3-2 1年間過ごすパーティーメンバーが決まりました

 この娘か……特に際立った特徴のない娘だ。

 愛嬌のある顔で、オドオドした感じは周りを警戒しているリスみたいだ。


「ねぇ君、僕のパーティーに入らないか?」

「ひゃ! え!? 私ですか!?」


 周りを見回して本当に自分に声を掛けたのかと確認しているようだ。


「そう君だよ」

「滅相もないです公爵様! 私は只の平民です! 恐れ多いです!」


 ひゃはは! 面白い娘だ! 顔を引き攣らせてキョドっている。


「公爵なのは僕の父で僕は次男坊ってだけだからね。それに学園内は家格は関係なく通ってる間は王族も貴族も平民も扱いは同じだよ。受ける授業内容も一緒だし、平民でも一生懸命学べば、王族より優秀になれる可能性はあるんだよ?」


 俺の話を聞いてた彼女は、こっちをじ~と見た後やんわりと断ってきた。


「ごめんなさい、貴族様と比べると私はあまり知識がないのです。何とか文字だけは学習しましたが、それも皆よりかなり劣っていると思います。魔法も生活魔法が3つ使えるだけです。私なんかがパーティーに入ったら足手まといになると思います」


「うん、そうだろうね」


 本人は劣っていると言っているが、それでも貴族を差し置いてAクラス入りしている才女だと思うんだけどね。

 平民からだと尚更努力したんだと簡単に想像がつく。


 様子を窺ってた先生が初めてパーティー決めに口出ししてきた。


「フォレスト君、その娘は繰り上げでAクラスに入れたていどの成績なの。その娘の言う通り、君の班に入るのはその娘にとっても今はきついのじゃないかしら。あまり実力差があるのもその娘にとっては力の差を感じてしまって、却って成長が伸び悩んだりするのですよ。それと、ちょっと先生が疑問に思ったのは他にも沢山いるのにどうしてこの中からその娘を選んだのかな?」


「キョロキョロ、オドオドしていて、この中で一番打算的じゃなかったから? 自分でもよく分からないですが、第六感ってやつです。一般人が、入学時に貴族に劣るのは当然でしょう。貴族のように家庭教師が付いて、文字やスキルを幼少時から教え込こまれているのではないですからね」


「ええ、そうね。フォレスト君はその貴族組より数段劣ってる彼女でも良いと思っているのね?」

「ええ、先生は貴族とか一般人とかで依怙贔屓したりするのです?」


「教師の立場として、配慮はするけど依怙贔屓はしないわね」

「なら、彼女次第ですね。君どうする? 僕のパーティーなら君を優しく指導してあげるけど、平民同士が集まっても所詮は素人集団、授業以外ではそう多くは学べないと思うよ。他の貴族に混ぜてもらってもいいけど、使えない平民には当然アタリはきついし、雑用係としていいように使われるだけだよ」


「本当に私が入っても良いのですか?」

「うん。なんか君、面白そうだしね。うちは優秀なのが揃っているから、色々教えてあげるよ? あ、それと休日には狩りやダンジョンに行く予定なので、お金に困る事もないかな」


「え!? お金に困らないのですか!?」


 予想どおり食いついてきた。


「休日は時々レベル上げもかねて、狩りに行くんだよ。狩りに行けば当然魔獣から素材や魔石が得られるよね? それを売るからお金になるんだよ。サリエ、先日2人で行った狩りは幾らになった?」


「ん、3日で大体1400万ジェニーぐらい? 宝石やあの剣も入れたら1億ジェニーは稼いでる」


「「「エッ!?」」」


 彼女だけではなく、周りで聞いていた者全てが驚いたようだ。勿論先生もだ。


「お仲間に入れてください! 私、一生懸命頑張ります!」

「まぁ、数千万は偶々なんだけどね。授業料と生活費を稼ぐ程度には狩りに出るから、お金の心配は要らないよ」


 俺のこの話を聞いてた一般生徒や、貧貴族の子息は羨んだようだ。結構生活ギリギリで通ってる家も多いのだろう。


「じゃあ、君の名前を教えてもらえるかな?」

「はい、私の名前はマームと言います。適性は土>水属性だそうです」


「後で班内で詳しく自己紹介しようか」


 とりあえず俺の班員は決まった。

 ちょっとズルいが元々うちのフォレスト家子飼いの家臣の子息たちだ。他に渡すのは勿体ない。


 この可愛い双子の姉妹をナナに付けるのも酷な話だし、キリク君をナナに付けても恋人候補には絶対ならない。忠誠を誓っている優秀な執事なのだ。ナナの方から迫らない限り進展はないだろうからね。


 ナナの方をちらっと見るが、可哀想な事態になっている……俺の班員が早々に決まったので公爵家に縁を持ちたい輩がナナに殺到したのだ。


 ちょっと助けてやるかな……。


『ナビー、男子2名、女子2名選んであげて』

『……そうですね。男子はあの侯爵家の者が宜しいかと、執事ともども優秀で好青年ですね。女子はちょっと訳有りですが、同じく侯爵家の四女の娘とお付の侍女ですかね』


『訳有りとは?』

『……彼女自体は善なる者なのですが、祖父がちょっと問題有りな人物なのです。いろいろ黒ですね……アウトです』


『あの娘は確か宮廷魔術師の魔術師長の娘だよな?』

『……そうです。その宮廷魔術師の師長の座を巡って、あの一族はこれまでに色々暗躍してきたようです。彼女自身は良い子なのでナナのお友達候補として良いのではないでしょうか?』


『野郎の方は大丈夫か?』

『……侯爵家の長男ですが、温厚な性格で、さっきマスターに一生懸命アピールしていましたがサラッと無視されてちょっとしょげているようですね』



「ナナ決まったか?」

「兄様! 自分だけズルいです! ナナが選ぶと角が立ちそうで、困っています」


「僕が選んでやろうか?」

「はい! お願いします!」


「男子はコーラル侯爵家のアルフ君が良いかな。何度か話したことがあるけど、好感が持てる人物だったよ。従者の彼の方はあまり記憶にはないけど侯爵家が付けた従者なんだから優秀だと思うしね」


「リューク様! 覚えてくれていたのですね! てっきり忘れられているのかと……」

「あはは、忘れたわけじゃないけど、うちの寄子にあたる者がいるのだからそちらを優先したかったからね」


「なるほど、お選びくださりありがとうございます! 精一杯ナナ様をサポートいたします」

「決めるのはナナだから、まだ確定ではないよ」


「あう、確かにそうですね」


「えーと、兄様がお勧めになるのでしたら、お願いいたします」

「だ、そうだよ。ナナをよろしくね」


「はい! ナナ様、よろしくお願いします」



「残りの2名なんだけど、ツェペル家のご息女のレイリアさんが一番だと思うけど。宮廷魔導師の家系なので優秀過ぎてナナだと役不足かもね。侍女の人は確かオフェリアさんだったかな? 同じ子爵ということもあってフィリアとも仲が良かったよね?」


「はい、フィリアが王都に来られた際には、時々お茶会に誘っていただいております!」


「レイリアさん、うちの妹はこれまで足が不自由で社交界などに殆ど参加していないのです。宜しければ、あなたの方で悪意ある勧誘や打算的な輩から守ってあげてほしいのですがどうでしょうか? 足の方も後数週間もあれば完治して車椅子なしでも歩ける程度に回復します。2カ月ほどの機能改善治療で一般人ほどまで回復する予定なので、足のことで迷惑かけることはないと思います。勉学の方は知ってのとおり主席入学するほどですので問題ないでしょう」


「お誘いいただけるのなら、私の方からお願いいたしますわ」



 どうやらこれでナナの方も決まったみたいだ。


「兄様、ありがとうございます。兄様と同じ班になりたかったのですが仕方がないようですので諦めます。コーラルさん、ツェペルさん宜しくお願いします」


「宜しければ、レイリアとお呼びくださいませ」

「あ、僕のことも良かったらラルフと呼び捨ててくれると嬉しいです」


「そうですわね、同級の学友ですし、私の事もナナと呼んでくださいね。後程お互いの従者も交えて自己紹介いたしましょう」



「さぁ、他の方たちも早い者勝ちですよ? ボーッとしているとどんどん良い人から引き抜かれていきますよ?」


 先生の発破が飛ぶが、この発言に平民組の1人から不満の声が上がる。


「先生、この早い者勝ちとかは貴族様に有利過ぎないでしょうか? 平民の方から貴族様に声なんかけられませんし、貴族様のように横の繋がりが全くないので誰が優秀なのかも分かりません」


 ごもっともな意見だ。


「ふふふ、毎年恒例の班決めがあるのはこの学園に入る者なら誰でも知っていますよね? あなたたちの人生が決まると言ってもおかしくない班決めですよ? 入学の合格通知が届き2月末までに教会を通じて入金があった者のみが学園に通えるのです。成績優秀者順にクラスは決まっていますので、入学案内にもクラスの生徒名簿が届いてますよね? 貴族の子息の者は開始と同時にアピールを始めていますよ? 今回2名欠員が出たので、Bクラスから繰り上がった者もいますが、クラスのメンバーは名簿とそれほど変わりないですよ? それに貴族が有利とも限りません。従者に関しては、あくまでも主人の成績が反映されますので、本来Cクラス相当の従者も中にはいるのです。その辺も下調べしてくるのがこの班決めの醍醐味なのですよ」


 要はこの先生は何も下調べをしてこないあなたたちが悪いと言っているのだ。


 Cクラスの従者とかサリエの方を見ながらあの教師は言いやがった。許さん!

 うちのサリエをバカにしやがって、絶対許さんからな!


 魔法科の入学試験は学科と、簡単な魔力測定のみしかない。魔法科に通えるだけの魔力量があるかどうかの判定を行っただけなのだ。


 1学年のクラス分けはぶっちゃけ、それほど大きな差異はないのだ。2年次のクラス替えが本来の本当の実力分けといってよいだろう。戦闘特化のサリエは本来騎士科向きなのだ。公爵家の俺のことは勿論調べているだろう。サリエが生活魔法しか使えないと思ってバカにしてきたあの女教師はいつか苛めてやる!



 なんだかんだで、クラスの班分けは無事終えた。


 各クラス35名、1PT7名×5班だ。A~Dクラスの4クラスあり、1学年の魔法科だけで140名いる。


 班は決まったが席順は変わらないようだ。実技や班活動の時だけ行動を共にするが、座学は一年この席のままだそうだ、防犯面はしっかり配慮されているみたいだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る