3-32 建国案に乗っかることにしました

 サリエが暴走してしまった。大人しい娘だと思っていたが、どうやら認識を改めた方が良さそうだ。下手したら、ナナより危険な存在だ。


「サリエ! ここは謁見の間で、今は国王様の御前だぞ!」

「ん!? あっ……国王様ご無礼いたしゅました! 何卒ごようしゃを……」


 また噛んだ……。


「サリエ、俺はお前を侍女にすることで唯一心配だったのが、貴族たる言葉遣いや態度だったのだが……ここまで酷いとは思っていなかったぞ?」


「ん、ゼノ様ごめんなさい……義養母さんごめんなさい」


 サリエの躾は義養母さんがしたのかな?

 父様が怒ってもこれは仕方ないよな……流石に庇えないぞ……と言うより主として俺も注意しておかないといけないな。


「サリエはさっき控え室で、俺に発言一つで首が飛ぶって注意してたけど、これはどうなんだ? 王の御前で親衛隊の者を蹴りまくるとか、俺も流石にびっくりだ。気持ちは理解できるけど、姫様に対する暴言もダメだ。それこそ首を刎ねられても文句言えないよ。言うのであれば自己責任で俺のように徹底的にやる気の時だけだぞ」


 さっき国王にあれだけの暴言を吐いたんだ、どの口で言うって話だ。

 あまりサリエに強くは言えないよな。


「ん、ククリ殿下ごめんなさい……」

「あなたは何故彼をいきなり蹴ったのですか?」


「ククリ姉様、それは俺が説明するね。実は今回のは俺が仕組んだ茶番だったんだけど、あまりに予想通りで、苛立たしくてその娘は怒ったんだよ」


「リューク、どういうこと? 茶番ってなに?」

「うん。実はククリ姉様がそこのジルに好意を寄せているのを皆知っているんだ。そこのジルもククリ姉様に好意を持っているらしいのだけど、さっき姉様の婚約披露宴の話しが出ても無言でダンマリだったでしょ。それでサリエが気に入らなくて怒ったんだよ」


「え? ジル殿が私に好意を持ってくれているって?」

「身分違い、叶わぬ恋だと、諦めているようだけどね」


「それで、茶番って言うのはどういうこと?」

「今ちょっと貴族間の婚姻のことで、俺とゼヨ伯父様と少し揉めていたんだよ。うちの躾がなってないとか言うから、じゃあ王家はどうなんだと……ごめん、ククリ姉様を試すようなマネをして……」


「リュークはそれで満足いったのかな?」

「ククリ姉様の覚悟と矜持は見せてもらったけど、全然納得できない。好き合ってるのになんで諦めるのか……分かってはいるけど、納得できない」


「本当に理解しているの? 分かっているのなら、どうしようもないことだと諦めるんじゃない?」


「ん、リューク様は、諦めない! 私もナナ様も諦めない! フィリアは死を選んだ! でも王女様は好きでもない男を選んだ……絶対変! おかしい!」


「サリエ、所詮他人事だ……お前が感情を昂らせてイラつくことはないんだ」

「ん、リューク様なら何とかできる」


「諦めないとか、どうするって言うのよ!」

「ん、リューク様は国を捨ててでも連れて行ってくれる。私たちを見捨てない!」


 あ~あ、サリエの興奮が収まらない……ククリ姉様までイラつき始めて感情をむき出しに怒り始めてきちゃったよ。実際嫁ぐのはククリ姉様なんだし、自身を抑えて諦めたのに、第三者から貶されては腹も立つだろうな。


「そんなことをしたら、ジル殿の家族にまで責が及びます! 私は王家の姫なのです! そう簡単に連れ去るなどできる訳がないでしょう! 残されて責を問われる家族を見捨て、国を捨て、一生追われる身になる覚悟がいるのですよ!」


「ん、でも……」


 サリエの完敗だな……理想論ではどうしようもないことだ。

 今回のがそういうケースだ。


 あぅ、サリエ……そんな目で俺を見るな!



 ここで、これまで無言を貫いていたジル君が動いた。俺の前で片膝を突いて訴えかけてきた。


「リューク様! 女神アリア様がおっしゃった建国をお願いします! そしてその国で私をお使いください! 国王様! どうか私めに5年の猶予をお与えください! 必ずやリューク様の国でのし上がり、ククリ様をお迎えにあがります!」


 えええっ!? なんでそうなるの! それに外に吊るしてあったのになんで建国の話知ってるの? アリアの奴、また何かしやがったな!


 ほらっ! サリエがなにやら嬉しそうなオーラを出し始めたじゃん! 気配察知にビンビンきてるジャン!


 嫌な予感で後ろを見たら、キラキラした目で嬉しそうな顔をした乙女たちが4人居た。ナナ・フィリア・プリシラ……アリアだ!


 やっぱお前か! この駄女神が!



「リューク、なんか面倒な話になってきたが、どうなんだ? 国を興して、我が国に塩をもたらしてくれる気はあるのか? 本当にあの地の竜共を根絶やしにして、塩が手に入るのなら、俺は国を挙げて協力するぞ?」


 ゼヨ伯父様だけでなく、父様まで訴えてきた。


「俺の領地では全く塩が取れん。岩塩もないからな。100%輸入に頼るしかない。それを見透かして沿岸国は小麦粉や大豆、酒などを安く買い叩こうとしてくる。もしリュークにあの土地を制するほどの力があるなら、俺もどんな協力でもするぞ。竜相手に無理はしてほしくはないけどな」



『……マスター、周りの思惑は聞き流して結構ですが、死を迎えるまでの安住の地を一から自分の手で造ってみてはどうですか? 真の故郷を自ら御造りください』


「ああ、もういい! 分かった! 夏休みになったら国造りを始めます! ゼヨ伯父様と、父様はそれに伴う人員を確保しておいてください。人員っていうのは大工や土木作業員達のことです。皆まで言わなくても判りますよね? ただ、犯罪履歴のある者は基本入国させません。その辺の審査はしっかりして向こうに送ってください」


「そうか! やってくれるか! 面倒な人員確保や金の工面は俺たちの方でやるから安心しろ! お前は竜さえ何とかしてくれれば良い!」


「ゼヨ伯父様は何か勘違いしていますね。建国しますが属国にはなりません。独立国にします。勿論政治に一切介入などさせませんし、発言権なども与えません。あくまで友好国です。当然先に出して頂く資金などは借りということで結構です。借用書も書きますし利息も勿論払います。塩を買ってもらって支払いに当てますので、そのおつもりで」


「うぐっ。なかなかしっかりしているな。独立国か……分かった。それも認めるのでその流れで話を進めたいがいいか?」


「まだ何のプランもないので、人員の確保だけお願いできますか? 夏休みに入るタイミングに合わせて現地周辺の国境付近に仮設村を建造して、そこに大工と土木作業員、それを守る騎士や冒険者を第一陣として向かわせておいてください」


「第一陣の規模はどのくらいでみている?」

「そうですね……大工作業員50人と土木作業員100人欲しいかな。後はそれを守護できるだけの人員と食料ですね」


「最初から大規模だな? 普通は土木作業員が先に大量にいるのだが、分かったうえで言っているのか?」

「勿論です。最初の寝泊りする施設は土魔法で建造しますので、土木作業員はあまり要らないのです。要るのは俺が建造した建物の内装を手がける大工の方です。土木作業員は大工の雑用や、俺の魔法で大雑把に治水した場所を手作業で整地したり、道路の整備などに使う予定ですので、重労働を想定した人員でお願いします」


「犯罪者は禁止でも、借金奴隷や契約奴隷ならいいのか?」

「ええ、そっちなら構いませんがあまり荒くれ者でも困るので程々にお願いします」




 粗方大雑把に話した後、ゼヨ伯父様はアリアに問いかけた。


「アリア様、本当にリュークは竜を倒せるのですか?」

「ええ、3秒よ。いえ、1秒よ! 瞬殺よ!」


 このアホ女神……お前の言うとおりに行動するのは癪だが、今回はナビーが勧めるし、俺もちょっと内政チートに興味がでてきた。いろんなラノベで内政ものも読んだが、どれも楽しそうにチートしまくっていた。


 最初面倒かなと思っていたが、ナビーの話では基本人任せで良いようだしね。


 俺にもチート魔法があるんだ、俺なりのチートで内政を行うのも楽しいかもな。

 俺が死ぬまでにチートを持たない後継者の孫やひ孫でも国が繁栄できるような基盤を作ってやれば良いだろう。


『……そうです。難しく考えなくても良いのです。ナビーがサポートしますので失敗はないのです』

『お前は退屈しのぎができるから勧めるんだろう? 俺をのせたんだからちゃんとアドバイスするんだぞ?』


『……はい! お任せください!』


 なにやらナビーが一番楽しそうだ……。


「でだ……建国の話は後でゆっくり話すとして、娘のククリたちをどうすれば良いのだ?」

「ククリ姉様が諦めて納得しているのであれば、もう良いのではないですか?」


「リューク、私は別に納得して嫁ぐのではないのですよ。何か良い案があるのならおっしゃいなさい」


「ジルは家格が低いのに、その若さで親衛隊の側近に入っているのだから、かなり優秀なのでしょう?」

「ああ、剣の腕もいいが頭も回る。おかげで先を越された上級貴族たちのやっかみにあって少し隊の中でも浮いているようだがな」


「へ~、伯父様は知っていて何も対処はしてあげてないのですよね?」

「勿論何もしていない。そういう妬みややっかみはどの業種でもあることだ。自己で何とかしないといけない事案だからな」


 俺も同じ意見だ。手段はどうやってもいいが、自分で何とかしないといけない。

 上司を頼るのでも、自分で叩き潰すのでも良い。

 だが、上司は当然のように上級貴族、信頼関係を築いてないと味方どころか敵になりかねない。伸し上がるとはそういうことだ。周りから一歩抜きん出たものだけが上にいけるのだ。



「ククリ姉様の婚約解消とかになったら結構な問題ではないですか?」

「そうだ、大問題だ。優秀でもたかが男爵家の三男、話しにすらならない相手だ。だが、お前が国を興して、ジルがそこの役職者になるというのであれば話も変わる。そこにククリを出すのに価値が出てくる。なにせこの国の建国以来の念願の塩が手に入るのだ。あ~そうだ、プリシラも国を出すのは惜しいが、リュークが引き取るのだぞ! この国の姫が妃にいるだけで、周辺国に対する牽制になる。うちがバックに付くとなると早々、攻められなくなるからな」


 各国が狙っている土地を俺みたいなぽっと出が建国したとなったら、こぞって侵略してくるだろうな。プリシラを妃に据えることで、この大国がバックになるという牽制になるのか。



 うわ~、また嫌な空気が後ろからしてきた……この気配はナナとフィリアだな。

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