3-69 もう直ぐ中間テストが始まるようです

 サリエの誕生会が終わり、男子寮の自室に戻って、紅茶を入れてもらい寛いでいる。


 サリエは鏡が気に入ったのか、自分の自室に姿見と卓上鏡を出し、刀を帯刀して色々やっているようだ。何をしているのかと思い気配を探ってみると、どうやら刀に合う装備をファッションショーのように着替えてコーディネートしているのかな?


 そっと覗くと、ベッドに沢山服や装備品を並べ、ちゃんと髪留めのパッチンもしてくれていて、実に微笑ましい……ちゃんと付けて喜んでくれると嬉しいよね。


「ん! レディのお部屋を勝手に覗いちゃダメ!」


 気配を消していたのに、すぐバレてしまった。俺に見られたのが恥ずかしかったのか、ちょっと怒られた。


「ゴメンゴメン、そろそろお風呂にしないかと思ってね……」


 苦し紛れの言い訳にジトーとした目で見られたが、許してくれた。


「ん、すぐ準備するね」


 そういって自室を出て行ったサリエの部屋を見渡すが、サリエや俺の部屋には基本何も置いていない。


 今も鏡をインベントリにさっさと仕舞ってお風呂の準備に向かった。

 サリエには大事な物は部屋に置かず、亜空間倉庫内に収納して持ち運ぶように伝えているためだ。


 いつ、どんなことが起ってこの部屋に戻れない事態があっても良いようにしておけと言い含めてある。

 

 新規の建国とは、他国からいつ暗殺されてもおかしくないほど危険なのだ。

 まして、今回は建国場所がいけない……塩が絡んでいるために、沿岸国に伝わった時点で何が起こってもおかしくはないのだ。



 この世界には神が授けた【クリスタルプレート】がある。一見中世レベルの文明なのに、コール機能という異質な情報伝達手段があるのだ。


 手紙などのやり取りしか連絡手段がないのなら、沿岸国に情報が流れるまでに数カ月は要しただろうが、【クリスタルプレート】のコール機能があるためにリアルタイムで伝わってしまう。


 この国にも各国のスパイは大勢いるはずだ……後どのくらい秘密保持が出来るか分かったものじゃない。





 お湯が溜まったので、サリエと一緒に入る。

 何度入ってもサリエは恥ずかしいようで、耳が真っ赤になっている。


 ふふふ、今日は洗髪後に前髪をパッチンで留めて、顔を出している。


「ん~~、リューク様は意地悪です」

「あはは、早く恥ずかしくない様にするための練習だよ。今日からできるだけ顔は出すようにするんだぞ~」


「ん、頑張る!」


 やっぱ可愛いな~!



 お風呂を出た後に髪を乾かしてやり、就寝につく。


 俺はすぐに眠ったのだが、サリエは自室で暫くの間、勉強をしているようだった。ロッテ先生に成績を馬鹿にされたのが悔しかったのと、俺に恥をかかせてしまったと思っているようで、結構必死に勉強している……今日休んだ分を取り戻そうとしているのだろう。


 俺は……うん、まだ必要ないな……だって国語も算数も小学1年生レベルなんだもん。




 翌朝の朝食時だが……皆機嫌が良い。


 どうやら俺のあげた鏡で自分の髪を確認して、シャンプーリンスで凄く綺麗になっているのが分かったみたいだ。銅鏡では分からなかったものが、俺の鏡で自身がはっきり映り、より違いが実感できたようで機嫌が良いようだ。


「兄様、あの鏡は素晴らしいです」

「そうか、それは良かった」


「リューク様、頭の上に天使の輪が出来ていました。シャンプーの効果が自分の目で見られるのです」


 確かに長い髪の毛ならある程度の確認はできるが、鏡で全体を見ることがこれまでちゃんとできていなかったので、あの鏡は女性にとっては凄く良いものなんだろうな。


 今度化粧用に三面鏡の鏡台を造ってやろうかな。


『……マスター、あまりこの世界の化粧は良くありません。披露宴を最高にするために少し開発しても良いですか?』


『化粧品をか?』

『……化粧品を含めた、その他もろもろです。化粧品は無香のモノを作りますね。彼女たちは個人香そのものがとても良い匂いなので、香水など邪魔でしかありません。もっと肌を美しくするために、夏に向けて日焼け止めなどもあった方が良いですね』


『俺は色白の娘が好きだから、日焼け止めは良いな。じゃあ開発はナビーに任せるよ』

『……了解です』





 ホームルームのしょっぱなから皆の『エエエ~~~!』と言う叫びが各教室からあがっている。


「そんなに嫌がってもダメですよ。6月1日より2日間、中間試験が始まりますから頑張って勉強してくださいね」



 だそうだ……早くも中間試験が始まるらしい。


 一学期が5月から始まり、夏休みが7月15日から始まるため、中間試験はこの時期になるみたいだ。


 今年の夏休みは9月1日が金曜ということで、1日出て土日休みになる為、夏休みは9月3日まであるそうだ。この世界の学校は、やたらと休日が多いようだ。


 日本の学校が詰め込み過ぎなのかもしれない。

 俺たちの頃はあまりなかったが、最近の高校は朝と夕に自由参加の補習授業までやっていると娘が言っていた。


 最近の教師は通常授業だけでなく、補習や部活、それに伴う遠征などサービス残業が多すぎる……そのうえ親によるモンハラに、全く言う事を聞かない現代っ子が多い時代だ。教師とか、俺的にあまり成りたくない仕事の一つだな。


 俺が強いて教師に成るとしたら、女子目当てになってしまう……昨今教師の不祥事が多いのも俺と同じで、このご時世で教師になるとか、大多数の男性教師は女子目当てなのかもしれないな。


 盗撮・援交・セクハラ等、毎日のように教師が逮捕されたとニュースに流れている。エロ教師が多すぎる……。




「はいココ試験に出しますからね~! しっかり覚えてくるのですよ~!」


 先生のココ出るサービスはこの世界でも健在のようだ。皆、教科書になにやら必死で書き込んでいる。


 ノートの様なモノも支給されているのだが、一般の平民はそうそう購入できないのか、小さな字でびっしり隙間なく書き込んでいるようで、あれだと後で見にくいんじゃないかなと思ってしまう……班員には何冊か買って支給してあげよう。


 俺はノートなんかとってないんだけどね……俺が覚えるのはこの世界の歴史や、間違っている魔法学なんかが厄介な程度で、薬草類や近隣の魔獣なんかの雑学は既に丸暗記している。


 何せ直接命に係わる事なので、サリエと狩りに出ている間に必死で覚えましたよ。


 ボーと授業を聞いていたら、ロッテ先生に名指しで注意されてしまった。


「リューク君、あなたは皆より出席日数が少ないのですよ。そんなことで大丈夫なのですか? 油断してると進級の際にクラス落ちしちゃいますよ」


「あ、ハイ。大丈夫です、ちゃんと聞いています」


 2年に上がる際の進級は、テストの点数と実技の両方を採点して決められる。特に1学期から3学期の間の中間と期末の平均点数は、最重要審査項目になっている。この計6回の試験の平均点+実技評価点+演習評価点の合計が高い順にAクラスから埋まっていくのだ。


 Aクラスには優秀な教師が付くし、授業内容も濃いモノになる……当然皆必死でAクラスを目指している。



 昼休みに班員を集めて、テスト勉強は大丈夫か聞いてみた。


「ん……不安……」

「私も自信ないです」


 サリエとマーム以外は問題なさそうだ。2人以外、皆このクラスの上位陣だ。


「あの……リュークお兄様……わたくし、ダメかもしれません……」


 あれ? プリシラどうした?


「ダメって何が? 勉強は問題ないって女神が言っていたはずだよね?」

「わたくし、文字を読み書きできないのです……」


 そうか……最近まで目が見えなかったのだ……点字もないこの世界では、文字なんか学習できない。


「入学試験はどうしたの?」

「ロッテ先生が問題を読んでくださって、口頭で答えました……」



『ナビー、大至急50音表を作ってくれ。ひらがな、カタカナ、アルファベット表も頼む』

『……了解しました。素材はどうしましょう? 紙でよろしいですか?』


『錆びない様にミスリルを混ぜた鉄の板に文字を彫り込んで、金で色を付けてくれ』


 紙だと直ぐダメになりそうだったので、授業中に出しておいても邪魔にならないサイズのミスリル合金製の薄いプレートにした。



「プリシラ、覚えやすいように文字表を作ってあげるから、それで少し勉強しようか? 皆も手空きの時は教えてあげて欲しい。マシェリ、自分の勉強もあるだろうけど、少し気に掛けて見てあげてくれるか?」


「はい。わたくしで良ければ、喜んで……」

「マシェリ、宜しくね」

「私も協力するね。マームもサリエも分からないことは聞いてね」


 全課程修了しているルルが協力を名乗り出てくれた。

 ルルは本来学園に通う必要がない人物なのだ……14歳にして全ての教科習得済みとか、聖女の日々の修練がどれほど過酷か物語っているようだ。


「ルルありがとう。テストが終えたら何かお礼をするね。何か欲しいモノとか有るかな?」


「……リューク様の愛が欲しいです!」


「ブッ!」


 思わず吹いたが本人は真剣そのものだ。


「「「………………」」」


 ルル、愛は買えませんよ……。



 確かに、俺のルルに対する態度は、他の者より冷めたものがあるかもしれない。おそらくそれが不服なのだろう。


 この際だ……ルルの気持ちを聞いておこう。


「ルル、1つ質問良いか?」

「はい、なんなりと」


 聖女のルルも、プリシラ同様嘘が付けない……言葉を濁さないのであれば本心が聞けるだろう。


「フィリアやナナが俺を好きだと言ってくれるのは、これまでの長い付き合いでちゃんと実感できる。プリシラも目が治ったことで身体的気負いがなくなり、幼少時からの想いが弾けたというのはなんとなくだが理解できる。チェシルやマシェリも打算的なことを含めて考えてみて、俺と結婚したいというのも納得できる。でも、ルルだけは理解ができない……ルルは俺が好きというより、『勇者』が好きなんだろ? 勇者なら誰でも良いように感じるのだけど違う?」


「違います! 確かに勇者様が現れるのを待ち侘びていましたが、誰でも良いとなど思ってはいません! 初めてリューク様をお目にした時からもうメロメロです! 一目惚れというヤツです! いくら女神様がお選びになった勇者様で人柄が良い人物でも、太った方や、筋肉ダルマは私の好みじゃありません」


 マジか! 嘘が付けないルルが言い切ったのだ……信じよう。


『……ルルはナナやサリエ、マシェリと同じ好みの様です』

『ん? 具体的に言うと、どういうのだ?』


『……細かく言えば皆趣味は少しずつ違いますが、大きく分類すると、ナナ・サリエ・ルル・マシェリは守ってあげたいような、母性をくすぐるような者が良いようです。丁度マスターの様な、見た目が男の娘タイプはドンピシャです。一方フィリア・ミシェルは自らを守ってくれるようなカインのようなガッチリしたイケメンタイプが好みの様です。プリシラは目が見えなかったので、容姿的なものより、纏っている光が美しい、人柄が良い者に惹かれる傾向があるようですね』


『へ~、皆好みが違うのに俺を好いてくれるとか、面白いな』


 まぁ、ルルが本気で好きだと言ってくれるなら俺に断る理由はない……だってルルもフィリア級に可愛いんだもん。その上、性格も聖女に選ばれるほどの人物だ……ルルを拒否るとか、『ホモか!』って言いたくなる。


「そっか~、ルルが俺を本気で好きだと想ってくれているなら嬉しいよ」

「私は本気です! 絶対諦めませんから、早々に観念して、私も愛してください!」


「あはは、必ず君にプロポーズはするけど、ルルは聖女だから、建国後、次の聖女の神託が出るまでは聖女として頑張ってくれるかい?」


「はい……それについては仕方がないと思っています。聖女は処女性が大事なので、役目が終えるまで恋愛云々は我慢します……」


 ちょっとしょんぼりしてしまったが、こればかりは替えが効かないので仕方がない。


『……マスター、50音表が完成しました』

『早いな、もう出来たのか? ありがとう』



「プリシラ、これが文字を覚えるのに適した音表だよ。紙と羽ペンとインクも渡しておくので練習してね」


 1枚のプレートに裏表で日本語のひらがな・カタカナの50音表と九九を纏めてある。



 使い方と配置を昼休みの間中、読んで聞かせてあげた。


「「「あ・い・う・え・お、か・き・く・け・こ、さ・し・す・せ・そ……」」」



 数日は俺たちの部屋から皆の唱和が続くことだろう。

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