3-16 あまり面識はないのですが、従妹が暗殺されそうなので助けようと思います

 今朝は例のパン屋に来ている。


 亜空間倉庫内に調理工房を創った俺にはもうパンを買う必要はないのだが、パン屋の親父がどこまで美味しパンが作れるか少し興味があるのと、個人外注は受けない店が特別に作ってくれているということもあり、もう少し係わってみることにしたのだ。


 焼き立ての試作品のパンを頬張る俺を親父さんは今日こそはという顔で見ている。


「どうだ?」


 前回より格段に美味しい。小麦粉を変えて口当たりが良い。バターもちょっと増やしたのかな?


「美味しくなっています。パサつき感がなくなって、口当たりが滑らかになりましたね」


「他の違いは分かるか?」

「バターを増やしたのかな? 風味とコクが増した気がします」


「正解だ。だがリューク様よ、あんた俺の焼いたこのパンより旨いパン食ったことがあるんだろ?」

「どうしてそう思われるのですか?」


「美味しいけどこんなもんかな? って顔してやがる……」

「今回使った小麦粉見せてもらえますか?」


 う~ん、この世界では良い物なのだろうが、やはり混ざりものが多く粉の肌理が粗い。


「この小麦粉見てもらえます」

「うん? な、なんだ!? この真っ白な小麦粉は! それに、この1粒づつの粉の細やかさ……何処でこれを仕入れたんだ!?」


「この小麦粉は僕が脱穀して粉にしたものですので販売はしていないんですよ。自分で料理に使う分しか時間的に作れないですからね。あと、砂糖や塩もこれを使ってます」


「この砂糖も真っ白だな……こんなもの見たこともない」

「黒糖は少しえぐみがあるので、料理にもよりますが、パンにはこの上白糖の方が合うのです」


「うちに作らせなくても、自分の家でもっと良い物つくってたのか? お前、なんでうちに依頼にきたんだ?」


「ちょっと、お父さん! 言葉遣い! 相手は上位貴族様なのよ!」

「うるせえ! うちより旨いもん作れるのに、からかいにきやがったのか!?」


「違いますよ! 前来た時に言いましたが、今月より学園に通っているのです。寮の公爵家用の部屋にはちょっとしたキッチンは付いてますが、パンを焼けるオーブンなんかはないのです」


「つまり材料はあっても、パンは焼けないってことか……」


「はい、なので外で買うことにしたのですが、多い時には15人ほどが部屋に遊びに来るので結構沢山パンを消費するのです。朝並んで大量に買い占めると、固定客の方にも迷惑が掛かるし、パン屋の方も困るかなと思い、特注で発注できないかと娘さんに依頼したのです」


「そういうことならべつに文句はねぇ……でもうちじゃ、お前さんが満足いくようなパンを焼く自信がない」


「この小麦粉と砂糖と塩を提供しますので、@150ジェニーで次回焼いてみてくれませんか? 小麦粉5kgづつ3種と、砂糖1Kg、塩1Kg置いて行きます。どうやれば美味しくできるか色々やってみてください」


 発酵させるときに、良いイースト菌がないとパンはふわっとならないのだが、イースト菌はまだナビーも開発中だそうなので残念ながら今回は提供できない。


「よし! 引き受けた! 次回こそお前に旨いって顔させてやる!」


「え~!? 今日のパンも十分美味しいですよ」


 そんなこんなで、次回の発注までに渡した材料でいろいろ試して旨いパンを作ってくれることになった。

 見たことないほど良い素材でどんなパンになるのか、職人親父に火が付いたようだ。




 パン屋から焼き立てパンを受け取って、1人テクテクと寮に帰っている。

 サリエは寮で皆と朝食の準備をさせているために今はいない。



『……マスター、お知らせしようか迷ったのですが、一応知らせておきます』

『なんだ?』


『……西門を出て馬車で3時間ほどの場所に、盗賊が32人で待ち伏せをしています』

『誰か襲われそうなのか? でもこれから俺は学園だしな……』


『……はい、この世界では襲われる方も自己防衛するのが基本なので、只の商人や貴族なら黙っているつもりでしたが、待ち伏せされているのがどうやらマスターの従妹にあたる方みたいなのでお知らせしようかなと……』


『従妹?』

『……はい、第三王女殿下です』


『第三王女殿下って言ったら、プリシラだよね? 1つ下で歳は近いけど、生まれつき目が悪いせいもあってあまり会った記憶がないな~。ナナ同様社交の場にあまり出てこなかったからね。最後に会ったの2年前かな……』


『……どうされますか?』


『王族なら正騎士が護衛の任に当たっているでしょ? 30人くらいなら大丈夫じゃないかな?』

『……ただの盗賊なら問題ないと思うのですが、今回姫を狙って3人のアサシンが紛れ込んでいます。精鋭騎士7人が護衛に付いていますが、その手練れのアサシン3人が相手だとどうでしょう……』



『アサシンとかきな臭い話だね……なんでそんなのに狙われてるの?』

『……今回のプリシラの公務に係わる事なのですが、後10分ほどで姫の乗った馬車が敵と遭遇しますのでゆっくり話している時間はないかと……』


『お~い! それを早く言えよ! 10分後じゃこっから急いで向っても間に合わないじゃないか!』

『……マスターが王家に連絡を入れれば、それ以上先に馬車を進めないようにできるのではないですか?』



 確かに……。


 俺が従兄ではなく只の一般人ならプリシラの馬車に連絡が行くまでに1時間はかかるだろう。下手したら信用されず連絡もされないまま事が起こった後になり、最悪暗殺犯の仲間だと言われる可能性もある。


 だが、俺の父様はプリシラの父とは実の兄弟だ。そして父様は俺が使徒だと信じ込んでいる。神託があったと言えば、即行動してくれるだろう。俺は父様経由で王家に知らせることにした。



『父様、至急の案件です! 今宜しいですか?』

『どうした!? 何があった! 敵が攻めて来たのか!?』



 はぁ~、この親父は……使徒の件で煽り過ぎちゃったかな。



『いえ、使徒の使命とは関係ないのですが、先程女神様より神託がありまして、第三王女の従妹のプリシラが後10分後ぐらいに西の街道で手練れのアサシンを含む盗賊32人の待ち伏せに遭うという知らせがありました。城の方で事実確認をして、もしプリシラが公務で西の街道に出ているのであれば、護衛をしている騎士にコールでそれ以上先に進ませないように連絡して止めてあげてください』


『一大事ではないか! 分かった! 10分か……あまり時間がないな、直ぐに兄に知らせて対処しよう』




『……マスター、念のために現場に向かわれたらどうですか?』

『うん? 行っても間に合わないだろ?』


『……走ってでは無理ですが、飛行可能なオリジナル魔法を創って飛んで行けばいいじゃないですか? マスターが現地に到着後、サリエを【テレポ】でマスターの元に越させて2人で一網打尽です。盗賊がお金になるのは以前経験されてるのでご存知ですよね?』


『確かに、前回お金にはなったよな……でも飛ぶスキルか』


『……今調べた所、この盗賊団のアジトには現金が2千万ジェニーと、宝石や武器とかもあるので億は稼げそうですよ。盗賊の所持品や所持金、馬や装備品なども含めたら2億は越えそうです。王都に猫ちゃんやわんちゃんのお家を建ててやるのでしょ? ここは稼ぎ時です! それにプリシラちゃん、変わった娘ですがとっても良い娘ですよ?』



 ナビーの奴、俺をその気にさせて働かせるの上手だよな……。

 とりあえず、サリエに連絡かな。



『サリエ、今すぐ戦闘準備をして待機していてくれるか?』 

『ん、リューク様? どうしたの?』


『従妹が西の街道で盗賊に襲われそうになっている。救出に向かうので、戦闘準備をして待機していてくれないか』

『ん、私も直ぐ出た方が良い?』


『いや、俺が先行するので着いたら即連絡を入れる。【テレポ】を使って、俺の元に飛んでくれ』

『ん、マーキング機能を使うのね』


『そうだ、ナナたちには急な公務が入ったので遅れると学園に伝えるように言ってくれるか?』

『ん、分かった。伝えとく』



 【魔法創造】

 1、【飛翔】

 2、・重力魔法の応用でリニアの様に反重力を利用して前に進む

   ・【レビテト】を利用し前後左右全方位に移動可能

   ・飛翔中は【ウィンド・シールド】を張って風圧を防御する

   ・命に関わる様な制動はプロテクトされ発動されない

 3、イメージ

 4、【魔法創造】発動




『ナビー、こんなもんで大丈夫かな? この星の磁場や磁力を利用するようイメージしたんだが……』

『……はい、問題ないでしょう。でも、反重力なら速度が少しあれかもですね』


『うん? 遅いのか? 風魔法の利用より早いとは思うのだが』

『……いえ、逆に速すぎないかなと心配したのです。磁場の乱れとかも心配ですね』


『速いのなら良い。遅くて間に合わないようならダメだけどな。磁場の乱れか……まぁ、一度試さないと何とも言えないな』


 現在西門を目指して市中を爆走中だ。

 街の中から飛んだら大騒ぎになるのは目に見えているので一旦街から出る必要がある。



 西門を出て【飛翔】を発動しようとしたらナビーが話しかけてきた。



『……マスター、どうやら王都からの連絡が間に合わなかったようです。現在盗賊と騎士の戦闘が先程始まりました。馬車を守りながら逃走していますが、その先で馬車止めの大木を置かれているので馬車が止められるのは時間の問題でしょう』


『クソ! 間に合うかな?』


『……分かりません。ここにサリエを呼んでから一緒に飛んで行った方が良いかと思われます。MAPの射程の10km圏内に入ったらアサシン3人に★マークを入れて置きますので優先的に捕縛してください』


『分かった。一番強い奴に黒★を入れて後の2人には白☆を入れてもらえるか? 黒★の方はサリエに任せる』



 時間的に余裕がないのでサリエにコールではなく念話を送る。  



『サリエ! 今すぐ【テレポ】でこっちに飛んでくれ!』

『ん、分かった! 直ぐ行く!』



 サリエは俺に付けているマーキング機能を使い直ぐに転移してきた。

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