3-19 結構なお宝が手に入りました、でもナビーが……

 この場を離れる前に騎士たちに説明しておくことがある。


「騎士の代表を呼んでくれないか?」


 この間に盗賊たちに【無詠唱】で【強制睡眠】を発動し【魔糸】を21本飛ばして奴らのスキルを一斉に奪う。

 21人もいるのにほしいと思うスキルが1つもなかった……流石は冒険者にも成れない盗賊だ。


 元は32人いたのだが、数が少ないのは騎士達の手で殺されているからだ。

 騎士で亡くなった者は、全てアサシンの手によって殺されたようだ。


 王女に付く護衛だ、盗賊たちだけなら7人で返り討ちにできるだけの戦力はあったのだ。


 騎士隊長がやってきたのだが、いきなり盗賊の全員が倒れたのであせっているようだ。


「あの、賊共が急に倒れたのですが、何かなされたのでしょうか?」

「うん、睡眠魔法を使って盗賊たちは全員2時間ほど眠らせてある。その間は叩いても揺すっても起きないので、安心して王都からの援軍を待つといい。一応ここに向かう前にゼノ父様経由で王城の方に救援要請は出しているけど、どのくらいで到着か分からないからね。プリシラの安全の為に盗賊たちは眠らせたんだ。それとこの周辺に強い魔獣の気配はないから、正騎士が3人も居れば余裕だからね」


「そうでしたか、それはありがたいです。本音を言えば残った騎士だけでは少し不安がありました。魔法の枷があっても全員が暴れ出したらどうしようかと心配でした。王都の騎士舎に連絡を入れたら、先陣に飛竜隊を王自ら引き連れ既に出発されてもうすぐ到着するそうです」


「国王様自ら? そうですか……ああ、一番大事なことをお伝えしときます。そこの3人が今回の姫暗殺の実行犯の主犯格です。こいつがリーダーで王都のどこかにある闇ギルドの幹部です。それとこの枷は2時間で外れてしまいますので、その前にロープで縛りなおしてください。僕はこれから直ぐに王都にあるという、こいつらの拠点襲撃に向かいます。スラムの入り口付近の一軒家だそうですので、そこに憲兵を向かわせてもらっていいですか?」


「リューク様はここに残られないで、王都に向かわれるのですか?」

「ええ、急がないと時間が経てば、拠点にある財宝を全て持って逃げちゃいますからね。時間がないので話は後程ということで……申し訳ないのですが、隊長の方で事後処理はお願いします。これ念のために証拠品として隊長にお渡ししときます。アサシン3人が所持していた武器です。刃の部分にデスケロッグの猛毒が全部に塗られていますので、取り扱いには注意してくださいね」


 メイン武器と奴らが所持していた投げナイフや毒針などを隊長に手渡す。


「了承しました。リューク様、この度は本当にお助けくださり感謝いたします!」


 騎士たちから深々と頭を下げられお礼を言われる。


「あの、リューク様! またすぐ会えますよね?」

「ああ、多分直ぐ会えると思うよ。一度妹のナナを連れて、近いうちに王城にも挨拶に向かうつもりだったからね」


「そうでしたか。はい、お待ちしておりますので、必ず登城した際には声を掛けて下さいね。私共の方からお礼の挨拶にお伺いたいのですが、目が不自由ですのでお父様があまり城内から出してくれませんの……」


 プリシラに挨拶し、登城した際には会いに行くと約束させられた。



「サリエ、行こうか。楽しい残党狩りだ!」

「ん、頑張る!」


 例の青年をPTに加え、【テレポ】で王都の西門入り口付近に飛ぶ。朝、サリエを回収した辺りだ。青年は初めての転移魔法体験に驚いていた。


「じゃあ、急いで拠点に案内してくれ」

「はい、分かりました」


 彼は必死に走って俺たちをアジトにまで連れて行ってくれた。

 アジトの中の様子をMAPで窺うと、どうやらまだ此処にいる奴ら以外が全員捕縛されたことに気付いていないようだ。


 それどころか、盗賊のリーダーは女2人と3P中だ……。


「ご苦労だったな。約束の【中級回復剤】だ。後、【中級解毒剤】と【初級回復剤】もやろう。使い方が大事なのでよく聞いておけ。まず患部の膿を出し、綺麗な水でよく洗ってから【中級回復剤】を飲む。次に【中級解毒剤】を飲み、最後に患部に直接【初級回復剤】を振りかけたら傷跡も完治するはずだ。【解毒剤】もちゃんと飲まないと膿んだ部位の治りが遅くなるからな」


「あの!? 本当に見逃してもらえるのですか?」

「なんだ? 俺が嘘吐いて場所だけ言わせてそのまま騎士に突き出すとでも思っていたか?」


「はい、正直に申しますとその通りです。助けて頂く理由がないですから……」

「確かにお前を助けても直接俺に何のメリットもない。それどころか逆に回復剤分損をする。むしろお前を犯罪奴隷として売った方が金になる」


「そうですよね……では、どうしてですか?」

「お前を見逃してほしいという女神がいたからだ。只それだけのことだ。俺的にはお前をそこまで信用はしていない。でもその神がお前は改心して二度と犯罪行為はしないと言い切ったから見逃すことにした」


「その神のお名前はなんとおっしゃられるのでしょうか? 宜しければお教えください!」

「その神は女神ナビーという」


『……マスター、また適当なことを言って……』


「聞いたことのない神様の名です……教えていただきありがとうございます! 女神ナビー様の名に誓って二度と犯罪行為に加担することなく、教会の方に必ず何倍にもして寄付という形で返済いたします。この度はありがとうございます! お助け下さったリューク様にも一生感謝いたします」


 ナビー、初信者の誕生の瞬間だった。


「分かったからもう行け。帰ったら母親が手遅れで既に死んでいたとか笑えないぞ。早く帰って母親に回復剤を飲ませてやれ……」


「はい! 本当にありがとうございました!」


 名も知らない彼は感謝を述べて走って帰って行った。母親に早く薬を飲ませたいのだろう。



 案内役の彼の言う通り、アジトの中には5人の男と、4人の女がいる。誰も出かけてなくて幸いだ。盗賊の頭と思われる奴は、2階の自室で朝から女2人としっぽりやっているようだ。


 仲間が姫殿下襲撃という大仕事をしている最中というのに、頭おかしいんじゃないか?


 残りの男4人は1階にある大きなリビングで豪勢な料理を前に酒を飲みながらくつろいでいる。女2人は料理を作ってリビングに運び込んでいる。今日の襲撃は間違いなく成功すると思っていて祝杯の宴でも行うつもりなのだろう。プリシラが襲われたあの場所からなら丁度昼には帰ってこられる距離だ。



「サリエ、街中で衛兵が捕縛した場合は、アジトの中の物はその土地の領主の物になってしまう。まぁ、衛兵や騎士は領主が雇ってるのだから当然なのだけど、ここの場合は王都なので国に徴収されてしまう。そうならないように衛兵が到着する前に俺たちだけで片を付けるよ」


「ん、分かった」


 サリエが飛び込んで行こうとするので、一旦制止する。


「ん? どうして止めるの? 急ぐんじゃないの?」

「気配察知で2階の様子をちゃんと窺ってごらん……」


 俺に言われた通りに気配を窺ったサリエの長い耳が真っ赤に染まっていく。


「サリエは1階の6人の捕縛の方にしておこうか? 俺が2階の3人を捕らえるよ」


 前髪で表情は伺えないが、激しく頷いている。サリエは見た目10歳でも、もうすぐ16歳になる乙女なのだ。2階で何がなされているのか、説明しなくてもちゃんと分かっているのだろう。


「サリエ、いくら雑魚の盗賊が相手でも、ちゃんと気配察知と鑑定魔法は使い、万が一もないよう突撃の前に十分なデータを取るよう心掛けるんだよ」


「ん、ごめんなさい……確かに気が緩んでたかも」


「何か起きてからじゃ遅いんだ。ジュエルの時にも教えたでしょ? 同じミスはダメだよ。俺のパーティーは命最優先が基本だからね」


「ん、雑魚でも次からは見くびらないようにする」


「うん、それでいい。仲間が雑魚に殺されてしまったら一生悔やむ事になるからね。慎重なのは過剰なくらいでいいんだ」



 サリエにはああ言ったが、2階で腰振ってる奴とか、まともに相手をしたくなかった。


 サリエにGOを掛けた後、俺の方は外から2階の明かり窓の隙間に【魔糸】を30本放って中の3人を適当に巻きつけて力任せに引き抜いた。


 当然【身体強化】MAX状態の俺が無理やり引き抜いたのだ。木窓を突き破って全裸の人間が2階から3人降ってきた。女2人の方は途中で【魔糸】を操り、衝撃を殺して地面に下ろす。男の方は頭から落ちて死なないように調整だけして、そのまま2階から落下させた。


「「キャー!!」」

「グエッ! 痛ってー! 何だ!? 何が起こった!」


 速攻で【魔枷】を嵌め5秒で捕縛完了だ。


 全裸の奴らが喚くが無視だ。


 クソッ、男のフル勃起なモノを見てしまった。女たちはそれなりに綺麗だが、俺の好みじゃない。綺麗なだけで品がないのだ。



 サーシャたちに会いたくなってきた……。


 3分ほどでサリエも6人を引き連れて戻ってきた。


「サリエ、怪我とかしてない?」

「ん、奴らには剣すら抜かせていない」


「お、流石だね。俺は中に行ってお宝を根こそぎ回収してくるので、サリエはこいつらの監視をお願い」

「ん、リューク様、女の人に服を着せてあげないの?」


 騒ぎを聞いた付近の住人がちらほら外に出てきて遠巻きに俺たちを見ているのだ。

 スラムの入り口付近なのだが、かろうじてこの辺は舗装された道がある住居区だ。


 サリエは裸の女に配慮しろとやんわり言ってきているのだが、そいつらの犯罪歴を見て知っている俺は気を使ってやるつもりは更々ない。


「サリエ、そいつらに鑑定魔法を掛けてちゃんと見るんだ。下手に同情なんかしていたら痛い目見るよ」

「ん、分かった」


 お小言より先にお宝の回収だ。憲兵がくるまでに回収しないと国に徴収されてしまう。


 真っ先に地下の宝物庫に向かい、鍵のかかっている木製の扉を蹴破って中に入る。

 おお! あるある……お宝が一杯だ!


 ナビーは魔石と鉱石に喜んでいる。どっちも量は少ないのだがお目当ての品が揃ったらしい。


『……マスター、後は木材と耐火煉瓦用の粘土さえあれば【ハウスクリエイト】でスンゴイのができます』

『お前のスンゴイのがどれ程のものなのか気になるが、なるべく急いで回収に行くよ』


『……【飛翔】魔法があるので、放課後でも十分閉門に間に合う時間で帰ってこられますね』


 そこまでして行かせたいのか! 学園が休みの日でいいだろう……。

 今日中にでも行かせられそうな気配がする……。



 現金・宝石・武器とかも全部回収した。こいつら結構ため込んでいやがった。

 俺的にはラッキーだが、奪われて泣きを見た人がその分沢山いるということでもあるんだよな……。



 公爵家の人間は冷酷な奴とか噂されるかもだから、女にシーツだけでも被せてやろうとベッドからシーツと毛布を剥ぎ取り階下を降りていると、男の悲鳴が聞こえてきた。

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