1-16 ラエルのパシリ騎士が尾行してたので捕らえて脅しときました

 東門から街に入ったら、すぐに例の騎士の監視がついた。

 どうやら俺たちを見失った後に、門で帰ってくるのを待つよう命令されたようだ。


 可哀想にずっとここで6時間ほど見張っていたのだ。

 だが、この騎士はかなりバカのようだ。


「サリエ、例の騎士どうしようか?」

「ん、捕まえて脅す?」


「そうだね。次の路地を曲がった後、捕らえよう」

「ん、了解。敵じゃないんだよね?」


「敵ではないけど、この騎士が自分のやっていることの意味が分かってないからバカだけどね」


 路地を曲がって、俺たちは騎士が追ってくるのを待ち構える。そして騎士が現れた瞬間、軽く腹に蹴りを入れ腕を取って地面にひれ伏せさせる。首にはサリエが剣を突き付け威嚇する。


「お待ちくださいリューク様! 昨日西館に訪ねたラエル様付きの騎士パイルです!」

「ああ、分かっているよ!」


「え!? ではなぜこのようなことを?」


「サリエ、説明してやれ! 分かんないとか言うなよ?」

「ん、お前は今、暗殺犯として捕らえられた! 下手に動くと殺す?」


 最後が疑問形だが、正解だ。


「正解だサリエ。そういうことだ……お前は今、暗殺犯として捕縛した」


「待ってください! リューク様の身を心配されたラエル様に命令されて、リューク様の後を付けてお守りするよう申し付かったのです!」


「お前がうちの騎士じゃなくて良かったよ。お前みたいなバカはうちには要らない」

「どういうことですか!? いくらなんでも酷い言い草です!」


「もう一度言う、お前は暗殺犯として捕縛した。僕の今の状況は理解しているのだろ?」

「はい、暗殺犯に狙われていると聞いています!」


「そうだ、現状どいつが犯人か分かっていない。で、領主である父様に疑わしい奴は殺していいと許可を得ている。お前は朝から僕をコソコソ尾行して一番疑わしい行動をとっている。当然お前が暗殺犯として現状一番疑わしい。暗殺犯じゃないという証拠が提示できないのであれば、お前は確実に暗殺犯の仲間として拷問されることになる」


「そんな! 私はラエル様に命令されただけです!」

「お前の今の証言で、ラエルも容疑者の一人になった。暗殺犯だという確定な証拠はないが、怪しい行動をとった限り暗殺犯じゃないという証拠が提示されない限りは最有力候補として処理される。自分のやってる行動の意味も分かってないから僕はバカと言ったんだ。理解できたか?」


 そう言いながら、腕を放して起こしてやる。

 元々脅しのためにやったことだ……多少痛かっただろうが怪我などさせてはいない。


「あの? 私はどうなるのでしょう?」


「今回はどうもしないよ。お前がバカな行動をしていたから警告したんだよ。でも次やったら今度はその場で首を落とすからね。ラエルにもそう伝えてくれる。犯人が誰か分かっていないのだから、変な行動をしたら疑われるよって伝えといて。次、尾行をしたら誰であろうと殺すからそのつもりでね」


「はい、そう言伝いたします。この度は申し訳ありませんでした。私の行動が浅はかでした」


「あ、このまま帰ったらラエルに怒られるだろうから、コールして。僕が直で説明してあげるよ」

「はい。ご配慮ありがとうございます」 


 騎士がラエルをコールで呼び出し、事情をある程度説明した後、俺と替わる。


『あ、ラエル? 君の所の騎士がコソコソ尾行してたのでもう少しで殺すところだったよ』

『リューク、お前のことが心配だったから、そいつをこっそり護衛の任務に向かわせていたんだよ』


『でも、今の僕の事情は知っているでしょ? 父様からも疑わしき者はその場で殺していいと言われてるんだ。こっそり護衛とか却って迷惑なので、今後一切寄こさないでね。次は誰であっても殺しちゃうからね。ラエルも父様に疑われることになるから、事が済むまで今は下手に僕に絡まない方がいいよ。父様かなり怒ってるから、例え従弟で仲良しのラエルでも疑われたらヤバいよ』


『従弟の俺でも疑われるのか?』

『僕1回実際に心臓止まっていたからね。従弟どころか妹のナナでさえ変な行動をしたら疑われるよ。女神様の神託も絡んでいるから、父様もかなりピリピリしてる。気を付けてね』


『神託か……そうだよな、分かった。リュークも気を付けるようにな。できれば心配だから定期的に連絡をくれるとありがたい』


 どうにか俺の行動の情報を得ようと必死だね~。


『そうだね。じゃあそうするよ。騎士は今回このまま帰すけど、今後はないよ。父様に引き渡して拷問され、ラエルの名前が出た時点で今度はラエルが尋問されるから気を付けてね』


『そこまでか……分かった。気を付ける』


 ラエルと通話を切って、騎士を開放する。

 誰が暗殺者を差し向けられるのに居場所を教えるかっての。


「ん! 面白かった!」

「あの騎士が犯人じゃないの知っててからかったのが面白かったの?」


「ん、面白かったのはリューク様がラエルを手玉にとって遊んでるから」


「あ! ここにいると本物の暗殺犯がくるから移動しよう」


「ん、動いたの?」

「だね。さっそくラエルがここの場所を伝えたんだろうね」


「ん、捕まえないの?」

「まだ、ダメだね。もっと焦らしてあげないとね。さぁ、遅くなっちゃったけどお昼にしようか。サリエはこの辺りでどこか美味しい店知らない?」


「ん、美味しいとこ知ってる」


「じゃあ、そこに行こうか?」

「ん、すぐ近く。オークと野菜の塩スープがお勧めのお店」



 サリエお勧めの店のスープは美味しかった。味付けは塩だけなのにコクがあり、野菜の甘みが溶け出していて、文句なしの味だった。パンとオークのステーキも頼んで大満足だ。


「サリエ、美味しかったね」

「ん、滅多に行けないけど、あの店はお気に入り」


 美味しそうに小さな口でモキュモキュして食べるサリエは可愛かった。

 サリエとのデートは楽しいな。




「ここからだと神殿が近いけど、暗殺犯が近くにいるから先にギルドに行くね」

「ん、分かった」


 ギルドに行き、昨日の受付嬢に手を振ったら、手招きをされすぐに応対してくれた。


「こんにちはリューク様。昨日の解体が終えています」


「こんにちは、それなんだけど、お肉ってもう売っちゃってる?」

「いえ。査定は済んでおりますが、ギルドで保管中です。査定額の了承を得るまでは勝手に売るようなことはありませんよ」


「実は昨日の分の解体済みのオークはナイト1、プリースト1、オーク30頭分持って帰りたいんだよね。ナイトとプリーストとオーク3は予約済みだったから問題ないでしょうけど、追加で27頭分持ち帰り可能かな?」


「あの、街のお肉が枯渇してますので、できればお売りくださるとありがたいのですが……」

「あ、お肉の枯渇の件は問題ないよ。実は今朝、狩りの最中にコロニーをまた発見してね。また狩ってきているからその分は全部売るよ」


「また見つけたのですか!? どこにどれくらいの規模でしょうか?」


「東門を出て街道を約14kmのとこで、そこから北に1.4kmの所です。よく定期的に巣ができる洞窟です。コロニーとその周辺にいたやつで、オーク132、ゴブリン97、コボルド35のそこそこの規模のコロニーだったよ。上位種がリーダーのジェネラル1、ナイト5、ソルジャー10、プリースト5、アーチャー8頭。後、近辺の掃除中にスタンプボア2頭、ストリングスパイダー3匹、ホーンラビット9匹、キラーマンティス2匹、ブルースライム6匹、グリーンスライム3匹狩ったから、魔石の買い取りもお願いするね」


「あー、あの洞窟ですか。えーと、ジェネラル?」

「そ、ジェネラル。結構強かったけど、うちの侍女が倒しちゃった」


「その侍女というのは……まさかですが、サリエ様ではないですよね?」

「そのまさかです。ちっこいけど、公爵家の戦闘侍女は超強いのですよ」


 疑わしそうな目でサリエを見ていたが、気を取り直して質問してきた。


「その、倒した魔獣はどこに保管してあるのでしょうか?」

「僕とサリエで半分ずつ入れて全部持ってきてます」


「えっ!? 全部ですか!」

「2人とも大容量なのです。結構ギリギリですが、全部入ってます」


「え~!?」

「秘密ですよ! ちゃんと守秘義務を守ってくださいね!」


「はい、それは勿論です!」

「本当にですよ? どこかに漏れたら厄介ですからね、荷物持ちとして勧誘がうるさくなっちゃいます」


「はい、間違いなくそうなるでしょうね……あ~でも公爵家のご子息様ですので恐れ多くて簡単にはお声掛けできないかな……それで、全部お売りくださるのですか?」


「魔石は全部売りますが、ジェネラルと兎9匹、猪2頭は肉にして持って帰ります。猪は孤児院に寄付予定です。それ以外は全て売却します。すぐほしいので、昨日の分から30頭は孤児院用に今日持って帰りますね」


「孤児院に寄付でしたか……ご立派です。はい、それで結構です。では先に先日分の清算をいたしましょうか」

「はい、お願いします」


 受付嬢の綺麗なお姉さんに立派だと褒められた。なんかいい気分だ。


「まずは、魔石から。ホーンラビット2、ブルースライム8、グリーンスライム4、オーク45、ゴブリン72、コボルド16で合ってますでしょうか?」


 昨日の預かり書を出して確認する。


「はい、面倒ですので、明細だけもらえますか?」

「え!? ですが後でのクレームは受け付けられないですよ?」


「あはは、領主の子供を騙すなんてしないでしょ? お姉さんを信用しますよ」

「確かにそうですね……そんなことをすれば首が飛びます。では、明細書です。一応後でも質問は受け付けますので、分からないことは聞いてくださいね」


 明細書とお金を受け取った。

 肉13頭分が52万にもなった。魔石が83万1千ジェニー。トータル135万1千ジェニーだ。


「あ、それと今日のコロニーで宝石箱と錆びた武器を大量に手に入れたのですが、1つだけ良いものがありまして、ジェネラルが装備してた剣が結構な良剣でした」


「では、またこれから奥の倉庫で出してもらっていいでしょうか?」


 今日は昨日の解体担当とさっきの受付嬢が付いてきた。


「じゃあ、サリエから出そうか」

「ん、分かった」


 サリエが出し終えたら、今度は俺だ。全部出して魔石もテーブルのトレイにこんもり盛る。


 錆び武器も出すが、買い取れそうなものはミスリルが混じってて錆びのないナイフ数本だけだそうだ。それでも家族が遺品として見に来る可能性もあるとのことで、一旦ギルドで保管だそうだ。宝石箱とジェネラルの持っていた剣は傷つかないように最後に別のテーブルに出した。


「この剣は良いものです。高く売れそうですね」

「いえ、その剣は売りには出さないです。僕の今持ってる物よりはるかに良いので、それを装備する予定です」


「なるほど、それが良いでしょう。宝石はどうしますか?」

「ピンとくるものがないので、引き取り手が来なかった場合売ることにします」


「この宝石は過去に私が鑑定したものです。持ち主も分かっていますが既に死亡されています。持ち主に家人は居ないので引き取り手は居ないはずです。もし現れても、ギルドに保管されている死亡時の扱いに明記されていないので、半値受け渡しは認められないでしょう。この宝石良いものですよ」


「つまり、僕が引き取っていいのですね」

「そうなります。ギルドを使って輸送の護衛依頼を出した場合、ちゃんとそういう手続きがなされますからね」


「良いものなら、一度家に持って帰って母様たちに見せてみます。欲しいと言うかもしれないですからね」

「ええ、それが良いでしょう。この宝石は公爵家のご婦人方が身に着けられても恥ずかしくないほどの一品です。いざ買うとしたら3割ほど高くなってしまいますからね」




「本当に全部入ってたのですね……」

「お姉さん、まさか【亜空間倉庫】の容量を疑ってついて来たんですか?」


「ちょっと半信半疑でした……」


「解体の方はオーク132頭、スタンプボア2頭、ストリングスパイダー3匹、ホーンラビット9匹。魔石がキラーマンティス2匹、ブルースライム6、グリーンスライム3匹。魔獣素材の買い取りでキラーマンティスの鎌4でいいかな?」


「はい、結構です。血抜きは全部終えていますので、ジェネラル、猪2、兎9の肉は後日引き取りに来ます」


「了解しました。先にそれらの肉の方を優先しますので明日の午前中には終えておきます。前回の分ですが、血抜きも良くされていたし、見事な手練れで倒されていて肉の状態も良く、全て最上級扱いでした。大変素晴らしいです」


「そうですか、ありがとうございます」



 預かり書にサインして控えを貰う。 


 オークナイト1、プリースト1、オーク30頭分の肉を受け取り、オーク30頭分の肉はサリエに持たせる。

 ちゃんと1頭ごとに包まれて、包に番号が振られている。個体によってやはり金額が違うんだな。品質や重さの違いか。


 さぁ、やっと神殿に行ける。

 オーク30頭分の肉は孤児院にお土産だ。

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