3-46 神殿はアリア臭がプンプンします

 今現在、爺様の商会から馬車を出してもらい神殿に向かっている。

 俺の横ではプリシラが窓にへばりついて俺とフィリアに『あれは何? これは何?』と目を輝かせている。

 だが全くウザくはない。むしろ満面の笑みで興味津々に窓にしがみついて外を眺めているプリシラは可愛いくらいだ。フィリアも温かい目でプリシラを見ている。


「リュークお兄様! 目が見えるって素晴らしいですね!」

「そうだね、数百人に1人はどこかに異常をきたして生まれてきちゃうからね。治る人もいれば、治らない者もいるけど、これも人の進化には必要なことらしいからね」


「どういうことですか?」

「ナナのように、親の責任で異常をきたす者もいるけど、遺伝子異常は一定確率で発生するんだよ。でもそれは人が進化しようとしているっておき換えることも考えられるんだって。プリシラは正にそれだよね? 目が弱視な代わりに他の人にはない、魔法属性を色で見えるんだよね?」


「はい。これが進化なのですか?」

「う~ん。進化の途中かな? それでちゃんと目も見えていたら凄いでしょ? 今も色は見えているのかな?」


「はい。意識するとちゃんと見えます。リュークお兄様の色はとっても綺麗な水色です! フィリアさんは白銀色でこれもまた綺麗ですね。ちなみにナナさんはピンク色で、サリエちゃんはグリーンでした。皆とても濁りのない綺麗な色をしています」


「最初から今のような状態で生まれてきて、それが子供にもちゃんと継承されていくとなったら凄いよね。魔力の流れが目で見えて、それを『色である程度の属性判別ができる』というふうに進化した、といえるよね」


「私は進化し損ねた? のですか?」

「進化は環境に馴染もうと少しずつ変わるか、突然変異からもあるようなので、はっきり断言はできないね。でも、確実に一般の人よりは凄い目になったよね? 消費MPなしで、ある程度の属性判断ができるんだからね」


「はい! リュークお兄様のおかげです! ありがとうございます!」





 神殿は普通、街の中心にある。これは基本なのだが、王都は大きくなりすぎて少し北寄りに位置している。

 北には王城と学園があるのだが、有事の際は神殿・王城・学園が緊急避難所にもなるような設計だ。


 住みやすい地には人が集まる。人が集まると街が大きくなる。でも大きくなりすぎると神殿の結界石の守護範囲からはみ出してしまう。なのでフォレルの王都に神殿は大小6カ所ある。


 ここ王都で一番大きい神殿が、今向かっている中央神殿だ。

 中央神殿には大司教様と聖女様が住まわれているので、一番信者が集まる場所でもある。


 近くに神殿があるのに態々中央神殿まで出向いてくる者も少なくないそうだ。




 馬車が神殿に到着すると、すぐに数名の巫女とシスターたちが出てきた。

 巫女服にシスター服……コスプレっぽくて、ちょっとドキドキする。

 着ている服が違うのがちょっと気になったのでフィリアに聞いてみる。


「フィリア? 巫女とシスターって同じじゃないのか?」

「少し役割が違いますね。巫女様は神の神託によって選ばれ、神事や祭事を執り行う事ができる御方たちです。シスターは自ら神の仕事をお手伝いしたくて名乗り出て、神から許可が下りた者たちです」


 巫女の方が格上なのか。

 彼女たちの巫女服とシスター服がまた可愛くて、俺の中二脳を刺激する。


「お待ちしておりましたリューク様。さぁ、こちらに。ご案内いたします」


「リューク様? 事前にお知らせしておいたのですか? それに彼女たちのリューク様を見るあの視線……」

「いや、一切言ってないが……アリアの奴、何かしやがったな! もしそうならもう許さないからな!」


「またアリア様を呼び捨てにして! ダメですよ!」

「そのうちフィリアにも、あのクソ女神の極悪さを教えてやるよ……」


 巫女とシスターに案内され、奥のちょっと豪華な待合室に通される。王家や公爵家ほど豪華に飾ってはいないが、それなりの物で整えられている。寄付や贈与の物なのだろう。統一性がないので、おそらくそんな感じの品だろうと思う。


 俺的にはこのちぐはぐな装飾品の方が、神殿として良い心証を得られた。日本のタチの悪い坊主どもは葬式を上げて檀家からお布施を貰ったその足で、袈裟を着たままパチンコ屋に向かうような奴もいるのだ。宗教は殆どが金儲けの亡者どもの集まりだ。救いを求めた心の弱い信者から根こそぎ奪い取る宗教が多い。俺が宗教を警戒していた理由も、ラノベや物語でも宗教関係者が一番厄介だからだ。


 でも、この世界の神殿はそんなことはなさそうだ。

 当然か……神が実際に居て、民に恩恵を与えているのだ。むしろ信じない方がおかしいし、神殿に務めてる者たちは神に選ばれたと喜んで従事しているのだ。不正や金儲けなど眼中にない善人ばかりだ。




 やがて、年配の男性とシスター服を着た少女が入って来た。


「大司教様、聖女ルル様、ご無沙汰いたしております」

「プリシラ殿下、ようこそおいで下さいました」


 大司教様……目の下に濃い隈できてるじゃん! もっと休ませてあげて!

 この娘が本物の聖女様か……可愛い。でも、巫女服じゃないのか?


「大司教様、ルル様、お久しぶりでございます。今日は私の婚約者であるリューク様をお連れしました。2ndジョブの獲得の儀をお願いいたします」


「お久しぶりですねフィリアさん。そのお方がリューク様ですか? 初めまして、お待ちしておりましたリューク様、ルルと申します」


 う~ん、アリア臭がする……。


「待っていたとは、どういうことですか?」

「はい、先ほどアリア様より啓示を受けて、使徒様になられたリューク様が参られると事前に教えていただきました。もうジョブ獲得の儀の準備も整えてあります」


 にっこりと俺に向ける聖女の笑みは可愛いのだが、アリアの奴……俺を使徒だと神殿に公開しやがった! 俺本人が使徒になったと認めていないのにだ!



『アリア、覚えてろ! 今度会ったら絶対泣かしてやる! こうやって周りから取り込んで、俺を完全に使徒に仕立てるつもりだな!』


『だってリュークさん、時々都合のいい時だけ使徒の名を使っていたじゃないですか! もう良いのかなって……』


 うっ……確かに父様には特に都合がいい時だけ使徒なので内緒とかいう風に使徒の肩書を借りて使ってた。というかやっぱ覗いていやがった!


『……マスター、もう諦めましょう。今回の件は建国した際、中央に神殿を建てた後を管理する巫女やシスターをアリア様が募って下さる為に必要だったのです』


 あ、そうか。土地を確保しても、結界石を有する神殿がないと魔獣の攻撃は毎日のように起こってしまう。

 魔獣を排除し、その後の侵入をさせないためには神殿の建設がまず最初で、王城より急務なのだ。

 建設後の維持と管理をする神殿関係者も当然必要になる。


「まともな挨拶もしないまま、不躾な質問でしたね。初めまして、リューク・B・フォレストです。ルル様は、どこまで御存じなのでしょう?」


「私が啓示を受けてお聞きしたのは、リューク様が使徒になられて、その使命とは直接関係はないが、その一環として建国することになったとお聞きしています。その際に新たに建設される神殿に何名かの巫女とシスターを派遣してほしいとアリア様自ら要請があったのです。それと、今日はジョブの獲得に来られるので、その準備をとのお話でした。既に準備は整えています」


『ね? 怒られるようなことは言っていないでしょ? 寧ろスムーズに事が運ぶように手配したのだから、怒らないで褒めてほしいくらいです』


『う~ん、使徒とか言っていなければ褒めてやっても良かったが。お前が使徒とか言うから、2人の態度がへりくだってしまってるじゃないか』


『どこの神殿も人手が足りていないのです。そこから優秀な人員を募集するとなったら、使徒という肩書が大事なのですよ? 煌びやかな王都から、何もない竜たちが闊歩するような危険な辺境の地に誰が行ってくれますか?』


『うっ……分かったよ。確かにこういう場合は左遷扱いだよな、罰として仕方なくならともかく、俺なら危険な地に絶対行きたくない……』


「それは有り難いですね。では早速先に2ndジョブの獲得をお願いします」


 1stジョブを魔法剣士、2ndジョブを大賢者にした。

 軽装のオールラウンダータイプだが、我ながら大賢者の剣士とかふざけた組み合わせだと思う。


 聖女のルル嬢が興味津々にしているので、声を掛けてみる。


「俺のジョブ、見たいの?」

「はい! 良いのですか?」


「他の人には秘密ね」

「はい!」


 聖女と言うより、神殿関係者は口が堅い、人に漏らすことはないだろう。


「え!? 大賢者? そのお年で大賢者の獲得なの?……流石使徒様! 素晴らしいです!」


 色々聖女様と会話しているが、なんかプリシラより喋りやすい。

 何でだろうと思案していたら、ナビーが答えてくれた。


『……ルルは商家の四女なのです。9歳の時に神託が下り、次期聖女候補として巫女入りし、13歳の時に聖女認定したのです。マスター的には王族や貴族より話しやすく感じるのではないでしょうか?』


『そういうことか……貴族じゃなくても聖女になれるんだな』


 神殿関係者はギルドと同じで、国から大きな制限を受けない独立機関になっている。信仰心や心の美しさの方が大事で、家格など関係ないのは良いことだと思う。


「それで大司教様、建国の際に神殿に派遣してくれる神父様や巫女様たちはいるのでしょうか? あのような辺境には誰も行きたがらないと思いますが?」


「私が行くと名乗り出たら、数名の巫女とシスターが手を上げてくださいました。神事は十分に行えますので、ご安心くださいませ」


 司教様ではなく、聖女様が答えてくれたのだが……ちょっとそれはダメだ。


「それはちょっとまずいです。聖女様を連れてっちゃったら、流石にゼヨ伯父様に怒られちゃいますよ」


「私もそう言って止めようとしたのですが、頑として引こうとしません。使徒様の方で説得していただけると有難いのですが……」


 どうやら大司教様も困っているようだ。聖女の我が儘? どうしてだ?


「大司教様、聖女が使徒であられる勇者様のパーティーに付いて行かないでどうするのですか! 私の代で勇者様が現れてくれたのは運命なのです! 先代もその前の聖女様も、勇者様が現れなかったせいで、一人寂しく余生を過ごしておられます! 私には勇者様がお迎えに来てくれたのです! 大司教様が何を言っても絶対着いて行きますからね!」


『アリア! 貴様聖女に、なに吹き込んだんだ!』

『私じゃないですよ。勝手にその娘が過去の勇者伝と被せて夢見ているだけです。 私は知りません』



 目をキラキラさせた夢見る乙女が目の前にいる……後ろからフィリアとプリシラから冷ややかな視線を感じる……。


 【気配察知】に痛い視線が突き刺さってくるのだがどうしたものか。

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