1-17 ジョブに就いて、ある事を思い出しました

 暗殺者を避けるようにして移動し、神殿に到着した。


 午前中に俺が7レベル上がって現在種族レベル28、サリエが4レベル上がって32になっている。


 種族レベルが20になると神殿でジョブというものに就けるようになる。これは実際の職業と違い、その仕事に従事するというものではない。選択したジョブに関係するステータスの適正項目が獲得後は上がりやすくなるのだ。



 例をあげてみる、魔術師というジョブに就いたとしよう。


 現在所有しているMP量が大幅に増え、今後レベルアップした時に得られるステータス項目の基本ポイントが知力>精神力>攻撃力>体力のように魔導師向きに割り振られることになる。魔法発動時の使用MP量も個人によって差はあるが幾分減り、魔法習得の速度や、魔法の威力も上がるという恩恵が得られる。


 今回俺とサリエが就こうとしてるジョブは魔法剣士。


 誰でもなれるジョブではないが、どっちつかずで敬遠されがちなジョブでもある。剣も魔法も使えるが、剣士のジョブより剣の腕も上がりにくい。魔法もしかりで、魔術師には及ばないのだ。 


 じゃあどうしてこの職業にするかというと、俺のチートスキルがあるからステータスポイントを好きなように割り振れる。怪しまれないように皆にどっちもいけるんですよアピールのためなのだ。


 魔法科に行くのに、【剣聖】Lv10でむちゃくちゃ剣士タイプな上に、魔法も無詠唱で賢者クラスというのは本来あまりないことだ。サリエに至っては【剣鬼】Lv10だ、騎士科でもいない。


 あと数日しかいない俺が勝手にジョブを決めるのもどうかとは思ったが、暗殺者に狙われている状況なので、ジョブを得てその恩恵を付けるべきと判断したのだ。


 神殿でジョブ変更もできるようようなので、得られるものは付けて少しでも強化しておいた方が賢明だと思う。気に入らなければリューク君が後で変更すれば良いのだ。




 神殿内部に入って行くと、俺を見かけた巫女が声を掛けてきた。


「こんにちは、リューク様、今日はどうされました?」

「こんにちは。侍女のサリエと2人でジョブに就こうかと思い訪れました」


「そうでしたか。それはおめでとうございます。サリエ様もやっとジョブを選ばれたのですね」


 どうやらこの巫女さんはサリエのことをよく知っているような口ぶりだ。


「ん、リューク様が孤児院にオークのお肉30頭分を寄付してくれた。今持ってきてる」


「まぁ! それはありがとうございます! 最近お肉が高くてなかなか口にできなくなっていたところです。子供たちもさぞ喜ぶことでしょう」


「いや、僕というよりサリエのたっての希望だ。感謝はサリエに言うとよい」


 サリエに後ろからお尻をつねられた。指が小さいので地味に痛い。

 サリエは公爵家の俺からということにしたかったようだ。俺の顔を立てたかったのだろう。


「では、神殿の奥にあるアイテムBOXの所に来てもらってよろしいですか?」


 移動してる間にメールでも送ったのか、神父もやってきた。


「リューク様、オーク30頭も寄付していただきありがとうございます。何分食べ盛りの子供ばかりなので、いくらあっても足りません。ですが最近お肉が高くて少ししか食べさせてあげられなくて気をもんでいたところでした」


「神父様、先日はお世話になりました。レベルアップもかねて狩りに出たところ、オークの集落を見つけましてね。侍女のサリエが強いので2人でサクッと狩ってきたのですよ。まだ熟成はしてないのでその点だけ気を付けてください。3日ほど熟成した方が美味しいそうですからね」


「分かりました。折角ですので美味しくしてから食べたいですね。30頭分もあれば1年は持ちそうです。本当にありがたい」


「明日、スタンプボア1頭とホーンラビット9匹分の解体が終えるので、それも寄贈しますので楽しみにしてください。いま、ギルドで解体中なんですよ」


「有難いです。スタンプボアとはまた貴重なお肉ですな。美味しいお肉なので楽しみです」


 会話を聞いてた数名の巫女たちも美味しいお肉が食べられると、嬉しそうに声をあげている。


「それと、僕はファーストジョブに、サリエはファーストとセカンドを同時に受けたいので手配お願いします」


「分かりました。すぐ手配いたします」


 準備ができたと祭壇の方に案内され、水晶のようなものに触れさせられた。


「これは神器でございまして、触れることによって現在就けるジョブが【クリスタルプレート】に表示されます。その中から選択して決定すれば、ジョブに就けますのでご覧ください」


「実はもう決めてあるのです。あった、ポチッとな。じゃあ次はサリエね」

「ん、あった! 良かった……セカンドジョブどうしよう?」


 この世界のジョブはクラスアップではなくて、追加式なのだ。条件をクリアしてなければ魔法剣士というジョブは表示されない。よくゲームで見かけるクラスアップシステムだと剣士→魔法剣士→魔法騎士とクラスアップしていってなれるというのが定番だが、こちらの世界は適性があればいきなり賢者にもなれるが、適性がなければ、どんなに願っても魔術師にさえなれないようだ。


「サリエは、剣と魔法どっちを先に延ばしたい?」

「ん、せっかく魔法科にいくのだから、魔法!」


「じゃあ、セカンドジョブは魔術師がいいんじゃないかな?」

「ん、そうする。えい!……わっ! MPが凄く増えた!」


 サリエの声から凄く嬉しそうな感じが伺える。

 俺とジョブに就きにくるのをずっと楽しみにしていたんだろうな。


「後で見せっこしよう。あっ! しまった! あちゃー見せっこで思い出したよ……」

「ん? リューク様どうしたの?」


「フィリアと約束してたことがあったんだ……今、フィリアはレベル17で、夏休みに一緒にどこかへレベル上げに行って、ジョブに就こうねって」


「ん、早く謝った方がいい!」


「神父様、ありがとうございました。また明日お肉を持って来ますね。もし僕が来れないようなら、使いを出しますので」


「ジョブ獲得、おめでとうございます。本日は沢山お肉の寄贈ありがとうございました」


 皆の前で謝るのを見られたくなかったので、早々に話を切り上げ神殿を後にする。

 メールを送ると、フィリアはナナの所に遊びに行っているらしい。


 中身が別人とバレるとまずいので、フィリアに直接会いたくはないのだが、ナナに用があるし、サリエのこともあるので仕方なくナナの所に行くことにする。


 サリエのことというのは、執事ではなく侍女を付けたという話だ。婚約者に相談なく常に行動を共にする学園生活を女子にしたのだ。事後報告になったのを詫びなくてはならない。


「ん、リューク様。フィリアさんの機嫌が悪くなって私、嫌われないかな?」

「サリエには悪いことしたね。このタイミングでフィリアに会いたくないだろうけど、遅くなるほどフィリアの心象が悪くなるから付き合ってくれ。聖女と言われるほどの優しい娘だから大丈夫とは思うけどね」


「ん、気が重い……」


 フィアンセがいるのに、執事ではなく侍女が付いたのだ。フィリア的にはいい気はしないだろう。俺なら同い年の16歳の男が好きな娘にべったりついて行動する従者になったと思ったら、嫉妬でやきもきするのは間違いない。


 サリエには本当に悪い事をした。レベル28になっても俺に選んでもらおうとジョブに就かず今日まで待っていたのだ。せっかく待ってやっとジョブに就いためでたい日に台無しである。



 妹のナナの母親の実家は王都にある。ナナのお母さんの父親は王都でも有名な豪商だ。

 娘を作法見習いという名目で公爵家に出していたのだが、その娘が当主の寵愛を受け妊娠してナナが生まれた。貴族や大手の商家が上位貴族の家で作法見習いという箔をつけさすためによくやることなのだが、ここで見初められたら玉の輿ということもあって貴族間の腹黒い魂胆もあるのだが、ナナのお母さんのミリムさんは上手く立ち回ったようだ。


 ミリムさんが妊娠してナナが生まれたおかげで、ミリムさんの父親はすぐにこの公爵領にある支店を公爵ご用達にしてもらっている。そのおかげでさらに利益を上げ、今では国でも5本の指に入る商家にあげられるほどだ。


 現在ナナはその支店を構える別邸に避難中なのだ。


 俺の後ろを元気なくとぼとぼとついてくるサリエを連れて、ナナのいる街の中心部にある豪邸に到着する。




 執事に案内され、フィリアたちがいる部屋に到着する。


「リューク様! 逢いたかったです!」


 部屋の中に入るなり、フィリアが俺に抱き着いてきて涙目で俺の胸に頬ずりをしてくる。


 何このいきなりの萌え展開! やめて! マジヤバいので勘弁してください!

 今まで見たこともないような美少女がいきなり抱きついて頬ずりしてくるのだ。しかも良い匂いがする! 顔が真っ赤になり、気絶しそうなほどドキドキする。


「フィリア! ナナの前でいちゃつかないで!」


 車イスから叫んでいるのが妹のナナだが、こっちも凄い美少女だ。


「ナナ、そんな意地悪言わないでください。凄く会いたかったのです。コールをしてもちっとも出てくれなかったですし」


「兄様はナナのものですから、いくらフィアンセでも結婚するまでは気安く触らないで!」


 聞いての通りナナは重度のブラコンだ。リュークが亡くなる3日前にも、一緒にお風呂に入るほどの異常者だ。母は違えど血の繋がった実の兄に欲情する変態妹なのだ。


 変態妹と言ってしまったが、この世界は兄妹婚もOKらしい。理由は魔法の遺伝継承のためだ。貴族が魔法を独占しているのは貴族間での血の継承を受け継いでいるからだ。優秀な家系同士は優秀な魔法使いが誕生しやすい。聖属性や闇属性などのレアな属性持ちの名家は兄妹どころか親子で子をなす家もあるそうだ。ナナはこれを幼少のころに聞き及んで第二夫人の座を狙っている節がある。


 一方リューク君にその気は全くない。お風呂も足の悪いナナを抱っこしてあげて入浴介助しているだけなのだ。


「2人とも僕のせいでごめんね。入学が少し遅れちゃうけど許してね。特にナナはせっかく今年の入学生でトップを取って新入生の代表挨拶をするはずだったのにね。父様も母様も楽しみにしていたのに……」


「兄様、良いのです。ナナは兄様が生きててくれたことが一番嬉しいのです。ナナも後を追おうかと兄様が亡くなってからの3日間ずっと悩んだほどです。本当に良かった」


 うわー、重いです……この娘マジですよ。目の前で大粒の涙をぽたぽた2人で流して泣いてくれている。


 リューク君愛されてるな~。羨ましい……。


 ある程度落ち着いた頃話を進める。


「今日はフィリアに謝ることがあるんだ」

「なんでしょう?」


「その前に2人に紹介するね。サリエこっちへ。今度学園に通う際に僕の侍女になった子爵家のサリエだよ」


 部屋の外で待機させていたサリエを招き入れ、2人に紹介する。


「ん、サリエ・E・ウォーレル。ウォーレル子爵家の娘です」


「え!? この子が?」

「兄様? 本当なのですか?」


「うん、そうだよ」


「きゃー! 可愛い! ナナ! この子なら大丈夫ね!」

「うん! 可愛い! フィリアと作戦会議をしていたけど必要ありませんでしたわね! なんて愛らしいのかしら!」


 なんだこの異常なテンションは……。


「サリエちゃん、こっちにきてお顔を見せてください!」


「あ! フィリア、サリエは死んだ母親の遺言で顔を見せてくれないんだ。父様の命令でも拒否するくらいの徹底ぶりなので無理強いはダメだぞ」


「そうなのですか? 理由は分かりませんが、お母様の遺言なのでは仕方がありませんね」

「兄様、サリエちゃんは本当に16歳なのですか?」


「そうらしいけど、10歳にしか見えないよね?」

「「うん」」


 やはり2人にもそう見えるらしい。


「ん、私は今月16歳になる。15歳のみんなよりちょっと大人!」

「とか言ってるサリエの言動が、子供っぽくて可愛いよね」


 ナナもフィリアもうんうんと頷いて同意している。

 ちょっと不機嫌になったサリエが仕返しなのか爆弾を投げてきた。


「ん、リューク様はそれよりさっさとフィリアさんに謝る!」

「うっ、そうだった……フィリアごめんよ」


「えと、何のことでしょう?」

「実はフィリアとの約束をすっかり忘れていて、今日神殿でジョブに就いてきてしまったんだ。就いた後になって記憶が戻って、夏休みにレベル上げして一緒にジョブに就きに神殿に行こうって言ってた約束を思い出しちゃって……ごめんね」


「そうでしたか……残念ですが仕方ないですね」

「兄様のレベルはいくつになられたのですか?」


「今、28だよ」


「えっ! もう28なのですか?」

「リューク様、本当ですか?」


「今、暗殺者に狙われてるだろ? サリエは強いけど、自分でも守れないといけないと思って頑張ったんだよ」


「サリエちゃんは強いのですか?」

「うん、めちゃくちゃ強いね。だから執事ではなく護衛重視の戦闘侍女のサリエが選ばれたんだ」


 ドアをノックして侍女が入ってきた。どうやら紅茶を持ってきたようだ。

 サリエがスッと動いてその侍女と変わろうとする。サリエなかなか優秀だな。ポイントアップだ!


 その侍女は、自分の仕事だと言って譲ろうとしない。うん、やはりサリエの方がはるかに優秀だ。


「君、僕は今、暗殺者に命を狙われているんだ。サリエは護衛も兼ねてるので君を疑うわけではないが、毒殺の可能性を考慮してサリエが入れようとしてくれている。君の仕事を奪って申し訳ないが、事情が事情なのでサリエに譲ってあげてくれないかな?」


「あ、はい失礼しました!」


 深く一礼して、その侍女は部屋を出て行った。

 毒が入っていないのは、ナビーが知らせてこないことから分かっているのだが、これはサリエの仕事だ。


「どう? ちみっこだけど、なかなか優秀でしょ?」

「ん! ちみっこ言うな!」


「そうね。サリエちゃん、兄様の事守ってね!」

「サリエちゃんお願いね。私も、もうあんな悲しい思いはしたくないのです」 


「ん、任された」


「まぁ、言葉遣いは独特だけど、いい子だから仲良くしてあげてね」




 どうやらサリエは受け入れてもらえたようです。

 さて、この後ナナを素っ裸にするのだが、どうしよう……ナナが可愛すぎて躊躇してしまう。


 中身別人の俺が、実の妹に欲情とかあってはならない。




 だが、理性が持つか自信がない……反応しなことを祈ろう。


 サリエの入れた美味しい紅茶を飲みながら、気を落ち着かせるのに務めるのだった。

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