2-5 温泉街と言えばやはり行かなければならないですよね
朝4時に目が覚めた。
昨晩は日が暮れて何もできなかったので、午後8時に寝たから十分な睡眠はとれている。
まだ暗いし、移動は危険なので待機する。
『ナビーおはよう。サリエたちはどうしてる?』
『……おはようございます、マスター。気になるのでしたら帰ってあげればどうですか?』
あぅ、まだ怒ってらっしゃるのですね。朝から棘がチクッときました。
『自殺とか言ってたから、どうしてるかな~とか思っちゃったりして……』
『……サリエはソシリアの村を朝一で出てバナムに向かう予定です。カリナはフォレストを長く開けられないので捕らえた密告冒険者をフォレストまで移送するみたいですね。昨晩のうちに自供させたようです。ナナはフィリアに辛くあたったことを後悔しつつ、フィリアの監視をしながら同じベッドで眠ったようです。フィリアがちょっと様子がおかしかったのをすぐに感じ取って対処していました。半狂乱を一度起こさなければいうことなかったのですがね。あれ一発で全てアウトです。侍女もかなり引いていました。学園生に見られなかったことがせめてもの救いですね』
『ナナはそんなにおかしかったのか?』
『……見ますか?』
『いや、今は見たくない。そのうち落ち着いたら見せてもらう』
去年フィリアとキスをしているところを偶然ナナに見られた時、ちょっと半狂乱になったことがあるのだ。あのような状態の妹をあまり見たくはない。
獣国の首都エバントスまでは、馬車でひと月ほどかかる距離にある。これは貴族が専用馬車で行った場合で、通常は乗合馬車の出発日や、行商人の商隊にお金を払って同乗してもらったりで待機期間が発生するため、ふた月近くかかる。
フォレストー1日ーソリシア村ー2日ーバナム村ー3日ーハーレンの街ー3日ーエッジ村
ここまでがフォレル国の領土になる。間の日数は村々の移動にかかるおおよその日数だ。
エッジ村ー5日ードーレルの街ー5日ーザッカルの町ー4日ーエバンスト
主な村や町はこんな感じだ。
獣族は人族と比べれば数は少ない。町や村の間隔が開いてるのは、その間に村というより集落といった程の小規模なものが点在しているのだ。
色々な種族ごとにコロニーが形成される。
猫族・犬族・兎族・蜥蜴族などが有名だ。獣国を収めている王は猫族の中の獅子族、鉄板だね。流石日本のラノベやゲームが元の世界だ。百獣の王といえばライオンだよね。個人的には虎族を押したいが、それは俺の趣味的なことだ。
猫族もさっき言ったように獅子・虎・豹・猫と色々いるらしい。
犬族も同じようにイヌ科の分類で別れているのだと予想できる。行ってみてのお楽しみだ。
面白いのは、猫族と犬族と同じ獣族同士で子ができないのに、猫族と人族、犬族と人族は子供ができるのだそうだ。おかしな話だが、あの創主の爺さんが創ったんだ、特に意味はないのだと思う。
日が出て周囲が少し明るんだ時点で出発する。
10時頃カリナさんがやって来たので森に退避する。
そっと木陰から覗くとカリナさんは馬に乗って、後ろに鉄の手枷をした男をロープで引っ張りながら騎士2名と一緒に移動している。馬車は使わず歩きで護送しているようだ。騎士2名はソシリアの駐在員なのかな? テクテクと歩いてきていたのだが、不意に足を止めてカリナ隊長はこっちを見た。慌てて目を逸らし気配を絶った。そっとその場から離れたが追ってこなくて助かった。
ヤバかった。昨日は馬で爆走してたから俺の視線に気付かなかっただけのようだ。
今日のように周囲を警戒しながら移動している時は、しっかり怪しい視線には気付くみたいだ。
『……どうやら獣と思ってくれたようですね。直ぐ視線を外して後ろに下がったのが獣っぽくて良かったようです。人の気配だと感じとっていたのなら、即時森に突っ込んできてどこまでも追い掛けてきたでしょうね。森の木陰からこっそり街道を見張っているような人なんて、盗賊かマスターしか居ないですからね』
カリナさんをやり過ごし、3時頃にソシリアの村に着いた。
念のため村の手前500mの所に地点登録をしておく、何かあった時テレポで緊急退避するための保険だ。
村の中に入るのに門は通らない。ジェイルの言ってたように壁を乗り越えて不法入村するのだ。入ってしまえばギルドカードは見せるだけでいい。この規模の村だと見せるような施設も無いらしいけどね。
村と言っても観光で賑わう温泉村なので人口は1000人近くいる。もうすぐ町に昇格できる規模にきている。
この世界の不思議なことをまた1つ発見する。この周辺に火山は無い……なのに温泉だ。あの創主の爺さん何でもアリだな。日本の温泉は火山性の地熱を利用した温泉が殆どだ。非火山性温泉もあるが珍しい部類に入る。
『……マスター、この世界では、村人が一丸となって村の願いとして一心に神に祈祷すると、その貢献度が溜まったら温泉が湧き出すのですよ。この村はフルーツの栽培が有名ですが、それだけでは生活は厳しく、村おこしの話し合いで、温泉町に将来しようと一致団結して祈祷し続け、今に至っているわけです』
『願えば神が温泉を出してくれるの?』
『……そうです。神力を得る為に、神も見返りを返してくれる点ではマスターの世界の神より良いのではないですか?』
『確かにな……元居た世界の神なんか居るのかどうかも怪しいくらい何もしてないからな』
『……アリア様が言うには、何もしなくても勝手に信仰して神力を溜めてくれるので、凄く羨ましい世界だそうです。特に日本は凄いんですよね?』
『そうかもな、正直何でも有りな変な人種だ。年末にキリストさんをメリークリスマスと祝って、1週間もしないのにお寺に行って除夜の鐘を突いたその足で神社に初詣でに行って神頼みをする人種だ。キリスト教、仏教、神道と掛け持ちでもなんとも思わないのが俺たち日本人だ。八百万神(やおよろずのかみ)とか言ってな、実際の数を表してるんじゃないけど、それほど沢山神がいると信じている国民だ。トイレの神様も居るという民族だ。長く使ったものには神が宿るとし、物を大事にするのも俺たち日本人の美点だな。でもインドや中東ほど狂信的じゃないから、信仰値としてはどうなんだろうね』
『……確かに変な民族ですね。でも面白いです。そういう何でもアリな柔軟性がああいうアニメやらゲームやら世界的に崇拝されるようなものを作り出せるのでしょう』
『そうかもな。さて、ナビーさん。まだ4時前で少し時間は早いが【ブラインド】魔法を発動させてもらいます』
『……え!? あ! 不潔です! 断固反対します! フィリアにチクリますよ! ナナにチクッたらヤバいですよ!』
『あははは、ここからは大人の時間なのだ!』
『……あ! まだマスターは未成年ですので入れませんよ! 大人じゃないです!』
『え? あ! 俺まだこっちじゃ15歳だ! 16歳からじゃないと入れないのか! そうだ! 【カスタマイズ】……なんで年齢だけ変換できないんだ? ナビー! お前なんかしやがったな!』
『……ナビーは何もしてましぇん』
『噛んでるジャン! システムの癖に、めっちゃキョドッてるジャン!』
『……いや、本当に知りませんよ? ナビーじゃないです』
『じゃあ誰だよ! あ! あのクソ女神!』
『……いくら何でもクソは酷いですよ。この世界の主神なんですからね。マスターも加護や祝福を得ているのですから一応少しは敬うべきですよ』
『一応って言ってる時点でお前も敬ってないじゃないか! それより何とかしろ! ナビーの力で16歳に書き換えてくれ!』
『……ナビーはマスターに穢れてほしくないので、そんなことには協力しません』
『クソ! ここまできてさらに我慢させる気かよ』
『……学園に帰ってナナに頼めばいいじゃないですか。今なら多分OKですよ! 特別にナビーがナナの心内をお教えしてあげます。再度死んだと思って半狂乱になって、『やっぱりナナは兄様の事が大好きだ!』と再認識したようです。もうナナからは逃げられないですよ。足を治したのはマスターのミスですね。国や家族を捨ててでも、自分の足でナナはどこまでもマスターのことを追ってきますよ』
『いくら可愛くても、妹とできるか! それにあいつはマジで怖い時がある……』
ここまできて諦めきれない。【ブラインド】を発動し、ナビー対策をした。
念話で邪魔したら【ジャミング】を発動すると言ったら大人しくなった。
さぁ、温泉町には必ずある娼館にやってきた。
入り口で呼び込みをやっている奴に、この村には3件あると教えてもらい、獣人のいる一番高い高級娼館に俺は入った。
どうやらこの娼館は女の子を、入った直ぐの場所にあるホールで選べるようだ。獣人の娘が5人いるな。
このホールで俺の目についた娘は4人。
20歳くらいの人族の娘と猫耳の猫族の娘、犬耳の犬族の娘、エルフの娘だ。
やはりエルフはめちゃくちゃ綺麗だが、ミルファ姫のせいで今回はパスだ。となると見た目は20歳ぐらいの人族のお姉さんが一番綺麗なのだが、ここはやはり猫ちゃんだろう。ショートヘアの黒髪の丸顔な頭の上に黒い三角耳がピコピコ動いている。尻尾も黒く、1mほども長い艶々した尻尾がユラユラ揺れている。
その娘と目が合うとさっと目を逸らされた。俺はその娘の所に行き声を掛けた。
「可愛い猫ちゃん、俺とは嫌かい?」
その娘は首を振って否定してくれたが、そもそも拒否権はないのだろう。
失礼な発言も店に禁止されているはずだ。
「俺は娼館に来るの初めてなんだ。先に詳しく利用の仕方とか説明してくれる?」
「うん。でも未成年は利用できないよ? 16歳以上なの?」
「俺は16だよ」
「でも16に見えない。未成年の人を客に取ったら怒られちゃう」
「ほら、この動画見てくれる。昨日入学式だったんだけど。俺もちゃんといるでしょう? 魔法科なんだよ」
「あ、王都に在る有名なフォレルの学園の制服! これ入学式?」
「そうだよ、今喋っている娘が今年の主席の娘だよ。新入生代表の挨拶ね。ほらここにちゃんと俺も居るでしょ? 学園に入れるのは何歳から?」
「知ってる。16歳からじゃないと入学できない! 私、少しの間王都にいたから、この制服見たことあるんだ~。可愛いよね」
うまくいった!
入学の条件は正確には16歳からではなくその年に16歳になる者だ。
俺は数え年で16歳というわけだ。現在誕生日がまだな俺は、15歳の未成年だ……バレても罪にはならないが、めっちゃ怒られるはずだ。
フォレルの首都からここまで1日で来れないと突っ込まれたので、お金持ちなのでテレポを使ったと言い訳したら、訝しげながらも認めてくれた。つい先日使ったばかりなのでテレポの利用料も詳細に知っていたのが良かったみたいだ。
この猫娘に娼館の利用法を聞いた。
まずはこのホールで女の子を選ぶ。女の子にはランクがあり利用できる時間と金額が違うそうだ。
一番ランクの低い子は1時間から利用でき、1万ジェニーからだそうだ。
そしてこの娘は2時間から利用でき、3万ジェニーからだそうだ。
高級店だけあって凄く高い。この世界の平均日当が6千ジェニーだと考えると5日分の平均収入が2時間で飛ぶ。
女の子を選んだら時間を選ぶ、そして最後に部屋を選ぶのだ。2万以上の女の子の部屋は個室になっているので特に選ばなくても問題ないそうだが、1万の娘は自室を持てず、最低な部屋はカーテンで仕切られた共同部屋だそうだ。それはそれでなんかドキドキしそうだが、俺は人の行為に興味はない。
俺が興味津々で根掘り葉掘り聞くものだから、他にも色々教えてくれた。
女の子にも一応その日のノルマがあるらしい。金額ノルマをクリアすれば、それ以降の客を拒否できるそうだ。月のノルマもあり、それに達しない子はランクが下がり、1時間1万という安い価格で客を取らされるのだ。そういう安い娘を相手にする客は冒険者が多く、粗野で粗暴で客として最悪らしい。そうなると悪循環で任期までに借りたお金を返せずに任期延長になるようだ。なので多少嫌な客でもお金を落としていく客を大事にして早く任期を終え、ここからできるだけ早く出たいのだそうだ。
1万が安いと言ったがこの店の話であって、ここは高級店だ。
2件隣りの娼館は、1時間3千ジェニーから買えるそうだ……彼女が言うには、行かない方がいいらしい。
環境が劣悪なので、性病が蔓延しているそうだ……恐ろしい。
「女の娘は1人までしか選べないのかな?」
「え!? その歳で2人とか同時買いする気なの?」
「同時買いって言うんだ。そういう言葉があるってことは可能なんだね?」
「ええ、貴族様が時々そういう遊び方をしていくわ。私たちからすれば1人で長時間相手をしなくていいからありがたいのよね。大抵変態が多いけどね。中には仲間に行為を見られたくないから拒否する娘もいるので、女の子に確認がいるわよ」
「よし、あの犬ちゃんも同時買いだ」
「え、良いの? あの娘、先月ここにきたばかりで、ああやっていつも隅っこで隠れているから、下手したら来月ランク落とされるかもしれないのよ。何度も言ってあげてるのだけど、客を取るの嫌ってああやって隠れるの。でもランクが下がったら、基本価格も下がるので1日に取る客を増やさなくちゃいけなくなるし、客層も悪くなるだけなの。一度落ちたらなかなか元に上がれないのに、バカな娘なの」
バカな娘といいつつも凄く気にかけてやってるのが分かる。日本の感覚で気軽に娼館に入ったが、結構重い事情の娘たちが多そうだ。殆どの子が親の借金の為に渋々契約したそうだ。中には娼館と知らず親に勝手に売られて契約書にサインして、きてから泣きわめきながら客を取らされた娘もいたそうだ。これじゃあ合法レイプだ。
「そんな娘だと嫌がって相手してくれないかな?」
「私がリードしてあげるから大丈夫よ。彼女と同時買いとかこんな機会ないから、この際あの娘をちょっと指導してやるんだから!」
「じゃあ、あの娘と君を一晩買いで、この部屋番号1番の個室でお願いするよ」
「エッ!? 君、何言ってるの! 私たち、一晩だと8万もするのよ? 1人でだよ? それにその個室一番いい部屋だから一晩借りるのに10万ジェニーもするの! 露天風呂があるのよ!」
「じゃあこれ26万ジェニーね。ああ、前金? 後払い?」
「26万あるんだ! そんな大金どうしたの? ひょっとして貴族様? そういえば学園の魔法科って貴族様が通うところだって聞いたことある!」
「そんな白けるような話はイイよ。さぁ~部屋に行こう!」
「あ、うん。個人的な事聞くのはタブーだった、ごめんなさい」
この世界での支払い体系は即時払い。注文時に支払うのがほとんどだ。後払い制とかだと、スラム街の人間が、お金もないのに食べたり、食い逃げ、ヤリ逃げなんかが頻繁に起こりかねないとのことだ。
俺は26万ジェニー払って、猫ちゃんとわんこを一晩買ったのだった。
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この回と次話は賛否両論あるでしょうが、他サイトでは概ね好評を得たので修正なしで放出します。
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