3-17 生身での音速越え飛行は超怖いです!

 すぐに転移魔法で来てくれたサリエに急いで指示を出す。


「サリエ、既に馬車は襲われているそうだ。ここからさっき創った俺のオリジナル魔法でサリエを抱っこして空を飛んで向かう。着いたらMAPで黒★が付いてる奴を【魔糸】で真っ先に捕縛してくれ。一番強い奴だから油断しないで対処するんだぞ。捕縛が無理そうなら殺してもいい」


「ん、分かった」


「余裕があったら次のターゲットは白☆の奴らだ。星の付いてる奴らは闇ギルドのアサシンなのでどんな暗器を持ってるかもしれないし、捕らえると自害する可能性もある。十分気を付けるように。☆マークの3人が片付いたら、後は雇われた雑魚の盗賊たちだ。殺さないで捕えて【魔枷】で拘束して無力化してくれ。足や腕を折ったりして戦力を削ぐのはOKだ。自分の安全が最優先だぞ。何か質問はあるか?」


「ん? またリューク様のオリジナル? 抱っこして飛んで行くの? 楽しそう!」

「うん、さっき創ったオリジナル魔法だけど、初めて使うのでちょっとだけ不安があるがシールドを張るので大丈夫だと思う」


 新たなオリジナル魔法と聞いて興味津々なようだが、今は詳しく説明している暇はない。


「ん、信じる!」

「もう襲われているそうだから、最速で飛んで行くよ! じゃあ行くぞ! しっかり捕まっていろよ」


 サリエを前に抱っこして【飛翔】を発動する。

 命に係わるような急な制動はしないようになっているが、ものの数秒でドンッという衝撃波とともに音速を超えた!



「「ンギャー!!」」


 2人の絶叫が起こるが、なにせ音速を越えているのだ……悲鳴は遥か後ろに置き去りで、すぐにマッハ2に達した。


「ん! 止めて! 怖い怖い!!」



 マッハ1は時速でいうと約1200km、マッハ2だと2400kmにもなる。

 何も身を囲うものがない状態でのマッハ2の恐怖が想像できるだろうか?


 風はシールドで防御できているが、事故ると確実に死ねる速度だ。怖くない筈がない。

 俺の手にしがみついてるサリエが、恐怖のあまり爪を立て、俺の肌に食いこんで出血しているほどだ。だがその痛みで逆に俺は少しだけ冷静に落ち着くことができた。



 40秒ほどで現場付近に到着する。

 念のために追加で【プロテス】【シェル】を2人に掛けておく。

 現場が目視で見えた時点で減速を始めたのだが……止まらない! みるみる地面が近付いてくる。



『ナビー! 止まらないよ!?』

『……減速はしていますが、命に係わるような急制動はできません。もう少し早く減速を開始するべきでしたね……』



「「ンギャー!! 死ぬ! 死ぬ!」」



 地面衝突寸前に【ウィンダラボール】を3発自分のすぐ前に発動する。爆風で少しでも威力を抑えようという意図だ。つまり中級魔法3発より地面への直接衝突の方が威力が上と俺は判断したのだ。


 サリエを庇い爆風は自分の背で受けるようにした為、地面に背を向けてしまって衝突の瞬間のタイミングが合わず、まともに背中から地面にぶつかってしまった。


「ぐはっ!」


 【ウィンダラボール】の爆風と俺自身の衝突で地面に1mほどのクレーターを開けたが、俺もサリエも無事怪我する事もなく着地できたようだ。



「んんん~!! アホー! リューク様のドアホ! 怖かった! 死んだと思った!」


 サリエに一般人なら骨折かというほどの威力のスピンキックを足に連打されている。かなり痛い……。



「悪かったサリエ! 俺も死ぬほど怖かった!」



 いきなり空から落下してきて1mの穴が開くほどの爆風を起こしたにもかかわらず、無傷で子供が少年を凄い勢いで蹴りだしたのだ。戦闘中だった盗賊と騎士も地面が揺れるほどの衝突と轟音に驚き、手を止め全員が2人の理解できない行動をガン見している。



『おい、サリエ! こんなことやってる場合じゃない! 黒★の奴ヨロシク! 油断するなよ!』


『ん! 怖かったんだから! 後でプリン!』

『分かった……』


 超怒っているのに、プリンで許してくれるサリエってなんかチョロい……。

 サリエがこっそり自分に【クリーン】を掛けたのを【魔力感知】で目ざとく見つけてしまったが見なかったことにしてあげよう。


 ちょっと漏らしちゃったんだね……実は俺もちょっとヤバかったからね。



 さて、今はこっちが優先だ。

 声を張り上げて、騎士たちに声掛けする。



「加勢する! 騎士の方たちは防御に専念して主を守れ! 防御しつつ怪我人の回復を!」

「ありがたい! 助勢感謝する! 皆、この好機に姫の周りの陣形を固めろ!」


 騎士が叫んでる間にサリエが魔糸を飛ばして先に仕掛けた。



「ん!? リューク様、初見の不意打ちなのに躱された! こいつ強い!」


「皆、気を付けろ! この小娘、何か魔力の掛かった糸を操るぞ!」


 アサシンのリーダー格っぽい奴が叫んだ時には既に【無詠唱】で中級魔法の【サンダラスピア】Lv5を放って、一瞬硬直した隙に白☆2人を拘束済みだ。


「チッ!」


 リーダー格の奴は舌打ちと同時に凄い殺気を放ってこっちを見てきた。

 その殺気は俺にというより捕らえた2人の方に向けられたような気がして、俺は咄嗟に2人に【マジックシールド】を掛けていた。


 そいつが一瞬動いたように見えた時には投げナイフが2人に投げられシールドに弾かれていた。

 捕縛されたと分かった瞬間、躊躇なく仲間を殺しにきた。こいつかなりヤバい。

 ジュエルのような暗殺者になってまだ日の浅い奴じゃない……ベテランのアサシンだ。


『……マスター! 毒の塗られた投げナイフです! 例のカエルの毒ですのでご注意を!』


「サリエ! 例のカエルの毒が武器に塗ってあるようだ! 毒と自害に気を付けろ! 2人確保したので最悪そっちは死んでもいい! 自身の安全最優先でやれ! 仲間を躊躇なく殺しにくるような手練れだ、油断せず十分気を付けろ!」


「ん! 分かった! ここからは全力でやる!」


 サリエは腰からダガーを抜いて二剣流に切り替え、低い姿勢で構えを取った。


 俺は捕らえた2人の足と手に【魔枷】をし、【魔糸】で口を全く動かせないように縛った。

 噛み付きや服毒を防ぐためだ。


 そしてサリエの加勢に入る。



『サリエ、【将の咆哮】を使って見るか? その間に俺が奴を拘束する』

『ん! 使ってみたい!』


『じゃあ、GOの合図でLv10を放つんだぞ!』

『ん! 分かった!』



『カウント、3・2・1・GO!』



 サリエの「ハッ!」という可愛い気合の掛け声とともに1秒ほどの硬直時間を得られた。サリエが以前3秒程硬直したのを考えれば、短い時間しか硬直していない。この差は何なのか?

 だが、これだけの時間があれば十分だ。【魔糸】を10本飛ばして指一本動かせない程に緊縛する。



『……マスター、硬直時間の差は精神耐性の差ですね。サリエよりかなり高いようです』

『なるほど。学園長が俺が放った時平気な顔をしていたのは、凄く精神耐性が高いってことか』


『……学園長もそれほど平気ではなかったですよ。年の功でしょうね。顔に出すのはまだまだ二流ってことでしょう。平気じゃなくても顔色一つ変えずに、マスターに学園長の方が自分より格上だとそう思わせることができたのですからね』


 戦略的にも学園長に完敗だな。




 残りは雑魚だけなのだが、どうにもこのアサシンが気になる。

 同じアサシンでも、ジュエルとは本質的に何かが違う……凄く嫌な感じだ。


『サリエ、このアサシンのことが気になって仕方がない。第六感が危険と言ってるのかもしれない。念のためオリジナル魔法を創って眠らせようと思う。残りの雑魚の捕縛を任せてもいいか?』


『ん! 本能に従った方が良い! 雑魚は任された!』



 このアサシン、なにか分からないが得体のしれない嫌な感じなので、事が起こる前に対処しておく。



 【魔法創造】

 1、【強制睡眠】

 2、・問答無用で眠らせる

   ・1~24時間の間、任意の時間眠らせることができる

   ・強制睡眠に掛かっている間は【コネクト】が強制使用でき【カスタマイズ】で弄ることが可能

   ・術者のみ眠っている者を起こすことが可能

 3、イメージ

 4、【魔法創造】発動



 早速【強制睡眠】を使ってアサシン3名を眠らせた。

 【コネクト】でラインを繋げて【カスタマイズ】を使い、【亜空間倉庫】の中身を抜いてから更にスキルを奪った。


 【ヘイスト】【煙幕】【投擲】という使えそうなスキルを俺にコピーし、悪事にしか使ってないこいつらの持ちスキルを全てLv1状態にしてやった。【身体強化】【剣術】各種魔法もこいつらが習得しているスキルは全てLv1だ! もう暗殺業なんかできないだろう……というよりそこの盗賊にすら負けるだろう。ざま~みろだ!



『……マスター、奪ったスキルのレベル数に応じてAPに還元されて獲得できるようです。なんてヤバいスキルをまたお創りに……』

『え? どういうこと?』


『……具体的には、さっきの黒★アサシンが持ってた【身体強化】Lv6をLv1に【カスタマイズ】した事によってAPが20ポイント奪えました』

『エッ!? 殺さなくても【カスタマイズ】で奪えるの?』


『……そうです。種族レベルと経験値は奪えないようですが、それ以外はかなりチートなことになっています。この【強制睡眠】のスキル、かなりヤバいです!』


『俺そんなイメージしてたっけ? 敵を弱らせるためにレベルを下げるのと、スキルをコピーできるイメージだったんだけど』


『……う~ん。アリア様の打算的意図が見え隠れしていないでも……』

『またあのクソ女神の仕業か。確かに有り難い有用なスキルだが……あいつが絡むと何かさせようという魂胆にしか見えないから腹立つんだよな』


『……まぁ、実際そうなのでしょうからマスターの気持ちは分かるのですが、この際残りの盗賊からも全て奪いましょう。害にしかならない奴らにスキル熟練度を残す必要はないです』



 アサシン3人から全て奪った頃には、サリエが20人ほど既に捕縛していた。



「流石だサリエ! 俺も合流する」

「ん、問題ない。それよりリューク様は怪我人を見てあげて! 腕を切断された女の騎士が1人いるの!」


「分かった。じゃあ残りも宜しく。全員捕縛できたら装備を全て剥ぎ取って於いてくれ。捕らえた盗賊の所持品は全て俺たちの物になる」


「ん、頑張る!」


「騎士たちの中に急ぎの重傷者は居るか!? 俺はヒーラーだ!」

「すまない! 至急彼女を見てくれ! 可哀想に右腕を切断されてしまったようだ!」


「他に怪我人は?」

「死亡者が3名もいる……即死だった。他の者は回復剤で何とかなったが、今残ってる回復剤は初級回復剤しかなくて、重傷の彼女には気休め程度にしかなっていない」


 即死した人は、アサシンに例の毒ナイフで殺されたようだ。


「この隊のヒーラーは?」

「真っ先に殺られたよ……もしお前たちが加勢に入ってくれなかったらと思うとぞっとする」


 俺は女騎士に近寄り、容態を見る。

 切断面からの出血が酷いので【魔糸】で縛って止血する。


「どうだ? 救えそうか?」

「ああ、問題ない。でも、腕の方は……」


「腕は可哀想だが仕方がない。命だけでも救ってくれるなら有難い。彼女、先月結婚したばかりなんだ。幸せいっぱいだったのに……」


 全て捕縛したサリエが手に何か持って駆けつけてきた。 


「ん、リューク様、これ!」

「うわっ! 何持ってきてんだよ! そんなもの捨てろ!」


「ん、多分その彼女の腕! リューク様なら治せない?」


 うわ~、めっちゃ期待してるよ。


『……マスター、ここはサリエの期待に応えるのが良い男でしょう。望みを叶えてあげればサリエの好感度アップ間違いなしです』

『そうなんだが、【無詠唱】や【テレポ】はともかく、部位欠損が治せるという事実までは王家に知られたくないんだよね』


『……もう手遅れです。マスターが国外逃亡なんか図るから国王は暗部を使い、色々調査してほぼマスターの能力は知られています。今更隠しても無駄ですね』


『娼婦のことまでばれているのか?』

『……彼女たちのこともある程度ばれていますが、マスターが心配されているジュエルの件は心配ありません』


『そうか、ならいい』


 どうしようか思案していると、騎士の1人に手を引かれプリシラがやってきた。


「ご助勢感謝いたします。おかげで命が救われました。ヒーラーだとお声が聞こえましたが、どうか彼女を救えるならお救いくださいまし」


「見た所冒険者のようだが、名を何と申す?」


 プリシラの手を引いていた騎士が俺に名を聞いてきた。どうやらこの人がこの隊の隊長みたいだな。普通、騎士ならまずプリシラが王女殿下という事実を明かして俺を跪かせてから俺の名を聞くはずだ。少し俺たちを警戒しているみたいだ。


「冒険者のリョウマです」

「ウソね……」


 即答でプリシラが嘘だと言い切った。


『ん、リューク様?』

『【魔糸】とか【魔枷】とかいろいろ使っちゃったし、冒険者のリョウマとしてごまかせないかな~って思ったんだけど……』


『ん、無理! 絶対バレる! せっかく捕縛した盗賊の褒賞ももらえなくなる……』


 プリシラが嘘と言った瞬間、周りの騎士が一斉に抜剣しプリシラの前に立ちはだかった。

 よく訓練されている……流石王家直属の正騎士達だ。


「そっちの子供は!?」


 サリエが一瞬凄い殺気を騎士に放った。

 まぁ~この騎士さんが悪いわな……子ども扱いはサリエには禁句だ。


「ん、元娼婦のサーシャ」


「「「ウソだね……」」」


 プリシラ含む周りの騎士が一斉にそうつぶやいた……。


「サリエ……いくら何でも娼婦は無理だろ。お前、10歳児にしか見えないぞ」


 騎士たちも一斉に頷くが、俺の失言でサリエが切れた。


「ん! 乙女に向かって! アホ、アホ、アホ!」


 ちょっと本気のローキックを3発お見舞いされた。マジ痛い。


「それになんでサーシャの名を今出す。そう言えばサーシャの名前何で知ってんだ!?」


 サリエの態度に毒気を抜かれたのか、騎士たちの警戒が和らぎ、いつのまにか剣は納刀されていた。


「ん、リューク様、彼女助けてあげて! きっと命懸けで姫を守ってこの腕を落とされた。彼女は立派な騎士! この腕があるともっと沢山の命が救われる! 私じゃ治せない、でもリューク様なら……」


 切られた腕を大事に抱えてサリエは俺に訴える。これまでサリエが喋った中で一番長い長文だ。


 はぁ、なんていい娘じゃ~! おじさん涙が出そう!

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