3-95 サリエがめっちゃ拗ねていました

 フルーラがドラゴンの化身だということを、いくら説明しても理解できないようだ。

 そもそも俺自身が、どうして俺のイメージで実体を伴った体を顕現できるのか分かっていないのだから、上手く説明ができない。流石に【魔法創造】で人化しちゃったとは言えないよね―――


「まぁ、この際理解しなくていい。要は世間知らずなので、彼女には世間一般の常識を教えてあげてもらいたいんだ。従業員に雇うのではないので、デザートレシピまで覚えさす必要はない。お小遣い程度は俺があげるので、無給で雑用に使ってあげてほしい」

「分かりました……」


「それよりフルーラ、ジュエルよりファリエルさんの方が強そうってホント?」

「う~んなんとなくだけどね……何でもありならそっちのアサシンちゃん。総合力ではエルフちゃんてところかな」


 ジュエルもファリエルさんも同じくらいのちみっこだけど、ファリエルさん……ジュエル並みとか凄いな。フルーラは長年ダンジョンボスとして色々な上位冒険者と戦ってきたので、俺なんかよりずっと経験豊富で、そういう人の強さも見抜けるのだろう。



 ファリエルさんに、ルディがまとわりついている。


「ルディ……そのエルフのお姉ちゃんが気に入ったのか?」

「はいなのです。ご主人様の次に良い匂いなのです」


 聖女のルルより良い匂いなのか?

 それを聞いちゃったら、確認しないと気が収まらない……。

 どれどれ―――


「あ、ほんとだ! 以前は死臭がしていたけど……今は凄く良い匂いだ!」


 サリエの個人香に近い森の香りがする♪


「そう? 嬉しい……私、風の精霊様が目視できるようになって、これは流石にもうダメだって諦めていたのだけど、以前より調子がいいのよ。それに風の精霊様もそのまま感じられるようになって、以前より魔素が上手く扱えるの」


「へ~、精霊を強く感じることができるようになったからかな?」


「多分そうだと思う……リューク様には本当に感謝しているのよ? 分かってる? ミーニャちゃんとコロンちゃんにも感謝しているのよ」


「そうね……あの時ミーニャとコロンがお母さんのことをリューク様にお願いしてくれたおかげだものね。2人とも本当にありがとう」


 仲が良さそうでなによりだ。これなら共同生活も大丈夫だろう。


『……マスター、デザートショップ自体は完成していますが、どうされますか?』

『宿屋の残留品とか確認していないし、ショップの居住区の中身も空っぽだろ? すぐは住めないだろう』


『……宿屋のベッドを【リストア】すれば、すぐ寝泊り可能です。宿屋にある厨房の調理器具も大体残してくれていますし、ここの物を持っていけば生活はすぐ始められます』


『そっか、でも引っ越しはテスト終了後にするよ。これ以上予定を入れてもすぐに動けないしね』

『……了解しました。それでしたら、ベッドはナビー特性ポケットコイルマット仕様にして作ってあげても宜しいでしょうか?』


『そうだね……宿屋のベッドって板に綿のマットを引いただけだしね。あ、でも子供たちのは成長を考慮して、少し硬めにしてあげてね』


『……勿論そのつもりでした。ふふふ、流石マスターです! そういう細かいところまで気配りができるのは良いことです』



「さて、俺は勉強して平均以上はとらないと、父様に大目玉をくらってしまう。そろそろ学園寮に帰るよ。ルディ、カリーナ、フルーラの3人はここで面倒を見てもらうことになるけど良いね?」


「ご主人様と一緒が良いのです……」

「カリーナも一緒が良いです」


「ごめんね。俺、まだ学生なので学園の学生寮に住んで居るんだよ。そこは学生しか入れないから連れてはいけないんだ。でも休みの日には遊びに来るから、お姉ちゃんたちの言うことを聞いて待っていてくれるかな?」


「はいなのです……ご主人様、ルディを治してくれてありがとうなのです」

「ご主人様、足と尻尾を治してくれてありがとうございます。またきてくれますよね?」



「勿論すぐ来るよ。テストが終えた後の休日に、皆で王都へ引っ越し予定だ」


「あのリューク様、私が護送して連れて行けばよいのでしょうか?」

「あ、そういえばジュエルにはそうお願いしていたね……いや、俺が転移魔法で迎えに来るよ」


「了解しました。では、ここは今月で引き払うように手配しておきますね」

「うん、宜しく。ジュエルもジェシルも勿論そこで住んでいいからね。従業員が増えることも想定して、部屋は一杯作ってあるので、遠慮はいらないからね。というか、ジュエルには護衛も兼ねて、そこで住んでほしいかな」


「了解しました」


 フルーラが、俺の服を引っ張って部屋の隅に連れて行った。


「どうした?」

「うん。勇者様、ダンジョンの外に連れ出してくれてありがとう。目につくもの全てが目新しくて凄く楽しみ!」


「勝手に人化させちゃったから、どうしたものかと思ったけど、喜んでくれているなら良かったよ。でも、くれぐれもサーシャたちに迷惑が掛からないようにしてね。皆、可愛いから町を歩けば冒険者が声をかけてきたりしてウザいかもだけど、いきなり殴り殺したりとかしちゃダメだよ」


「私、そんな無法者じゃないよ。それくらいの常識は知ってますよ~だ!」


 王都に向かうまではデザートの味の向上と、接客マナーの習得を主にやっててもらうことにした。


 サーシャにドラゴンのお肉とダンジョン産のフルーツを渡し、フォレストを後にする。




 学園の自室に転移したのだが、皆が集まっていた。

 ルルも既にこちらに来ていた。


「兄様、やっと帰ってらっしゃいましたね……」

「ん、何度も連絡したのに……」

「リューク様……どうしてわたくしのコールに出てくださらないのですか……悲しいです」


「フィリア、ごめんよ。ちょっと色々忙しくてね。フィリアだけなら良いけど、何人もが一斉にかけてくるものだから、それに全部出ていたら用事が終わらなかったんだよ」


「それでは、もう用とやらは済んだのですか?」

「うん。大体はね」


「ん、リューク様、子供たちはどうしたの?」

「ただ引き取るだけじゃダメなので、デザートショップの店員ができるように、サーシャたちに預けてきた」


 サーシャの名前を聞いて、サリエとフィリアから不穏な気配がしてきた。


「ん、またあのハーフエルフの娘に会ってたんだ……」


『……サリエ可愛いですね。同族なのでやたらと意識しているようです』

『ミーニャやコロンのことは言わないもんな……』


「サリエ、そう嫌わないであげてほしい……そうだ、これから夕飯でしょ? 皆にお土産があるんだ。ダンジョンで手に入れたドラゴンのお肉と美味しいフルーツだよ」


 キリクとマームも呼んであげて、神殿から戻ったルルも交えて夕食会兼勉強会を行った。


「美味しいです!」

「マーム……何も泣かなくても……」


「貴族でも食べられないというドラゴンのお肉ですよ! リューク様のパーティーに入って良かった! 美味しいです!」


「ん……美味しすぎる……私の知らない味」

「リュークお兄様、王宮の料理でもこのような美味しいお肉は食べたことがありません。お兄様は凄いです」


 プリシラも満足しているようだ。


 ナナやフィリアも美味しそうに食べている。

 双子ちゃんたちにも好評のようだね……レシピを教えてほしいとねだられたけどね。


 今回作ったのはドラゴンステーキのガーリック醤油味だ。

 ニンニクのパンチと甘辛い醤油ソースが食欲をそそる。匂いだけでノックアウトだ。


 ドラゴン肉……牛8:豚1:鳥1といった食感だが、肉汁が凄い……これは異世界でしか味わえない旨さだね。


 そして、食後のデザートには47階層夏エリアのメロンウィップからドロップした最高級メロンを出してあげる。これも喜んで食べてくれた。甘くてジューシーな芳醇な果肉に、皆、笑顔だった。




 ちゃんと勉強会も行う。


「プリシラ凄いな……もう字が読めるようになったんだね」

「はい。リュークお兄様の作ってくれた文字盤のおかげです」


 元々言葉自体は流暢に喋れるのだから、後は『あ』という音の文字がどれか覚えるだけなのだが、この短期間で覚えるのは大変だっただろう。


「マームも大丈夫そうだね」

「まだ不安ですが、リューク様が赤線を引いてくれた箇所は丸暗記できました」


「サリエも大丈夫かな?」

「ん、頑張った……侍女辞めさせられるのは嫌……」


 ちょっと強く言いすぎたのかな……


『……いえ、勉強嫌いなサリエにはあれくらいでないとやらないでしょう。直接マスターに関係してくる料理や剣の修行は喜んで学んでいたのに、座学になったら一気にやる気をなくすのですよね……でも今回は凄く頑張っていました』


『教室でサリエをバカにする声が耳に入ってくるのは許せないからね。頑張って平均以上はとってくれないとね』


「他の者は心配なさそうかな? ルルは今回一緒にダンジョンに行っちゃったけど大丈夫?」


「はい。私は元々学園卒業レベルの知識は既にあるので、ちょっと復習程度に見ておけば問題ないです。それよりリューク様の方は大丈夫なのですか?」


「そうです兄様、今回成績が悪かったらお父様に怒られますよ? 大丈夫なのですか?」


「うん、大丈夫かな」


 皆、大丈夫そうだったので、早めに切り上げて解散とした。後は各自で良い点を目指してほしい。そしてお父様のお小言コールを試験があるのでと早々に切り上げてもらって、お風呂の時間だ。


「サリエ、怒ってる?」

「ん、私も一緒に行きたかった……」


 怒ってるというより拗ねてる感じかな……ルルと先にダンジョン制覇したことが一番お気に召さないようだ。


「1、2時間で戻るつもりだったけど、どうしても子供たちの部位欠損を早く治してあげたかったんだ」

「ん、分かってる……私の成績が良ければ、連れて行ってくれてた?」


「うん、そうだね。サリエは今、クラスでちょっと馬鹿にされているでしょ? ロッテ先生のせいもあるけど、ルルとプリシラに対する言葉遣いとかもあるんだよね。まぁ、それは別にいいけど、やっぱり実技だけじゃなくて成績もある程度良くないとね。公爵家の侍女として皆に注目されているんだから、これもサリエの仕事のうちだよ」


「ん、頑張る」


 サリエをシャンプーしてあげて、湯船で抱っこしてあげたらご機嫌斜めなのも幾分治まったようだ。ルルとサーシャに少し嫉妬していたみたいだね。可愛いな~。


 風呂上りに何時ものように髪を乾かしてあげ、顔に化粧水と乳液をつけてあげていたら機嫌も良くなっていた。



 今晩はサリエと2人っきりで遅くまで勉強をして、一緒のベッドで眠った。

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 お読みくださりありがとうございます。

 2巻の表紙が公開されているようです。今回はサリエちゃんです。可愛いですね。

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