3-43 フィリアと少し打ち解けた気がします

 現在学園の入り口に向かってフィリアと徒歩で移動中だ。


「フィリア、昨日はごめんよ。誤解とはいえ酷い事を言ってしまった」

「はい、凄く悲しかったです。でも嫉妬からきた言葉なのですよね?」


「うん。ナビーに昨晩のお相手が聖騎士のロベルトだって聞いた瞬間、嫉妬で動転してナビーが続きを言おうとしたのも遮ってフィリアを遠ざけようとしてしまったんだ」


「なぜ遠ざけようとしたのですか?」

「突き放されて転んだ時の精神的恐怖がトラウマになっていたのだろうね。フィリアの口からロベルトが好きって言葉が出るかもと思っちゃったんだ。だから最近俺に触れたりするのも避けてるのかなって、どんどん悪い方に考えてしまってた。避けられるくらいなら卒業まで会わないとか考えちゃって……ごめん」


「そういうのじゃなかったのですよ? 私も人格が混在してると聞いたものですからどう対応していいのか戸惑っていたのです。リューク様とはもっと触れ合いたいけど、教会の教義に反するとか思ったり、リョウマ様と触れ合うのはリューク様に対して浮気にならないのかとか、色々私も混乱していました。私の方こそ間違った教義を真に受けて長年リューク様にお辛い思いをさせてしまってごめんなさい」


 なるほどね、フィリアも混乱するよね。俺がリューク君のように黙って生活を続けてればすぐに違和感はなくなっていたのを、自分のエゴで言っちゃったものだからナナとフィリアを混乱させてしまったんだよね。


「色々混乱させちゃったけど、どうこう言っても俺は俺でしかないんだよね。切り離すことも分離することもできないんだから。恨むとすればこうしてしまったアリアを恨んでね」


「生き返らせて頂いたアリア様を恨むなんて滅相もない。リューク様もそんなこと言っては罰が当たりますよ?」

「やれるもんならやってみろとは思っているけどね。アリアなら返り討ちにしてやる」


「ダメですよ! アリア様にあんな酷い事をしては! 私、心臓が止まるかと思いました!」

「アリアが本気なら簡単に俺に罰を与えてるよ。俺に対して悪いと思っているから罰も与えないし、頼み事があるから下手にも出ているんだよ」


「そこまで理解してらっしゃるなら、もう少しアリア様を敬ってくださいませ……」

「嫌だよ、下手に関わるとまた騙されちゃうかもしれないからね。あいつとは極力関わらないようにするんだ」


 フィリアは呆れたような顔をして俺を見ていたが、最後に言った言葉は切実で俺の心も痛かった。


「リューク様、もう居なくなったり置いて行こうとしないでくださいね?」

「うん、約束する。もう傷つけるようなことは言わない」


 俺の言葉にとても素敵な笑顔でうなずいてくれたのだが、次のフィリアの言葉で俺は逆に引き攣った。


「ところで昨晩はどちらにお泊りになったのですか? 朝早くリューク様を迎えに行ったサリエちゃんが、リューク様が部屋に居ないとお怒り気味に連絡してきたのですが? あれからサリエちゃんは特に何も言わないので、案ずるようなことはなかったのでしょうけど、少し気になります」


 折角仲直りして良い雰囲気なのに、あっという間にぴーんち!

 ナビー先生! お助け下さい!


『……今回救いようがないですね、自業自得です。サーシャたちのことは従業員として扱い、今後如何わしい関係を断つか、もしくはフィリアたちを説得して関係を認めてもらうかですね。フィリアに嘘を吐くのは最悪の結果を招くでしょう』


 嘘はダメか……。


「昨日はあれからも色々忙しかったんだよ。さっきのローレル家の件もあったので、彼女たちの実家の村の入り口付近に地点登録しに行ってたんだ。ついでに周辺で木材の伐採や焼き窯用の粘土の採取をしたりしてきたんだ。その後フォレストの冒険者ギルドに行ってから、キリクにあげたあの剣を受け取ってきたんだよね」


「色々なさってたのですね。その時魔獣を狩られたのですか?」

「うん。トレントを数本狩ったよ。トレントは数本? 数体? どっちだろう?」


「魔獣なので数体ではないでしょうか? どちらでも良いのかも知れないですが、どっちなのでしょうね?」


『……フィリアの言うとおり魔獣なので数体で合ってますが、別に数本と数えても間違いではありません』


「ナビーが言うにはどっちでも間違いではないけど、数体が正解だって」

「そうですか。キリクさんのあの剣は差し上げて宜しかったのですか? 見た所すごく価値のありそうなものでしたが?」


「うん。キリクにあれで奮闘してもらおうかなって、打算的だけど前渡しで発破をかけたんだよね。元々まじめな性格なので放っておいても頑張るのだろうけど、内政について学ぶのは特殊だからね。綺麗事だけじゃ治政はやっていけないので、先に余程気合を入れてもらわないと潰れちゃうと思ったんだ」


「そうでしたか。その後はどちらに?」


 やっぱ追及は逃れられそうにないな。


「うん。例のプリン販売の件でサーシャたちに会いに行ってたんだよ。そしてプリンと飲み物のミルクセーキのレシピを実演して伝授してきた。実際に店を切り盛りするのは彼女たち4人だからね。それと出資金はサーシャが出すのでお金を受け取って、土地の契約書にサインをしてもらってきたんだ。今日これからその契約書を渡しにトルネオ爺様の所に行くんだけどね」


「え? 店はリューク様が出資されるのではないのですか?」

「俺は今のところ1ジェニーも出してないよ。俺が彼女たちにしてやるのはあくまで教育と指導なんだよ。お金はサーシャがお母さんを王都の司教に診察してもらおうと必死で稼いだものなんだ。彼女の母親はエルフなんだけど、放っておいたら数日で死んでた。かなり危険な状態だったんだ。俺が治しちゃったので、そのお金を俺に全額渡そうとしてきた。それならそれを資金にして商売をしろって言ったんだよ。ついでにそこに居た獣人2名も可哀想だったので従業員に雇ったってのが商売をする事になった顛末なんだ。ちょっと運命を感じるような出会い方だろ?」


「私、少し誤解していたようです。サリエちゃんが可愛い娘たちばかりだったって言ってたので、気に入ってお金の力で囲い込んだのだとばかり思っていました。そうですか、お母様がご病気に……」


「フィリアごめん。最初は一夜限りのひとときの夢事のつもりだったんだ。ハーフエルフの娘は母親の診察料の為に、獣人族の猫族と犬族の娘の実家は農家なんだけど、2年連続で続いた長雨による不作でお金が底をついたそうで、家族の為に契約奴隷になって娼館からお金を借りたそうだよ。3人とも凄く優しい娘たちで情が湧いちゃったんだ……」


「それでリューク様は、その方たちと行為に及んだのですか?」

「……うん。言い訳だけど男は3日ほどで溜まっちゃうんだ……公爵家の子息なのに自分で性処理するとかあまりにも惨めに感じて……フィリアのせいにしたりしないけど、家出ついでにこれまで我慢して押さえてたタガが外れちゃったんだ」


「私が初めての相手じゃないというのはとても腹立たしいですが、この件に関しては私にも責任はあると思っています。ですが今後は私がリューク様の御相手をしますので、もう彼女たちとは会わないでください」


 う~~~! 痛いところを突いてきたぞ。

 どうしよう、フィリアの気持ちは痛いほど分かるんだけど、サーシャたちも俺に好意を寄せてくれているのだ。彼女たちがお金目当てや、ただエッチがしたいだけというなら関係を断ち切ってもいいが、好きだが俺に迷惑がかかるからと、外でたまに相手をしてくれるだけで良いと身を引いてくれているのだ。


 俺が関係を一方的に絶っても一切怒ったりしないだろうが、そんなことはしたくない。


「ごめんフィリア、そんな薄情なことはしたくない。フィリアの気持ちも分かるけど、もう彼女たちとそう簡単に切れるような関係じゃないんだ。ごめん……」


「はぁ~、もし分かったって言ったら引っ叩いてやろうと思っていましたが、腹立たしいですがカッコ良い返答でした。もし簡単に彼女たちのことを見捨てるようなら凄く軽蔑していました。ですが、困りましたね……ではお仕事以外の関係は持たないと誓ってくれますか?」


「…………」

「それも嫌なのですか……彼女たちが好きなのですか?」


「うん。可愛くて優しいんだ。彼女たちと居ると、ささくれだってた心が癒されるんだ」

「はぁ……凄く腹立たしいです!」


「うん。ごめん」

「仕方がないです、一度その方たちに会わせて下さいまし」


「え! 会ってどうするの? 脅したりするのは止めようよ!」

「そんなことはいたしません! 関係を容認するにしても一度会ってこの目で見極めたいのです。リューク様を単にたぶらかして何か魂胆があるような輩でしたら、私が直接切り捨てます。お相手はエルフらしいので、強そうならサリエちゃんに切ってもらいます」


「分かった、一度ちゃんと紹介するよ。良い娘たちだからフィリアならきっと分かってくれると思う」


 そうこうしてるうちに、学園入り口の正門に辿り着いた。


 外に出て南の教会に向かおうとしたのだが、正門をくぐったあたりで騎士隊に守られた王家の紋章の入った馬車がやってきた。


「リュークお兄様! 本日はお招きくださりありがとうございます! 公務で宿屋で泊る以外の外泊は初めてでございます! 凄く楽しみですわ♪」


「プリシラ殿下、ご機嫌麗しゅうございます」

「その声は、フィリアさんですね? ごきげんよう。御二人でお出迎え下さったのですか?」


「いや、これから2人で出かけるところだったんだよ」

「え? 私を呼んでおいて、御二人だけで出かけてデートするおつもりだったのですか!? 私を放って置いて?」


「いや、教会に2ndジョブの獲得に行こうと思っていたところなんだ」

「まぁ! それはおめでとうございます! リュークお兄様は種族レベルが30もおありなのですか?」


「うん、そうだよ。プリシラは学園の俺の居室で待っていてもらえるか?」

「いえ! 私もご一緒したいです! それともデートのお邪魔でしょうか?」


「そうだね、邪魔といえば凄く邪魔だね。久しぶりの2人っきりのデートなのに……」

「リューク様! プリシラ殿下にそのような態度はあまりにも失礼ですよ!」


「分かったよ、ごめん……でも目が見えないプリシラは移動に困るよね。プリシラ、先に目を治してやろう。そうすれば一緒に街も歩けるだろう? 馬車でナナの爺様の家に送ってくれないか?」


「え? 今から目を治していただけるのですか? はい、でもそんなに直ぐに治るモノなのでしょうか?」

「診てみないことには分からないよ。でも治らないってことは絶対ないから心配しなくていいよ」




 プリシラの眼を先に治すことにして、トルネオ爺様の所まで馬車で送ってもらった。

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