3-74 勉強に苦戦しているサリエにチートスキルを授けました

 トルネオ御爺様が馬車で学園まで送ってくれているのだが、その車中でクレヨンの事を聞いてきた。



「リューク、あの鮮やかな色を発する絵具は何だ? 固形のようじゃったが、どういうモノなのだ?」


 流石御爺様、しっかり見ていたようだ……商人だけあって利に聡い。

 しかも王宮内ではその事に触れずに、俺の利権として扱うつもりで、その場では気になっていても聞いてこなかったようだ。


「簡単に作れるので、商品化しようと思っています。蝋に顔料を混ぜただけですので、材料も少なくて良いですしね」

「ん? 材料はたったそれだけなのか?」


「はい。今回の物は、既に完成して販売されている蝋燭を一度溶かして、顔料を加えて再度型にはめて押し固めただけの物です。顔料ではなく香料を混ぜれば良い匂いを出す蝋燭も出来ますよ」


「ふむ。香料を混ぜた物は既に販売されているな。で、顔料はどういったモノを使っているのじゃ?」


 アロマキャンドルは既に売られているようだ。

 香料入りの石鹸があるのだから、アロマキャンドルもあって当然か。


「鉱石を粉末にしたものです。赤色は酸化鉄赤を使っています。青はラピスラズリの屑石を粉末にしたものですね。黄色は植物のウコンを今回使っていますが、黄土があればそっちの方が安く済むでしょう。最終的には12色にするつもりですので、もう少しお待ちください」


「12色もできるのか? これはかなりの利が出るぞ……」


 日本でもラピスラズリとかそれほど高くはないが、それなりの値はする顔料の一つだ。大きくて色合いの良い物は宝石としても価値がある。


 黒は炭でも良いし、白は石灰か白土でも良いだろう。

 赤・青・黄色の3原色さえあれば、それを混ぜると大抵の色はできる。




 寮に戻るとサリエがすぐに紅茶を入れてくれる。


「ありがとうサリエ、勉強の方はどうだ?」

「ん……大丈夫」


 間が怪しい……心配だ。


『ナビー、サリエは本当に大丈夫か?』

『……正直に言いますと、現状マームよりダメですね』


 マームって、欠員でこのクラスにB組からくり上がれたそうだから、侍女を除けばクラスで最下位だったはずだ……。


 貴族の世話の為にきている侍女や執事たちは、主人の成績が反映されるため例え学年最下位でも主人が一番良いAクラスの成績ならAクラスに在籍できる。


 まぁ、侍女たちの成績も公開されるので、成績が主人より劣る者は実際はあまりいない。学園は、嫁探し・婿探し的な場所でもあるので、どの家も家名を掛けて良い人材を育成して侍女に付けてくる。


 公爵家ほどになればあまり関係ないが、侯爵家や伯爵家にとっては侍女の優劣はとても大事のようで、そのことを分かっている侍女や執事たちは皆必死で親家の体裁を守るために勉強しているようだ。


 どんな侍女を連れているかで、貴族家の資金繰りや子家の良しあしを判断されるので、どの家も良い人材をあてがっているのだ……実際うちもそうなんだけどね。


 うちの侍女候補だった者、全て優秀だ。

 ただ、サリエは戦闘特化で育成されていた護衛用侍女だった為、ちょっと勉強は苦手なようだ。


『マーム以下か……』

『……マームは、Aクラスの中での学習率を考察すると、大体20位前後に位置しています』


『クラス35人中20位なら真ん中より下ぐらいか。入学時は最下位だから、ずいぶん頑張っているんだな』


『……プリシラとルルが加わっているので37人です。マスターに班員に加えてもらったことで、恥をかかせないようにとか、足を引っ張らないように考えて、毎日予習復習を欠かさず行っている賜物ですね』


『そっか~……サリエは俺が連れまわしていたからな』


 今もこうしてお茶を入れてくれたりして時間を割いてしまっている。


『ナビーの方でテストに出そうなところをピックアップしてくれるか?』

『……それはダメです。ナビーには既に全ての教科の出る問題が分かってしまっています。ピックアップ=出題箇所になってしまいますので、それは承服できません』


『そういうことになるのか……それは確かにダメだな』


『……マスターが最低覚えておくべきだと思う箇所を、ピックアップしてあげてはどうですか?』

『そうだな……そうするか』


「サリエ、俺の世話は良いので教科書を持っておいで。俺が勉強を見てあげよう」


 エッ? みたいな間があったが、俺と勉強できることが嬉しいのか、ちょっとテンション高めの返事が返ってきた。


「ん! すぐ持ってくる!」


 サリエは休んでいた間のノートも、誰かに見せてもらって書き写していた。俺のノートも良く見れば、サリエの字で休んだ時のモノが書き足されている。あまり綺麗な字ではないが、綺麗に書こうと時間を掛けて書いてくれたのは字体から伝わってくる。


 というか、殆どサリエの字だ……授業に出ても俺はあまりノートを取っていなかったのだ。


 出題問題は教科書と先生が黒板に板書したものの中から出されるそうだ。


 この世界の教科書は凄く薄い……紙が高級品だからという理由もある。

 印刷技術も版画のようなモノで、一枚ずつの手作業らしくあまり良い物じゃない。


 なので、必然的に先生が板書した方から沢山出題されることになる。




「サリエ、今俺が教科書とノートに線を引いた場所を覚えておけばいいよ」

「ん、他はいいの?」


「うん、覚えておく必要のない雑学は今は覚えなくていい。試験に出す問題には限りがあるので、教師が馬鹿じゃなければ、最低覚える必要がある事項からテスト問題を出すはずだよ。これを覚え終えて、時間があるようなら、他の箇所も覚えるといい」


「ん、分かった。リューク様は勉強をあまりしていないようだけど、大丈夫?」

「俺は大丈夫だよ。ロッテ先生に、また小馬鹿にされないように頑張るんだよ」


「ん、頑張る……」

「試験が終えるまでは、俺の世話もしなくて良いからね。自分の勉強を優先するように」


 と、言いながらも、お風呂は一緒に入ってもらう……俺の癒しタイムは譲れない。


 今日は国語と魔法学の2教科をピックアップしてあげて、2時間ほどで切り上げた。


 試験は、国語・数学・魔法学・歴史・雑学の5教科だ。

 これに実技試験が加わる……一学期の中間での実技試験は、基礎中の基礎の魔力操作だ。


 俺が注意しなきゃいけないのは、魔法学と歴史だ……理由は教科書に書かれていることは嘘ばかりだからだ。


 魔法学も歴史も嘘で固められた間違ったモノなので、俺からすれば試験用に史実と違う事を意味なく覚えないといけないのが苦痛で堪らない。



 いつものようにサリエを後ろから抱っこするように湯船に浸かっているのだが、サリエから大きなため息が聞こえてきた。


「サリエ、そんなに勉強は嫌いかい?」

「ん……苦手」


 苦手なようだが、エルフの血が入ってるサリエの知能はめちゃくちゃ高い。

 元より知力が高いうえに、レベルアップ時に俺のパッシブ効果で基本ステータスがかなり上がっているのだ。


 同じくらいの知力が有る俺は、サッと流し読んだだけでもすぐに覚えてしまう。


「でも、さっき俺が線を引いてやった箇所はもう粗方覚えただろ?」

「んぇ!?」


 何とも間抜けな声が聞こえた……。


「ん、そんなにすぐは覚えられない……」


 どうしようかな……【並列思考】と【高速思考】をコピーしてあげれば、簡単に覚えることができるんだよな。

 でも、これらはコピーできる人数制限が少ない、俺の持ちスキルの中でも一番のレアスキルに分類される。


 サリエはどちらかというと近接寄りの遊撃タイプだ。

 【並列思考】と【高速思考】は【多重詠唱】をセットにして、魔法使いに覚えさせるべきスキルだ……。


 とりあえずフィリアは確定として、ナナにもあげたい。

 本来なら聖女であるルルにもあげるべきなんだろうけど、フィリアにあげたら同系統のルルは要らない娘になってしまう。


 現状ルルとフィリアではかなりの差があるのだが、俺の【スキルコピー】を使っての【カスタマイズ】は簡単にそれが覆ってしまうのだ……一生懸命努力してきたルルにとって、それはあまりにも酷な話だよな。





『……マスター、ナナにあげるよりサリエにあげるべきです』

『ナナにはやっぱあげたいな……あれほど慕ってくれてる可愛い妹だからね』


 ナビーは、サリエが一番のお気に入りなんだよな。

 聖女のルルよりサリエを気に入ってるような感がある……ルルは神側的存在なのに。


『……ナナは王家の血を色濃く引く娘です。カインと同じく、近接特化のフリをするべきだと思います』

『魔法は補助的なものと自分を守れる程度のものさえあれば十分ってわけか……確かにそうだね』




「前にも聞いたけど、サリエは俺に色々スキルをコピーしてもらうことに、あまり抵抗はないんだよね?」

「ん、正直に言ったら、ナナ様やフィリアに申し訳ないとは思う……お義父様にも悪いことした。でも、リューク様を守る力は幾らあっても良いの。即戦力になるならいくらでもほしい」


 結局は俺の為か……ナビーがお気に入りなのも、こういうところが好きなんだろうな。ナビーもサリエも、まずは俺優先の思考をしてくれる。


 迷う必要はないな……【並列思考】と【高速思考】をサリエにコピーしてあげる。


「ん? リューク様?」


「ステータスを見て御覧。【並列思考】と【高速思考】というスキルをコピーしてあげた。慣れるまで目眩や頭痛、吐き気などが起きるから、レベルは3で止めてある。このスキルがあると同時に考えが一瞬でできるから、スキルの発動も3つまで同時発動ができるようになる。【多重詠唱】は危険なのであげられないけど、3つ同時発動でも、上級の範囲魔法とかだと超危険だから気を付けるようにね」


「ん、リューク様、本当に貰って良いの? フィリアやナナ様やルル様にもまだあげてないのに……」

「ああ、サリエになら何をあげても惜しくはない。使いこなせるだけの知力も技量もあるしね」


 背中を俺に預けて湯船に浸かっていたサリエだが、こっちに体を向け直して抱きついてきた。

 ちっちゃなサリエなので、コアラだっこ状態だ……色々当たってはいけないモノが俺の体に触れているが、ロリコンではないので欲情はしない……。


「ん、リューク様ありがとう!」


 そういって唇に可愛くチュッっとキスをしてきた。前回はほっぺだったので、昇格だ!



 サリエ、やっぱ可愛いぞ!

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