3-11 店舗用の土地を購入しました
お爺様のお勧めは2軒、紹介できる物件は3軒あるとの事で3カ所とも見ることにした。
物件と言っても3カ所ともまだ営業中だそうだ。
1軒目は中央広場の直ぐ横、つまり商売をするのには超1等地だ。
「儂のお勧め1番はここじゃ。現在花屋が入っているが今月末に移転するそうだ。なので実際に使えるのは来月からじゃの。広さはあまりないが、客の出入りはここが1番じゃ。休日には中央広場で出店も沢山出るので、その相乗効果も狙えるかの」
「花屋さんはなぜ移転するのでしょう?」
「分からぬか?」
「ここは貸店舗ですか?」
「販売にも出しているが、高くて買い手がつかぬようじゃ」
「客はそこそこ入っているようですが、貸店舗だと厳しいでしょうね。生花は3日ほどで傷んでしまいます。その間に捌けなければ処分しないといけないですし、人件費と仕入れ値を考えれば相当量の販売をしないと赤字でしょう。花の販売単価なんか知れていますし、あそこでは立地が良すぎて賃貸料が高く厳しいのじゃないですか?」
「リュークよ、お前やはり商才あるぞ! 正にその通りじゃ。夫婦でやっているから人件費は要らぬが、賃貸料を払ったら殆ど残らないそうじゃ。固定客ができたそうで、メイン通りではなく裏の大衆通りに移転するそうじゃ。今は生花の販売より、旦那さんが行っている貴族家のガーデニング管理の収入の方が良いそうじゃ」
「なるほど、固定客がつくまでの顔売りとしてここで頑張っていたのですね」
俺的にここはないな。お爺様お勧めだが、改築費を考えたら、利益につながるまでに10年以上かかる。買い取るにしてもぜんぜん予算が足らない。流石は一等地、超高い。
2軒目は、一般居住区寄りにある場所だ。ここはそこそこ大きい店構えをしている。お爺様お勧め2店舗目だ。
この店は大衆食堂をやっているのだが、テーブルや椅子もそのまま付けてくれるそうだ。調理場もそれなりの広さがあって、魔道コンロも4つ口ある。これも付いてくるそうだ。
この店は大衆食堂に改装して営業を始めたそうだが、1年も経たないうちに赤字で廃業だそうだ。
食堂は店主の夢だったそうだが、お爺様曰くあまり美味しくないらしい。
店主は元冒険者で、金を溜めてこの店をやっと開いたそうなのだが、現実はそう甘くない。美味しくなければ客は付かない。借金がないので奴隷落ちしなくていいようだが、また冒険者で稼いで頑張ってほしい。
ここは貸店舗で販売はしてないそうだ。賃料は月に15万ジェニー、結構な値段だがメイン通りでこの規模なら適正価格だそうだ。
最後の場所は、爺様的にあまりお勧めできないがと言いながら、貴族の居住区側の通りに俺を連れて行った。
3軒目は大きな古い宿屋だ。1階に食堂兼酒場があるので一応飲食商売はできそうだが、畑違いの気もする。
「なんじゃ、トルネオのジジーじゃないか! どうじゃ、買い手は見つかったのか?」
「こんなボロ宿の買い手がいるわけなかろうが!」
どうやらこのジー様たちは顔馴染みのようだ。
「ボロとは相変わらず失礼な奴じゃの! お前が紹介してくれた不動産屋にも頼んだのじゃが、一向に買い手がつかん」
この宿屋は創業230年の古い宿屋だ。
王都も人口が増える度に何回か防壁を外へ拡張して居住区や農業区を広げたために、老舗のこの宿屋は街の中央寄りになってしまって、宿屋としては門から遠く離れてしまっている。王都に買い付けをしにきた商人や冒険者はできるだけ門近くに宿を取るのだ。この宿屋は門から1kmはある。8年前の拡張で500mほど更に門から離れてしまい、それが原因で致命的に客足が遠退いたのだ。年々客も減ってきて、365日休みも取れない割に大して儲けのないこの宿は子供たちも継ぎたくないらしい。もうこの老夫婦は売って郊外でのんびり隠居暮らしがしたいのだそうだ。
「まぁ、見てのとおりボロじゃ。建物自体老朽化が進み価値はない。土地はそこそこ広いので5500万ジェニーの販売だ。メイン通りだが一番奥になる。一般住民の住む居住区とは逆になるし、5500万もの大金を回収するのは、そのデザートだけじゃ厳しいじゃろ」
2軒目にしようかと思ったが、この3軒目の土地の広さは魅力的だ。
俺が悩んでいたらナビーが声を掛けてきた。
『……マスター、ここにしましょう! この古い宿を潰して、この際新築に建て替えるのです! ナビーにお任せください【ハウスクリエイト】で立派なものをお造りします!』
『【ハウスクリエイト】があったか。でもお前、ただ作りたいだけなんじゃないか?』
『……プリンやアイスの単価を考えれば@500ジェニーはほしいですよね? だとすると貴族街寄りの方が良いのではないでしょうか? ちょっと頑張れば一般市民も買えるぐらいの設定価格が好ましいかと思います』
『万人に安く食べてもらいたいとか、そんな殊勝な考えは俺にはないしね。砂糖と卵が結構高いからね。@500~@1000以内になると思うんだよね。@1000だとちょっと子供のおやつにとか安易に買えないからやっぱ@500ジェニーぐらいかな。器次第で価格が決まりそうだね。ここの購入額が5500万ジェニーか……建物の材料をそろえるとなぁ』
『……店舗はほぼ自作で賄えます。要るのはマスターの労力とMPだけです。少しだけ鉱石がいるのでその分の買い付け金がいる程度でしょうか。足らない魔石はマスターが狩ってくれば良いですしね。木材の伐採も宜しくお願いします』
『木は俺が伐採するとして、足らない鉱石や、この周辺で狩れない魔石を購入するとしたらどれくらいいるかざっと試算してみてくれ』
『……1500万ジェニーほどかかりますね。ミスリル鋼が少し高いです。それと高いのは火の魔石ですね。近くで得られる風・雷・水の魔石は除外しています』
『材料が揃えば、どれくらいの期間で建設出来る?』
『……魔石は最後にセットすればいいとして1カ月もあれば十分ですね。ガラスもそれまでには作りたいと思いますが、マスター次第です』
『俺の労力次第ってことか……ガラスを作るのに、素材を溶かすための炉用の耐火煉瓦がほしいんだよな?』
『……いえ、その耐火煉瓦も自作しますので土が欲しいのです。ガラス専用ではなくて、オリハルコンやブラックメタルをも溶解できる熱に耐えれるものが欲しいのです』
『この近郊で採取できるのか?』
『……90kmほど離れていますが、王都の北西に湿地帯があります。そこにいい粘土層があるのでそこで採取してください。そこにいるキラークロコダイルとバイトタートルという魔獣からBランクの水属性の魔石が得られます。エレクトリックフィッシュというナマズから水か雷属性のBランク魔石も狙えるので1度肉と魔石狙いで狩りに行かれると良いでしょう。ラッシュバッファローという水牛は和牛並みに美味しいようです。見た感じでは霜降りのA5和牛ですね』
『肉が美味しいのか。牛肉は食いたいな……オークのような豚も美味しいけど、やっぱ牛が食べたい』
お爺様はまだ宿屋のじーさんと話し込んでいる。その間にサーシャに相談してみるか。
『買取でお願いします。2軒目の場所も良いかもですが、永住することを考えれば5500万ジェニーなら25年で元が取れます。賃貸は所詮賃貸です。3軒目の宿屋を買い取りましょう。元宿屋なら居住もできますしね。エルフは長寿なので、長く借りるより買い上げた方が絶対お得です』
25年という数字はどこからでてきたのか聞いたら、賃貸で賃料を払うと考えれば25年ほどで5500万ぐらいになるのだそうだ。サーシャは先を見てちゃんと考えているようだな。1度買った権利は国が滅びでもしない限り子孫にも引き継げる。予算があるなら買い取った方が良いのは当然だ。
『建物が古すぎるから、俺が凄い新築をプレゼントしてやる。魔石やミスリル鋼が少し要るのでその分は出してもらうぞ』
『リューク様、このお金は私が管理していますが、全てあなた様のモノなのですよ。私の許可など要りませぬ。遠慮なくお使いください』
『分かった。土地購入以外で使うお金は魔道コンロやお風呂に使う魔石、金具が錆びないように大事な場所には鉄ではなくミスリル鋼を混ぜて使おうと思っている。それから仕入れ先は俺の爺様にお願いしたよ。身内なので原価に近い値で卸してくれることになった』
『それは有り難いですが、元娼婦と関わって宜しいのでしょうか? 商会にご迷惑ではないでしょうか?』
『元娼婦とかもう考えるな。そのような細事は俺が全部揉み消してやる。お前たちは希望の間取りを考えて来週までに俺にメールを送ってくれ。待機期間中に各デザートの作り方と接客を覚えてもらう。お前たちなら接客はある程度できるだろうが、貴族相手に粗相がないよう対応マニュアルを作ってメールするから、それを覚えこんで、突発的なことにも対処できるように練習しておいてくれ』
『分かりました。対応マニュアルのメールが届き次第練習を始めておきますね。それとリューク様、来週は遊びに来て下さるのでしょうか? 皆リューク様がお相手してくださるのを待っているようなので……』
『ん? それってエッチのお誘いなの?』
『あぅ……あの夜以来、リューク様のことを思うと皆、欲情してしまうようになってしまって。その、皆でお待ちしていますね!』
『え~と、それってあの男嫌いのコロンもなのかな?』
『はい、お恥ずかしい話なのですが、気が付くとあの晩の話を皆でしてしまっています。3人とももうリューク様がいないと発狂しそうです……』
発狂しそうとか、催淫効果のあるマッサージをしたのはちょっとまずかったかな……。
『正直凄く嬉しい。できるだけ俺も行きたいけど、学生なので色々忙しいんだ。レベル上げとかもしないと魔術を覚えられない子も班員にいるので、絶対行けるとは言えない』
『勿論、リューク様の本分を優先させてくださいまし! 私たちのことはお気になさらないでください。時間に余裕が取れて来れる時だけで構いません』
『分かった。でも俺も皆に会いたいので、できるだけ都合を付けるようにするよ』
超美人なサーシャから嬉しいお誘いがあったが、あまり浮かれてもいられない。
「お爺様、お話し中ですがちょっと良いですか? 宿屋のご主人にお聞きしますが、ここを買い取った後、この宿を取り壊して新たに立て替えても宜しいのでしょうか?」
「壊すのか!?」
「大事に使っているとは思いますが、老朽化が酷いです。厨房も古くてこのまま飲食店を開くにはイメージ的に若干不衛生ですし、大きな地震でも起きるとこの建物は危険です」
「確かにボロいが、いざ壊すと言われたら感慨深いものだな……だが仕方ないとも思ってる。買ってくれるならその後はどう使ってもらってもそちらの自由だ」
「ありがとうございます。要るのは土地だけですので、今あるベッドや家具なんかは全てそちらで処分なさってください。もし中古で買取ができないほど傷んでいて、処分にも困るようならそのまま放置でも構いません」
「リュークよ、この規模の建物を壊すにも、塵を処分するにも莫大なお金がかかるのだぞ?」
「お爺様、それくらいは知っていますよ」
「なら良いのだが、そのお金は誰が出すのだ? 儂が融通しても構わぬが……」
「私の知人のハーフエルフが出資します。解体と建築は全てこちらでやりますので、ほしい材料ができた時だけお爺様を頼らせてもらいますね」
「解体業者も建築業者も良い奴を紹介できるぞ?」
「必要ないです。お爺様が度肝を抜くような建築士を知っていますので」
「では、トルネオの孫が5500万ジェニーで買い取ってくれるのか?」
「はい、その値で買い取らせていただきます」
値引くこともできそうだが、ナビーが既に適正価格より随分安いと言うので、店主の老後の資金としてこの値で買い取ってあげることにした。
「有難いことじゃ。この辺じゃこの宿屋は最古参なので土地は広いのだが、建物が古くてなかなか買い手が付かなくての、これで儂もやっと肩の荷が下せるわい。色々退去の準備もあるので6月の末に完全に出て行く形で良いかの?」
詳細は後日ということで念のため仮契約をした。
そうしておかないと、6000万で買いたいとかいう奴が出たらそっちに売られちゃうからだ。
仮でも契約しておけば売られることはない。莫大な違約金が発生して逆に損をするから勝手に売られることはなくなるのだ。
本契約をするために1度サーシャを連れてくる必要がある。彼女には俺が長距離で【テレポ】を使えることを教えても問題ないだろう。何せサーシャは俺が死ぬまで面倒を見てくれるというほどの義理堅い少女なのだ。
とりあえず店舗を建てる土地は抑えた。まだ色々しなきゃだが、今日1日で使ったのは5500万もの大金だ。予算の半分を使ったのだ、4人の人生もかかってるんだし失敗は許されないなと改めて思った。
それからお爺様と昼食を一緒にとってそこで別れた。
午後から時間が空いてしまった。
なんだかんだで異世界楽しんでるなと思いながら、この後何しようかなと思案するのだった。
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