3-62 聖女と王女の扱いはクラス内で難しそうです

 聖女ルルと第四王女殿下のプリシラの途中入学という、過去ににないような事態で皆動揺している。ロッテ先生に促されて、二人が挨拶を行う。


「ルルです。訳あってこの度プリシラ殿下とこのクラスに途中入学することになりました。年齢的に皆より一つ下のまだ14歳ですので、このクラスでいる間は敬称は抜きでルルとお呼びくださいね。入学理由は一切お聞きにならないでください。言えないことの方が多くて申し訳ありませんが、ここに居る間は楽しく過ごせたら嬉しいです」


 ふ~ん。一切の説明はしないし、ずっと居るとも言わない。あの言い方だと、なんとなく卒業までは居られないと思っているのだろうな。


 実際、建国して彼の地に神殿を建てたら、ルルは基本向こうに常駐することになるのだ。学生気分を味わえるのもほんのつかの間だと分かっているのだろう。


 はぁ~、俺とドラゴン退治に行く気満々だな……聖女ルル、やっぱ可愛いんだけど俺にとってはちょっと厄介だ。




「プリシラです。わたくしもルル様同様訳あって一緒に入学させていただきました。もうすぐ15歳になりますが、本来学年は一つ下にあたります。わたくしも敬称抜きでプリシラとお呼びくださいまし」


「正直敬称抜きとか先生でも躊躇されるようなお方なので、やりにくいとは思いますが、距離感を間違えないように仲良くしてあげてください。お二人に何かあっても困るので班は二人とも公爵家のリューク君の班に入ってもらいます」


「先生、二人共ですか? 同じ公爵家のナナさんの所に一人入ってもらってもよろしいのではないでしょうか?」


 この意見はアルフ君の意見なのだが、聖女様と王女殿下という可愛い上に最上の嫁候補を、自分のいるナナの班に取り入れたいアルフ君の下心が透けて見える。


 だが、俺の下にいたい御二方がこの意見に当然のように反論する。


「聖女の身に何かあった時に、あなたは責任が取れるのでしょうか?」

「王女に軽く怪我させただけでも大問題ですよ?」


「いや……ごめんなさい。思慮の足らない浅はかな発言でした」


 可哀想に……アルフ君だけではなく、先生までビビっちゃったよ。


「ルルもプリシラも止めないか。皆を脅してどうするんだ……先生まで何かあったらどうしようって、ビビっちゃったじゃないか」


「「あ! ごめんなさい!」」


「二人の言ったことはちょっとしたジョークなので、皆も気にしないでね」


「「「ウソだ~~」」」

「うっ……」


 クラス全員に嘘発言されてしまった。それどころか、ルルとプリシラまで……。


「「リューク様、嘘はいけません」」

「お前たちの為に言ってあげてるのに~~! 理不尽な……」


「「「あははは!」」」


 クラスのみんなから笑いが起こる。

 この先どうなることやら……でも二人とも楽しそうだな。



 俺は月曜の1限目が一番嫌いだ……今更足し算引き算なんか勘弁して欲しい。

 貴族組も3桁ぐらいは余裕で回答している。


 徐々に難しくなるそうだが、関数や方程式のような数式なんかない世界だ。

 せいぜい小学校の高学年レベルのようなのだ。退屈で仕方がない。



 午後の魔法実習なのだが……ルルは教師役だ。なにせロッテ先生たち教師陣より遥かに魔法技術は上なのだ。


 流石この大国の聖女に選ばれるだけはある。


「ルル、魔法操作技術凄いな。かなり練習したんだろ?」

「はい。いつ勇者様が現れても足手纏いにならないように頑張ってまいりました」


 うっ……下手に質問すると、すぐそっちに話を持っていかれる。だが、これほど上手く扱えるなら、俺の治癒技術をコピーでなくて、教えてあげても良いかもしれないな。


 今度時間を取って、ルルとフィリアとサリエとマリア母様にじっくり個人授業をしてやろうかな。





 夕刻授業を終えてから、ロッテ先生も伴って爺様の商会に行く。父様たちは、王都に滞在中はナナの母親の実家に世話になっているのだ。


 こっちに屋敷を構えても良いのだが、それだとナナの母親のミリム母さんが気を使って実家に帰りにくいだろうと、父様があえて王都に滞在用の屋敷は建てていないそうなのだ。


 俺は父様のそういうちょっとした気遣いを見習わないとな。



 今回訪問者はそこそこの大人数になっている。


 俺・サリエ・ナナ・ロッテ先生・ルル・プリシラ・フィリア・チェシル・マシェリの9人だ。マーレル姉妹には、内容が俺の個人的な話なので今回残ってもらった。



「聖女ルル様よくおいで下さいました」


「今回聖女としてではなく、一個人ルルとしてお伺いしております。聖女は一商会に役職として赴いてはいけない存在です。あくまで個人ルルとして扱ってくださいね」


「はい、ルル殿承知いたしました。プリシラ殿下もよくおいで下さいました。その後、目の調子はどうですかな?」


「こんにちはトルネオ殿。目も完全に治って良く見えておりますわ」


 父様や母様たちと社交辞令的な挨拶を行い、いよいよ本題に入る。



「父様、今日はお願いと報告をしに参りました」

「ふむ。カインまで転移で連れてきて、余程重要な話なのだな? 例の建国の話か?」


「違います。勝手に話を進めないで、最後まで聞いてください」

「それは悪かった……では何なのだ?」


「先日のローレル家の話はもう父様の耳に詳細に入ってると思うのですが、実はその過程でそこのローレル姉妹を嫁にもらうという話になりまして……」


「はっ? 嫁? 確かに二人とも可愛いが、妾にでもするのか? 良く嫉妬深いフィリアが認めたな?」

「いえ……フィリアは本当は反対なようですが、ちょっと強引に許可をもらいました。それと、妾ではなく側室として二人を迎え入れます」


「伯爵家だし、フィリアが認めたのなら、まぁ問題ないだろう」

「後ですね、サリエとも婚約いたしました」


「はっ!? いやお前……幾らなんでもサリエはダメだろ! お前、幼女趣味の気があったのか?」


 サリエから、怒りのオーラが出てるが、流石に我慢しているようだ。


「そんなのないですよ。でも、サリエは明日で16歳。そろそろサリエの養父が後継問題の為に婿を探し始めるころです。他の奴にサリエは絶対譲れません。なので僕が娶ることにしました」


「フィリア、お前は皆の婚約を認めたのか?」


「本当はわたくしは誰一人嫌なのです! でも……建国とかとんでもないことをリューク様が行うのであれば、プリシラ殿下は他国の牽制にとても重要な存在になってきます。リューク様の護衛のことを考えれば、親衛隊よりすぐ近くに控える王妃という立ち位置に、サリエちゃんを置くのはとても有用で安心できるのです。プリシラ殿下を認めた時点で、なし崩し的にルル様も認めるしかありません……。ナナも絶対引き下がらないでしょうし、今更ローレル姉妹の二人が増えてもさほど差異がないのです……。それで済めばまだ良いと思っているくらいです。建国が成った際には、塩を求めた他国が、縁を求めてこぞって姫を差し出すでしょう……」


「そうだな、間違いなくそういう事態になってくるだろう。今の話からすればルル様とも結婚するのか?」


「カイン兄様を差し置いて申し訳ないのですが、どうしてもフィリアを第一夫人という立場にしてあげたいので、僕が16歳になったら即、式を挙げたいのですが、構いませんか?」


「リューク、俺に気を使う必要はないぞ。ちょっと美人ばかりなので羨ましいとは思うけど……お前がその娘たちを望むなら、心から祝ってやるぞ」


 流石兄様! かっこいいです!

 人によっては長男より次男が先に娶っては世間体がどうのとかいう輩もいるのだ。


「僕の予定では夏休みを利用して、彼の地の竜共を抑えて、夏休みが終える頃までに建国を宣誓します。その際に建国式の会場でフィリアを第一王妃に、ナナを第二王妃、サリエを第三王妃にと婚約披露宴も兼ねてお披露目します。そして僕の16歳の誕生日後の冬休みにその3人と結婚式を挙げようと思います。そしてルルとプリシラが16歳に成った時点で順次結婚します。その時にミシェルとマシェリとも結婚式を挙げようと思っています」


「成程な。流石に聖女と王女を差し置いて、ローレル姉妹を先に妃には出来ぬな。本来なら、ルル様が正室に入るべきなのだが……その辺はどうなのだ?」


「フィリアのことを思うとそれは可哀想です。それと先に言っておきますが、その件でフィリアに裏で圧力をかけて、ルルやプリシラに第一王妃を譲れとか言うのはなしですよ。女神が僕には専属で付いてますので、すぐ分りますからね」


「分かっている……ローレル家やウォーレル家にはもう話は付いているのだな?」

「ローレル家は後日煮詰めてからという話になっています。サリエの方は明日訪問予約を入れていますので、その時に話すことになります」


「トルトス殿、驚くだろうな……公爵家の嫁でも嬉しいだろうが、リュークは国王に成るんだからな。サリエは王妃様だ……ちと、サリエの接遇マナーが心配だな。少し教育した方が良いかもな……サリエのせいで戦争とか起ってもたまらんからな」


 絶対ないとは言えない辺りが恐ろしい。


「ん、頑張る……」


 なんて気弱な返事なんだ……余程苦手なんだろうな。

 でも、フィリアの時のように反対されないみたいなので、サリエは心底ホッとしているようだ。





 トルネオ爺様が夕飯を用意してくれるとのことで、留守番のマーレル姉妹に早めに連絡を入れて夕飯の準備を止めてもらった。既に作り始めていたそうだが、今晩は爺様の顔を立てることにしたのだ。


 国内でも有名な商会のおもてなし料理だ、凄く美味しかった。

 トルネオ爺様、今日はナナもいるから気合入ってるな……可愛い孫娘にメロメロ状態だ。




 ナナが自分の足で歩いてるのを見て婆様と泣いて喜んでいる。

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