3-68 サリエの誕生会をしました

 サリエの実家を出て、フォレストの街中をサリエと散策中だ。

 サリエはとても機嫌が良い。


 顔は長い前髪で隠れて見えないが、耳がピンと立っている……機嫌が良い時の状態だ。




「ん、美味しいね!」


 暫く雑貨店などをひやかし歩き、3時を過ぎたあたりで公園の出店でオークの串焼きを買ってあげたのだ。サリエは小さな口で頬張り、モキュモキュやっている。


 サリエ……可愛いすぎる!


 エルフはどちらかというとベジタリアンの者が多いそうだが、サリエは大の肉好きだ。ピグミー族とドワーフが肉好きだそうだから、その血のせいかもしれない。


 俺的には同じものを食して、同じように美味しいと思ってくれるのは、とても嬉しく思う。


「王都より安いのに、美味しいね」

「ん、ここのは時々買いに来てた」



 サリエは美味しそうに食べてるのだが、やっぱ前髪が邪魔だな……。

 それに王妃になるのだ……いつまでも顔を隠したままではいられない。


 母親が可愛いサリエのことを心配して、できるだけ顔を見せちゃいけないと言い残してこの世を去ったため、サリエは頑なにそれを守っている。


 サリエも母親の意図はもう理解しているはずだ。自分を守れるだけの戦力はあるのに、これまでずっと顔を隠していたので、人に見られるのが恥ずかしいという感覚が植え付いてしまっているのだ。


 一般女子が、下着姿を見られるのと同じくらいの恥ずかしがりようなのだ。


 そろそろ改善しないと、披露宴や結婚式で困った事態になる。

 各国から王族などの貴賓を招待するのに、流石に王妃が顔を隠したままではいられない。


 お披露目が目的で来てもらっているのに、あまりにも失礼な行為だよな~。

 どうしたものか……。


『ナビー、この設計図どおりのモノを18:00ぐらいまでにできないか?』

『……それぐらいのモノなら、15分ほどでできます。でも、総ミスリルなのは勿体なくはないですか?』


『サリエに与えるものだ。ケチる必要はない』

『……了解しました。ですが、いくら誕生日とはいえ、サリエだけだと他の者が羨むと思うのですが……』


 確かにいくら誕生日だとしても、ナナやフィリアが妬む可能性が高い……だってこれまで手作りの品とかあげたことないからね。


 既製品なら問題ないだろうが、俺のデザインした手作りの品となれば、あの二人が黙っていないだろう。


『う~ん、じゃあミスリルの純度を10%に下げて10個作ってくれ』

『……10個ですか? マームたちにまであげるのですか?』


『うん。班員内で自分だけないというのは、婚約者じゃないからと理解していてもちょっと寂しいだろ?』

『……確かに目に付く度に疎外感は強く感じるでしょうね……分かりました。10個作製しておきます』





 そのままフォレストで時間を潰し、18:00に王都の寮に帰宅する。


「「「サリエちゃん! 成人の誕生日、おめでとう!」」」


 フォレストで時間を潰していたのは、このためだ。

 皆がサリエの誕生会を計画していて、部屋の飾りつけや、豪華なディナーを作ってサプライズするために、サリエを俺に委ねて足止めさせていたのだ。



 皆のサプライズに感動したのか、サリエはポロポロ泣きだした。


「ん……私の為にありがとう……嬉しい……グスンッ」


 ナナの部屋は綺麗に飾られ、テーブルには10品も料理が並べられている。双子姉妹4人が協力して腕を振るったようだ。


 飾りつけにルルやプリシラも参加したみたいで、普段は絶対やらせてもらえない雑用だから、彼女たちもそれ自体が楽しかったようだな。



 2時間ほど楽しんだ後、もうお開きだという寸前にナビーに依頼していたモノを取り出す。


「サリエ……幾つかプレゼントがある」


 サリエはキョトンとしているが、プレゼントという言葉になにやら期待して嬉しそうではある。


「ちょっとこっちにおいで……お前は嫌がるだろうけど、髪留めだ」


 ナビーに依頼していたモノ……この世界にはないパッチン留めだ。

 ヘアピンの様なモノはあるが、パッチンはないらしので、作らせたのだ……ヘアピンよりしっかりと留められ、多少動いても外れることが少ない。


 パッチン留めには、可愛くデフォルメされた竜の頭の上に小鳥が乗っている装飾が付いている。


 前髪をいずれは切ってあげるつもりだが、直ぐには精神的に嫌だろうと思ったのだ。


 サリエの前髪を掻き上げて斜めに横留めし、おでこを出すように留めてあげる。


 うわ~! メッチャ可愛い!


「ん! リューク様!? 顔を出すのはダメ!」


 顔を両手で覆ってしゃがみこんで隠している。


「サリエ、恥ずかしいのは分かるけど、それじゃダメなんだ。お前は王妃になるんだよ……披露宴や結婚式で各国から来て下さった王族の貴賓たちの前で顔を隠したままとか……そんな失礼な真似して俺に恥をかかせるの? 披露宴はお嫁さんを皆に見せるという趣旨のものなんだよ?」


「ん、リューク様が笑われるの?」

「俺だけじゃなくて、国が笑われる……『この国では見せるために呼んでおいて披露宴で顔を見せないとか……こんな失礼が許されるのか』とね。招待するのは友好国だけじゃないからね……沿岸国からも、王族は来なくても使者は寄こすだろう。敵になる可能性の高い新しい国の視察ができる絶好の機会だし、国王がどんな奴か偵察する為に密偵を従者にして、必ず大人数で来るよ。そして粗探しをして、何かあれば各方面で言いふらすはずだ。できるだけ弱みや揚げ足を取られないように配慮しなきゃいけない……分かるね?」


 間違いなく密偵をわんさか送り込んでくるだろう。披露宴時にも酒に酔ったふり、道に迷ったふりなどして、城内の立ち入り禁止エリアに入り込もうとしてくるだろうと安易に想像できる。


 城内の見取り図を作るためだ。いずれは内部に潜り込んだ者の手によって詳細な城内MAPも作られてしまうだろうけど、俺の生きているうちはナビーの監視網で阻止できる。


 だが、そこで不安要素なのがサリエだ。他国が因縁を付けてくるとしたら、サリエが一番危うい。


 


 しゃがんで顔を手の平で覆って隠していたサリエだが、スクッと立って顔を晒した。


「ん、リューク様が言ってることは正しい……私、頑張る!」


「「「サリエちゃん、可愛い!」」」


 サリエの素顔を初めて見た者が、驚いている。

 だってマジ可愛いからな……ナナやフィリアやルルとは違う可愛さがある。


「サリエの可愛さが分かるように、その髪留めと別に、鏡を造ってあげたよ。こっちに来て見て御覧」


 縦30cm、横20cmサイズの卓上鏡を取り出しテーブルに置いた。鏡を囲っている木枠はブラックトレントの木で拵えている。とても高級感があって良くできている。何より、この世界の鏡と言われている銅鏡のようなモノとは反射率が全く違うのだ……驚くほどくっきりとサリエの可愛い顔が歪みもなく映し出されている。


「ん!? リューク様、この鏡ナニ! 凄く綺麗に映ってる!」


 鏡に皆が集まってきて眺めている。


「兄様、これはどこで買った物ですか!? 凄い鏡です」

「さっき、造ったと言ったでしょ? 髪留めと一緒に俺が作ったモノだよ」


 思ったとおり、俺の自作と分かった瞬間、ナナとフィリアが俺にジトーとした視線を向けてきた。


 そこで、更に手鏡と姿見を取り出す。


「サリエ、これもプレゼントだ。毎日この鏡で身嗜みを整えて、披露宴までに顔を晒すことに慣れるんだよ? 披露宴というのは皆に披露するためのものだからね……いかに自分のお嫁さんが綺麗か見せびらかすための行事なんだから、恥ずかしがらないでね」

「ん、頑張る。でも……こんな凄いモノ貰って良いの?」 


「ああ、勿論だ。良く映る鏡で毎日身嗜みを整えたら、可愛いサリエがもっと可愛くなるぞ」 


「あの……リューク様? 10歳の頃から婚約しているわたくしには、これまで手作りの品とか頂いたことがないのですが……サリエちゃんの方が愛おしいってことですか?」


「そんな訳ないだろ? これまでは、作る知識も技術もなかったから許して欲しい。今回フィリアの分もちゃんと作ってあるよ。こっちにおいで……」


 フィリアにも髪留めを着けてあげる。


 鏡も出して手渡すと、フィリアは凄く嬉しそうだ。

 フィリアもやっぱ可愛いよな……只見ているだけでもドキドキするくらい可愛い。


「兄様……ナナにはないのですか……悲しいです」

「勿論ナナにも同じモノを作ってあるよ」


 同じように付けてあげてから、鏡を渡す。


「ルル・プリシラ・チェシル・マシェリにも同じモノを作ってある」


「「「本当ですか!?」」」


 髪留めを着けて、鏡に映った自分を見て嬉しそうだ。

 やはり、婚約者じゃない者たちが、ちょっと疎外感を感じてるようで物欲しそうにしている。


「パエル・アーシャ・マーム、君たちは婚約者じゃないけど、同じモノを用意してある。だが、気を付けて欲しい。皆も聞いてね……この髪留めには、レジェンド級の付与が付いている。皆に見せびらかすのは危険だから注意してね」


 【ドラゴンパッチン】

  ・ミスリル製の竜をあしらったパッチン髪留め

  《付与》

   ・毒無効

   ・精神攻撃無効

   ・魔法耐性

   ・個人認証


「ん、この付与はヤバい」

「リュークお兄様、この付与って、先日お父様がドラゴンの魔石15個と交換した付与じゃないですか。まさか、お兄様……高等な上級付与魔法が使えるのですか?」


 プリシラからドラゴンの魔石15個分と聞いて、マームがアワアワとなっている。

 30億とか40億ジェニーの金額の話だ……驚くのも無理はない。


「プリシラ……このことは秘密にしてくれるか? バレると面倒なことになるからね……」

「確かに……これが量産できるなら、軍にでも所持させれば、大変な事態になってしまいます……」


 【毒無効】これを所持して、無差別な毒霧攻撃でもすれば自軍は無傷で勝利できるだろう。


「キリク、男子のお前には卓上鏡と、髪留めと同じ付与の付いた指輪を用意した。流石に髪留めという訳にはいかないからね。個人認証機能を付けたのは、他の者に手に渡った時に効果がなくなるようにするためだ。悪いが家宝とかにして、子に継承できないが、将来的に悪人に渡らないようにする為なので理解して欲しい」


「私にまでこのような貴重なモノを! 有難く使わせて頂きます!」


 キリクも嬉しそうで何よりだ。



 サリエは皆の前でまだ恥ずかしそうにしてるが、皆の注目が鏡の方に移っているため少しホッとしているみたいだな。


 クラスの前はまだ恥ずかしいというので、とりあえず食事時は絶対着けて顔をだして食べるようにと約束させた。



 こうして、サリエの誕生会と顔のお披露目が無事成功したのだった。


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