3-61 冷蔵庫の試作型がもうすぐ出来そうです

 ナナの部屋に朝食を食べに来ているのだが、かなり賑やかなことになっている。

 ナナ・フィリア・ルル・プリシラ・パエル・アーシャ・チェシル・マシェリ・俺・サリエ……10人も居る。


「リューク様、パンがすぐなくなりそうです……」


 そうなるわな……。


「分かった。明日にでもパン屋に予約を入れて買ってくるよ。あそこの親父は俺が行かないと売ってくれないんだよね……」


「リュークお兄様、わたくしもご一緒してよろしいでしょうか?」

「プリシラもパン屋に行ってみたいの? そうだね、じゃあ明日一緒に行こうか?」


 当然のようにルルやナナも行くと言い出した。


「ルルは良いけど、ナナはまだ駄目かな。もう少し歩けるようになってからね。そうだ……今日から学園の登校は歩いて行ってみようか?」


「ナナをパン屋に連れて行ってくれないのは腹立たしいですが、自分で教室まで歩いて行けるのは嬉しいです」

「でも、あまり無理はしないようにね。パエルは念のため車椅子を【亜空間倉庫】に持っておいてくれるかな?」


「はい、分かりました」


 言わなくてもそのつもりだったようだね。どうやら壊れた時用に常に2台持ち歩いているようだ。姉妹でいえば常時3台持ち歩いていることになる。やはりこの娘たちも優秀なのだ。


 ローレル姉妹が加入したことによって、今朝はちょっとマーレル姉妹は緊張気味なのだが、これは仕方がないことかもしれない。


 家格も技術も全てにおいて、今はローレル姉妹に上をいかれてるのだ。

 ローレル姉妹は伯爵、マーレル姉妹は子爵、年も一つ上だし、入試の成績もかなり差があったようだ。


 料理の腕は、包丁捌きを見る分にはマーレル姉妹の方が上なような気がしないでもないが、得意分野もあるだろうから、ちょっと見ただけでは判断が付かないな。


 ローレル姉妹が優秀な分、俺としては聖女や王女に付けても安心していられるんだけどね。


「チェシル、マシェリ、聖女と王女付きに勝手にしちゃったけど、大丈夫かな?」


「「正直緊張しています。でも、とても光栄なことなので頑張らせていただきます」」


 見事なハモリだ!

 一時期双子のハモリネタがブームになったことがあって、何組かの双子がTVで良くハモッていたけど、それ以上で面白い。しかも超可愛いからとてもいい! 凄く良い!


「プリシラとルルの方は用意していた侍女に申し訳ないかな?」


「わたくしは目の事もありましたので、学園には通わない予定でした。ですから何も問題はないですわよ? 内心ではわたくしも学園に通いたかったですので、ルル様には本当に感謝ですわ」

「私の方も教会で教育課程は全て終了していますので、元より学園には来る予定ありませんでした」 


「そうなのか。ならその二人で問題ないね?」


 元々侍女の準備はされていなかったようで、慌てて王家と神殿で侍女候補を探していたそうだ。


 勝手に俺がチェシルとマシェリを侍女に付けたが、二人は公爵家の用意していた優秀な侍女なので、王家も神殿側もすんなり認めてくれたみたいだ。



「ええ、少しの間ですが宜しくお願いね」

「そうですわね。リューク様と正式に婚約したら、あなたたちも侍女という訳にはいきませんものね。それまで、よろしくね」


「「はい。こちらこそ宜しくお願いいたします」」



 父様に夕刻面会を取り付けておく。

 サリエとローレル姉妹の婚約の件を報告して許可を得るためだ。学園まで追っかけてきたルルのことも知っているだろうが、ちゃんと俺の口から報告しようと思う。



 この3日ルルを見ていたが、ケチの付けようがないのだ。

 あえてケチを付けるなら、勇者様と聖女は結婚するものだと言い張る謎思考なところだが、彼女に言わせれば『神に選ばれた勇者様が変な人物なわけないじゃないですか!』という考えらしい。


 確かに神に選ばれた聖女は素晴らしい娘だ。でも俺はどっちかというと残念勇者なんだけどなぁ……彼女にドンされただけで家出する情けない男なのだ。


 ルルはフィリア級に可愛から、本人が好いてくれるなら、いっそのことルルもキープしちゃえと思ってしまっている。




 食後にナビーから嬉しい報告があった。


『……マスター、ログハウスタイプが完成しました。武器工房と錬金工房も無事稼働しています』

『風呂は問題ない?』


『……お風呂も、全室冷暖房も問題ないようです。サーシャたちの店舗の方もほぼ出来ているのですが、大型冷蔵庫の方が満足のいく物がまだできないのでもう暫くお待ちください』


『何に手間取っているんだ?』

『……断熱材です。発泡スチロールのような軽くて保冷ができるような素材がなかなか見つからないのです。この際発砲ウレタンを開発しましょうか?』


 この寮にあるような木製の保冷程度のモノなら簡単にできる。俺とナビーが開発しているのは、冷凍庫付き冷蔵庫なのだ。長時間の保冷が出来るようにするのに、材料で苦戦中なのだ。


 ナビー工房でしか作れない技術ではだめだ。新技術は良いが、既存魔法でできる範囲でないと商品として販売できない。



『ブルースライムのあの体液はどうかな? 触った感じ、めっちゃヒンヤリしてたし、保冷できそうなゼリーっぽさだったけど、何かアルカリ性の薬品を混ぜて、酸性を中性にして使えないか? 水分なので重さは多少重いだろうけど、冷蔵庫なんか据え置き品なんだから多少重くても良いだろう』


『……………………使えそうです! ナビーのこの数日の苦労を一瞬で解決しちゃいました! 悔しいです! マスターにはまだまだ発想が及ばないようです……凄く悔しいです!』


『ブルースライムの魔石2個あれば冷蔵用と冷凍用の付与魔法を付ければいいので、安価で一般向けにも発売できそうだろ? 業務用の大型冷蔵庫の場合はB級魔獣かC級魔獣の魔石を使うようにすれば良いかな』


『……材料はブルースライム2匹と、冷蔵庫自体の木材くらいですか? ブルースライムの体液はどうすればよろしいでしょうか?』


『冷気を維持する為の保冷に使うのだから、全面をその液体で囲う必要があるんだよな……1cm位の厚みに鉄板で挟むか? スライムの粘度を上げて、板が割れたりしても直ぐに液ダレしないようにしとけば大丈夫じゃないか?』


『……少し重くなりそうですね。鉄板ではなく木板に防水処理をしておけば、水分が染みる事もないですかね』

『水気が気になるようなら、板の内側は強化ガラスとかでも良いかな。透明にする必要はないから、簡単に割れない程度の強度を持たせればいい』


『……成程です。木板・空洞・薄い木板・ガラス板・スライムの体液・ガラス板・薄い木板・空洞・木板の順で一枚の断熱板を作ってみますね。大体3cm程の厚みができそうですが、保冷効果は十分ありそうです』


『内部はガラス板じゃなくてラバーワームを使ってみてもいいな。割れやすいガラス板より耐久性があって軽くて済むと思うぞ』

『……悔しいけど、また完敗です! 内面はラバーワームを張った木を使ってみます。一般家庭用に350リットルクラスのサイズのモノでよろしいですか?』


『そうだな。試作品にそのサイズでまず1台頼む。発売用は日本と違って1家族の人数が多いので、もう少し大きくても良いかもな。サーシャの店舗用のは木じゃなくてミスリルを混ぜた軽い合金を開発してくれないか? 使う魔石もAランク魔獣程度のモノを使っても良い』


『……アルミのようなものですか? ですが、熱伝導が良すぎて冷気を外に逃がしちゃいますよ? それならステンレスのようなモノでどうでしょう?』


『ああ、材質は任せるよ。錆びに強く、丈夫で長持ちして、保冷効果があるものなら何でもいいよ』


『……それが凄く難しいから苦労しているのに……スライムの粘液を囲うのに良い素材を木以外で少し開発してみますね』


『ああ、頼む。あくまでそっちはサーシャたち用の非売品だから、多少金が掛かっても良いからな』





 ヨチヨチとナナが教室に向かって一生懸命歩いている。

 少し左足を引き摺るような感じだが、大分歩けるようになっている。


「ナナ、出来るだけ引き摺ってるのを意識して、足を上げて歩くように意識してごらん。筋力バランスが悪いせいだから仕方がないけど、変な癖が付くと良くないから、出来るだけ左右で均等にバランスを取るようにね」


「はい。こうですか?」


「うん。最初は意識するようにしなきゃダメだろうけど、左足にもう少し筋力が付いたら普通に歩けるようになるからね」


 下り階段は危険なので補助したが、階段も無事登り終えて、いつもの3倍ほどの時間を掛けて教室に辿りついた。

 ルルたちはチェシルに連れられて、現在職員室に行っている。


 頑張ったナナの頭を撫でてやったらめっちゃ喜んでいる。なんか可愛い。

 ナナは汗びっしょりになったようなので、【クリーン】を掛けてやり、【エアコン】も掛けてやった。



「兄様? この魔法は凄いです。何ですかこれ? 涼しいです!」

「俺の開発したオリジナル魔法だね。夏は涼しく、冬は温かくなる魔法だよ。ナナにもそのうち教えてやるからね」


「本当ですか、頑張ってナナも覚えますね!」


 それにしてもナナもフィリアも制服姿可愛いな……。

 【気配察知】のせいで、行き交う者が皆チラチラと視線で追っているのが分かってしまう。


 特にフィリアの胸に男子は視線が釘付けだ。俺の嫁をいやらしい目で見るな! と思ってしまうが……あの胸では仕方がない。なにせ普通に歩いているだけで、ポヨンポヨン揺れるのだ。



 班員たちと朝の挨拶をし、HRが始まる。

 先生も流石に緊張しているな……ロッテ先生俺のせいで苦労を掛けます。



「ええ~、この時期に大変珍しいことなのですが、途中入学することになった者が今日このクラスに2名入ります。お二方どうぞ……」


 先生の合図とともに、廊下で控えていた二人が教室に入ってきた……。


「「「聖女様!」」」「「「ルル様!?」」」


 流石この国の有名人……フォレストでは顔を知らない者も多いが、王都の貴族は神殿に赴いて顔を見知ってる者も多いようだ。


 流石に目のせいで公の場にあまり出ていないプリシラのことは、王家の分家の血筋である侯爵家のアルフ君と宮廷魔術師の家系のレイリアさんぐらいしか知らないようだ。


「気づいた者もいるようですが、聖女ルル様と第四王女殿下のプリシラ姫です」


「「「プリシラ殿下!!」」」





 先生に促されて二人が皆に挨拶を行う……やっぱ騒然となったな。

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