3-3 担任に切れてしまい、生徒指導室に連行されました
魔法科の授業は月曜から金曜まで、午前中に座学2時間、午後より実技2時間の計4時間が授業時間になっている。2年次は午後の実技が3時間になるそうだ。
1年次の実技時間が短いのは、MP総量の少ない1年生に長時間の実技指導ができないからなのだ。
MP総量を増やす指導やそのための生活魔法や初級魔法を覚えるのが1年次の課題だそうだ。
今日は週末の金曜日。
本格的な授業は来週からだそうで、今日の2限目は各委員を決めるみたいだ。
これはあまりやりたくないので、ちょっとダメもとで回避してみる。
「先生、申し訳ないのですが、授業後に時間を取られる委員には付けないのですが? ナナとフィリアと侍女たちもそうですね。ナナは足の治療に毎日数時間必要なのです。3カ月ほど処置を行えば一般生徒と同じくらいまで回復できますが、今が一番大事な時期なのでご配慮ください」
「それは聞いていませんですね。足が治るという情報は学園には届けられていないのですか?」
「ひょっとしたら、届けていないのかもしれません。つい最近になって、有効な施術があったものでナナに施しているのです。許可を得るのに届がいるのであれば、正式にすぐ提出致します」
「足が治るのは良いことですが、クラスとしては少し残念ですね。あなたがやっていただけると色々有利な委員もあったのですが。理由が正当なものなので致し方ないですね」
危なかった、どうやらこの先生は俺を委員長か風紀委員にしたかったようだ。
委員長になった場合、公爵家の俺の意見なら予算などの申請が学園に通りやすくなると目論んでいたようだ。
風紀委員の場合は、生徒の抑止に使うつもりだったのだろう。公爵家に意見する奴など、王族ぐらいのものだからね。余程の無茶振りでもしない限りは皆口を噤んで従うだろう。
この担任教師、俺とサリエを少し小馬鹿にしたような発言や視線を時々向けてくる。
兄カインが頗る優秀だったのでそれと比べて小馬鹿にしているのだろう。勿論サリエにもそれは及んでいる。どちらかというとサリエに対する発言になぜか棘がある。事あるごとに資料がと言ってくる。その資料に生活魔法しか記載されてないからサリエをバカにしているのが伺える。ムカつく!
委員長にはアルフ君が、風紀委員にはレイリアさんがなってくれた。当然従者がサポートに入るので副委員長とかも最初からない。これまでもこの役は従者付きの家格が高い貴族がやってきたのだろう。どちらも侯爵家の人間なので申し分ない。
他にもこまごました委員があるかと思ったが特にはないようだ。
美化委員? 貴族の子息たちに掃除なんてさせる筈がない。
図書委員? 禁書なども保管している図書室を生徒に任せるような事はしない。
飼育委員? 学園が飼っているのは主に授業で使う魔獣だ。生徒じゃとても扱いきれない無理な話だ。
園芸委員? 危険な植物の栽培をしているので、1年生じゃ喰われるのが落ちだそうだ。
こんな感じで、日本の学校にはある委員がほぼないみたいだ。
美化は【クリーン】を使った清掃業者が一手に管理しているようで汚れた個所はない。
図書館も国が雇った司書が管理していて、閲覧はできるが貸出等はしないようだ。
飼育もベテランテイマーが管理していて、授業の時にいろんな魔獣で実技講習が行われている。
園芸場はもっぱら薬学科の実験場になっているようで、授業に使われる植物や植物系魔獣が栽培されているようだが、立ち入り禁止になっていて、いかにもヤバそうな雰囲気がする。
2限目も終え、今は昼食時間だ。
時間ごとの休憩時間は15分あり、昼食時は90分の時間がある。日本の学校に慣れている俺からすればやたら長く感じるのだが、元の授業時間が短いので丁度いいのかもしれない。
HR予鈴 9:00
HR 9:10~9:30
1時限目 9:45~10:45
2時限目 11:00~12:00
昼休憩 12:00~13:30
3時限目 13:30~14:30
4時限目 14:45~15:45
HR 16:00~
とてものんびりした時間割だ。
昼食をパーティーメンバーや、アルフ君たちに誘われたのだが今日は断った。
理由はナナがかなりご機嫌斜めだからだ。
「兄様とフィリアとの楽しい学園生活を夢見ていたのに!」
「わたくしもてっきり足のこともあるから、一緒かと思っていました」
「ナナはほとんど家から出たことがないので、社交性を身に付けるのには良いかもしれないけど、十分いろんなことに気を付けて行動には配慮するんだよ。商人や貴族は直ぐに言質を取って関係を築こうと狙っているからね。パエルとアーシャはその辺は教え込まれてるだろうから、ナナが迂闊な事をしそうになったら直ぐ止めてあげてね。ナナは貴族の嫌らしさを知らないから、いいように利用されそうで怖いからね」
「「はい、お任せください。羽虫は1匹も近付けさせません!」」
この双子も見事なハモリだ! 二卵性双生児だと思うのだが、素晴らしい!
「ナナはそんなバカじゃないです!」
「ナナは知らないからそう言ってますけど、気付いたら婚約させられそうになったことなんか幾度もありますのよ? お父様がきて『公爵家のフィアンセと知っていてやっているのかね!』と脅して何度か追っ払ってくれたことがあるほどです。ナナなんか公爵家の長女、絶対打算的に近付いてくる輩はいますよ」
「だろうね……昼食はやはり食堂ではなく、毎回ここで取った方がいいだろうね。明日休みだし20人ぐらい座れるようにテーブルとイスを買ってくるよ。パーティーメンバーとの親睦も深めたいし、時々招待して食事を一緒にしようと思う。パエルとアーシャには手間を掛けるけど宜しくね」
「「はい、どのような方がいらしても良いように腕によりをかけてお作りします!」」
「明日フィリアたちとティーセットと食器類をこれで買ってきてくれるかな? テーブルクロスや食器やナイフ、フォーク、スプーンなんか必要そうなものを全部買ってきてほしい」
俺はフィリアに金貨200枚が入った革袋を渡す。
「とても重いのですが、幾らあるのでしょう?」
「金貨200枚入っているから、適当に見繕ってほしい。あまり質素なものは足元を見られるので、お客用と普段用とで分けて買ってきてね」
「リューク様はどうなされるのですか?」
「一度フォレストに戻ってそこでテーブルとイスを買おうと思う。木材工芸はフォレストの方が高い技術を持ってるからね」
「あのリューク様、わたくしたちもどうせならフォレスト領で買い物したいのですが宜しければ連れて行ってもらえないでしょうか?」
「うん? どうしてだ? 王都の方が良い物があるのじゃないのか?」
「そうかもしれませんが、お客用の食器となるとそれなりの金額が動きます。ナイフやフォークも公爵家のお客用なら、ミスリル銀の入ったものになってしまいますので、それなりに高額になります」
「金貨200枚では足らない?」
「いえ、十分です! ですが、どうせ大金を使うなら王都ではなく自領で使うべきです! これだけの消費をするなら自領の民に潤ってもらった方が宜しいかと思われます。ある程度はナナの家のフォレスト支店で揃えて、できればわたくしの知り合いのお店で揃えてあげたいと思います」
フィリアはお金を消費するなら自領の領民に落としてやれと忠言してきたのだ。
出来た嫁だ……見た目だけではなく頭も良いし、こういう優しさがまた素敵だ。
「フィリアはフォレストで聖女って言われて慕われているだけあるね。自領思いなのは素敵だよ! 確かに自領がある領主の息子が他領で大金を使うのは愚策だよね……分かった。明日皆でフォレストに【テレポ】で飛ぼうか?」
昼食を終えても少しくつろげる時間があるのはいい。日本だと60分しかないので、昼食後に体育とかの授業の日は結構きつかったのを覚えている。マラソンとか水泳とかリバースしそうだった。
午後からは魔法実技の時間だ。
今日は魔力量と生まれ持つ個人属性を調べるみたいだ。これによって大体が進む道が見えてくるそうだ。俺やフィリアなら回復ができるのでヒーラーとしての道が望まれるはずだ。
この測定で大騒ぎになったのは言うまでもない。
まぁ、騒ぎの元は俺とサリエだ。あり得ないほどの魔力量と、得意属性は出たものの、使える属性が全属性ときたら、騒ぎにもなるだろう。隠そうと思えば隠ぺい魔法でごまかせたのだが、3年間隠して騙せ通せる自信がない。それに隠さず使った方が色々便利だ。俺はこの世界で快適に過ごしたいのだ。隠し通してひっそり生きるのもいいが、折角公爵家という最高の家格があるのだ、根掘り葉掘りうるさい輩は捻り潰してやればいい。
「二人ともこれはどういうことですか!? 資料と明らかに数値や使える魔法の種類が違うのですが!?」
この五月蠅く騒いでるのが、魔法の実技の先生。うちの担任なんだけど、サリエをバカにしていた決定的な理由が分かった。
Aクラス担当の実技の講師は3人いるのだが、そのうちの1人がエルフなのだ、長寿なエルフは魔力操作も上手く、魔法も色々使えるのでベテラン魔術師は多いのだ。そのエルフ様と同僚で仲が良いのだろう。エルフ被れとでも言えばいいのか、ハーフエルフを小馬鹿にしているのだ。更に俺の事情を多少知っている担任は、本来選ばれないはずであった養女として貴族に引き取られた平民出の孤児で碌に魔法が使えないハーフエルフのサリエを最初から見下していたのだ。
「先生は何を言っているのですか? それいつの資料です? 『士別れて三日なれば刮目して相待すべし』とも言われるでしょう?」
「なんですかそれは? 言ってる意味がさっぱり分かりません!」
「日々鍛錬する人が居れば、その人は3日も経つと見違える程成長しているものだという意味ですよ。昔の偉い人の言葉です」
本当は三国志演義という中国の時代小説が原文なんだけどね。日本じゃ『男子三日会わざれば刮目して見よ』とかで使われるよね。
「そんな難しい言葉聞いたことありません!」
「そうですか、それは勉強不足ですね」
「うっ! あなたは私を煽ってらっしゃるのですか!?」
「あなたこそさっきからなにを言っているのですか? 魔力測定を行って、古い資料と内容が違うからと言って僕が何か言われる要因があるのですか? 少なくてもあなたは僕の諸事情を多少は知ってると思うのですが? 命が懸かっているので、サリエと2人で猛特訓をして今はレベル28あるのですから資料と違うのは当然じゃないですか。ちなみにサリエは種族レベル32あって、【魔法剣士】と【魔術師】のジョブを獲得していますので、その辺の新人魔術師よりずっと魔力量も多いですよ」
「種族レベル28と32ですか? 随分資料と違いますね」
「先生は資料、資料と朝から言っていますが、そんな紙切れ一枚に価値などないですよ。ちなみに先生の魔法量っていくつあるのですか? 指針として皆知りたいと思うのですが?」
「「「あ! それ知りたいで~す!」」」
生徒を使って煽ってやる。
「種族レベル53で、MP量は2315あります」
「「「先生凄~い!」」」
生徒の大半は驚いているが、笑止!
「え? そんなものなのですか? 種族レベルが高いのにMP量は少ないのですね? 魔法適性が低いのかな? それとも神々の加護や祝福がないのか?」
完全にバカにした俺の物言いに流石にカチンときたようだが、公爵家の子息の俺に敵意は向けてこないようだ。MAPで観察してるがこの先生の色が白から変わることがない。赤色の敵意を示したら徹底的に苛めてやるつもりだが、う~ん。
「兄様たちはいくつあるのです?」
「僕が3576、サリエは3978もあるよ」
これを聞いた皆はざわめき立つ、教師よりはるかに多いのだ、適性の問題だけでは済まない開きがあるのだ。種族レベル13~23ぐらいで魔法科に入った生徒たちは500~1000あればいい方だろう。自分との差に愕然とした者も多い筈だ。
「フォレスト君の先ほどからの物言い、私に何か思うところがあるようですね」
「今更すっとぼけるのかよ! 朝から散々俺やサリエの方を見ながら小馬鹿にしたような物言いをしてきたのはあんただろう! ふざけんな!」
最後の『ふざけんな!』の言葉に【将の威圧】Lv10をピンポイントで先生だけにぶち込んでやった。
『僕』が『俺』になっていたのは言ってからアッと思ったが、今更だ。
「ヒッ!」
後ろにひっくりかえって倒れたかと思ったら、ジョロジョロ~と失禁してしまったようだ。
これはイカン! どう考えてもやり過ぎだ! まさか失禁するとは思わなかった。
サリエは耐えたのに……使えない教師だ。
だがこのままではまずいので皆に分からないように先生を庇い【クリーン】をさっとかけて失禁をなかったことにした。これに気付いたのはエルフの教師と生徒数名ほどだ、ごまかせればよいのだが。
「フォレスト君、何か思うところがあったようですが、あのような危険なスキルを使ってはダメですよ」
エルフの教師には威圧スキルの使用までバレていた。
放課後生徒指導室に呼ばれたのは言うまでもない……。
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