3-44 一途なプリシラも可愛く思えてきました

 現在フィリアとプリシラを伴って、ナナの母様の実家にあたるトルネオ商会に来ている。母親が違うので俺とトルネオ爺様とは血縁関係はないのだが、幼少時よりナナ同様やたらと可愛がってくれるので俺も大好きだ。


「爺様、アポなしで来ちゃいましたが、今、良いですか?」

「ふぉふぉふぉ、お前が来てくれるのは何時でも大歓迎じゃ! って! プリシラ殿下!」


 商会前に直づけした王家の家章の入った馬車を目にして、爺様もいち早く気付き、プリシラの前に従業員一同で平伏した。流石は王都でも1、2を争う大商会の従業員だ、しっかり教育されている。


「トルネオ殿、ご無沙汰しています。今日はお忍びでの訪問ですのでどうかお構いなく。このように突然訪問して申し訳ございませんね」


「爺様、プリシラを誘ったのは僕です。少し奥の寝室をお借りしてよろしいですか?」

「ふむ、構わぬが、殿下を呼び捨てはいかんぞ!」


 俺は爺様も一緒に奥の寝室に連れて行き、プリシラが婚約者になってしまったことを掻い摘んで説明した。


「なんと、それはめでたいのぅ。じゃが2人ともそれは望んだ婚姻かの?」

「はい。私は7歳の頃よりリュークお兄様のことをお慕いしていましたの。夢が叶ったのです!」


「そうですか。それは良かったですな。当人が望んでいるのなら喜ばしいことじゃ」


 プリシラの満面の笑顔を見て、爺様の顔も綻んでいる。

 プリシラの奴、本当に嬉しそうな顔をしやがる……。


 フィリアはその横で複雑な顔をしている。


「家格的にフィリア嬢はなんとも微妙な立場じゃな。その辺はどうするのじゃ?」


「本音を言えば僕はまだ婚姻を認めたわけじゃありません。でもフィリアはなんか仕方ないようなことを言うのです……」


「リュークお兄様! そのようなことを本人の前でお言いにならないでくださいまし! 私、とても傷つきました!」


「プリシラ殿下、ナナとサリエを含めて昨夜一晩かけてそのことについて、女子だけで話し合いました。プリシラ殿下の婚約を認めるという結論になっております。やはり建国するなら王家の姫である殿下の存在は他国に対して大きな抑止力になると判断したからでございます」


「本当ですか! 嬉しいです! 10歳の頃より婚約なさっているフィリア殿には申し訳ないとは思っていますが、どうか私もお仲間に入れてくださいませ!」


 はぁ、こりゃダメだな。どうしたものかな……良い娘なのは分かるんだが、フィリアの時のように一目惚れでもない限り、そう簡単に人を好きになったりはできないよな。


『……今更何をおっしゃってるのですか? サーシャたちは一晩で好きになったくせに……なんならプリシラとエッチしてみてはどうですか? ころっとまた情が移るのではないですか?』


『ウグッ……痛いとこを突いてきやがって。ナビーはプリシラのことを気に入ってるのか?』

『……はい。一途で良い娘です。ただ本心を覗こうとする悪い癖があるので、人付き合いは苦手というより自分から壊してしまっていますね。でもフィリアやナナもサリエも人に隠し事をするタイプではないので、偉ぶらない謙虚なプリシラと十分上手くやっていけると思います』


「プリシラ、本当ならお前は王女なので正室になるのが通例だけど、この冬にフィリアたちと結婚するのでプリシラは第四夫人になるがそれでも良いの?」


「私はたとえ側室じゃなくて只の妾扱いでも良いのです。大好きなリュークお兄様のお側に居たいのです」


「リューク様、殿下にはここまでの覚悟がおありなのです。娼婦を囲うぐらいです。殿下1人ぐらい受け入れる甲斐性はお持ちでしょう?」


「フィリアまだ怒ってるの? それにサーシャたちを下卑たような言い方はしないでほしい」


「リューク、色々気になるキーワードがあったのじゃが、娼婦に関しては貴族家の子女なら致し方ないぞ。幼少時よりそういう教育をされてきたのじゃ、早々考え方は変わるまいて」


「そうかもしれませんが……」


「まぁ、待て。フィリア嬢、食べるものがなくなり、お金も財産もない、あるのは己の身一つ。そこでその体を提供すれば大量の食糧とお金をくれるという者が現れた場合あなたならどうなさる?」


「体を売ってまで生を望むような恥知らずなことは致しません。見苦しく飢えて死ぬくらいなら自ら命を絶ちましょう」


 わぁ~うそだろ!? でもこの娘ならやる! 間違いなく自害する! 現に俺のせいで一度やりかけた……。


「ふむ。では、そこにそなたの親や姉妹が一緒に居たとする。可愛い妹の為に体を差し出す気はないかの?」


「娘に体を売れと言う親ならば、私がその場で両親を切り捨てましょう。姉妹たちも貴族の死にざまは分かっているはずです。私が飢えに屈したと知れば逆に悲しむことでしょう」


「どうじゃリューク。これが貴族の女子の考えじゃ。プリシラ殿下も同じようなモノじゃろ?」

「私なら体を買おうとした輩を真っ先に無礼打ちにしますわ!」


「ふぉふぉふぉ、ナナも同じようなものじゃぞ」


 根本的に俺と考え方が全く違う。

 成程な……体を売るくらいなら家族もろとも飢えて死ねと。一般人はまず生あっての話なのだが、貴族には生より誇りが優先されるのか。


 ミーニャとコロンの話をフィリアにしたが、家族のためにということ自体がまずおかしいのだ……娘を売る親など死ねってのがフィリアの考えなのだから、それを理由に娼婦になった娘に同情はしても受け入れられないのは仕方がないようだ。


 頭に入れておかないと、俺が王になった時に俺の不用意な発言で貴族の誇りを傷つけ、死に追いやることもあったかもしれない……早期の段階で意識のズレに気付けて良かったかもしれないな。


「貴族とは厄介なものですね。フィリアもプリシラも聞いてくれ。もしそういう事態が起こった場合、安易に死を選択しないでくれ。先立たれる俺の身になって考えてほしい。プリシラ、強姦されたとしても同じだ。今回盗賊に襲われそうになっていたけど、もしあの時俺が間に合わなかったとしても、今後の為に言っておく。見苦しくても生き足掻いてくれ。そんなことでフィリアたちに自害して死なれたら俺は居た堪れない」


 黙って聞いてた二人からの返答はなかった……貴族教育恐ろしい。



「とりあえず眼を診ようか……爺様、少し部屋を出ていてもらえますか? 護衛の者も全員出ていてください。施術中は裸になりますので、以後誰も入ることを禁じます」



「リューク様、私は出て行かなくてよろしいのですか?」

「フィリアには残って手伝ってもらいたい」


「了解致しました」


 皆を部屋から出した後、プリシラはベッドに寝てもらい、木窓を全部閉めきって部屋を暗くした。


「じゃあさっきも言ったけど服は全部脱いでもらう。いいね?」

「恥ずかしいですけど……はい、大丈夫です」


「フィリア、脱ぐの手伝ってあげて」


 王女ともなると自分で服は着脱しないのだ。ましてプリシラは目が不自由だ。




「【ボディースキャン】やっぱ先天性のモノだね。レンズに異常はないからこれなら簡単に治せそうだ。少し体力が低下してるけど、これは仕方がないね。ナナ同様リハビリで筋力を上げていくしかない」


「あの? 治るのでしょうか?」

「うん。治るよ。フィリアにも俺のこのオリジナル魔法をそのうち伝授してあげるからね」


「え!? 本当でございますか? 以前私にはまだ早いとお言いになられていたので、もっと努力しないとと心に誓って勉強を頑張っていました。この魔法は素晴らしいモノです! 嬉しいです」


「【アクアフロー】【細胞治療】プリシラ、良いと言うまで決して目を開けちゃダメだよ?」

「はい、リュークお兄様」


 それにしても、サリエと違ってプリシラは発育が良い。

 小柄だがちゃんと出る所は出ている。それに良い匂いもする。


 魔素の停滞はあまりなかったのだが、ついついしなくてもいいマッサージをしてしまった。


「ふみゃ~、リュークお兄様気持ち良いです」


「フィリア、今の手順が基本なんだけど、今は流れだけ見てれば良いからね」

「はい。停滞してしまっている余分な魔素を散らすという作業をなさったのですよね?」


「うん。ナナの治療を何度も見ていたから覚えちゃってるようだね?」

「はい。リューク様のこのオリジナル魔法はとても興味があります。大司教様が治せないような病状をいとも簡単に治してしまうのです。神の如き所業です」


「フィリアも一度診察させてくれないか? 正直言うと重大な病気がないか診察するまで心配なんだ。この後、爺様と婆様も一応診察しておこうと思う」


「はい。恥ずかしいですが良い機会かもしれません。きっかけがないとなかなか肌を晒す事はないでしょうし、いきなり初夜とかでより、診察名目なら私もいくぶん気が楽です……」




 レンズを調整する筋組織と神経組織を繋いでいき、ピント合わせができるようにした。

 これでぼんやりとしか見えてなかったものがはっきり見えるようになるだろう。

 虹彩の調整も可能にしたのでうっすらとしか見えてなかった明るさの調整もこれで可能になった。

 最初は明るく感じて眩しいだろうと思い部屋を閉め切って薄暗くしたのだ。


 再度【ボディースキャン】で異常個所のチェックを行う。

 うん、完璧だ。


「よし、プリシラゆっくりと目を開けてごらん」

「あっ! リュークお兄様? 見えます! リュークお兄様のお顔がはっきり見えます! エグッ、ウエーンみえましゅ~」


 余程嬉しかったのか、ワンワンと大声で泣きじゃくっている。

 【音波遮断】の魔法で音消ししてて良かった。

 下手したら騎士が鳴き声に驚いて突入していたかもしれない。


 プリシラは俺に抱き着いて泣きじゃくっているが、勿論まだ全裸だ。

 気持ちは分かるが、ちょっとフィリアの視線が痛い。


「プリシラ、ちょっと落ち着け。まず違和感はないか? 痛みや、眩暈、頭痛とかないか?」

「はい! 何事もなくはっきり見えています!」


「そうか、じゃあ先に服を着ようか。フィリアまたお願いね」


「はい。プリシラ殿下おめでとうございます。無事治って良かったですね」

「はい。フィリア殿! あなたのお顔も綺麗に見えています! 成程……このお顔が世間ではお綺麗と言われるお顔なのですね? 私は皆ぼんやりとしか見えてなかったので、色でしか区別がなかったのです。どのようなお顔が美しいのかの判断基準がないのです。物の名も一致するまで多少時間が要りますね。色々教えてくださいね」


 そか……りんごと口で言っても、プリシラには匂いと色、味、大体の形は手の触った感じで分かっているが、視覚での情報はないんだったな。それをこれから時間をかけてすり合わせていかなきゃならないのか。


「とりあえず俺の声とフィリアの声で俺たちの顔と声は合わさったね。今後は俺の声を聞いただけでも顔を思い出せるようになったかな?」


 服を着ながらあれは何? これは何? と部屋の中の目に付く物の名を聞いてまわった。

 目が見えなかった頃より更に素敵な笑顔になっていた。


 こうやってはしゃぐプリシラは凄く可愛い……。


『……やはりマスターは単純ですね。でもプリシラは良い娘なので大事にしてあげましょうね』



 フィリアに質問攻めして一喜一憂しているプリシラを見ていたら、嫁にするのもいいかなと思ってしまった。

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