2-11 フィリア達には内緒でサリエにプロポーズしちゃいました

 なにやら俺から少し離れて、ナナとフィリアはコソコソ話し合っていたがおもむろに聞いてきた。


「リューク様、タカナシリョウマでいたいとのことですが、リョウマ様とお呼びすれば良いのですか?」


「ん? こっちの世界の呼び方だとリョウマ・タカナシになるのかな。でもこれまでどおりリュークでいいよ。ここにいる4人しか知らないことだし、知られたらちょっとマズいからね。俺は使徒として召喚されたんだから、使徒としての使命があるんだよ。だから女神からもらったスキルが使えるんだ」


「ナナの足を治してくれた魔法もその1つなのですね?」

「そうだよ、もともとの僕はそれほど凄い術者じゃなかったでしょ?」


「いえ、そんなことはありません! ヒーラーとして皆から期待されていました!」


「期待はされてたけど、実力は年相応のものだったじゃない。フィリアの方が聖女様とか言われるほど凄かったしね」


「それにしても使徒様ですか……」


「フィリアごめんよ、使徒のこととかラエルの件で凄く俺の心は不安定になっていたんだ。使徒の使命がなんなのかも知らされていないので、今の力じゃ不安になって国を出て獣国に行こうとしてたんだ。サリエに止められなかったら、皆に酷い迷惑をかけていた」


「わたくしこそごめんなさい! 突き飛ばすつもりなんかなかったのです! もしあのまま会えなくなっていたらと思うと……本当にごめんなさい!」


「いいんだよ。あの時は俺も考えなしに飛び出しちゃったからね。リョウマの部分がある限り、ナナやフィリアに嫌われて邪険にされるくらいなら、いっそのことリュークという存在はなかったことにして、リョウマとして他国で1から生きようって思ったんだ」


「そこまで思い詰めていらしたのですね……本当にごめんなさい。わたくしはリューク様がいなくなってあらためて好きだと自覚いたしました。あの馬車の滑落事故であなたが死んだ時に、わたくしも死のうと思っていた感情が蘇ったほどです。フレンドリストの名が反転してしまって、もしこのままリューク様が亡くなってしまったのなら死のうと決意しました。それほどリューク様のことが好きなんだと自覚したのです」


「そこまで想ってくれるのは嬉しいけど、後追い自殺は絶対しないでね」

「はい、でももう置いて出て行ったりしないでくださいね?」


「うん、もうそんな投げやりで軽はずみなことはしない。ちゃんと学園を卒業するよ、使徒の使命もそれからでいいようだからね」


「ところで兄様はソシリアのどこにいらっしゃったのですか? サリエやカリナ隊長が宿屋や主な温泉宿泊施設はくまなく探したが居なかったと報告があったのに……」


 それまで黙っていたサリエがスススーと俺から離れて行った。

 こいつ、また裏切りやがったな!


『サリエ! お前またチクッたのか! ナナに言ったのか!?』

『ん、私は言ってない! ただ娼館で捕えたってことだけ……』


 それ全部言ってるのと同じじゃん!


「逃走中に宿屋とかに泊まるのはバカのすることだよ。僕は身分を偽り娼館に潜んでいたんだ」

「娼館なんて野卑で俗悪な場所に! 兄様が行くようなところではありません!」


「ナナは娼婦を汚らわしいと思っているのか?」

「汚らわしいとまでは言いませんが、兄様が関わるような人たちではありません」


「僕はそこで獣人2人とエルフの親子に出会ったのだけどね。ハーフエルフの娘は病気で死に掛けている母親の治療費を稼ぐために体を売っていたんだよ。そのエルフの母親はセシア母様と同じ病気でもっと病状は進行していてもって10日の命だった。娘がこんな仕事で治療費を稼いでいたと知った時は自殺を図ったそうだよ。指先が動かなくなるほど手首がザックリいっていたよ。獣人の娘たちは家族や兄妹を守るためにどうしてもお金が必要で、そのお金を借りるために娼館と契約したんだって言っていた。体は穢れてしまったかもだけど、皆家族の為にしたことなんだよ。心はとても綺麗な娘たちだった」


 娼館がどういう場所か知っているだろうが、そこの娘たちがどういう経緯でそこで働いてるかなんて、ナナやフィリアやサリエには知るすべはないだろう。この娘たちは貴族の子女なんだ、育ちが違い過ぎる。


「可哀想だとは思いますが……公爵家の者が関わってはいけません」


 ナナも最初の勢いがなくなって、声も小さくなってしまっている。


「僕はその娘たちを雇った。この王都で商売をさせるつもりだ」


「「えっ!?」」


 これにはナナだけじゃなくてフィリアも驚いている。


「あの? リューク様? 商売ってまさか娼館をつくるとか言わないでくださいね?」

「へ!? いやいや、いくらなんでもそれはないから! もう彼女たちは娼婦でもないからね。売るのはこれだよ」


 【インベントリ】からプリンとアイスを出した。俺から離れていたサリエがスススーと近づいてくる。


 サリエのやつ……。


「サリエは一度食べているから要らないね?」


 何も言わないが、耳が萎れている……うっ、耳だけで俺を落とすとは。


「冗談だよ、ほらサリエもお食べ」


 耳がピンと立って復活した!


「「美味しい!」」

「ん、これは売れる!」


「ミリム母様の実家で材料は仕入れるつもりだから、経費もそれなりに抑えられるしね。儲かると思うよ」


「リューク様、娼婦にこれを売らせるのですか?」

「元娼婦だよ、彼女たちに圧力を掛けてくるバカは僕が排除する。使徒にも資金源がいるしね。もし国や教会に使徒として協力依頼した場合、使命を終えた後、身動きが取れなくなっちゃうからね。使徒の最後は国や教会にいいように利用されて使い潰されるのが分かり切っている」


「資金源ですか。ゼノ様を頼るのはダメなのですか?」

「父様も国の重鎮なんだよ。国王様の命だと、僕を優先してはっきり断ると問題があるでしょ? 使徒でいるうちは国命より神命のほうが発言力があるけど、使命達成も自己の力だけで行っておけば、事後も強気で対処できるからね。負い目をつくらないためにも資金は重要なんだよ」



 その後も娼婦の娘たちのことが気になったのか、根掘り葉掘りと聞いてきたが、雇ったが詳しく知るほどの仲ではないととぼけてやり過ごした。


 その後夕飯を一緒に食べ、自室に戻る。




「サリエ、お風呂を頼む」

「ん、分かった」


 勿論サリエにお願いして一緒に入ってもらいましたよ。

 入浴後ベッドサイドに腰掛け、サリエの髪を乾かす。


「サリエ、苦労かけたね、ごめんよ」

「ん、でももう置いて行かないで。どうしても国を捨てるなら、私も行く」


「分かった。学園を卒業したらサリエはどうする予定なんだ?」

「ん、リューク様次第?」


「どういうことだい?」

「ん、そのまま雇ってくれるなら残れるけど、そうでないなら貴族の子女として結婚?」


「サリエのウォーレル家はサリエしか居ないから婿取りになるのかな?」

「ん、多分そうなる」


「相手はもう決まっているの?」

「ん、候補者は何人か居るみたい……でも私は結婚とかしたくない」


「でも、それだと後継者がいなくなってウォーレル家が困るだろ?」

「ん、恩返しするには結婚して子供を産まないといけないけど……相手は自分で探す」


「候補者の中に良い男はいなかったのかい?」

「ん、会ったこともないから知らない」


「サリエはどんなタイプの男性が好きなんだ?」

「ん、リューク様……」


 耳まで真っ赤にして可愛いことを言う。今はドライヤー中で顔が丸見えだ。ウル目でそんな可愛いこと言われたら、おじちゃんノックアウトだよ。


「俺か~……じゃあ将来は俺と結婚してくれる? サリエとの間にできた子供の一人をウォーレル家の養子に出せば後継問題も片付くしね。あ、でもフィリアが結婚してくれるなら、サリエは第二夫人になっちゃうけど……」


「ん! 第二夫人でも凄く嬉しい! 約束!」


 本気で俺と結婚したいのか……今のところサリエには欲情はしないけど、俺の癒しを他の男にやりたくはないよな。


「じゃあ学園卒業後は俺と世界に旅に出てくれな。冒険者になって世界を見て回るんだ」

「ん! 楽しそう! あ……でも第三夫人。第二夫人はナナ様がなるはず」


「ナナか……う~ん、どうだろうね。実の妹となんて俺的にあり得ないんだけどね」

「ん、でもナナ様本気……ちょっと怖い。嫌われたら追い出される」


「ちょっと変なところはあるけど、苛めたり意地悪したりは絶対しないからそんなに怖がらなくても大丈夫だよ?」


「ん、でもナナ様、雷より怖いかも……」

「あはは、今はサリエに取られちゃうとか考えてるから警戒してるけど、ナナも根は優しい子だから大丈夫だって。でも、暫くは僕がサリエにプロポーズしたのは内緒にしとく?」


「ん、怖いから内緒がいい……結婚とかずっと先の話だし、今言って嫌われたらこの後の卒業までの3年間が怖い」


「こんな雰囲気も何もない、勢いだけで言ったプロポーズとか保留にしておこう。サリエには学園を卒業して冒険中にこれでもかってぐらいの綺麗な場所でちゃんとプロポーズしなおすよ」


「ん! 嬉しい! 楽しみに待つ」


「よし乾いたよ。今度はマッサージ治療だ。随分無理して僕を追っかけて走ったんだろ? 階段とか少し足引き摺ってたよね?」


「ん、ちょっと筋肉痛」


「これちょっとじゃないジャン! どれだけ無理してるんだよ……今楽にしてやるからな」

「ん、リューク様ありがとう。ひゃう! イタイ~」


「まぁ、これだけ筋組織が壊れちゃってたら凄く痛いよ」

「ん! 痛いからもういい!」


「ダメだよ、今痛くても後が楽になるんだから。ねぇ……サリエは僕のどこが好きなんだい?」

「ん! 凄く優しいところ! 今もこうやって気遣ってくれてる」


「ふ~ん。優しい男が好きなの?」

「ん! 一緒にいると楽しい! 一緒だと御飯も美味しい! 本当はお風呂も楽しい! 狩りも楽しい! 剣術の稽古も楽しくなった! 毎日が凄く楽しい! だからもう居なくならないで!」


「分かった。もう居なくなったりしない。僕もサリエといると楽しいよ」


 俺のせいでサリエの疲労はかなり溜まっていた。

 【アクアフロー】で回復してあげたので完治したけど、サリエには悪い事した。

 今回の一番の被害者だと思う。



 見た目10歳のサリエに結婚を申し込んだのだが、決して俺はロリコンではない。

 でも嬉しそうに微笑むサリエの顔はとても愛らしい……俺、本当にロリコンじゃないよ。



 明日から俺の学園生活が始まる。

 勉強は嫌だが、せっかくなので2度目の青春を謳歌するとしますかね。

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