3-40 ダンジョンに興味があります

 朝食を食べに女子寮のナナの部屋にやってきた。


「兄様おはようござざいます」

「リューク様おはようございます」

「「リューク様おはようございます」」


「うん、おはよう」


「リューク様、サリエちゃんから聞いたとは思いますが、彼女の婚約を認めることに致しました。それとプリシラ殿下のことも話し合いの結果仕方がないという結論に至りました」


「兄様、国家建設にはやはり後ろ盾が要ります。大国の姫を妃にすることで、他国の侵略の大きな抑止力になるのは認めるしかありません……プリシラ殿下はどういう人物なのでしょう?」


「俺も知らん! なんで勝手に認めるような話になってるんだ! 俺の嫁の話だろ? 俺が決める!」


「昨日の話し合いの時にフィリアも気にしていたことですが、兄様はもう“僕”ではなく“俺”と呼称するのですか?」


「ん? フィリアは嫌なのかい?」

「いえ、そうではないです。でも急に変えられたのでどうしてなのかなって気になったものですから」


「もう龍馬とかリュークとか考えるの止めたんだ。今のこの時点の気持ちで行動や発言もしていこうと思う。深く考えないように好きなように生きようと思う。後悔しそうなことが起きそうなら、なるべく後悔しない選択を選ぶことにしたんだ」


「後悔しない選択ですか?」


「うん。サリエもその中の1つだ。彼女に卒業したらどうするんだって聞いた時に、俺が卒業後に雇わなければ誰かとウォーレル家の後継ぎを生むために結婚しないといけない、って言われたんだよ。その時にこの娘を手放すのは絶対嫌だって思ったから、ついその場でプロポーズしちゃったんだ。サリエはもうすぐ16歳だからね。トルトス師匠も婿を探し始めるかもしれないので、手遅れになって後悔しないように先手を打ったんだよ」


「「あの! サリエちゃんと婚約なされたのですか!?」」


 見事なハモリだ! さすがマーレル姉妹!


「うん。あれ? 昨日の話には参加していないんだね?」

「兄様、当たり前ではないですか。国家機密を伴う話なのですよ? 公にするのは躊躇します」


 そうか、俺の建国についての話も含まれていたんだな。


「うーん、マーレル姉妹には早めに教えておこうかな。卒業後に二人がどうするのかによって、今後二人の扱いも変わってくる」


「そうですね、兄様の判断にお任せしますわ」


「少しお昼に話そう」


 建国のことは俺の班員とマーレル姉妹には話すことにした。

 夏休みや休日を使って開拓や整備に通うことになるからだ。

 特にキリクはまじめで忠誠心が高い。俺が班員に誘ってやったことで、一度は執事候補から外れてしまい、家臣としての道から逸れて意気消沈していたのが再度家臣の可能性が出て張り切っているのだ。


 貴族でも三男以下の男児は長男が後を継いだら貴族家の子息という肩書は残るが当人に爵位はない。自家で騎士として雇ってもらうか他家で雇ってもらえなければ、騎士爵の称号すら得られず平民に落ちる。

 最初からあきらめて商いを学んで商人に成ったり、冒険者や親の領地に農地を貰って人を雇い農業に従事する者も多い。


 俺は真面目なキリクを建国した国に取り込む気でいる。

 正直に言えば学園に入学して1カ月も経っていないので、それほどキリクのことを知っているわけではない。

 真面目で忠誠心が高いのは伺えるが、ナビーの薦めというのが大きい。卒業までに色々覚えてもらい、重職に自分の実力で食い込んでほしいのだ。





 今日の授業は冒険者ギルド職員の授業だ。

 実は前々から楽しみにしていた。色々興味のある話が聞けそうだ。


 先生からの自己紹介があり、簡単なギルドのシステムを1時間かけて説明してくれた。まぁ、この辺は既に冒険者として登録して活動している俺は十分理解している範囲なのであまり面白くなかった。


 今日来てくれているのは王都ギルドの受付嬢で勿論美人さんだ。受付嬢だけあってかなりの知識が有り、説明も手慣れたものだった。


 休憩を挟んで、2時限目は質問タイムになっている。質問に対して回答と補足説明をしながら面白おかしくおバカな冒険者の実話などを挟んでくれ、随分楽しい授業になった。


「他に聞きたいことはないですか?」

「はい! ダンジョンについて聞きたいです!」


 この質問は俺だ……すごく興味があるのだ。


「良い質問ですね。冒険者も人それぞれ好みのスタイルがあるのですが、大体4パターンに分かれるのです」


 ・フィールドで狩りや採取をして稼ぐ者

 ・ダンジョンで狩りや採取をして稼ぐ者

 ・主に護衛業で稼ぐ者

 ・上記3つのどれも実力不足でできずに街中で雑用をして稼ぐ者


「冒険者に人気が一番高いのがダンジョンで稼ぐことですね。理由は実力に合ったダンジョンに行くことで死亡率が減るからです。フィールドは何が起こるか分かりません。弱いオーク狙いで狩りに出たのにバッタリ強い魔獣に出遭ってしまい、パーティー全滅とかも良くあるのです。その点ダンジョンは階層ごとに出る魔獣は決まっていますし、魔獣ごとに攻撃パターンも決まっていますので、初見で死ななければ、後は型にはめて倒せます。皆安全マージンを十分取って活動して、レベルに見合った稼ぎをしていますね。ダンジョン専門で稼ぐ人たちを探索者といって区別しています」


「王都内にも2つあると聞いていますが。どういったダンジョンなのでしょう?」


「正確には王都内に1つ、周辺に2つありますね。王都内にあるのは通称肉ダンジョン! オークやホーンラビット、スタンプボア、シープラット、ラッシュバッファローなどが出てくるので人気のあるダンジョンです。この王都の肉事情はこのダンジョンを拠点としている冒険者たちに掛かっています。最近は王都の人口が増えてお肉が不足気味なのよね。もっと頑張ってほしいところです。あ! そういえばリューク様ですよね? 最近大量にお肉を卸してくれたってギルドマスターが喜んでいましたよ?」


「あーうん。たまたまコロニーを見つけたのでね。へー、ダンジョンに牛がいるんですか……美味しいんですよね?」

「勿論さっき挙げた魔獣のお肉の種類の中では別格です。でも、フィールドの天然物と比べたら2ランクほど味が落ちるのよ。フィールドの方が稼げるのですが、いくつか理由があるの知っていますか?」


「いえ、知らないです」


「フィールドで狩ったものは狩った素材全てが手に入るのです。獲れるお肉はランクが高く美味しいので売値が良いってこともあるわね。それと同じく魔石もダンジョン産よりランクが高いのです。同じ魔獣なのにダンジョン産の魔石は2ランク下がるのです」


 どうやらこういうことらしい。


 ・ダンジョンで魔獣を狩るとゲームのように死体は煙のように消えてなくなる

 ・魔獣を倒すと一定確率でアイテムとしてお宝がドロップする

 ・ドロップ品はフィールド産の物より2ランクほど価値が低い

 ・ドロップは品はランダムで、運に左右される

 ・魔石のドロップもランダムだが、魔石は高確率でドロップする

 ・ドロップ数も何個も出る時もあれば魔石すら無く、何も落とさない時もある



「ダンジョンは運の要素が大きいですね?」

「そうね、フィールドは素材そのものは高品質だけど腕のないハンターが狩ったものは毛皮とか傷み過ぎで買取りできない品も多いのです。剥ぎ取りが下手で素材の価値を下げちゃう人もいるわ。その点ダンジョンは剥ぎ取りは要らないし、ドロップ品の素材は全て査定で『良』が付くわ。でも運の要素が高いので、ステータスの運の高い人に止めを刺させたりするパーティーも多いそうよ」


「それは分かるような気がします。素材全てが手に入らないのであれば、少しでも価値の高いドロップをしてほしいですもんね。ラストアタック判定があるのか……」


「こう捉えておいてください。フィールドでは100%魔石が手に入り、素材も上手く狩ればダンジョン産より良いモノが100%全て獲得できる。中にはゴブリンのように魔石しか活用法がない魔獣もいますが中には捨てる所が全くない、内臓や血液まで高額な素材になる魔獣もいます」


「ドラゴンですね?」

「そうです! あれは軍の出動レベルの魔獣ですが、中には1PTで倒す高レベルの上級冒険者もいます。ダンジョンは運の要素も大きいですが、下の階層に行くほどランクの高い魔獣が出てくるようになっているので、自分のレベルに合った階層で狩りができ、階層ごとに出現する魔獣は決まっているので、パターンさえ掴めば死亡リスクがかなり減るというわけです。自分に合った稼ぎ方をすると良いでしょう。フリーの護衛専門の方もいれば、何度か一緒に護衛しているうちに気に入られて、大手の商人や貴族に専属として囲ってもらえる冒険者もいます。専属契約と言って、決まった契約額の給金が支払われるので生活は安定します。余程腕と人柄が良くないとそうそう専属契約はしてもらえないですけどね」


「町の雑用をしている冒険者というのは?」

「それはあなたたちには無縁な話ですね。貴族出の者で落ちこぼれる冒険者はあまりいません。まして魔法科に入学できるほどの者が実力がないはずがないのです。初級魔法の【ファイアボール】が撃てるだけで、引っ張りだこです。魔術師はどこのパーティーでも重宝されるのです。落ちこぼれて名ばかりの冒険者は、殆ど田舎の農家の者が家の仕事を手伝うのが嫌だとかで夢を見て町に出てきて、いざ冒険者になったが鍬しか持ったこともなく、まったく何も出来ずに荷物持ちや肉体労働に落ちていくのです……正直家の農家を手伝った方が楽だと思いますね。身内の分、家業の方がきつくない筈です」


 身も蓋もない言い方だが、例えが適切で分かりやすい。


「周辺の2つのダンジョンはどんな特色があるのですか?」


「そうですね、その前に学校でも習うと思うのですが、ダンジョンの種類から説明しますね。ダンジョンの種類は大きく分けると現在3つの種類が確認されています。フィールド型ダンジョン・地下型ダンジョン・タワー型ダンジョンです」


 ますますゲームっぽいな……。


「フィールド型はその名の通りフィールド上に結界を作ってその中に入ったものを襲ってくるタイプです。中に入れる結界の入り口位置は1カ所のみで、奥に行く形になります。このタイプは放っておくとどんどん広がって領地を侵食するので適当に間引く必要があります。奥に行くほど強い魔獣が出ます。最も多いのが、地下型ダンジョン。地上に階段が表れて下に降っていくタイプのモノですね。下に降りるほど魔獣が強くなる傾向があります。そして塔型ダンジョン。これは上に登るタイプですね。塔型はあまりないのですが、変わった素材の出るダンジョンが多く人気は高いです。これは上に登るほど強い魔獣が出るという特徴があります。ただ罠が多く死亡率は3タイプの中では断トツ高いです。そして全てのダンジョンの最奥にはダンジョン核という魔核があります。この魔核は魔石と同じもので、深い深度を持つ巨大ダンジョンほど大きな魔石に育ちます。研究者の話ではダンジョンそのものが魔獣なんじゃないかと考えられていますね」




 王都の周りにあるダンジョンの残り2つは、鉱石ダンジョンとフルーツダンジョンだった。

 ゼヨ伯父さんが気前よく鉱石をくれた理由が判明した。お膝元で定期的に手に入るのだ。痛くも痒くもないのだろう……。


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 お読みくださりありがとうございます。


 ダンジョンの説明でした。多分行く事になるでしょう。

 今回、布石回ですねw

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