の元になるネズミやゴキブリなどの発生も起こさせません。後、お風呂も各家庭に設置予定です。それとメイン通りには夜になると街灯を設置しようと思っています。後は」
「もうよい。儂も退職したらお前の国に引っ越すとしよう」
「あはは、お待ちしております。元SSランク冒険者の学園長が来てくれるなら、無償で土地とお屋敷は提供いたしますので、真剣にご検討くださいね」
元SS冒険者が暮らしているというだけで、国民の安心感が違ってくるのだ。
父様もギルド長という役職を与えて、自領に囲っているくらいだ。
「これらの魔道具は全部お前が考えたのか? 凄いのぅ……これの1つだけでも一財産じゃぞ?」
「ナナの爺様の商会がうるさそうですね。国益の為にいくつかの魔道具は売り出す予定です」
「大体の事情は分かった。休む時はロッテ先生に言うと良い。欠席扱いじゃなくて、国務や公務として扱うことにする。だがちゃんと試験だけは受けてもらうぞ。それを元にクラス替えは行うので成績は落とさぬようにな」
「ご配慮感謝します」
「それにしても、銀竜を一撃で倒せる禁呪か……気になるのぅ」
「ダメですよ。そうそう使って良いモノではないので禁呪なのです」
「うっ……正論じゃ。お前なら禁呪を所持していても安心じゃの。儂のような者じゃと、すぐに使いとうなってしまう……」
この爺さんダメじゃん!
SSランク冒険者なんて、やはりこういう人物じゃないとなれないのかもしれない。
あっという間に90分の昼休みも終わってしまった。
「それじゃ神殿に行ってきますね。ってサリエ?」
「ん、護衛なので一緒に行くのは当然!」
「いやいや、お前は皆より成績悪いんだからちゃんと授業受けろよ!」
「んぐっ! リューク様のアホ!」
「成績の悪いアホはサリエだろ! 俺は無茶苦茶頭いいぞ? 剣術だけトルトス師匠に習ったようだけど、ちゃんと魔法の授業も受けるんだ。またロッテ先生に鼻で笑われたいのか?」
「リューク君、それはもう言わないで……」
サリエも手の空いた休日に、大賢者を獲得する為に神殿には行かせるつもりだが、成績が振るわないサリエは勉強が最優先事項だ。ロッテ先生ですらCクラス並みと言って馬鹿にしていたくらいだ。
あまり成績が悪いと、他の貴族家の従者たちが陰口を言いかねない。俺的にそれは容認できないので、きっちり授業は受けてもらう。
「では、私がご一緒しますわ。神殿に行くなら私がお供します」
フィリアは何やらサリエとナナに目配せしているが、まぁ良いだろう。
「フィリアだと俺の方が護衛しなきゃだね。でも久しぶりのデートだね」
「そうですわね……これからはもっと一緒にいる時間を大事にしたいと思います」
「これこれ! デートではなくて公務じゃぞ! デートなら欠席じゃ!」
「「公務です! 行ってきます!」」
学園長にダメ出しされたので、慌てて取り繕って学園を後にした。
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